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スマート農業で実現する、東松島市の震災復興と障がい者雇用
IoTが地域課題を“ダブル解決”

スマート農業で実現する、東松島市の震災復興と障がい者雇用

東日本大震災被災した震災跡地利活用と、障がい者雇用創出宮城県東松島市が抱えるこれらの課題に対し、市とKDDIエボルバ、そしてKDDIの三者タッグを組んで、解決に向けて尽力している。その一環で、農産物栽培拠点「幸 満つる 郷 KDDIエボルバ 野蒜」に導入しているのは、AIを用いた潅水施肥システムだ。取り組みに至った背景と、スマート農業の取り組みの現在見据える未来について聞いた。

  • 記事内部署名役職取材当時のものです。
  • ※ KDDIエボルバは、2023年9月1日にりらいあコミュニケーションズ株式会社経営統合し、「アルティウスリンク株式会社」を発足しました。
    なお、統合会社発足に伴い、「幸 満つる郷 KDDIエボルバ 野蒜」は、「幸満つる 野蒜農園」となりました。

 

津波による甚大な被害を受けた野蒜地域に、2017年に完成した農産物栽培拠点
「幸 満つる 郷 KDDIエボルバ 野蒜」


震災復興と雇用創出―地域の課題を解決する新事業の立ち上げ

こうした課題に対して、KDDIエボルバとKDDIがパートナーとなり、野蒜地域農地として活用すべく、ともに取り組んでくださっています。2017年に、津波被災地に「幸 満つる 郷 (さちみつるさと)  KDDIエボルバ 野蒜 (のびる)」(以下幸満つる郷) という農産物栽培拠点完成し、障がい者雇用にも貢献できる、被災地における農業事業を立ち上げてくださいました。

SDGs未来都市 (注選定されている東松島市は、誰もが安心して住み続けられるまちを目指しています。幸満つる郷は、その意味でもぴったりの場所だと、まずは皆さんに感謝しています。

東松島市 渥美 巖市長
東松島市

渥美 巖市長

渥美市長 東日本大震災で、東松島市甚大被害を受けました。中でも、震災前には県内有数観光地であり住宅地でもあった野蒜地域は、津波によって、住宅地としては活用できない土地になってしまいました。復興のために野蒜地域の新たな利活用を進める必要があり、そこには雇用問題など、複合的課題存在していました。

  • 注) SDGs未来都市内閣府選定する、SDGsの理念に沿った基本的総合的取り組みを推進しようとする都市地域の中から、特に経済社会環境三側面における新しい価値創出を通して持続可能開発実現するポテンシャルが高い都市地域
KDDI株式会社 ソリューション推進本部  DXソリューション部 1グループリーダー 福嶋 正義
KDDI株式会社 ソリューション推進本部
DXソリューション部 1グループリーダー

福嶋 正義

——幸満つる郷の開所に至った経緯はどのようなものでしたか。

福嶋 震災後、KDDIは被災地復興のために復興支援室を立ち上げ、被災地社員出向して「通信技術は、復興に向けてどのように力になれるのか」を模索していました。

2013年2月に私が東松島市出向し、現場の声を聞いていく中で、グループ企業であるKDDIエボルバが、障がい者雇用貢献できる新規事業を立ち上げようとしていることを知りました。宮城県には、働き先を探している障がい者の数が多いことも知り、被災地の新たな利活用検討している東松島市ニーズ合致するのではと思い、お引き合わせしました。

溝江氏 コールセンター本業のKDDIエボルバですが、スタッフ正社員化を推し進めてきたこともあって、障がい者の雇用数を増やす必要もあり、コールセンター業以外での障がい者雇用可能性を見つけようとしていました。そんな中、当時、障がい者の働き先と農業親和性が高いという農林水産省発表を目にし、農業事業着手することにしました。そうして、2017年の幸満つる郷の開所へとつながりました。

もともと野蒜高級住宅街だったのですが、被災後は人が住めない地域になってしまいました。私が最初にこの地を訪れたときは、草が生い茂り、津波の跡があちこちに見られる状態でした。「ここで本当農業ができるのか?」と、土壌検査をするところから始まりました。市の全面的協力はもちろんのこと、ここに住む方々も協力してくださり、なんとか事業スタートすることができました。

株式会社KDDIエボルバ  幸 満つる 郷 KDDIエボルバ 野蒜 所長  溝江 健太郎氏
株式会社KDDIエボルバ
幸 満つる 郷 KDDIエボルバ 野蒜 所長

溝江 健太郎氏


収量アップ、品質向上、ノウハウの可視化-
省力化に留まらない農業IoTの効果

溝江氏 しかし、実際にゼロから事業を興すのはもちろん容易なことではなく、いくつかの壁にぶつかりました。その一つが、水やりや施肥などの作業です。安心・安全な作物を栽培したいという思いから、幸満つる郷では、できるだけ農薬を使用しない栽培方法を採用しています。その分、除草など、作物にかける手間は増えてしまいます。働く障がい者の方々は、できる作業・できない作業がそれぞれに異なります。また、それを管理する従業員も、必ずしも農業経験者ではなく、水やりや施肥のノウハウがありませんでした。

福嶋 他にも、夏場の非常に高温なビニールハウスでは休憩を挟みながら作業を行っていることや、栽培の記録を管理できておらず何とかしたいといった課題を伺っていました。ここに、通信やIoTの技術が活用できる余地がある、と感じました。

スマート農業のサービスや技術を調べている中で、全自動で水と肥料を供給する農業IoT、AI潅水施肥システム「ゼロアグリ」を知りました。「苗や土壌に ストレスを与えない、水と肥料の供給」というコンセプトに面白さを感じて、ミニトマト栽培での活用を提案しました。

長谷 他にも、ネットワークカメラの映像を通して、作物の状態を遠隔地からも確認できる「屋外クラウド録画パッケージ」などを導入しました。水やり・施肥を自動化することで、収量アップおよび品質向上のための作業に力を割ける環境づくりを目指しました。

初年度はシステムに慣れていただくお手伝いをしながら、私たちのほうで土壌の水分量や潅水量、日射量などのデータを分析し、ミニトマト圃場の状況を見える化した上で、幸満つる郷と今後の栽培に向けた方針などをディスカッションしました。

KDDI株式会社 ビジネスIoT推進本部
地方創生支援室 マネージャー

長谷 篤志

「幸 満つる 郷」では、「ゼロアグリ」だけでなく、農作物の状態を遠隔で確認できる
「屋外クラウド録画パッケージ」も導入
圃場の地温や土壌水分量など、ミニトマトの生育に影響を与える
さまざまなデータを逐次把握することができる


——「ゼロアグリ」の導入によって、どのような効果がありましたか。

溝江氏 これまで毎日1時間程度かかっていた水やりの手間がゼロになり、月に2・3度、丸一日かけて行なっていた施肥の手間もなくなりました。驚いたのは、機械の設置によって、夏場だけで収量が2.5倍になったこと。手作業よりも、水やりを効果的に行えたからだと思います。また、省力化によって、他の作業に時間を割けるようにもなり、品質向上につながっていくのを実感しています。

長谷 一方で、今後の課題もあります。「ゼロアグリ」では目標水分量などをユーザーが設定する必要がありますが「何パーセントにすれば美味しいミニトマトになるのか?」は、いままさにデータを収集しながら、模索している状況です。

作業省力化のためにシステムを活用するだけではなく、今後は、IoTによって得られた「データ」と「味」を照らし合わせる作業を丁寧に行っていくことで、さらなる品質向上につなげていきたいと思っています。

溝江氏 実際の農作業や、仕上がりの様子を見るだけで手いっぱいだったところを、記録管理が自動でできて、データで作業のフィードバックができるようになりました。作業の振り返り方も変わり、ノウハウの可視化・蓄積にも役立っていると実感しています。

「苗や土壌にストレスを与えない、水と肥料の供給」
をコンセプトとするAI潅水施肥システム「ゼロアグリ」


IoTは効率化だけでなく「やりがいの創出」にもつながっている

——スマート農業によって収量アップ・品質向上を達成し、そのことが地元の障がい者の雇用と、被災地の利活用にもつながっていく。異なる立場の三者が力を合わせて地域課題へ取り組むことができている秘訣はなんでしょうか。

溝江氏 東松島市に出向していた福嶋さんが、現地でさまざまな人とのつながりをつくり、困りごとをヒアリングしてくださっていたので、周りに協力を仰ぎやすい環境ができ上がっていたと思います。また、市にも全面的に協力いただいていて、さまざまな障がいのある従業員が働きやすい環境をサポートしてくださっています。先日は「全盲の従業員が通うのに危ない道がある」と相談すると、すぐに音声付き信号機を設置してくださいました。住みやすいまちづくりをしている場所で働けるというのは、私たちの従業員にとっても、とても大きなことではないかと思います。

通信・ITを農業に生かすというと「効率化」にばかり結びつきがちですが、このスマート農業の取り組みは「やりがい」の創出にもつながっていると実感しています。

昨年、この取り組みが評価されて、モバイルコンピューティング推進コンソーシアム (MCPC、東京) モバイルビジネス賞 (ユーザー部門) 受賞したほか、東北農政局の「ディスカバー農山漁村 (むら) の宝」ビジネス部門優良事例にも選ばれました。そのときの、「ゼロアグリ」に関わるチームメンバーたちの「最先端技術を使って農業をしているのだ」という誇らしげな表情印象に残っています。

技術はあくまで、人ができない部分を補うために使う。その上で品質追求しながら、やりがいを持って働ける環境づくりを、引き続きKDDIにサポートしていただけたら嬉しいです。

福嶋 市とKDDIエボルバの描く未来がぴったりと重なって、協力体制が組めたことはとても大きかったですね。

長谷 今後も、IoTや通信活用して幸満つる郷における農業バックアップし、収量アップ品質向上のさらに先――ノウハウ蓄積事業拡張にもつなげていけたらと思っています。

渥美市長 障がいのある方も、自立し、誇りを持って働いているのが、幸満つる郷の素晴らしいところです。KDDIが持っている素晴らしい技術ノウハウが、生産から販売まで生かされていると感じています。震災復興完結に向けて加速していくことに加え、東松島市が、誰もが安心して住み続けられる・働き続けられるまちであり続けるために、KDDIには最大パートナーになっていただきたいと、引き続き期待しています。