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5Gによって生まれる新ビジネスの“種”を見過ごさないために

5Gによって生まれる新ビジネスの“種”を見過ごさないために

5G(第5世代移動通信システム)の実用化が迫っている。5G時代をビジネスチャンスと捉えている企業は着々と準備を進め、その到来を待ち構えている。「高速・大容量」「低遅延(リアルタイム)」「多接続」という5Gの特長を生かした新ビジネスのシーズ(種)が数多く生まれているのだ。

制作:JBpress


5Gが新たなビジネスやサービスを生む土壌になる

次世代の無線移動通信システム「5G」の登場によって今、通信業界だけでなく、社会全体が大きく変わろうとしている。これは日本だけではなく、グローバルで進行する動きだ。2019年1月に米国・ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2019」や、同年2月にスペイン・バルセロナで開かれたモバイル関連最大のイベント「MWC2019 バルセロナ」では、5Gの商用サービス開始に先駆け、各社のブースで5G対応のスマートフォンやモバイルルーターなどが数多く展示され、多岐にわたるソリューションも提示されていた。5Gによる新たなビジネスチャンスに寄せられている期待は大きそうだ。

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米国の通信キャリアは5Gの実証実験を行っている。例えば、スプリントは2016年6月に米国で開催されたサッカー大会「コパ・アメリカ・センテナリオ USA 2016」で、5Gを活用して試合の4Kライブ映像を配信する実証実験を行った。また、ベライゾンは2018年11月に行われた米国男子プロバスケットリーグの試合で、360度VR2(仮想現実)映像を配信する5G実証実験を実施している。

AT&Tは、VRやAR(拡張現実)を活用し、末期がん患者らの身体的な痛みや精神的、社会的な苦しみなどを和らげるための緩和ケアを行うホスピスという施設の患者をサポートする研究を行っている。患者が抱える不安や痛みへの対処の支援や、仮想空間での家族との外出などといったVR/ARコンテンツのオンデマンドストリーミングを提供し、患者が心穏やかに過ごすための代替療法として活用できるかを検証している。5Gを利用することでVR/ARコンテンツのオンデマンドストリーミングを遅延なく行えるという。

日本でも5Gのサービス開始に向けた取り組みが進んでいる。2019年に5Gのプレサービスが、2020年に商用サービスがスタートする予定だが、すでにさまざまな業界の企業が通信キャリアと共同で実証実験を行い、5Gの可能性を探っているのだ。

だが、一部では「5Gにはキラーアプリやキラーコンテンツが少ない」とも言われている。通信キャリアが実証実験を行ったり、総務省が「5G利活用アイデアコンテスト」を開催したりしているのは、新たなビジネスやサービスが見つからずに模索しているためだ。

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過去を振り返ってみると、4G(第4世代移動通信システム)によって通信速度が高速化し、その特長を生かせる「スマートフォン」が普及した。今や多くの人にとって生活に欠かせないものとなっただけでなく、ビジネスもスマートフォン抜きでは考えられないほど重要な存在になっている。だが、このことを事前に予想できた人がどれほどいただろうか。
5Gがスタートすることによって、スマートフォンに匹敵するようなインパクトをビジネスに与えられるかどうかはまだ分からない。しかし、少なくとも5Gが新たなビジネスやサービスを育む土壌にはなるはずだ。実際、すでに新ビジネスや新サービスのシーズは数多く生まれている。

よく知られているように、5Gの特長は「高速・大容量」「低遅延(リアルタイム)」「多接続」だ。今回はこの3つの特長をキーワードとして、これまでに行われた数々の5G実証実験を例に挙げ、現在考えられている新たなビジネスやサービスのシーズを再確認したい。


4Kハイスピード映像を遠隔地でも視聴できる(大容量①) 

1つ目の特長である「高速・大容量」。通信速度は20Gbpsで、現行の4Gの20倍となる。それによって生まれる新ビジネスのシーズの一つが、8Kや4Kの高精細映像の伝送だ。8K/4Kの映像はファイルサイズが大きく、4Gではそれらをフルスペックで伝送することが難しかったからである。

株式会社テレビ朝日は2018年11月、KDDI株式会社と共同で5Gを活用した4Kハイスピードカメラ映像のリアルタイム中継実験を行った。中継の対象となったのは女子プロゴルフ大会。4Kハイスピードカメラから撮影したライブ中継映像を会場に設置した大型モニターにリアルタイム伝送することと、ゴルフ中継で利用される4Kスーパースロー映像を伝送することに成功した。これによって株式会社テレビ朝日は、今まで以上に臨場感のあるコンテンツの提供が可能であることを確認できた。


VRでスポーツ観戦の新たな楽しみ方を提供(大容量②)

VRとMR(複合現実)も5Gによって生じる新ビジネスのシーズといえる。VRの本格普及のためには4Kクラスの高画質な映像が必要とされる。そのためには、高速・大容量の5Gが欠かせないのだ。

沖縄セルラー電話株式会社などは2018年6月に5G実証実験を行った。沖縄セルラースタジアム那覇で開催されたプロ野球公式戦の試合中に、5Gに対応したタブレットを活用し、スタジアムでの「自由視点映像」のリアルタイム配信を実施した。自由視点映像とは、スポーツ中継の映像を視聴者が見たい角度で自由に見ることができる映像システムのこと。実験対象の観客はタブレットを操作してバッターボックスの選手を好きな角度で視聴できただけでなく、もう一度観たい映像のリプレイ再生も楽しむことができた。

スタジアムでのエンターテインメント体験を充実させる施策の一つとして、スポーツやコンサートなどを撮影した大容量映像をモバイル端末や大型スクリーンへリアルタイムで伝送し、視聴者に新たな体験価値を提供することが考えられている。4Gでは大容量映像の同時配信が困難だったが、5Gを活用することでそれが可能になる。


建設機械やクルマの遠隔操作で熟練作業者、運転手の不足を補える(低遅延①)

2つ目の特長は「低遅延」。5Gでは通信の遅延が1msと、4Gの10分の1に短縮する。それによって新ビジネスのシーズとなるのが遠隔操作だ。特に期待されているのが、建設機械(建機)や工作機器、クルマなどを遠隔から操作することで、5Gの特長である低遅延が重要なポイントとなるからだ。

KDDI株式会社、株式会社大林組、NEC(日本電気株式会社)は2018年12月に共同で、2台の建機を遠隔操作して連携作業する5G実証実験を行った。従来のWi-Fiなどを活用した遠隔操作では、操作する際に映像のズレが生じるため、搭乗操作に比べてオペレーターの疲労度が高く、作業効率が低下する課題があった。実証実験では1人のオペレーターが2台の建機を遠隔操作で連携させ、土砂を運搬することに成功。熟練した建設作業者の不足を補えるようになると期待されている。

5Gの低遅延という特長は、新ビジネスの有望なシーズであるクルマの自動運転でも生かされる。アイサンテクノロジー株式会社と損害保険ジャパン日本興亜株式会社、株式会社ティアフォー、岡谷鋼機株式会社、名古屋大学は2019年2月、KDDI株式会社と共同して一般公道で2台のクルマによる遠隔監視自動運転の実証実験を行った。研究開発が進む自動運転は、買い物難民やバス・タクシー運転手不足に対する市民の移動手段としての活用や観光促進にもつながると期待されている。


世界的な大会も増えているeスポーツの民主化に貢献する(低遅延②)

eスポーツ系のオンラインゲームも5Gのシーズとなる。例えば対戦型格闘ゲームの場合、低遅延が重視されるため、現在は光回線に接続したパソコンが用いられている。5Gを利用すればスマートフォンを使っても遅延なくプレーできるため、どこにいてもオンライン対戦を楽しめるようになるのだ。スマートフォンを使ったeスポーツ大会も開催しやすくなるだろう。

こうしたことを見据え、KDDI株式会社はeスポーツのサポートを拡充している。プロeスポーツチーム「DetonationN Gaming」のスポンサーを務めるだけでなく、2018年9月にはeスポーツの業界団体である日本eスポーツ連合(JeSU)とのオフィシャルスポンサー契約も結んだのだ。

この他にも、遠隔医療や企業などでのビデオ会議でも5Gの低遅延という特長が生きると考えられる。


大量のセンサーを同時接続してスマート工場を実現(多接続)

5Gの特長の3つ目は「多接続」。4Gでは接続するデバイス数が1平方キロメートルあたり10万だったのが、5Gでは100万と10倍に進化する。

特に電気やガス、医療などの分野では、IoT(Internet of Things)機器を大量かつ確実に同時接続することが重要とされる。それを可能にするのが多接続の強みを持つ5Gであり、よく言われるように、IoTは新ビジネスの有望なシーズなのだ。

IoTの活用ケースの一つとしてスマート工場が挙げられる。国際電気通信基礎技術研究所(ATR)と株式会社デンソー、九州工業大学は、2019年1月からKDDI株式会社と共同して5Gを活用した産業ロボット制御の実証実験を開始している。ロボットを導入する工場では、製造工程を変更する際、ロボットの配置換え作業が生じる。配置換え後の製造ラインでロボットを再稼動させるためには、事前にロボットの動作をきめ細かく教示する調整作業も発生する。これらの作業は工場の稼動を長時間停止する原因となっている。

配置換え後のロボットの動作調整作業を省力化するための方法として、高精度な三次元計測センサーの導入が考えられる。5Gを用いれば大量のセンサーを同時接続でき、センサーからの情報の伝送も可能となる。つまり、5Gと大量のセンサーの活用で、製造工程の変更に伴う工場の稼動停止時間を短縮させることができるのだ。

シーズからニーズを生んで5G時代をビジネスチャンスに

5Gによって生まれる新ビジネスのシーズを紹介してきたが、これら以外にもシーズは存在しているし、新たに生まれてくるシーズもあるはずだ。5G時代をビジネスチャンスと捉えている企業は、自社のビジネスに適したシーズに目星を付けて新時代の到来を待ち構えているに違いない。

通信キャリアと共同で実証実験を行っているのは主に大企業だが、総務省が行った「5G利活用アイデアコンテスト」では、中小企業や個人も受賞に至っている。誰にでもチャンスがあるのだ。

しかし、待っているだけではそれをつかめない。5Gを活用して新たなビジネスやサービスを創出するためには、今すぐにでも動き出す必要がある。シーズはいつか、社会の“ニーズ”に変わるかもしれないのだ。