2019 1/30

IoTソリューション

IoTで「夢」を語る段階は終わった。今こそ「実」を生み出す時

企業にデジタルトランスフォーメーション(DX)をもたらす代表的テクノロジーとして注目を集めるIoTだが、その活用の進展ぶりは企業によってまちまち。IoTそのものへの理解度においてでさえ差異が拡大し、「IoTデバイド」なる言葉もちらほら聞かれるようになってきた。そんな中、『大胆予測!IoTが生み出すモノづくり市場2025』(日刊工業新聞社刊)が話題を呼んでいる。本書の共著者であり、日本総合研究所の創発戦略センターでIoT市場をカバーするシニアスペシャリストの木通秀樹氏に、日本企業におけるIoTのリアルと今後の展望について話を聞いた。
制作:JBpress

木通秀樹氏

株式会社日本総合研究所
創発戦略センター
部長(IoTシステム推進担当)シニアスペシャリスト

木通秀樹

「変革型IoT」のとてつもない可能性に早く気付いてほしい

─ 最初に本書のタイトルにも使われている「2025」という数字について聞かせてください。IoTに取り組む企業が目安にすべき年は2020年ではなく2025年ということなのでしょうか?

 
著書画像

井熊 均・木通秀樹 著
『大胆予測!IoTが生み出すモノづくり市場2025』
(日刊工業新聞社)
自動車、家電、建設など主要11業種のIoTバリューチェーンを定義し、進化のプロセスを分析。IoTビジネス推進の方策を分かりやすく指南した一冊。

「2025年まで何もしなくていい」という意味ではありません。むしろ、「大急ぎで取り掛かっても、あと1年ちょっとでやって来る2020年までには結果が出ないかもしれない。勝負の分かれ目は2025年が目安になるだろう」という気持ちからです。「IoTという技術や、それを用いたIoTサービスというものが、過去に例のない新しいバリューを生み出す」という未来予測は、ひと頃ほど世の中で言われなくなっています。「何かすごいことが起こるぞ」と夢を語っていた時期は、もう過ぎ去ったということ。今は「夢」を語っていれば済む時期ではなく、「実」つまり成果を出し始めていなければいけないくらいのタイミングなのだと思っています。

─ 裏を返せば「そうなっていないのが実状」という認識なのですね?

いまだにIoTの本質を正しく理解できていない企業もあります。例えば「IoTは経営の効率化をもたらすツールであって、自社の新規事業の創造や製品開発とは直接の関係はない」という勘違いや、「IoTはITベンダーやセンサーメーカーにとってのチャンスであってウチとは関係ない」と考えている企業もあります。仮にしっかり理解していても「何から手を付ければいいのか分からない」という声も聞こえてくるのが実状です。

─ 本書で11業種もの具体的な事例を取り上げた理由もそこにあるのでしょうか?

その通りです。業種を横通しで見ると、各業種の個別事情ではないIoTの本質的な部分が見えてきます。何よりIoTが「異なるものとのつながりで付加価値を生む」ものなのだということが見えてきます。この部分の認識を持ってほしいと考えています。「I」と「T」、すなわちサイバー(Internet)とフィジカル(Things)がつながることでバリューが生まれる。それがIoTなのですから、「I」に強みを持つ企業と「T」を本業とする企業とがつながる形、つまりオープンイノベーションのような連携体制で付加価値を追求するべきなのです。一つの企業がIoTに必要な全ての要素をそろえ、展開することは非常に困難ですし、「異なるものとのつながり」こそが既存の価値観を覆すような変革を生み出すのです。

例えば、工場内にセンサーを取り付け、誤作動や破損の原因になる事象をデータ化するような取り組みならばすでに始まっています。もちろん、そうして得たデータを分析したり、AI活用で制御したりすることによって生産性の向上や効率アップを図る、というのも一つのデジタル活用ですし、素晴らしい取り組みだとは思うのですが、それは「変革」ではなく「改善」の延長戦上です。本書で伝えたかったのは「改善」のためのIoTではなく、「市場を生み出す」ためのIoT、つまりは「変革型IoT」と呼ぶべきものです。そこにとてつもないチャンスがまだあるのだということを伝えたくて、多くの事例を紹介しました。

木通秀樹氏

多くの誤解を取り払い、「何から着手すればよいのか」
という疑問に応えたかった

 

─ 新しいビジネスと付加価値を生み出す変革型IoTの事例を紹介してもらえますか?

GEは航空機用エンジン向けのサービスとしてIoTをビジネスモデル化しました。航空会社に提供するジェットエンジンに数千のセンサーを取り付け、自動監視や故障の可能性の診断・予測、最適化計算などの技術を導入し、そこに部品メーカー、リース会社など多数の関係者と一体となった新たなバリューチェーンを構築。これによって、整備場でのメンテナンスやリペア作業を効率化しただけでなく、顧客である航空会社に余剰時間をはじめとするリソースという付加価値を提供するようになったのです。

ただし、GEのような巨大企業でなければ付加価値は生み出せないのかといえば、そんなことはありません。Uberは、スマートフォンという広く普及したデバイスを活用することで、タクシーに代わる輸送ビジネスをつくり上げましたが、ここでもドライバーや自動車の管理にIoTを用いています。普通の人をスマートフォンで信頼性評価することでドライバーに仕立て、車両という設備とその管理までも外部化することを可能にしました。従来では分断していたものが、IoTによって信頼という新たな価値を生み出すことに成功したといえます。

IoTには市場構造を転換する力がある。成功の鍵は「壁」を超えて「つながる」こと

─ 本書の中でも、この2つの事例を用いて「IoTはB2B2Cにチャンスがある」と説明していましたね?

GEやUberは自ら旅客機や専用車を保有してサービスを行っているわけではありません。事業主体である企業や個人にIoTなどのデジタル技術によるサービスを提供することで、エンドユーザーへの付加価値につなげ、それが劇的に支持されることで対価を得ている。すなわちB2B2CビジネスとIoTサービスは親和性が高いと言えるんです。

─ 「異なるものとのつながり」というのは、そういう意味合いなのですか?

私が「異なるものとのつながり」を重視するのは、IoTサービスというものが単体の企業では成立しづらい、という側面からです。大まかに言っても、8つほどの異なる役割を務めるプレイヤーが必要になります。センサー技術、データ処理、データ分析、通信・ネットワーク、電源供給、制御・組み込み技術、製品の実行・稼働、そして計画・指示を担う立場の8つです。その全てを自社だけでまかなえるところというのは、まずありません。IoTサービスを実行するには「つながり」が不可欠なんです。

─ 日本企業のIoT事例についても教えてください。

クボタやオプティムが進めている農業分野でのIoTも注目すべき事例です。農機メーカーとして世界でもトップクラスの実績を備え、日本を代表する大企業の1社であるクボタが、KSAS(クボタスマートアグリシステム)と自動運転トラクターを組み合わせた事業や、インターネットおよびドローンや各種の小型ロボットを用いたIoT技術で成長中のオプティムの事業では、新たな農業の仕組みを提案しています。

この他にも、弊社と複数の企業コンソーシアムが取り組む小型汎用農業ロボット「DONKEY」のプロジェクトがあります。これは、野菜などを作る農家に小型ロボットが付き従ってさまざまな作業の支援を行うとともに、播種(種まき)から収穫までのきめ細かな作業や作物のデータを収集して分析し、そのデータを活用することでオペレーションの改善などを実行します。この事業の素晴らしいところは、ロボットなどの先進技術のIoT化によって、単に農作業の効率化をうたうのではなく、きめ細かなデータ活用で作物の収穫量や品質向上にも貢献するとともに、データによる信頼性を活用して作物の販売・マッチングなどの流通の革新も実現し、農家に従来の栽培以上の付加価値を提供することで、これまでと明らかに異なるIoT農業という市場創成に取り組んでいる点です。

─ まさに「I(Internet)」と「T(Things)」がつながった事例ということですね?

その通りです。そしてIoTは大企業にもスタートアップにもチャンスをもたらすテクノロジーだということがポイントです。境界を超え、専門性を超えていく過程で、さまざまな役割を担う人たちにビジネスチャンスをもたらしますし、産業自体を塗り替える力を持っているのです。

日本でも「I」の側にいるKDDIが、オープンイノベーションに積極的に乗り出し、「T」の側にいるような大企業と共創・連携したり、有望なスタートアップに投資をして、新たな付加価値の創造に挑戦していますよね。こうした動きがもっと盛んになっていけば、さまざまな市場で変革は起こっていくはずです。その秘訣はまさにKDDIが体現しているように、自らの従来のビジネスに固執しないこと。価値観の異なる連携相手の現場とつながり、自社にはない専門性や強みを相手から学び取りながら、そこに自社の技術やノウハウを融合させていくことで、共に付加価値を創っていこうとする視点と姿勢が重要だと私は考えています。それが新しい付加価値となり、次なる「つながり」を呼び込んだり、イノベーションの連鎖を導いたりすれば、閉塞感に悩む大企業も、チャンスを求めるスタートアップも共に成長し、変革を達成していけるようになる。私はそう考えています。

昭和・平成で「中継ぎ投手」だった日本が「先発投手」になれるチャンスがIoTにはある

─ ITムーブメントをはじめ、変革の節目でことごとく後塵を拝してきた日本企業も、視点の転換さえあれば、IoTでは主役になり得るということでしょうか?

その通りです。IoTを用いて事業やサービスを創造する場合、従来とは異なる指標にはなりますが、モノやサービスには確かなクオリティーが求められてきます。そこは日本企業が得意とする部分ですよね。近年のつまずきは「いいモノさえ作れば売れる」という発想から抜け出すことができなかったことが原因。世界のモノづくり市場では今もなおジャパンブランドは健在です。ですから「デジタル技術を搭載したモノを作って売る」という発想ではなく、異なる領域のプレーヤーと強みを出し合い、確かなモノを生み出しつつ、「ビジネスやサービスを創り出す」ことをゴールに設定して動く。それさえできれば、今からでも主役になれます。

昭和と平成の時代、革新的なビジネスは欧米企業が生み出してきました。ITはその典型例です。コンピュータやスマートフォンといったハードウエアにせよ、GoogleやAmazonといったサービスにせよ、日本は技術面で負けたのではなく、ビジネスを創造する姿勢と発想で後塵を拝してきたのです。彼らが変革を起こし、生み出した市場で、ある意味「中継ぎ投手」として必死で頑張っていくしかありませんでした。ただし、どこよりも早くプラットフォーマーとしての地位を確保してしまったところに、圧倒的な強みが発生するITの領域とは異なり、IoTはあらゆる産業のあらゆる局面で、多様な「つながり」がものを言います。IT市場の試合では、中継ぎの役回りとなっていた日本企業ですが、すでに次のIoT市場という試合が隣で始まっています。世界的なIoT市場はようやく立ち上がってきたところで、本格的な変革はこれからですから、日本企業は今からでも十分「先発投手」になれるチャンスが広がっているのです。

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