必要なのは「仕事の垣根」を超えるためのエコシステム 5G/IoTの共創で“製造業のビジネスモデル”に革命を (後篇)

2020年3月、IoTのグローバル展開を支援する「グローバルIoTパッケージ」のサービス提供が開始された。KDDI、東芝グループ、ソラコムという異領域連合による共創で誕生した同サービスは、製造業のビジネスのあり方そのものに変革をもたらすものとして注目されている。そこで、「いったい今、ビジネスの最前線で何が起こり、どんな変革に向かって動き出さなければいけないのか」について、3社のキーパーソンに語り合ってもらった。前篇、後篇と分けて掲載する。(本稿は後篇)

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製造業固有のネットワークの課題。それを乗り超える上でも、5Gが突破口になる

藤井:DE (デジタルエボリューション)という発想にはとても共感します。そもそも私がKDDIに参画しようと思ったのも、通信が何かと何かをつなぐことで価値創出の範囲をエボリューションするものだと感じたからなんです。歴史をふり返ってみても、国際電話の回線がつながったことで貿易というビジネスの可能性は格段に広がりましたし、インターネット回線が普及したことで小売業の世界にECという新しい可能性が生まれて膨らみました。だから今回、IoTによって世界中の製造業をつなぐことができたなら、間違いなくまた新しい可能性が見えてくるでしょう。もちろん、通信キャリアとして5GやLPWA(Low Power, Wide Area)等が持つ可能性もこの取り組みにどんどん取り込んでいきたいのですが、こうした技術の優位性は、それを最大限に活かせるサービスがあって初めて生きてくるのだと捉えています。

島田氏:同感です。しかし、とりわけネットワーク環境について、製造現場には特殊な事情がありますから、われわれだけでなくKDDIさんやソラコムさんの力がなければ超えていけない壁があるんです。BtoCの事業やオフィス環境の世界では、キャリアが用意してくれたネットワーク網が行き渡っているので、その利便性を湯水のように活用できるのですが、例えば工場内は専用線ですし、公共の交通機関などには一般回線のようなものは一切使われていません。要は分断されているのですが、そういう事情はあまり知られていませんね。IT界隈の人たちは「データ活用がしたいのならば、Javaで簡単に取れるでしょう」と言うけれども、「できません。そんな風にはなっておりません」ということになる(苦笑)。

片山氏:そうなんですよね、アプリケーション1つでなんとかなると思われているけれども、そうはいかない事情が重くのしかかかっています。

島田氏:「JSON(JavaScript Object Notation)でデータをやりとりすればいいじゃないか」というけれども、そうはいきません。それが可能になれば、ずっとリーズナブルな価格でネットワークを駆使したり、クラウド上でさまざまな事ができるようになったりするのですが、「クリティカルです」「セキュリティです」「セーフティです」という別次元の壁が立ち塞がっているのです。これはとても大事なことです。工場では何かが起こると作業員の生死がかかってきますから、専用線でセキュリティを確保しなければなりません。ただ、その重要性も担保しながらなんとか乗り越えていきたい、そうすれば旧態依然のクリティカルな世界が大幅に変わっていきます。そういう意味で5Gは1つの大きなきっかけになってくれる可能性があると考えています。

片山氏:データが同じインフラ上あり、かつ高速で大容量の回線が使えることでデータの重さに引きずられずに処理を行うことができるのがクラウドの利点です。大容量で通信できる5Gが普及すると、より多くのデータをクラウドに集められることはもちろんですが、例えば逆に、工場に置いてあるデータにもクラウドからアクセスがしやすくなります。島田さんがおっしゃる通り「壁を超える」上でよいインパクトになりますね。。

島田氏:今の工場にある回線はウェブのようにURLで簡単につながるように設計されていません。そうすると複数の部署からデータにアクセスしようとしてもそもそもできない状態にあるんです。データはいくらでもあるのに、アクセスできないというジレンマがあります。

藤井:鉄道網や電力網、インターネットや電話の通信網もそうなんですが、ピアtoピアで数箇所がつながっているだけでは大きなインパクトを生まないけれども、それがネットワークになると「できること」が格段に違ってきます。鉄道が網の目状のネットワークを成していったことで、旅行業や不動産業が発展したし、電力網が発展したことで家電産業が育っていきました。ですから、IoTであらゆるモノがデータを取得し、それがネットワーク上で縦横につながるようになれば、全く新しいビジネスが生まれやすくなります。

島田氏:大事なのは値段で、もっと下がらないといけないと思います。MQTT*という通信プロトコルなども元はといえばそのためのものでもあったのですが、さらにそれを超えて安くなるといいな、と願っています。

藤井:通信事業者の立場で言えば、基地局の設置などにとてつもない投資をすることになります。5Gにしても同じことです。でも、もしも製造業が例えばサービス化の方向で変革を遂げていくのであれば、こういった投資コストも超えていける。だからこそ「一緒にやらないと駄目だな」と思っています。

島田氏:本当にその通りですね。4Gの導入が始まった時にしても、フィーチャーフォンを使い続ける前提だったなら、大して意味がなかったですよね。

グローバルIoTパッケージの概要。データの収集・蓄積から見える化、API連携までカバーし、
顧客のグローバルIoT展開を支援する (前篇記事の再掲出)

片山氏:確かにフィーチャーフォンはテキストベースでのデータのやり取りですから、回線スピードや容量が上がってもさして意味はないですね(笑)。

島田氏:0.01秒だったものが0.001秒でつながったからといって何の価値になる、という話ですよね(笑)。でも、スマートフォンが出てきて事態は変わり、あのスピードと容量を活用したサービスが次々に4Gに乗って世の中も変わりました。同じように、5Gにしてもアプリケーションが必要なんです。5Gの低遅延性を活かすクリティカルインフラにおけるアプリケーションが。

藤井:だからこそ、通信業と製造業が一緒に対等な立場で創り出すのが必要だと確信しているんです。ただし、この2者だけでは不完全で、ソラコムさんという存在がどうしても必要でした。AWSにせよGoogleにせよ、最初から成功したサービスなんて1つもないわけで、サービスを提供し続け、データを取りながら、改善のサイクルをソフトウェアの文化を使ってスピードアップしていくことで、彼らは成功の糸口を掴んだといわれています。ソラコムにある技術力はもちろんのこと、西海岸のソフトウェア企業と同等のスピードが今回の連携でも鍵を握っていたと思っています。

*MQTT:Message Queue Telemetry Transportの略で、publish/subscribeモデルという仕組みに基づいてつくられた軽量なメッセージプロトコル。ネットワークが不安定な場所や、性能が低いデバイスでも動くように軽量化されているのが特徴で、TCP/IP ネットワークをベースに作られている。

異領域連携のワンチームでエコシステムを創り、イノベーションを実現する

片山氏:ソラコムの企業規模は小さいのですが、ソフトウェアの領域は労働生産性が高いので、例えばプロトタイプを作る場面でも、通信環境とクラウド、それにそのビジネスを責任持って進めてくださる方々が数人いればどんどん進めていけます。ですから、われわれの企業規模でも十分貢献していけると思っています。

藤井:純然たる製造業と一緒にIoTのプロジェクトを進める時などに、異領域ゆえのやりづらさを感じることはないんでしょうか?

片山氏:ないですね。もちろん使う言語も違うし、現場にうかがっても例えば工場の制御装置であるPLCですとか、わからないことだらけなのですが、話をしていくうちに例えば「PLCからこのデータをクラウドに上げられます」なんてことを伝えると、むしろ驚かれたりするんです。そういうきっかけから話がしやすくなって「これが取れるなら、これも取りたい」とか「それって集計できるの?」と話がどんどん進んで膨らんでいきます。むしろ相性がよいともいえますね。「こういうことが昔からやりたかったんだよ」という方が実はたくさんいるのが製造業だと思っています。

藤井:そういう風にビジネスドメインの違う人たちが、互いにリスペクトしながら1つのチームにまとまった時に、新しいものって生まれるんですよね。今までは製造業の生産ラインとソフトウェアのインテグレーションとがバラバラだった気がするんです。それがネットワークを通じて1つのパッケージになれば、イノベーションの可能性はグッと上がっていくでしょう。

島田氏:おそらく標準化とアーキテクチャの再定義が起こるでしょうし、グローバルで違いを出していくためにはそうならなければいけません。各国による通信環境の違いであるとか、技術的な制約を超えていくためにも、製造業だけでもがくのではなく、異種格闘技を一緒になって戦う必要があります。

片山氏:例えば当社がローミング技術やAPIを提供することで、海外の通信を使う際の各国の違いをうまく吸収できれば、そのネットワーク上でグローバルなビジネスを行うことが容易になりますよね。今回の「グローバルIoTパッケージ」でも、3社がお互いのよいところを出しあってコラボレーションを進めていくことで、利用してくださる企業には確実にビジネスチャンスを模索してもらえるはずです。

藤井:さまざまな課題があることは今日の話し合いでも見えてきましたが、「まずやってみる」というスタンスで始めてくれたらいいのではないかと感じました。会議を何度も繰り返して、叩きに叩いた机上のプランを仕上げてみても「それがうまくいくのかどうか。儲かるのかどうか」なんて誰にも分からない、そういう時代です。小さく始める形で構わないから「まずやってみる」。そういうきっかけになったら、日本のDXも大いに前進するし、製造業のビジネスモデルの転換にもつながるはずだと考えています。

島田氏:今日お話できたのはほんの一端でしかなく、本当に数多くの新しいチャレンジを東芝グループでは進めているのですが、そのたびに「これで日本は世界で勝てますか?」という質問を受けます。一概には答えにくい質問ですが(笑)、あえて言わせてもらえば「勝てます」。今回の「グローバルIoTパッケージ」で実現したように異領域同士がしっかり連携してワンチームでサービスをスタートし、そういう動きがエコシステムの創出につながり、その輪に異領域も同業他社も加わっていったなら、必ず日本は輝きを取り戻せる。私はそう信じています。

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