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KDDI∞LABO 共創活動の要点
5Gで変わるリアルビジネス

KDDI∞LABO 共創活動の要点

大企業とスタートアップ企業間の協業による価値創造を指す「オープンイノベーション」「パートナーシップ(共創)」が、至るところで語られている。その先駆けとなったのが「KDDI ∞ Labo」である。ラボ長を務める中馬和彦氏に、5G時代における共創活動の要点を聞いた。

「大企業連合」がスタートアップを支援する

――「KDDI ∞ Labo」(以下∞Labo)の設立が2011年6月。今年で10年目に突入しますが、この10年を振り返ってみて、オープンイノベーションの環境はどのように変わったと思いますか。

KDDI株式会社 経営戦略本部 ビジネスインキュベーション推進部長 中馬 和彦
KDDI株式会社 経営戦略本部
ビジネスインキュベーション推進部長

中馬 和彦

そもそも∞Laboが始まったときにオープンイノベーションなんて言葉はありませんでした。当時はスマホ上のエコシステムでアプリやゲームなどが加速度的に大きくなっている時代。主役は間違いなくスタートアップでした。ならばアイデアの種からサポートして、これから出てくる人たちも含めて広く発掘しよう――そんな思いで始めたのが∞Laboなんです。

でもそれから3~4年が経つと、スマホが普及してアプリブームが一段落しました。その後に出てきたスタートアップがEC、ヘルスケア、教育といった生活に直接関わるサービスです。単なるコンテンツではない、ネットにアドオンすることでリアルライフをより便利に、より豊かにするソリューションですね。我々も必然的にアプリではなく、サービスを応援するスタイルへと徐々に変わってきました。それが2014年頃の話です。

ここを節目としてサービスになってくると複合的な要素が出てきて、我々だけではスタートアップに対してすべてを支援することが難しくなってきました。アセットを提供するにしてもネットの中は強いのですが、物流や店舗となるとなかなかサポートできなかった。その解決策として2014年に始めたのが「パートナー連合」。大企業が∞Laboのパートナーとなり、スタートアップとの事業共創を推進するプログラムです。おかげさまで、いまでは参加企業が46社にまで拡大しました。動きが早かったのはコンテンツや広告系です。例えばテレビ局はテレビ朝日、テレビ東京、フジテレビが参加していますし、電通も初期からの参加組で、投資も積極的に行っています。

ただ面白いことにパートナーの顔ぶれも時代の移り変わりに合わせて変わってきています。スタートアップがアプリからサービス、リアルテックへと変化するにつれ、リアルアセットを持っている鉄道、小売、金融、不動産、インフラ、建設、メーカーなどが参加するようになってきました。ですから、本当の意味でのオープンイノベーションを意識するようになったのは、ここ数年ですね。

――大企業のパートナーは、∞Laboで何を学びたいと思ってやって来るのでしょうか。

一般的な流れを説明しましょう。大方の場合、まずは社長室や経営企画室に2~3名の新規事業部やイノベーション推進部が立ち上がって、とりあえず「新規事業を探せ」と言われるわけです。右も左もわからないから、いろんな知り合いに声を掛けツテを辿ることになる。

でも∞Laboならば似たような境遇の人たちが最初からたくさん集まっているので、それなら、ここで一緒にやったほうがいいね、となります。

おそらく皆さん、社内的には孤独なのだと思います。特に立ち上げたばかりの頃は、多少の予算がついたとしても思ったように協力は得られません。何しろ宿題が「オープンイノベーションをやれ!」「ベンチャーと一緒に何かをやれ!」ですからね(笑)。ですが∞Laboに来ればスタートアップに会える。加えて、同じような背景を持つ大企業の新規事業担当者がいるので、それぞれの悩みを共有できます。つまりスタートアップとのつながりを作るのはもちろんのこと、大企業同士の横のつながり、ネットワーキングにも効果的なのです。

∞Laboで「なぜあなたの会社はあのスタートアップに興味を持つのですか?」と聞けば、「これこれこういう理由で自分たちが新しいことを始めようと思っているからです」と答えてくれる。そこで生きたヒントがもらえる。他社が取り組んでいる理由って、実は宝の山ですから。

「社内の競合を気にするな」

――なるほど。大企業に対していつもアドバイスすることは何でしょうか?

共通して申し上げるのは“社内での競合・重複”を気にしないほうがいいのでは、ということ。日本の大企業は子会社も含めると非常に幅広いポートフォリオがあって、何かしら競合するのが普通なんです。すでに誰かがどこかで似たようなことをやっています。すると「これはもうやってるから、勝手にやられたら困る」と言われてしまう。仮に競合していない場合でも「いまは忙しいから」と塩漬けにされる。超えるべき壁が多いのが現状です。

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しかし、競合しても前進する覚悟を持って進めないと結局は社内で潰されてしまいます。いかに潰されないように、それぞれの企業のやり方で掘り進められるかが鍵となります。社長の特命がある、自己完結できるように予算と人を獲得してチームを強化する、ある程度の権限を移譲してもらうなど、いくつかやり方はあるでしょう。

――パートナーの大企業に対してもオープンな姿勢を貫いているところがユニークだと思います。

KDDIはもともとアライアンス志向なんです。cdmaOneの時代からいろんな企業とパートナーシップを結び、共創していかないとエコシステムが広がらないことを実感してきましたから。cdmaOneを日本で広めるために自らの門戸を開放して、面白いことをやれる人たちであれば、たった1人の企業でも積極的にアセットを提供してきました。この姿勢が根本にあるのは大きいと思います。

投資にもその姿勢は現れています。象徴的なのは、同業のかぶりを禁じていない点です。KDDIが投資したら、NTTドコモとソフトバンクは駄目というのが常識ですが、そうした縛りは一切しません。制限を受けてしまうと、スタートアップの成長が阻害されてしまいます。ですから、我々を優先してもらいつつも、他キャリアと付き合うことを制限することはないのです。

――いよいよ5Gの商用サービスが開始され、これまでとは違った景色が見えてくるはずです。5G時代にオープンイノベーション活動はどのように進化していくのでしょうか。

いままでのネットの世界では、eコマース、eブックといったように現実世界のものがネット上で再定義されてアドオン機能のように提供されてきました。これは、ある一定のモデルが存在する中でのバーチャルな世界観です。Google、Facebook、Amazonなどのネット企業が牽引してきたことがそれを証明しています。

ただ、5Gが始まるとネットがリアルの隅々に入ってくるようになる。スマホかPCかというレベルではなく、ビル、列車、耕運機、海の生け簀など、ありとあらゆるモノや場所に通信環境が組み込まれてきます。そしてネットのテクノロジーで、さまざまな産業がアップデートされていく。もしかしたら産業の境界線すらも変わるかもしれません。それほどまでに大きな変革になると考えています。

ビルや列車そのものにイノベーションが起き、それらがつながればスマートシティになりますが、いまの社会にはスマートシティ業界はありません。要するにスマート〇〇業界は、単独業界の集まりでは成立しないんです。自動運転にしたって、自動車メーカーだけでは実現できませんよね。通信、信号のシステム、街なかのサイネージ……複数が相互乗り入れして、新しい産業が形成される。これこそ、5G時代のオープンイノベーションです。

Business.

5G時代に、ネットとリアルは高度に融合する

――5G時代にはすべての産業が融合するわけですね。

その通りです。そんな5G時代の産業のあり方を提示するのが、「∞の翼」です。これは複数の大企業や団体がコンソーシアムを組んで、自分たちが新しくやっていきたいことのアイデアをスタートアップに投げかけ、その中から優れたプランを採択して新規事業やモデルを作っていく試みです。
(https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2020/03/24/4340.html)

「5G×商業施設」「5G×遊園地」「5G×スタジアム」といったネット×リアルがテーマ。ただのアイデアコンテストではなく、すべて予算化されているプロジェクトなのが特徴です。大企業側には、プロジェクトを遂行するためにスタートアップに惜しみなくアセットを提供することをコミットした上で応募してもらっています。

いままではスタートアップにプレゼンさせて審査でいいね、悪いねを判断するのが普通だったじゃないですか。今回のアプローチは真逆です。

5G時代にネットとリアルが高度に融合した新しい社会を作るとなれば、スタートアップファーストでは限界があります。優れたサービス、優れた技術があっても、社会に実装しなくては意味がありませんから。かと言って、デベロッパー単体でもスマートシティは作れない。なので左ウィングがスタートアップ、右ウィングが大企業のイメージです。

これからの大企業には、ぜひ持っているアセットをバラバラに分解することを意識してほしいですね。アセットを分解した後、スタートアップのアイデアやテクノロジーでパーツを再定義する。それによってイノベーションが生まれる土壌が完成します。だから私の役割は、大企業を疎結合することにあると考えています。

大企業は濃密に結合していて、何でもすぐに自分たちでやろうとしてきました。そこには隙間がなく、スタートアップが良質なアイデアを持っていても中に入ることができませんでした。PoC(概念実証)など最たるものです。時間と金の無駄に過ぎず、大企業はプレスリリースを出しておしまいだし、スタートアップは疲弊してしまうだけです。なので我々は、PoCを禁止にしています。

――確かに、社会実装が見えていないPoCは「スタートアップと一緒に何かをやっている」とのポーズになりがちです。

そうなんです。だから私はいま、あえてスタートアップ以外とのお付き合いを増やしています。ローソンとの資本業務提携(2019年12月発表)は、もともと私が三菱商事と話をしていたもの。それから渋谷区との「エンタメ×5G」、名古屋グランパスエイトとの戦略的パートナーシップも窓口を担当しています。それもこれも、サービスを実社会に組み込めるパートナー、実装できる場所が先に必要だと考えたからです。

環境を整備しておけば、例えばモバイルオーダーをやりたいスタートアップが出てきたときに、スタジアムを実証の場として提供できるようになる。5Gの活用によって、ガラガラポンで産業の新陳代謝が起きようとしている中、スタートアップをもう一段高いステージに持っていくためには、大企業が徹底的にアセットを提供する、大企業×スタートアップの掛け合わせが必須なのです。

テレビ局や印刷、生命保険のように、同業種で複数社が参加しているのも∞Laboの強みです。通常、こうしたコンソーシアムは利害調整が面倒なので1業種1社です。でも繰り返しになりますが、我々はカニバリ大いに結構というスタンスでやっています。スタートアップからすれば、1社しかいないとプレイヤーありきで進めざるを得ず、視野が狭まってしまいます。それに企業との相性もある。誰とやるかではなく、やりたいことを優先して共創する。それが基本姿勢です。

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