KDDIは2020年10月、ケーブルテレビ事業者用プロビジョニング・監視ソリューション「EKPS-C (Easy KDDI Provisioning System-Cloud)」の提供を開始した。
クラウドによって高機能サービスを低コスト・低負担で提供し、稼働の安定性や災害時の安全性も高い。対象機器の台数が多い大規模・中規模のケーブルテレビ事業者に特に適したソリューションで、すでにイッツ・コミュニケーションズ株式会社 (イッツコム) 様が運用を開始しており、他のケーブルテレビ事業者の引き合いも多い。
(取材・文 : 渡辺 元・月刊ニューメディア編集部、写真 : 広瀬まり)
EKPS-Cは全国で約40社のケーブルテレビ事業者に導入されている実績のあるオンプレミス型プロビジョニング・監視ソリューション「EKPS-G」のクラウド版だ。EKPS-Cはメーカー各社のFTTHのOLT、HFCのCMTS、集合住宅向けEoC、それらの機器の配下にあるONU、ケーブルモデムのプロビジョニングと監視をクラウドで行う (以下図)。
今後、対象機器を拡大していく予定だ。
EKPS-Cのプロビジョニングシステムは、加入者のONUやケーブルモデムの情報をOLTやCMTSに初期登録するといった機能を持っている。EKPS-C/Gが対応している製品の主なメーカーは、OLTは三菱電機、住友電工、ファーウェイ、ノキア、CMTSはコムスコープ、EoCはファーウェイ、スマビジョンなどだ。
「OLTやCMTSの各メーカーは自社製品用に純正のプロビジョニングシステムを提供していますが、それらは自社製品にしか対応せず、機能も限定的です。それに対してEKPS-Cは一つのシステムで複数メーカーの製品に対応している上、高機能です」(KDDI株式会社 パーソナル企画統括本部 CATVソリューション企画部 ソリューション推進グループ マネージャー 中村 芳仁)
海外メーカーの純正プロビジョニングシステムは日本語化されていないものもあるが、EKPS-Cはもちろん日本語操作で使いやすい。
EKPS-CはKDDIのケーブルテレビ事業者向けクラウド型SMS (ケーブルプラスSMS) と連携した運用も効果的だ。加入者管理と端末のプロビジョニングは密接に結びついた業務だが、プロビジョニングシステムとSMSが連携していない場合、両システムの間でCSVファイルを作ってデータをアップロードするといった作業が必要で、手間がかかってしまう。両システムを同じKDDIのクラウド型ソリューションとして連携させれば、作業を効率化できる。
EKPS-Cの監視システムは、OLT、CMTS、EoCは5分に1回、ONU、ケーブルモデムは1時間に1回、定期的にポーリング監視。異常を検知した場合はアラートを発報して担当者に知らせる。
「クラウドでサーバーやストレージなどの状態も常に監視しているため、障害時に問題をすぐに検知できます。クラウド型の方がお客さまは安心してお使いいただけると思います」
(KDDI 中村)
過去の監視結果を時系列で表示することにより、ケーブルモデムなどの障害の兆候を分析することも可能だ。
イッツコム様は現在、EKPS-CをFTTH網の中で集合住宅用EoCとその配下に接続されているケーブルモデムのプロビジョニングと監視ツールとして利用している。対象のEoCは2メーカーの合計約3,300台、そこに接続されているケーブルモデムが合計約12万台。これほど大量な機器のプロビジョニングと監視をEKPS-Cが担っている。
「弊社は2015年にFTTH導入を本格的に検討し始め、棟内に光ファイバーを敷設できない集合住宅にはEoCを導入することを決めました。EoCの装置であるCMCとケーブルモデムのプロビジョニング・監視について、当初はFTTHのOLT・ONUと同じメーカーのCMC・ケーブルモデムのプロビジョニング・監視ツールを採用しようと考え、CMCメーカーではないKDDIのツールは除外して検討していました。そして、HFC網で使用していたサポートツールにCMCとケーブルモデムのプロビジョニング・監視機能を追加開発することを検討しましたが、追加開発の開発期間が長いことや保守体制の要件に合わないことが分かりました。そこで一度除外していたKDDIのツールの再検討を開始。EKPS-Cは各メーカーのCMCに対応していて、プロビジョニング・監視ツールとしてイッツコムが必要としている機能が最初から搭載されていることがわかりました。導入のリードタイムも弊社のサービスインのスケジュールに間に合うため、導入を決定しました」(品田様)
KDDIはHFCからFTTHに設定や登録を一括切り替えできる機能など、イッツコム様向けのカスタマイズにも対応した。
「KDDIはEKPS-Cのカスタマイズにおける開発が早く、スケジュール管理もしっかりしているので信頼しています」(南雲様)
EKPS-Cを使用している主な部署は、加入者からの1次問い合わせを受けるサポート部隊と工事部隊だ。
「コールセンターのテクニカルサポート担当者がお客様からの電話問い合わせを受けると、PC画面上に表示したEKPS-CのUIでその加入者を検索し、モデムの状態を確認。障害などの問い合わせ内容の原因がシステム側か、伝送路側、宅内側かといった1次切り分けを行います。例えばRFの受信レベルがDOCSISの既定値外であれば、工事部隊をお客様宅に派遣させます。現場の工事部隊担当者はモバイル端末でVPNに接続し、EKPS-Cの画面でモデムの状態を確認できます。工事後の品質確認も現場で行えます。EKPS-Cは機器の現在の詳しい状態をすぐに確認でき、問題を切り分けて次の対応のステップに進めることができるシステムです」(品田様)
EKPS-Cは監視する端末数が多い大規模・中規模事業者に特に適しているソリューションだ。イッツコム様で現在EKPS-Cが監視しているモデムは約12万台と大量だが、クラウド上のポーリングサーバ3台によってすべてのモデムの定期監視とデータの記録をわずか20分足らずで完了できる。
EKPS-Cはプロビジョニングと監視の基本的な機能はオンプレミス型のEKPS-Gとほぼ同じだが、クラウド型にしたことによる利点は多い。各社のオンプレミス型プロビジョニング・監視システムのようなケーブルテレビ事業者側へのサーバの設置や、サーバの保守切れによるリプレイスが不要となるからだ。ケーブルテレビ事業者のエリア拡大などで監視対象の端末数が増えた場合でも、クラウド型なのでサーバ増設などは不要だ。
「EKPS-Cはオンプレミス型に比べてイニシャルコストを圧倒的に抑えられます。サーバを追加設置するコストもかかりません」(品田様)
EKPS-Cの利用料金は監視する機器の台数に応じた設定で、パブリッククラウドのようなトラフィックに応じた課金はされないため、イッツコム様のように大量の端末を頻繁に監視してもコストを抑えられる。
「ランニングコストも競合システムに比べてかなり低く設定してあります」(KDDI 中村)
EKPS-CはKDDIの専任担当者が運用をサポートするため、ケーブルテレビ事業者の技術部門担当者に運用管理の負担がかからないのも利点だ。
「弊社がプロビジョニング・監視ツールのサーバをデータセンターに設置する必要がなく、KDDIがクラウドのメンテナンスなどを行うため、手間がかからなくなりました。KDDIにツールのメンテナンスを任せるメリットは大きいと考えています」(南雲様)
「このようなツールではハードだけでなくソフトウェアの運用・保守がより重要です。弊社にサーバを設置すると、ソフトのログ解析、問題の切り分けなどに時間がかかってしまいます。クラウドにあれば、何か不具合が発生したとしてもKDDIがすぐに解析、対策してくれます。KDDIの運用・保守の体制はしっかりしていて、不具合が発生した時には特別な監視体制で早期に検知・復旧させます。既知の事象であれば、10~20分ですぐに対応してくれます。運用・保守におけるレスポンスが非常に速くなりました」(品田様)
EKPS-Cはクラウドを使用しているため、ケーブルテレビ事業者のマスターヘッドエンドの限られたスペースに設置する装置を減らすこともできる。監視データが大量に蓄積されてもストレージや検索性能の心配は不要だ。災害時などのBCP (事業継続計画) の観点でも、データをバックアップできるクラウド型は安全性が高い。
「EKPS-Cはクラウドにツールやデータがあるため、ディザスタリカバリの信頼性、可用性が高いソリューションです」(品田様)
サポートも充実しており、KDDIのEKPS-C保守窓口は24時間365日対応している。
EKPS-Cに使用しているクラウドプラットフォームはKDDIのKCPS (KDDI クラウドプラットフォームサービス)。クラウドを内製化したことによって、EKPS-Cは競合する他社のプロビジョニング・監視システムに対して、ランニングコストを抑えた。
KCPSは安定稼働が特長だ。SOC1/SOC2の国際認証を取得、震度6強に耐える免震耐震構造と防火対策を施している。通常のパブリッククラウドではメンテナンスなどで計画停止することが少なくないが、KCPSは稼働実績が99.9999% (シックスナイン) を達成している。EKPS-Cをすでに運用しているイッツコム様では、安定稼働が続いている。
EKPS-Cに切り替えを検討するケーブルテレビ事業者も多い。EKPS-Cの導入を検討しているケーブルテレビ事業者は、クラウドを利用することに対して肯定的なケースが多いようだ。ケーブルテレビ事業者の間にクラウド利用が浸透し、以前のような抵抗感が急速になくなりつつあるようだ。
「サーバレスなので自社で管理する必要がないのがいい、と言われるケーブルテレビ事業者のお客様が増えています」(KDDI 中村)
EKPS-Cは操作性も特長だ。ユーザーインタフェース (UI) はEKPS-Gで好評だった直感的でわかりやすい操作性が踏襲されている。EKPS-Gを利用しているケーブルテレビ事業者がEKPS-Cに変更しても、操作方法が引き継がれているので簡単に使える。
「UIは使用方法の説明書を見る必要がないぐらい直感的でわかりやすく、とても完成度の高いシステムです。レスポンスもよく、工事の効率化などに役立っています」(南雲様)
「ものすごく使いやすいUIです。弊社がもともと開発を依頼しようと思っていた機能が実現されていましたが、さらにKDDIは私たちの要望に合わせてUIをかなりカスタマイズしてくれました。カスタマイズでは、ホワイトリストの登録などケーブルプラス電話の技術要件に対応した機能を実装してくれたのがとても役に立っています」(品田様)
EKPS-Cとヘッドエンドの接続は、イッツコム様では自社バックボーンを経由し7箇所のアクセス拠点とKDDIのクラウドを接続している。
「インターネットを経由せずKDDIのクラウドと直接接続しているクローズドな環境なので、セキュリティ面の懸念はありません」(品田様)
イッツコム様のような専用線接続のほか、KDDIのケーブルプラス電話で使用している相互接続回線を活用することも可能だ。
専用線よりランニングコストが低く、インターネットを使用するよりセキュアであるという利点がある。
EKPS-Cの高機能、高信頼性、高安定性、低価格という特長を評価して運用中のイッツコムは、今後の利用拡大への期待も大きい。
今のところEKPS-CはEoCのプロビジョニング・監視に使用しているが、EKPS-Cは複数メーカーのOLTやCMTSに対応しているため、今後はFTTHやHFC、さらに無線サービスなどのプロビジョニング・監視にも使用する見込みだ。
「これまで安定して稼働しており、今後も引き続き安心して利用できる安定したサービス提供を期待しています。弊社では現在、HFCからFTTHへの切り替えを進めている。HFCとFTTHのサポートツールについても、EKPS-Cに移行させたいと考えています。また、今後ローカル5Gや法人向けFTTHサービスなど、弊社の新サービスにも対応できればぜひ利用したいと思います。
これからもKDDIにはプロビジョニングや端末監視のオペレーション簡素化などいろいろな面でご協力をお願いします。EKPS-CはaaS (アズ・ア・サービス) で、KDDIにリソースの管理をしていただいています。コロナ禍後はリモートワークの拡大が必要になっています。1次対応部門のリモートワーク導入にもaaSのEKPS-Cが役立つと期待しています」(竹岡様)
ケーブルテレビ事業者のサービスや業務の改革に対応したツールとして、EKPS-Cの導入が業界内に急速に拡大しそうだ。
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