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ベンチャー投資プログラム“B2B SaaS Fund Program”で加速する、KDDIのDX支援

ベンチャー投資プログラム“B2B SaaS Fund Program”で加速する、KDDIのDX支援

KDDIは4月、クラウド市場およびSaaS領域の成長を見据えて、有望なベンチャー企業へ投資する“KDDI Open Innovation Fund 3号”の投資プログラムに“B2B SaaS Fund Program”を追加。発表と同時にクラウドRPAを展開するBizteX社に出資を開始し、10月には営業向けクラウドIP電話サービスを提供するRevComm社への出資が発表された。今、B2B SaaSベンチャーに対して積極的な投資と事業支援を行う狙いとは。

  • (記事中の部署名と役職名は2020年10月時点のものです)

総額300億円の投資で、イノベーション創出のエコシステムを構築する

2012年に設立されたKDDI Open Innovation Fund(KOIF)。KDDIと独立系ベンチャーキャピタルのグローバル・ブレイン社による運営体制で、国内外の有望な企業に投資を行うコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)だ。投資だけにとどまらず、KDDIのアセットとのシナジーによる事業創出を目指している。

KDDI ∞ Labo(※)の開始から約半年遅れて設立されたKOIF。「当時はガラケーからスマートフォンの時代へと移行したタイミング。KDDIが直接ベンチャー企業への投資、支援を行うことで、新たな事業イノベーションを生みやすくなるエコシステムの構築を行いたい、という狙いがありました」と経営戦略本部 ビジネスインキュベーション推進部長の中馬 和彦は振り返る。大企業によるオープンイノベーションの一手段としてのCVCファンド設立は、他の国内企業に比べても先駆け的な動きであった。

  • ※KDDI ∞ Labo:新しいサービスを推進するスタートアップとともに、各業種において豊富なアセットやノウハウを有するパートナー連合と連携して、社会にインパクトのある新たな事業の共創を目指す事業共創プラットフォーム。

純投資ならびにCVC運営でベンチャー企業と大企業との提携支援を活動の主軸に置くグローバル・ブレイン社。KOIFを担当するInvestment Group General Partnerの熊倉 次郎氏は、「一般的には、自社の事業領域と重なる企業に投資することが多いCVCの形態で、あえて“飛び地”のような、自社とは共通点が少ない領域のベンチャー企業に積極的に投資しているのが特徴」と同ファンドについて語る。

その言葉通り、投資対象の領域は年々拡大している。2012年から運用するKOIF1号(運用総額50億円)では、国内外のIT系ベンチャー企業が中心だったが、2014年から運用するKOIF2号(運用総額50億円)、そして今回の投資プログラムが含まれるKOIF3号(2018年から運用開始、運用総額200億円)では、教育や物流、農業、宇宙などの領域も含む、ITに限らない幅広い領域を投資対象としている。

グローバル・ブレイン株式会社 Investment Group General Partner 熊倉 次郎氏
グローバル・ブレイン株式会社
Investment Group General Partner

熊倉 次郎氏

「IoT化が進む今、通信やITの“外”にある業界ほど、テクノロジーと掛け合わせることによる新たなビジネスモデル創出のチャンスを抱えている。ネットからリアルへ、アプリケーションからサービスへ、とトレンドが移行する中で、KDDIが関わることによって社会を変える力が倍増する企業の後押しをしていきたい」と中馬は話す。

“B2B SaaS Fund Program”スタートの背景はSaaS市場の急成長

KOIF3号では、AI、IoT、ビッグデータなど、5G時代にますます重要性が高まる分野に対して取り組みを強化する投資プログラムを設定し、有望なベンチャー企業の発掘活動に取り組んでいる。そして今回設定されたのが“B2B SaaS Fund Program”だ。

SaaSとはSoftware as a Serviceの略語で、インターネットを経由し必要な機能だけを利用する仕組みである。これまでパッケージソフトとして提供されていた機能をクラウド上で展開し、異なるデバイスでのソフトウェア使用や遠隔でのアクセス、複数人での同時作業などが可能となる。基幹系の情報システム(ERP)や会計ソフト、名刺管理など、さまざまな分野での利用が進んでいる。

「通信サービスとの親和性も高いクラウドに、KDDIは黎明期から着目し、サービス提供に携わってきました。初期の頃はセキュリティ面などの不安を払拭するのに苦労しましたが、昨今はDX推進の必要性が高まったこともあり、クラウドやSaaSは普及期に入ったと感じています」(吉川)

熊倉氏も「投資家目線で見ても、クラウドに特化したサービスを提供するベンチャー企業が徐々に増えており、上場した時の時価総額も非常に高くなっています」と語る。新型コロナウィルスの流行、リモートワークの普及は、この傾向をさらに後押ししていると言えるだろう。

KDDI株式会社 ソリューション事業企画本部 事業企画部 企画2グループリーダー 吉川 元規
KDDI株式会社
ソリューション事業企画本部 事業企画部
企画2グループリーダー

吉川 元規

投資の先に見据える、日本企業のDX加速

5Gの普及に伴いIoT化がより一層進むことで、顧客企業の実業が大きく変化しつつある。「顧客企業に新たな業務ツールを提供するのではなく、業務フローそのものを変えたり、顧客のビジネスの付加価値を高めたりするようなDXの推進に貢献したい。KDDIにとって“B2B SaaS Fund Program”の推進は、そんな野心的な試みと言えます」と中馬は話す。

KDDI株式会社 経営戦略本部  ビジネスインキュベーション推進部長 中馬 和彦
KDDI株式会社 経営戦略本部
ビジネスインキュベーション推進部長

中馬 和彦

「あらゆるビジネスの“本業”で構造転換が起こりうる時代ですが、本業をシフトしていくには、第一にリソースのシフトが必須となります。徹底的な効率化や無人化、自動化のための革新的なB2B SaaS型サービスによって、新たなリソースが生まれる。そのリソースが、いずれはさまざまなビジネスのダイナミックな構造改革へとつながっていくと思っています」(中馬)

本プログラムの投資第1社目となったのが、クラウドRPA“BizteX cobit(ビズテックス コビット)”を展開しているBizteX社だ。データ入力・収集などの定型業務を自動化するSaaS型RPAである。熊倉氏は「プログラミング不要で直感的に作業できるため、事業部門の担当者が導入しやすいのが特徴。広告や人事部門など多くの分野で1000社を超える導入実績があります。KDDIと提携することによるシナジー創出のほか、他のSaaS型サービスや基幹システムとの連携強化を通じても、さまざまな成長機会を有している企業」と高く評価する。

さらに、投資先2社目としてRevComm社が決定した。「新たなコミュニケーションの在り方を創造し、世界に変革をもたらす」をミッションに掲げているSaaS企業で、営業向けクラウドIP電話“MiiTel(ミーテル)”を展開する。具体的には人工知能を用いたデータ解析で電話営業や顧客対応を可視化、商談獲得率・成約率の向上を目指すサービスである。

「従来“内勤営業”などと呼ばれてきたインサイドセールスですが、クラウドを活用することによって、社内の固定電話ではなく個人の携帯などからもインサイドセールスのシステムにアクセスできるようになります。今後在宅営業のニーズも高まることが予想される中、KDDIで取り扱う他のSaaS型サービスなどと連携することで、さらなる価値を共創していける企業だと期待しています」(吉川)

KDDIとしては“B2B SaaS Fund Program”による企業支援により、KDDIの顧客企業がさまざまなSaaSを安心して活用できる環境を目指す。「自動化ツールや効率化ツールといったSaaSを用いて、企業がリソースを生み出す方法を取捨選択できることが、今後DXに本気で取り組むための前提条件になると思います」と中馬。

ファンドの運営を支える熊倉氏も「リモートワークが普及していく過程で“B(法人向け)”と“C(生活者向け)”の境目が曖昧になってきており、SaaS型サービスがビジネスや生活にもたらす新たな可能性が広がっているとも感じます。成長機会のあるベンチャー企業を発掘していく面からも貢献していきたい」と期待を込める。

顧客企業のワークスタイル変革やDX、そして事業拡大への間接的な支援を目指し、“B2B SaaS Fund Program”は今後も投資先企業の成長を後押ししていく。