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失敗や成功を大きな糧に、新しいビジネスの芽を吹かせたい
デジタルトランスフォーメーションを一歩前へ

失敗や成功を大きな糧に、新しいビジネスの芽を吹かせたい

デジタルトランスフォーメーション ( DX ) の実現には、従来の考え方や方法論を革新することが求められる。そのためには多様な価値観を持つパートナーとの「共創」が必要だ。これを支援するため、KDDIはさまざまな取り組みを進めている。この取り組みを統括する取締役執行役員常務の森 敬一にDX推進のポイントや共創の重要性について話を聞いた。
 

失敗と成功から得た生きたノウハウは共創を加速する強力なエンジンとなります

KDDI株式会社
取締役執行役員常務
ソリューション事業本部 副事業本部長 兼 ビジネスIoT推進本部長

森 敬一


数多くの失敗を経験したことで、実用化を阻むハードルを痛感

─ DXに取り組む企業は多いものの、成果を実感できているのはその4分の1程度といわれています。このような状況に対して、KDDIの考えをお聞かせください。

 PoC ( Proof of Concept:概念実証 ) はアイデアを具現化する前段階で、経営判断につながる具体的な成果を実証できる貴重なプロセスです。しかし、PoCを繰り返すうちに力尽きる「PoC地獄」に陥る企業も少なくありません。

かく言うKDDIも、実はPoC地獄の経験者です。これまでに数多くの失敗を経験してきました。例えば、ある観光地で実施した「ゴミ箱IoT」はその一つです。

「ゴミ箱が少ない」──そんな観光客の声を解決するため、IoTを使ってゴミの量を見える化しました。そうすれば、どのゴミ箱をいつ回収すればいいかすぐ分かり、観光地の清潔感が保たれ、地域貢献につながると考えたのです。

しかし、結局実用化には至りませんでした。ゴミ箱を設置したことで「別の問題」が発生したからです。新しいゴミ箱設置による作業が増える回収業者のコスト、ゴミ箱の管理者の決定など、技術だけでは解決できないさまざまな問題が横たわっていたことが、設置後に発覚しました。

─ そうした経験を踏まえた上で、PoC地獄を脱し、DXを前に進めるためには、どうすべきだと考えますか。

 自分たちが何を目指しているのか、まず目的・目標をしっかり持つことです。次に課題の洗い出しと絞り込みを行い、仮説を 立案します。その仮説に基づいて検証を実施し、改善を繰り返します。当たり前に聞こえるかもしれませんが、それができていないケースも少なくありません。

例えば、技術ありきのPoCはその代表例です。PoCを技術検証の場と捉えると、その技術を試すやり方が中心になり、大事な視点を見落としてしまいます。

そもそも、なぜゴミの量を見える化するのか。ゴミは誰がどのタイミングで回収するのか。管理や費用負担はどうするのか。そういう視点も持たなければ、効果的なPoCにはなりません。それはわれわれの失敗からも明らかです。

ノウハウ継承問題を解決し、鯖の街・小浜市の復活に貢献

─ 新しいビジネスモデル創出に向け、KDDIではお客さまと一緒にビジネスを創り上げる「共創」を推進しています。その理由を聞かせてください。

 一言で言えば、新しいビジネスを具現化する上で、自社だけで完遂することが難しくなってきているからです。アイデアをビジネス化するために大切なものは何か、と考えたとき、それは“ビジネスを描ける力”だと思います。多くのアイデアの種をビジネスの芽として育てていくためには、多くのステークホルダーとの利害調整が必要になります。現場感覚で現場の課題を見つける人、その課題を絞り込み仮説を立てる人、仮説に基づいて検証を繰り返し、改善に向けてフィードバックしていく人、そうしたいろいろな役割を持った人が一緒になって取り組むことが重要です。しかし、必要な全ての役割を担う人たちを自社内だけで集められるとは限りません。むしろ、集めることは不可能といってよいでしょう。だからこそ、外部の知見や技術を活用する「共創」が必要なのです。

─ そういった共創の具体例について教えてください。

 先ほど失敗の事例をお話ししましたが、これを糧として、KDDIは多くの成功も手にしています。福井県小浜市の「鯖、復活」養殖効率化プロジェクトはその一つです。

鯖は小浜市を代表する特産品の一つでしたが、近年は漁獲量が激減。そこで小浜市、小浜市漁業協同組合、福井県立大学などが協力して養殖鯖「よっぱらいサバ」の事業化に取り組みました。

よっぱらいサバは、京都の酒蔵で製造した酒かすを混ぜた餌で養殖するため、臭みがなく、ほどよい脂のりが特徴です。この事業を進める上での問題は、後継者へのノウハウの継承でした。養殖場の水温・酸素・塩分管理、給餌の量やタイミングは作業が難しく、ベテランの勘や経験に頼っていたからです。

この問題を解決するために、KDDIはIoTやクラウド技術を提供し、勘・コツに頼っていたノウハウをデータで見える化し、飼育方法をマニュアル化しました。

こうしてベテランのノウハウを継承しやすくなり、将来にわたる事業化の懸念をクリアできました。現在、よっぱらいサバはブランド鯖としてメディアでも多く取り上げられるようになりました。さまざまな立場や役割の人が、同じ目標に向かって知恵と技術を出し合う。これがこのプロジェクトの大きな成功要因だと思います。

通信を軸にケイパビリティを拡大、共創を実践・支援する場も提供

─ 共創のビジネスパートナーとしてのKDDIの優位性を教えてください。

 ベースにあるのは通信の技術です。インターネットが登場する以前から、コミュニケーションの原点である電話をはじめとした通信サービスをグローバルに展開してきました。

IoTに関しても、その前身であるM2M時代から、モノをつなぎデータを見える化する通信サービスを提供しています。つなぐモノが増えてくれば、データも膨大になります。その蓄積・分析基盤として欠かせないクラウドサービスを実現し、クラウド上ではデータを価値に変えるアプリケーションも数多く提供しています。

開発部隊も大きく変化しています。アイデアを形にするためには、効率よく早く作る必要があります。社内ではデザインシンキングやアジャイル開発を実践し、そのノウハウや方法論もお客さまに提供しています。

共創を加速させる人財育成にも力を入れています。デザインシンキングやアジャイル開発の技法習得を支援するほか、グループワーキングや研修、OJTなどを通じ、ビジネスとテクノロジーの視点を併せ持つ人財の育成も進めています。DXを一歩先、いや半歩先に進めるには、技術やソリューションといったさまざまな道具を用意するだけでなく、それに携わる人財もDXに精通している必要があります。そういう観点では、DXは道なき道をゆく登山のようなものといえるかもしれません。登山を成し遂げるには、道具だけでなく人、そしてチームがうまく機能することが重要です。

その点KDDIは、多様なケイパビリティおよび豊富な知見とノウハウを有し、そこにさらに磨きをかけています。これは大きな強みだと思います。

─ KDDIでは共創の場も提供しています。この役割についてもお話しください。

 KDDIの強みを生かしてビジネスのあるべき姿をお客さまと一緒に描いていく、そのための開発拠点「KDDI DIGITAL GATE」 ( 東京・虎ノ門 ) を2018年9月5日に開設しました。これに伴い、インキュベーションプログラム「KDDI ∞ Labo」の活動拠点もKDDI DIGITAL GATEへ移転しました。

KDDI DIGITAL GATEはお客さまとの「共創」を実践・支援する場です。高度な専門性を持つプロフェッショナル集団とお客さまが、デザインシンキングやアジャイルの手法を用いて「気づく」「創る」「評価し改良する」というプロセスを高速に回していきます。こうした活動を通じて、5G/IoT時代における市場価値の高いサービス開発を目指します。

この施設には企業規模や業種・業態を問わず、さまざまな人が交流できる「オープンエリア」も常設しており、アイデアの創出が図りやすい環境も整えています。新しいビジネスパートナーとの出会いも広がっていくでしょう。

またデザインシンキングによって潜在的な課題を発見する「ワークショップスペース」、創出したアイデアをアジャイル開発手法によって迅速にプロトタイプ検証していく「PoC開発ルーム」も設けています。最新の開発技法の習得を目指すお客さまの期待にもこたえることができます。

グローバルビジネスを支援する、「IoT世界基盤」の構築を推進

─ 他にはどんな取り組みを進めていますか。

 近年はビジネスのグローバル化が加速し、海外でも国内と同等のサービスを期待するお客さまも増えています。例えば、海外でIoTサービスを展開する場合は、現地で安定した通信環境を整備しなければなりません。KDDIは日本の国際通信のパイオニアとして、60年に及ぶ実績と経験があり、600社以上の海外通信事業者との強いリレーションを構築しています。

この強みを生かして実現したソリューションの一つが、トヨタ自動車様と一緒に取り組み、2016年6月に発表した「グローバル通信プラットフォーム構想」です。世界共通の通信基盤を構築し、世界中で「つながるクルマ」を提供することを目指しています。

KDDIでは、これをさらに発展させた「IoT世界基盤」の構築を進め、2019年度の商用化を目指しています。実現すれば、クルマだけでなく、産業機械などあらゆるモノをつなぐIoT通信、さらにデータ分析まで実現するグローバル統合プラットフォームの提供が可能になります。世界中の製品からデータを収集し、品質管理や故障予知を実現できます。幅広い業種のお客さまのビジネスに貢献できるでしょう。

海外キャリアとの交渉など煩わしい手間はKDDIが一元対応するため、お客さまは本業のビジネスに専念できます。パートナーとの共創も進めやすくなるでしょう。

─ 共創のパートナーとして、KDDIでは今後どのような価値提供を進めていくのでしょうか。

 私たちは多くの失敗と成功から、多くのことを学びました。そこで得た生きたノウハウや知見をソリューションやテクノロジーに組み入れることは、DXの推進に大きな力になるはずです。強みである通信を軸に「通信とライフデザインの融合」を図り、多くのお客さまやパートナーとともにビジネスのあるべき姿を描いていく。今後もこの取り組みをさらに加速させ、多くのお客さまのチャレンジとその成功に貢献していきます。