日本への外国人観光客 (インバウンド) の数が増加しています。外国人観光客といえば、量販店や免税店などにやってきて多くのモノを買っていく「爆買い」が話題になった時期がありました。しかし最近は、外国人観光客の日本での過ごし方や滞在場所にある変化が現れています。
また一方では、留学や技能実習などを目的とした、「在留外国人」の数も増えており、外国人観光客があまり訪れなかった場所でも、外国人への対応に迫られるようになってきているという現状もあります。
このような中で、日本で過ごす外国人の方々への対応、特に「言葉のコミュニケーション」が大きな課題として注目されてきています。
外国人観光客が量販店などに団体バスでやってきて、日本の家電製品などを多く買い込んでいく様子を表す「爆買い」という言葉が一般的に広まり、流行語大賞を取るほど話題になったのは、2015年のことでした。この年、日本を訪れた外国人客は、日本政府観光局 (JNTO) の調査によると1,973万人に上り、45年ぶりに訪日外国人数と出国日本人数が逆転するという現象も起きました (注1)。
「爆買い」が話題になった後も、外国人観光客の数は年々増加を続けています。2016年には約2,400万人の外国人が日本を訪れました。2017年に入ってからもこの傾向は止まらず、2017年7月には、単月としては過去最高の268万人もの訪日外国人数となっています (注2)。今後、訪日外国人はますます増えていくとみられ、中でも中国・韓国・台湾・香港といったアジア諸国からの訪日数の伸びが顕著です。
外国人観光客の日本における過ごし方は、日本へ何度も訪れるリピーターが増えたこともあり、「モノ消費」から「コト消費」へと大きく変わりつつあります。「モノ消費」とは、爆買いに象徴されるような「モノを買う」ことを目的とした過ごし方です。一方「コト消費」とは、「何かを (体験) するコト」、つまり、日本でしかできない体験を楽しむ過ごし方を意味しています。例えば、「自然風景観光」や「歴史建造物への訪問」「旅館での宿泊体験」「温泉入浴」など、日本の文化や歴史を理解できるような体験が好まれているようです。
「コト消費」のニーズを捉えた例として、「体験型ツアー」を企画する旅行代理店や施設も増えているようです。例えば、侍や忍者などの扮装をして写真を撮ったり剣舞を見たり体験したりする「侍体験」、舞妓の衣装を着て写真を撮ったり散策したりする「舞妓体験」、自分で蕎麦を打って食べる「そば打ち体験」などが挙げられます。
中には、より身近で気軽な「コト消費」を自ら楽しむ外国人観光客もいるようです。女性の外国人観光客の中には、人気の美容院に行って髪を切ってもらう、ネイルサロンに行ってネイルアートをしてもらう、リラクゼーションサロンでマッサージをしてもらうなど、日本での美容体験を楽しむ人も少なくありません。
しかし、このような「コト消費」を楽しむ外国人観光客の多くが、ある問題に直面しています。それは、「言葉」の問題です。「モノ消費」以上に「コト消費」においては、日本人スタッフとのコミュニケーションが重要になります。一定のレベルで正確に言葉が通じなくては、担当者の説明も理解できないし、自分自身がどんなことをしたいのかも伝えることができません。外国人観光客の「コト消費」への要望が高まってくるにつれ、「言葉」の問題はますます大きくなってきているのです。
もうひとつ、訪日外国人の動向に注目すべき変化があります。それは、訪問・滞在する地域が変わりつつあるという点です。
爆買いが話題になった頃、訪日外国人の多くが訪れるのは、東京の銀座や秋葉原、新宿、あるいは大阪の日本橋など、デパートや大型量販店などがある都市部が中心でした。しかし今では、より多くの外国人が都心部だけではなく地方も訪れるようになりました。「2人に1人の訪日外国人が東京・大阪大都市圏以外の地方を訪問している」という観光庁のデータもあります (注3)。特にリピーターではその傾向が強いようです。
地方の中には、行政主導で外国人観光客誘致に励んでいるところも珍しくありません。このことも合わせて考えると、これからますます多くの訪日外国人が、地方を訪れ、滞在するようになるものと考えられます。これまで外国人が訪れることが少なかったような場所でも、外国語対応の必要に迫られる場面が出てくるのです。
外国人観光客だけでなく、在留外国人の増加も注目されています。法務省の発表 によれば、2016年末の時点で約238万人と、統計を取り始めた1959年以来、過去最高を記録しています。国別では、中国 (約70万人)、韓国 (約45万人)、フィリピン (約24万人)、ベトナム (約20万人) とアジア諸国が上位を占めています (注4)。特に来日直後などは言葉が通じず不便な面もあり、受入先 (一般企業や学校など) や、公共機関 (病院・鉄道・役所など)、さまざまな小売店舗などでも外国語対応の必要が増えてくることが想定されます。
観光庁が行ったアンケート調査 (下図) では、外国人観光客が日本滞在中に不満に感じたことの上位は、適切な言語コミュニケーションがとれていれば問題にはならないことがほとんどです。日本に滞在する外国人とのコミュニケーションにおいて、『言葉』でのコミュニケーションは特に重要な役割を担っているのです。
今後はさらに、英語だけでなく、近年増加が顕著なアジア各国からの外国人向けに中国語や韓国語、フィリピン語などの言語にも対応していくことが求められることでしょう。
訪日外国人、在留外国人が増える今、地方を含めた日本各地で多言語対応へのニーズは高まるばかりです。この問題にどう対応し、解決していくかが、日本のサービス業をはじめとした日本の企業に問われているといえるでしょう。