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千変万化する市場環境の中で、変わらぬ信頼関係を築くには

千変万化する市場環境の中で、変わらぬ信頼関係を築くには

経路探索サービスを提供するナビタイムジャパン。「NAVITIME」「EZナビウォーク」に代表される同社の全サービス利用者は、月間ユニーク数約5100万、有料会員は約480万人に上り、もはやビジネスや日常生活に欠かせない存在となっている。その躍進はKDDIのモバイル通信事業の進展ともリンクし、相互に大きな信頼関係を築き上げているという。激変する市場環境の下、強固なパートナーシップをどう築きあげてきたのか。代表取締役社長である大西 啓介氏に聞いた(本文中敬称略)。
 

より優れたものをどう生み出すのか──常にユーザー目線で議論を重ねてきました。

株式会社ナビタイムジャパン
代表取締役社長 兼 CEO

大西 啓介 氏


事業の追い風となった、KDDIのGPS搭載ケータイ

─ ナビゲーション総合サービス「NAVITIME」の提供を始めたのが2001年のことでした。当時どのように事業を立ち上げられたのでしょうか。

大西 元となったのは、徒歩から鉄道、飛行機、バスや車まで、全ての移動手段を使って出発地から目的地まで最適なルートを案内するアルゴリズムエンジン「トータルナビゲーション」です。大学時代から研究を続け、同じ研究室だった菊池 新(現、副社長)と二人で、1998年に世界で初めて完成させました。

当時はまだ、父が経営する特殊空調設備会社「大西熱学」の社内ベンチャーでしたが、99年にiモードやEZwebといった携帯電話のインターネットサービスが開始され、そのころからわれわれが開発した経路探索エンジンが、PDA(携帯情報端末)や携帯電話用のアプリとして採用され始めたのです。そこで2000年に事業を分社化して「ナビタイムジャパン」を設立しました。

EZweb NAVITIMEサービスが搭載された当時の携帯電話

大きな追い風となったのが、2001年末にKDDIが世界で初めて発売したGPS搭載ケータイ「C5001T」でした。われわれのナビゲーションを動かすには最適な製品で、発売と同時に公式コンテンツ「EZweb NAVITIMEサービス」がスタートしました。その前後から、携帯電話用のアプリ開発プラットフォーム「BREW(ブリュー)」への対応などで意見交換させていただく機会があり、これがKDDIとの正式なお付き合いの始まりでした。

─ その後、2003年には歩行者ナビゲーションサービス「EZナビウォーク」を、また2005年には助手席向けカーナビゲーションサービス「EZ助手席ナビ」をKDDIとの協業のもと提供されています。フィーチャーフォンをプラットフォームにしたサービスで、KDDIをパートナーに選択した理由を聞かせてください。

大西 2002年9月のことだったと思います。ナビタイムジャパンが創業当時に借りていた30坪ほどの小さなオフィスに、今、KDDIの社長となられた髙橋 誠さんが訪ねてきてくださったのです。同年リリースされた第3世代携帯通信の目玉となるサービスを探しておられて、「ぜひ、ナビゲーションのデモを見せて欲しい」ということでした。

そこで、実際に屋外でどのように使えるか、後に「EZナビウォーク」や「EZ助手席ナビ」となっていくプロトタイプを見ていただきました。髙橋さんは技術内容や操作性に非常に興味を持たれて、話が弾みました。その後、協業に関する話し合いが本格的にスタートしたわけです。

フラットな目線での技術評価が、長年のパートナーシップの始まり

大西 特に印象深かったのは、フラットな目線でわれわれの技術や可能性を評価してくれたことです。髙橋さん自身、京セラに入社されてすぐ稲盛 和夫さんと一緒に第二電電(現KDDI)という“ベンチャー”の立ち上げに関わった方ですから、そこでの苦労も含め、どんな人間が頑張っているのか、どんな新しいことを始めようとしているのかという、当時のわれわれのスタンスやスピリッツをよく理解されていました。その意味では、とても運命的な出会いだったと思います。

「EZナビウォーク」は月額料金のサービスでしたから、KDDIで契約数が増えるほど、当社の業績が上がるビジネスモデルとなっていました。KDDIは専任の社員を集めた“ナビチーム”という組織を作ってくださり、そこでお互いにアイデアを出し、第三世代携帯やサービスの付加価値を上げ、ユーザーにも喜んでいただく“いい循環を作ろう”という意気込みを示してくださいました。

広告やCMといったプロモーションはKDDIにお任せする代わりに、開発費はナビタイムジャパンが自社で賄うという関係性も良かったのだと思います。カネも出すが口も出すという関係では、開発費用が幾らと見積っているうちに“高いから止めよう”となるケースがよくあります。それではせっかくのアイデアがもったいないと思うのです。ユーザーに喜んでいただけるものは、目先の利益に捕らわれず何としても作るべきなのです。

そんな両社の関係性を築きつつ、サービスリリース当初から積極的にプロモーションしていただいたおかげで「EZナビウォーク」の契約者数は瞬く間に増えていきました。2005年に出した「EZ助手席ナビ」も高く評価されましたし、この間KDDIの携帯純増数もずっと1位をキープし続けるなど、お互いに満足のいく協業の成果を出すことができたのです。

本質的な目的を共有しながら、社会に役立つものを創り上げる

─ 2007年、スマートフォンが登場します。フィーチャーフォンの時代とはビジネス環境が大きく変わったのではないでしょうか。

大西 スマートフォンには無料で利用できるアプリやコンテンツが多いので、月額課金アプリの敷居が高くなってきたのは事実です。「EZナビウォーク」は既に有料会員が300万人を超えていましたから、スマートフォンに移行しても引き続きご利用いただくために、KDDIのナビチームや関係部署と一緒に早くから知恵を絞りました。

スマートフォンにはさまざまなセンサーが搭載され、画面サイズも含めてフィーチャーフォン以上に高い表現力を持っています。それらを活用し、“お金を払ってでも利用したくなる機能やサービスを提供していこう”と努力を重ねた結果、多くのユーザーに有料会員を継続していただくことができました。

スマートフォン時代になってからも、KDDIは自社の通信と、われわれの技術を使った法人向けサービスをセットにしたビジネス展開を積極的に提案してくれています。企業の健康経営を支援するヘルスケアサービス「ウォーキングNAVITIME-ALKOO-」を活用したウォーキングイベント施策などがその一例ですが、最近では長野県白馬村の地方創生を支援するアプリ「HAKUBA VALLEY」を共同で開発しました。KDDIの5Gと当社のバスの位置情報やデータ分析技術を自治体向けに提供して、地方創生、インバウンドの受け入れに貢献する事業も動きはじめました。アプリ領域にとどまらない、国や自治体の課題解決に向けた協業も増えてきています。

長野県白馬村の地方創生を支援するアプリ「HAKUBA VALLEY」

─ 協業の裾野がどんどん広がっているわけですね。そうしたパートナーシップを築き上げてこられた秘訣があるとすれば、どのようなことでしょう。

大西 やはり、“信頼関係と共通の目的意識”だと思います。思えば最初に髙橋さんとお会いしたころから、これからの時代に何が必要になってくるのか、どうすればユーザーに喜んでもらえるのかという“本質的な目的”を共有しながら、世の中に役立つものを一緒に追求し、創り上げてきた気がします。

苦労を乗り越える時も一緒でしたし、環境が新しくなった時も、より優れたものをどう生み出すかで常に議論を重ねてきました。そういったユーザー目線の考え方が企業文化として一致していたことが、お互いを信頼し続けてこられた根幹にあるのでしょう。

ですから社員には「KDDIさんが何かやりたいと言ってこられたら、まずやってみよう」と常々言っています。実際に髙橋さんからは、今でもたまにお電話をいただきます。「今度スマホでこんなことがしたいんだけど、できるかな?」といったお話です。そうなると私もすぐに社員を集めて「よし、やってみよう!」なんて話になるわけです。

─ 今でいう「オープンイノベーション」を早くから実践してこられたわけですね。

大西 意識したことはありませんが、振り返ればそのとおりかも知れません。5Gの時代になれば、さらに革新的なサービスやソリューションが求められてくるでしょう。われわれはKDDIと一緒に、その劇的な変化を最大限に活用しながら、ユーザーの皆さんに喜んでもらえるような新しいチャレンジを続けていきます。