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地域に根ざす新しい力で持続可能な循環経済をつくる
SDGs × 地方創生 特別対談

地域に根ざす新しい力で持続可能な循環経済をつくる

重要な社会インフラである「通信」を提供するKDDIは、社会貢献活動の一環としてSDGsの達成に向けた取り組みを推進している。中でも力を入れているのが「地方創生」だ。地域産業の事業再生を数多く手掛ける経営共創基盤(IGPI)とともに、「地域」が主役となる持続可能なビジネスモデルの構築を支援する。両社が考える地方創生のあり方と具体的な支援策について、IGPI代表取締役の村岡 隆史氏とKDDI理事の松野 茂樹に話を聞いた(本文中敬称略)。

SDGsの取り組みは社会的使命 通信の強みを生かし、社会に貢献する

――KDDIは2019年5月に中期経営計画で「SDGsを経営に反映させる」ことを宣言しました。その背景や意図をお聞かせください。

松野 KDDIは、公共の電波をお借りして社会インフラを担う通信事業者であり、事業を通じて安定した通信サービスを提供するだけではなく社会課題解決に貢献することは社会的使命です。SDGsに対する社会的な関心も高まっており、自社の事業とSDGsを照らし合わせ、より明確に社会貢献していく姿勢を示したいと考えました。

SDGsの課題は多岐にわたりますが、通信事業者として、より大きな貢献ができると考えたのが「地方創生」です。

通信は物理的な距離を超え、離れた人同士があたかも近くにいるようにコミュニケーションすることが可能です。このメリットを生かせば、地域の不利な部分を補い、さまざまな課題の解決に役立つと考えています。

KDDI株式会社 理事 経営戦略本部 副本部長 松野 茂樹
KDDI株式会社
理事
経営戦略本部 副本部長

松野 茂樹

――IGPI様も事業再生や構造改革を支援し、関連企業を通じて地方創生事業を数多く手がけていますね。

株式会社 経営共創基盤(IGPI) 代表取締役 マネージング ディレクター 村岡 隆史氏
株式会社 経営共創基盤(IGPI)
代表取締役
マネージング ディレクター

村岡 隆史氏

村岡 そうですね。例えば、和歌山県紀南地域の空の玄関口である南紀白浜空港の運営受託プロジェクトはその1つです。日本の地方空港の多くは実質的に赤字経営ですが、空港内のオペレーションを改善するだけでは、赤字体質から脱却できません。「地域への来訪者数を増やす」という本質的な課題にアプローチすることが必要です。これを成し遂げるために、地域社会と一体となり、地域の魅力を対外的に発信し続けています。その成果もあって、エリアへの来訪者が増え、空港利用者も増加させることができています。

また、北関東と東北地方では、IGPIグループのみちのりホールディングス(HD)を中心に、バスを中心とした交通・観光事業会社の再生・経営改善を行っています。例えば、ICカードやバスロケといった戦略的な設備投資を積極的に行うことで地域のニーズを可視化し、路線の見直しや停留所の変更など、利便性向上を図っています。なお、自治体の政策とも連携した高齢者福祉パスは、高齢者の外出機会を創造するきっかけとなり、コミュニティの活性化・医療費削減にも寄与しています。交通事業の領域においても技術革新が著しいため、ダイナミックルーティング・MaaS等にも積極的に取り組んでいます。

――IGPI様も事業再生や構造改革を支援し、関連企業を通じて地方創生事業を数多く手がけていますね。

村岡 過疎化やインフラの老朽化が進む地方は、多くの深刻な課題を抱えています。一方で、課題は地域によってさまざまですので、その地域に深くコミットしなければ、本質的な課題は見えませんし、効果的な対策も打てません。そのため、地域創生事業を担うIGPIのメンバーは、実際にその地に根を張り、地域の方々と一緒になって「ワンチーム」で課題解決、事業構造改革や新規事業立ち上げに取り組んでいます。

決して簡単なことではありませんが、課題があるところ、誰もやらないところにビジネスチャンスがあると考えています。先のみちのりHDは東京の大企業以上のペースで、毎年待遇も改善しています。地域に深くコミットすれば、地域で収益を上げ、それをまた地域に再投資する地域主導の経済圏を構築できる。これまでの経験から、そのことを確信しています。

地方創生の鍵は、その「地域」にある地域主導で
社会課題を解決する仕組みを構築

――IGPI様とKDDIは、2019年6月20日に地方創生を支援する包括的パートナーシップを構築しましたね。

松野 両社が有するアセットを組み合わせ、地域課題解決をサステナブルに実行していくモデル・プラットフォームを構築し、地域社会や産業の高度化による持続的発展の実現に取り組んでいきます。例えば、先のみちのりHDとは、過疎化や高齢化が進む地域の生活を支える交通の問題解決に向け、公共交通の自動運転の実証実験に取り組んでいます。

村岡 KDDIとは、当社の会社設立時に株主の1社として出資を受けて以来のお付き合いです。その後、KDDIのM&A戦略やベンチャー支援の仕組みづくりなどのお手伝いをさせていただきました。

そうした中で、私が注目し期待しているのがKDDIのベンチャーを積極的に支援する企業文化です。イノベーティブ企業ランキング第1位に2年連続で輝いた※ことも、こうした文化があるからでしょう。今回の包括的パートナーシップでも、KDDIのベンチャー支援の企業文化やノウハウ、最新のデジタルテクノロジーやICTソリューションが大きな力になると期待しています。

  • ※「イノベーティブ大企業ランキング2018・2019」 イノベーションリーダーズサミット運営事務局/経済産業省

――なぜ、ベンチャー支援の経験が地方創生に役立つのでしょうか。

村岡 地方創生事業の取り組みは収益化に時間が掛かります。ベンチャー支援と同様に地方創生事業に時間を掛けて取り組む経営としてのコミットメントと、協働型で中長期事業を支える企業文化が必要です。また、幾つかの事業が立ち上がっても収益は東京に流れてしまうということでは、一過性の取り組みで終わってしまいます。取り組みを地域に定着させるには、地方に根ざした企業によって自立・循環型の経済圏を作る必要があるからです。

従来「ベンチャー支援は大企業にとって儲からない」ともいわれてきましたが、KDDIは、∞ Laboを立ち上げ、そこから多くのベンチャーが成功の名乗りを上げるようになった。ベンチャーが事業を軌道に乗せ、きちんと収益を上げるためのエコシステムを創り上げたわけです。そのスキームやノウハウが、自立・循環型の経済圏づくり、ひいては、地方創生の大きな推進力になるはずです。

松野 ベンチャー支援で大切なことは、「ベンチャーファースト」を徹底する、つまりはベンチャーが持続的な成長を手に入れるための基盤をつくることです。大企業とベンチャー企業が組む時に、陥りやすい穴があります。大企業が成果を持ち帰りたいがために、ベンチャー企業に対して自分たちが欲しい成果への貢献を要求してしまうことです。ベンチャー企業はそこにエネルギーを注ぎ込むわけですが、リソースが限られているので、結果としてベンチャー企業が成長するためにリソースを使うことができなくなる。

私たちは、そうしたやり方を厳に戒めています。まずベンチャー企業の成長をKDDIが支え、そこから生まれたビジネスをKDDIがどう事業に活かしていくかを考える。その順番が重要です。

今でこそKDDIは大きな企業になりましたが、その前身であるDDI、IDO、KDDは、合併前は規模も大きくなく、いわばベンチャー的な企業でした。それらのベンチャー気質が企業文化の中に根付いているのでしょう。チャレンジが好きで、スピード感をもってビジネスを動かせる。これは地方創生の取り組みで大きな強みになると自負しています。

5Gを有効活用して牽引役となる「人づくり」を支援

――具体的な支援策についてお聞かせください。

村岡 課題解決につながるICTソリューションを提供するだけでは、地方創生はうまくいきません。それを受け入れる側の、体制や意識・組織文化も重要です。

KDDIが取り組む地方創生支援策。 その地域でサステナブルなビジネスモデルを構築し、 地域社会や産業の高度化による 持続的発展の実現を目指す。
KDDIが取り組む地方創生支援策。
その地域でサステナブルなビジネスモデルを構築し、
地域社会や産業の高度化による
持続的発展の実現を目指す。

松野 KDDIは大きく分けて3つの取り組みをもって地方創生を推進していきます(図版)。

1つ目は、地元企業・ベンチャー企業への出資です。2019年4月に地方創生を推進する地元企業やベンチャー企業の育成を目的とした「KDDI Regional Initiatives Fund」を立ち上げました。

2つ目は、地域の教育機関や企業と連携した地域人財の育成です。例えば、KDDIは東北地方で、地方発の事業創出やスタートアップ企業の育成を行う地元企業「MAKOTO」とパートナーを組み、起業家育成教育プログラムの設計・展開を始めています。また岩手県立大学や長野県立大学、福井高専と包括協定を締結し、これらの教育機関と最新の技術やビジネスノウハウを持った人財を育成するプログラムを展開する予定です。

今後も他の教育機関と同様の取り組みを行っていくことを検討しております。また今後は、5Gを活用した高精細ライブ配信映像による遠隔教育にも取り組んでいきたいと思っております。そのため2019年9月には、オンライン学習動画の制作・配信を行っているベンチャー企業Schoo(スクー) へ出資しました。

3つ目は、これから取り組んでいきたいのですが、ICTリテラシーを持った人財が不足している地域にKDDIから社員を派遣したり、遠隔でサポートすることによって、地域の人財育成やDX推進を支援することも検討しています。

――人、企業を育てることから、地方創生が始まるのですね。最後に今後の展望をお聞かせください。

松野 現在、KDDIの地方創生推進部署のメンバーは、50代の社員が活躍しています。現在、7人の50代社員がいるのですが、彼らは自分たちのことを「七人の侍」と言って、非常に意欲的です。50代になって社会的意義のある仕事をしたいという思いも強くあるそうです。この世代が子どものころは、どの地域の町も元気で賑わっていた。それが今やどこもシャッター街になってしまっている。それを寂しいと感じ、なんとかしたいと考えて、集まったメンバーです。KDDIに長く在籍しICTスキルも高いので、今後社内でこういった人財を地方創生に投入していくことを進めていきたいと考えております。

村岡 素晴らしいですね。新しいことへのチャレンジは若い人だけの特権ではありませんから。シニア層に活躍の場があることは、地方創生の持つもう1つの魅力ですね。KDDIの“侍たち”とともに、私たちもチャレンジを加速していきます。


KDDIの地方創生活動のプロジェクト「Te to Te」(てとて)。
さまざまなパートナーと“手と手を取り合って共に進む”ように、地域の挑戦をICTで支え、共に“地域の明日”を創っていきたいと考えております。

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