このページはJavaScriptを使用しています。JavaScriptを有効にして、または対応ブラウザでご覧下さい。

広大な海を行き来するネットワークの「守り神」。その全貌とは?

広大な海を行き来するネットワークの「守り神」。その全貌とは?

人的作業や車載基地局によるエリア復旧が難しい広域災害発生時、対策の切り札となるのが「船舶型基地局」だ。その1つが「KDDIオーシャンリンク」である。平時は海底ケーブルの敷設・保守船として活動する同船の歴史と任務を紹介する。

揺れる船内でのケーブル敷設・保守は高度な作業

KDDIオーシャンリンクは1992年に就航した光海底ケーブルの敷設と保守を行うための船舶だ。保有するのはKDDIグループの国際ケーブル・シップ(KCS)である。

船内は空母にも採用されている柱のない特殊な構造で作られ、長大な作業スペースを確保している。ここに最大4500km分のケーブルを積載できる。これだけで日米をつなぐ太平洋横断ケーブルの約半分をまかなえる量だという。

敷設後の海底ケーブルの保守も重要な任務だ。地震や漁業活動によってケーブルが切断・損傷した場合は、現場に出動して修理する。特にケーブルが切断されてしまった場合の作業は困難を極めるという。切れた部分をつなぎあわせるためには、切断部分の両側のケーブルを一度船内に引き揚げる。その上で1つの海底ケーブルの中にある十数本の光ファイバーをつなぎあわせ、再び敷設する。揺れる船内でケーブルを引き揚げ、繊細な光ファイバーをつなぎあわせる作業は非常に高度で、細心の注意が必要になる。

2011年3月11日に発生した東日本大震災の際には、日米間を結ぶケーブルなど多数の海底ケーブルで広範囲な被害が発生した。出動したKDDIオーシャンリンクは約5カ月に及ぶ24時間態勢での修復作業を続け、同年の8月6日にようやく帰港した。

3.11を機に2017年から「船舶型基地局」の機能を追加

実はこの東日本大震災がKDDIオーシャンリンクに新たな役割が加わる大きな転機となった。

震災時は被害が広域にわたり、陸上での復旧活動も長期に及んだ。道路は寸断され、現場はがれきに阻まれ、作業は遅々として進まない。陸上での作業が困難なら、海上に基地局を立てることはできないか――。

そこで船舶型基地局の実用化プロジェクトがスタートし、KDDIオーシャンリンクに白羽の矢が立った。同船は、船内での作業をやりやすくするため、一定の位置に船を静止させておく機能が備わっている。この機能は船舶型基地局の搭載船として求められる能力とも合致する。発案から検討と試験運用を重ね、2017年には、震災時に運用可能な「船舶型基地局」の制度化がなされた。搭載する基地局設備は、沖合数km先に停泊した船舶から沿岸部のエリアをカバーするという。

船舶型基地局としての初出動は、2018年9月に発生した北海道胆振東部地震だ。北海道日高沖に停泊し、エリア復旧の立役者となった。この際の復旧エリアは、船舶から日高町内の広範囲な沿岸部をカバーできたという。この活動は船舶型基地局の日本で初めての運用である。

2019年9月には、千葉県を中心に甚大な被害をもたらした台風15号(令和元年房総半島台風)の復旧対応に出動。エリア復旧に加え、支援物資輸送の大役も務めた。なお、KDDIオーシャンリンクの母港は横浜だが、KCSは北九州を母港とする、もう1つの船舶型基地局「KDDIケーブルインフィニティ」も保有する。災害発生時、どちらかが出航中で不在の場合は、もう1隻が出動するが、2隻とも出航できる場合は、現地への航行距離や所要時間なども考慮して、出動船が検討されるという。

船にはバックボーンの衛星回線用アンテナのみ常設され、その他の携帯電話用アンテナや基地局装置などは都度船内に運び込んで設置する。波のある海上で安定した通信を確保するためには陸上の基地局とは異なるノウハウが求められ、運用中は船の向きの変化などに合わせたアンテナの微調整も必要になるという。

遠い外洋では光海底ケーブルの敷設・保守船として働き、災害があれば、船舶型基地局に変貌し直ちに現地に急行する。2つの顔を持つKDDIオーシャンリンク、KDDIケーブルインフィニティは、広大な海を行き来するネットワークの守り神なのである。