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PoCで終わらせない、共創の極意
人材難に苦しむ企業・組織を救いたい

PoCで終わらせない、共創の極意

転職支援をはじめ、多彩な人材サービスを提供しているパーソルキャリア。同社は、2019年9月に新サービス「HR Spanner(エイチアールスパナー) 」のプロトタイプを完成させた。過去に経験の少ない「中途・新卒人材の定着支援」という領域のサービスにもかかわらず、わずか3週間でPoCの開発を完了。これを支えたのが、KDDI DIGITAL GATEでの共創の取り組みだ。キーパーソンに取り組みの経緯などを聞いた。

実現したいサービスはあるがノウハウや技術が自社にない

転職サービス「doda(デューダ)」、ハイクラス人材のキャリア戦略プラットフォーム「iX(アイエックス)」など、さまざまな人材サービスを提供するパーソルキャリア。同社が開発中の「HR Spanner」は昨今人事関連業界で注目を集めている「オンボーディング」を支援するツールだ。

オンボーディングとは、企業が採用した社員を、組織の一員として定着させ戦力化させるまでの一連の受け入れプロセスのこと。労働力人口の減少による採用難が企業の課題となる中では、スムーズに職場になじませるとともに、ポテンシャルを存分に発揮させることが重要になっている。その効果的な手法の1つとして、多くの企業が採用しつつある。

「現在開発中の『HR Spanner』は、社員のコンディションチェックやコミュニケーションサポートといった機能により、オンボーディングの取り組みを支援します。新しく入社した社員の不安や悩みを検知し、ビジネス現場のコミュニケーションを促進することが可能です」と同社の大澤 侑子氏は紹介する。

ただし、人材領域における多様なノウハウを持つ同社にとっても、このサービスの開発は簡単なことではなかった。その理由は大きく2つあった。

1つは、これまであまり手がけたことのない種類のサービスだったことである。従来、人材紹介や新卒採用支援、教育研修、人事コンサルティングなどを手がけてきた同社だが、「入社した人材の力を引き出す」というサービスは、未開拓の領域だった。

検討開始時から、オンボーディング支援サービスはこれからの時代に間違いなく必要なものだという確信はありました。ただ、具体的にどんな機能が必要かなどは全くイメージできていませんでした」と大澤氏は述べる。

パーソルキャリア株式会社 サービス企画開発本部 サービス企画統括部 エキスパート 大澤 侑子氏

ファシリテーション力、開発力、
どれもが高いレベルにあるKDDIとなら
最後までやり抜けると確信しました

パーソルキャリア株式会社
サービス企画開発本部
サービス企画統括部
エキスパート

大澤 侑子氏

もう1つは、サービスを立ち上げるには、すべてが白紙の状態から始める必要があったことだ。前例となる仕組みや社内での事業開発事例が存在しないため、ゼロから企画・開発し、実際に仕組みを構築していくための知見や技術力が必須だった。

「1つだけ感じていたことは、当社にとって経験のない取り組みだからこそ、全体像を固めてから取り掛かろうとすると、時間もコストもかかりすぎてしまうだろうということです。それよりも、小さく始めて、試行錯誤の上でスケールさせていくアジャイルなアプローチが必要だと考えました」と大澤氏。そこで同社は、新しいビジネス領域に踏み出すノウハウや、アジャイル企画開発の知見、技術力を備えたパートナーとともに取り組むことを決断。パートナー選定を進めたという。

経験豊かな人材と共創の場である
DIGITAL GATE 両方がKDDIを選ぶ決め手に

複数社の提案を検討した結果、最終的に選んだのがKDDIだ。選定理由について大澤氏は次のように語る。「提案を受けた中で、最も多くの方が熱心に話を聞いてくれたのがKDDIでした。しかも、どの方も経験豊富で、成功例も失敗例も多く知っている。これならビジネスを形にするところまで伴走してくれると感じました」

また、5G/IoT時代のビジネス開発拠点「KDDI DIGITAL GATE」(以下、DIGITAL GATE)の存在もポイントになったという。

オープンイノベーションとデジタル技術の両方に精通したKDDIグループのメンバーが、顧客との二人三脚で取り組みを進める場所がDIGITAL GATEだ。デザイン思考をベースとしたワークショップで、ユーザーの体験を観察・分析し、潜在的な課題を探り当て、有効なソリューションをデザインする。そして、アジャイル企画開発チームによるプロトタイピングを通じて、ワークショップで見えたソリューションの構築・検証を短期間で実行する。

KDDI株式会社 経営戦略本部 KDDI DIGITAL GATE マネージャー 佐野 友則

大澤さんはいつもその場で即意思決定して
くれたので開発がスムーズに進みました

KDDI株式会社
経営戦略本部
KDDI DIGITAL GATE
マネージャー

佐野 友則

「パーソルキャリア様との取り組みでは、開発すべきサービスのコンセプトを固めるワークショップと、PoC(概念実証)のためのシステムを短期間で開発する2段階構成で進めることにしました」と、取り組みをともに進めたKDDIの佐野 友則は説明する。

中でも、プロジェクト開始にあたって両社が重視したのが、サービスのコンセプトをしっかり固めることだった。

もちろんパーソルキャリアも、KDDIとともに取り組むことを決めるまでの間、さまざまな角度から核となるコンセプトを検討してきた。その上で、サービスの中身も徐々に詰めていたが、一方で、揺るがない“芯”ができていないとも感じていたという。

「当時は、中途社員が会社に対して抱く愛着や親しみ ( エンゲージメント ) を数値化して管理するシステムを想定していました。ただ、肝心のコンセプトがぼんやりしていたため、本当にそれでよいのか確信が持てなかったのが正直なところです。そこで、まずはコンセプトを固めることが先決と考え、DIGITAL GATEスタッフと課題感を共有しました。コンセプトを固められれば、どんな困難があっても、新サービスの立ち上げと、その先にあるグロースにはつながるはずだと考えたのです」と大澤氏は話す。

ぶれないコンセプトづくりがサービスの成否を決める

また、今回のプロジェクトには「3カ月でプロトタイプを作成し、次のフェーズに進むか否かを判断する」という制約があったという。そのため、プロジェクトのスキームや体制も最適化して進めることにした。「具体的に、ワークショップは2日間。PoCはスクラム開発1週間、ユーザーフィードバック収集を1週間、再びスクラム開発1週間の計3週間で完了させる工程にしました。プロジェクトの参加メンバーも、KDDIとパーソルキャリア様がそれぞれ最適な人選を行い、短期間で質の高いアウトプットを行えるように工夫しました」と佐野は紹介する。

こうしてプロジェクトは動き出した。

ワークショップは、KDDIからエンジニア、デザイナー、パーソルキャリアから既存サービスの営業企画、商品企画担当者などの計10名弱で実施。両日とも午前10時から午後4時まで徹底的に議論した。1回目のワークショップでは、コンセプトを固めた上でサービス素案の作成まで進めること、2回目のワークショップでは、作成した素案を互いに品評し、1つに絞り込むことをそれぞれ目的に設定したという。

「自社ではこれまで行ったことのない取り組みであり、私自身も新鮮な体験でした。例えば、コンセプトを固める過程では『中途社員がどんな姿になることを理想とするかを、まず定めるべきだ』という指針をKDDIから提示してもらいました。そこで、参加者全員が自分の考えを付箋に書き、壁に張り出して話し合ったりしました」と大澤氏は振り返る。

DIGITAL GATEスタッフがファシリテーターを務め、対話を通じてアイデアを集約していく。新サービスのコンセプトが浮かび上がってきた。

その後、このコンセプトに基づき、各自がサービスの素案を考える。2日目のワークショップでこれを互いが品評し、投票によって1案に絞り込んでいった。この手順によって、その後のPoCで検証すべきMVP(実用最小限の製品)をぶれないものにすることができるという。

Web designer brainstorming for a strategy plan. Colorful sticky notes with things to do on office board. User experience (UX) concept.

「いずれのプロセスでも、DIGITAL GATEスタッフのファシリテーションとユーザー視点へのこだわりは素晴らしいものでした。進行に無駄がなく、問いかけの内容も的を射ているため、参加者全員がぶれることなく話し合いに集中することができました。私自身、ここまでユーザーのことだけを考える時間を過ごしたことはありませんでした」と評価する大澤氏。実際、DIGITAL GATEスタッフはワークショップのリハーサルを何度も行い、ワークショップの構成や進行手順を細かくチューニングしている。こうして蓄積したノウハウが、顧客との共創の場で生かされているわけだ。

1日で成果物ができる開発スピード PoCプロセスはわずか3週間

次のPoCでポイントになるのが、アジャイル企画開発手法の中でもDIGITAL GATEが採用している「スクラム」だ。ビジネス部門と技術部門のメンバーが、文字どおりスクラムを組むように、密なコミュニケーションを繰り返しながら開発を進める。事前にシステム要件を明確に定義しないため、メンバー間の意思疎通が開発の要となる。

開発に携わるメンバーは、ほぼ毎日顔を合わせる。朝にその日の目標を定め、夕方には成果確認と振り返りを行うという、猛烈なスピード感でPoC開発が進められた。

KDDI DIGITAL GATEでの開発の流れ 1日で計画策定、開発、リリース、 フィードバックを実行する
KDDI DIGITAL GATEでの開発の流れ
1日で計画策定、開発、リリース、
フィードバックを実行する

「開発スピードを維持する上では、プロダクトの決裁権者(プロダクトオーナー)の意思決定速度がカギになります。開発側からの質問になかなか答えが返ってこないと玉突きで後工程が遅延していくのですが、その点、今回のプロダクトオーナーの大澤さんはその場で即判断してくれることが多く、非常に助かりました」と佐野は語る。判断がつかない場合も関係者にすぐ確認し、翌日には返答してくれたという。

一方、大澤氏もDIGITAL GATEのエンジニアのスキルを高く評価する。

例えば、朝にToDoリストに掲げたものは、ほとんどが夕方に「Done」の状態になっていたという。「人材系サービスの開発は初めてと聞いていたのですが、こちらの要望を聞いたその場でシステム要件に落とし込み、エンジニア同士が阿吽の呼吸で役割分担をして開発を進めていく様子には驚かされました。また、1日で成果物を確認できるというスピード感は初めての経験でした」と大澤氏は言う。

このように、スクラムにおいては、DIGITAL GATEのエンジニアはもちろん、ユーザー企業側の積極的な参加も欠かせない。互いが役割を正しく認識し、良好な関係性の下で持てる力を出し合ったことが、プロジェクトの円滑な進行を支えたのである。

オーナーが強い意志を持ちコンセプトを貫くことが肝心

PoCのフィードバック期間に、大澤氏は十数人のユーザーにプロトタイプを使ってもらい、感想をヒアリングした。そこでニーズを確信した同社は、改善・改良を加えた上で、本サービスを2020年夏ごろに提供開始する予定となっている。まさしく、DIGITAL GATEでの共創の取り組みがパーソルキャリアのビジネス拡大に寄与したケースといっていいだろう。

現在は、多くの日本企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けたPoCに取り組んでいる。ただ残念ながら、新規顧客の獲得や売上増大といったビジネス成果につなげられているケースは少ない。大きな要因は、最新技術を活用することが目的化してしまうことにある。

「大事なのは、やはりコンセプトです。これが固まっていないとどんな技術も活用方法を誤ってしまいます。コンセプトが固まったら、プロダクトオーナーは強い意志を持って、最後まで貫き通す。そうすることで、PoCで終わらないサービス開発を実現できるのだと思います」(大澤氏)

今後は、「HR Spanner」を成長させていくとともに、さらに新しい人事関連ビジネスを検討していくという同社。人材不足という難問に直面する日本企業に対し、デジタル技術によって解決策を提示する。取り組みは今後も続いていく。