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地方創生EXPO KDDIブースレポート
地方の課題解決や新規事業創出にKDDIの技術・ソリューションが貢献

地方創生EXPO KDDIブースレポート

2018年から毎年開催されている「地方創生EXPO」。2020年は2月5日(水)~7日(金)の3日間で開催され昨年を大きく上回る560社が出展した。KDDIは10のソリューションを展示したブースを構え、地域が抱える課題の解決や新規事業の創出のヒントを提示。関連する技術やリソースを持つ企業と地域担当者が交流する場として活用されている本イベントは、全国の自治体、観光協会、商工会、商工会議所、DMO※などで構成され来場者も数万人規模にのぼっている。

  • ※. Destination Management Organization: 地域と協同して観光地域作りを行う法人のこと

東日本大震災をきっかけに地域支援事業に注力

「地方創生EXPO」に出展するのは今回が初めてだったものの、KDDIは10年ほど前から地方創生事業に注力してきた。きっかけは、2011年3月11日、東日本大震災だ。未曾有の災害により、東北地方は甚大な被害を受けた。KDDIの通信インフラも被災し、災害後すぐにインフラ復旧メンバーを派遣し対応した。

当初は通信インフラの復旧のみだったが、「震災前の状況に戻す」だけに留まらず、ICTを活用して採算性の高い、地方ならではの産業を興せるとの気づきがあった。まさに今回のイベントのテーマ、地域が抱える課題である。KDDIのアセットだけでは不十分な場合はパートナー企業と協力し、一つひとつ地域の声に真摯に耳を傾け、自治体だけでなく現地企業とも協力しながら、できる限りのサポートを行った。

そうするうちに、KDDIの姿勢やソリューションについて東北以外の他地域にも情報が伝わりニーズや相談が寄せられるようになった。地方創生事業は瞬く間に拡大、現在では数多くの自治体に展開するまでに成長している。

今回のイベントでは、その中からいくつかの事例をピックアップし、関連する技術やソリューションを紹介。「地域振興」「防災・危機管理」「行政ICT化」と大きく3つの分野に分けて右表の展示を行った。本記事では、特に来場者の注目を集めた4つの事例(右表の★部分)を紹介する。

【事例1】液量の残量チェックを効率化
「タンク監視ソリューション『みるタンク』」(宮崎県西都市)

宮崎県の中央に位置する西都市は、マンゴー栽培が盛んな地域だ。もともと温暖な地域ではあるが、マンゴーの生育には「気温25度以上」との条件があるため、重油を燃料とした暖房設備でビニールハウス内を温めておく必要がある。

そのため、燃料切れを起こさないよう、こまめなチェックが欠かせない。これまでは、農業生産者や燃料を販売するJA(農業協同組合)などが、タイミングを見計らって手動で残量を確認していた。この手間を効率化したいと、2016年頃にパートナー企業を通してKDDIに相談が舞い込む。すぐにシステムの開発に着手、製品の開発や実証実験を重ね、2019年11月にタンク監視ソリューション「みるタンク」として正式にリリースされた。

類似したソリューションはすでに存在したが農場という環境では電源の確保が難しい。仮に電池を使用する仕組みにしてもLTE回線では消費電流が多いため稼働時間が短く、また回線料金も安くないなどの課題があった。そこで、低消費電力ならびに安価な料金設定を実現する「セルラーLPWA (LTE-M)」を採用。その結果、内蔵バッテリーで数年もち、かつ月額数百円ほどのサービスを実現した。「みるタンク」にはGPSも内蔵しており、配送の効率化にも寄与する。

担当者は、手応えと今後の展望を次のように話す。

「農業生産者さんやJAさんからは、家やオフィスに居ながら油量がチェックできるので楽になりましたと、喜びの声が届いています。近隣の自治体、さらには日常的にタンク内液量確認を必要としている他業界からも、多くの問い合わせをいただいています」

実際、農業生産者以外では温泉地や染料メーカーから問い合わせがあった。源泉の湯量測定については、すでに現地を視察するなど話が進んでいる。

【事例2】環境保全型農業のスマート化に成功
「コウノトリ育む農法」(兵庫県豊岡市)

餌となる水生生物が農薬によって姿を消したことが大きな要因となり、1971年に日本のコウノトリは絶滅したと言われている。最後の1羽が目撃されたのが豊岡市だったことから、豊岡市では1985年にロシアからひな鳥6羽を譲り受け、現在までコウノトリ復活の取り組みを実施している。その取り組みの一つが「コウノトリ育む農法」だ。無農薬・減農薬を推進し、コウノトリの餌となる水生生物の繁殖に力を入れている。

無農薬・減農薬では除草剤が使えないため、雑草が生えないよう深水栽培法※(5~8cm)でコントロールしている。しかし、水の深さを人の手で細やかに管理するにはかなりの労力を要するのが課題。

そこで、水田センサーで水位、水温、地温を1時間に1回、クラウドにデータを送信し利用者(農業生産者)にてスマホ等で確認できるようにした。また、水位が閾値を逸脱した際にはアラートを通知するなど、水管理を効率的に行うことができる。コードレス、安価な料金設定など、利用者が使いやすいシステムであることもポイントだ。

豊岡市の取り組みにより、今では豊岡市のコウノトリは179羽となり、コウノトリと共存する田んぼで育つ米を「コウノトリ育むお米」として販売。地域の特産品のブランディングにもつながった。

  • ※ 深水栽培法:水田の水管理の途中で、通常より深い水深とする栽培法。 寒冷地での障害型冷害対策として注目されるほか、増収目的の生育制御技術、有機栽培での雑草防除技術として、篤農家の間で普及し始めている。

【事例3】地域の移動ニーズに応える新サービスを開発中
シェアBIKE

二酸化炭素排出抑制による地球温暖化の防止、ドライバー不足の解消などに貢献するサービスとして、シェアード・ビークルが浸透しつつある。一人ひとりが車やバイクを所有するのではなく、1台の乗り物を大勢の人で共有する。実際、先進的な自治体では、シェアード・ビークルを街中で見かける機会も増えた。

こうした流れを受け、中国製の電動バイクを使ったシェアリングサービスを展開したいと、あるスタートアップからKDDIに打診があった。KDDIが持つ通信インフラ網はもちろん、クラウド、データ解析、ソフトフェアなどをトータルに活用して強固なシステムを構築し、利用者にとって安全・快適なサービスを実現したいとのことだった。地方創生事業におけるKDDIの実績を評価しての依頼でもあったという。

サービスの本格スタートに向け、現在まさに開発が進められている。運転免許証のチェックや利用時に使うスマートフォンアプリの開発は最終段階。ある地域で実証試験も進んでおり、2020年度中のリリースを目指す。

このシェアBIKEは「レンタサイクル以上、バス・タクシー未満」の位置づけ。時速30kmとスピードが緩やかなので、観光しながらの移動に適しているのも魅力だ。街中でのちょっとした移動や、工場など広大な敷地内移動での需要も見込む。

一般的なスクーターの重量が70~90kgであるのに対し、この電動バイクは25kgと軽量で折り畳むこともできるため、省スペースで多くの台数を設置できるのも特徴だ。金額もスクーターと比べて安価であり、電動のため二酸化炭素の排出はゼロでエンジン音も静か。幅広い自治体での需要が期待される。

【事例4】国・自治体・企業の自然災害対策に貢献
イリジウム衛星携帯電話

近い将来に高い確率で起こると言われる巨大地震だけでなく、竜巻や台風による洪水や、強風による被害など、自然災害が頻繁に発生している。これらの災害によって、仮に通信会社の基地局がダメージを受ければ、そのエリアでのスマートフォンをはじめとしたモバイルデバイスは使えなくなる。そのような緊急時に使えるサービスも、KDDIは提供する。地上780kmの位置を周回する66機のイリジウム衛星を使った携帯電話だ。

1.6GHz帯域を使用しているため、一般的な携帯電話に比べ、雲、霧、雨、雪、風といった自然の影響を受けにくい。一般的な人工衛星よりも軌道の高度が低いため、通話のタイムログが短く、スムーズな会話を実現できる。防水・防塵も含めた耐久性を備えながらも、重量250グラム前後とコンパクトな設計となっている。

用途により2タイプを用意しており、イリジウム端末から一般の携帯電話にもつながるモデルと、イリジウム端末のみの通信に特化したモデル(イリジウムPTT)がある。後者は、一般の携帯電話への通信機能を排除したことで、1台の端末から最大100台に一斉通信(片側交互)が可能になる。地上の基地局を経由することなく、イリジウム衛星からのダイレクト通信のため、通信精度も向上している。

2005年6月にサービスをスタートし、これまでに国、自治体、一般企業などに数万台を提供してきた。近年では企業のBCP(事業継続計画)対策としても利用されている。

地方創生事業が、KDDIの提供価値を再認識する機会に

今回紹介したソリューションは、一朝一夕で実現できたわけではない。冒頭説明したとおり、KDDIの担当者が、自治体や現地の事業者と何度もやり取りし、実証試験を繰り返した上で、ようやく形になったものばかりだ。

KDDIでは「地方創生支援室」を設け、こうした事業を行っている。KDDIが保有する巨大通信インフラや、先進的なデジタルテクノロジーを活用するとは言え、同部門の業務は実に“地味でハード”だ。海や山での調査も多く、ときには田んぼに入ったり、メンバーの中には狩猟免許を取得した者もいる。しかし、本事業に携わりたいとの社内の声は多く、部門が新設されたときにはたくさんの配属希望があった。メンバーの一人は、業務に対する意気込みを、次のように話す。

「オフィスで働いているときは、仕事の一部しか見えていませんでした。ところが地方に行き、現地の方々とやり取りしていると、KDDIの技術やソリューションがいかに社会の役に立っているかを肌で感じるようになり、仕事に対するモチベーションが上がりました。大切なことは、技術を使って何を実現するのか。事業に携わる人の熱意が最も重要であることを再認識しました」

これからもKDDIは、お客さまのビジネスに全力で貢献する姿勢を第一に、堅牢な通信インフラや、先進的なデジタル技術・ソリューションを用いながら、地方の課題解決や新規事業創出に並走していく考えだ。