2018 11/7

IoTソリューション

日本企業のデジタルトランスフォーメーション
直面する課題と解決策
デジタル変革には「連続」「非連続」の価値創造を
両立する必要がある - 1/2

急速に進展するデジタル社会やディスラプターの出現に対応するため、あらゆる日本企業が「デジタル変革」を迫られている。成長を続けるには、デジタルを活用した新しいビジネスの創出や既存事業のデジタル化、それを実現するための組織改革が不可欠だ。しかし、海外に比べて日本企業のデジタル変革の遅れを指摘する声は少なくない。今後、日本企業が生き残るためには、どのような取り組みが必要なのだろうか。

一橋大学
経営管理研究科 教授
工学博士

神岡 太郎

単なるeコマース化からデジタルによる価値創造へ

企業が、デジタルの活用に最初に積極的だった領域は、「顧客接点」を重視するマーケティングだ。お客様との接点が価値を生み出す源となるからだ。良好なコミュニケーションによって顧客満足度が高くなると、企業とのきずなが強くなる。そして顧客のエンゲージメントが高くなればライフタイムバリュー(顧客生涯価値)も上がり、その企業の収益につながる。それをデジタルで強化したかった。

そのコミュニケーションが商品の売買の領域までカバーするようになったのが、eコマースだ。当時のデジタル変革というと、せいぜい「チャネルのeコマース化を図ること」という意味合いだった。

このように、しばらくの間デジタルは、コミュニケーションや売買チャネルの問題だった。しかし、デジタルがネットを超えて、リアルにまで進出してくると、チャネルの問題だけではなくなった。顧客を起点とした「価値(あるいはビジネス)の創造」そのものの問題として考えられるようになってきたのだ。あらゆる製品やサービスが、デジタルでつながる。単にアナログをデジタルに変えるという話ではない。英語で言うなら、デジタルデータに変換する「digitizing(デジタイジング)」ではなく、デジタルを活用してビジネスを創造する「digitalization(デジタライゼーション)」のステージに入った。

今、こうしたデジタル変革が必要なのは、従来型企業、つまりこれまでデジタルを前提としてビジネスを行ってこなかった企業だ。「デジタルを活用して、ビジネスと組織を、今日の顧客や市場に合った価値創造ができるように、構造的に転換する」ことが求められる。

この、デジタルを活用した価値創造の領域は、主に次の三つに分けられる。

まず一つは、顧客価値の創造だ。デジタルが組み込まれた製品、サービス、ビジネスモデルを顧客起点で生み出し、それを企業の競争力に結びつけようというものだ。

二つめは、顧客価値を意識したうえでの組織改革だ。社内における価値創造のプロセスや環境においてデジタルを利活用する。例えば、製造ラインやオフィスワークの中にVR/AR(仮想現実/拡張現実)やAI(人工知能)を組み込み、新しい価値創造の方法を生み出す等があるだろう。

最後は社会的価値創造だ。見逃しがちだが、長期的にはインパクトが大きいと考えられる。例えばUber(ウーバー)のライドシェアリングサービスの登場により、ロンドンでは交通量が3分の1減少したという報告がある。二酸化炭素の削減にも貢献しているわけだ。

日本企業が変革できない理由

海外では、多くの従来型企業がデジタル変革に向かっている。例えば、ネットフリックスは、かつてレンタルビデオ配送ビジネスを行っていた。今は動画配信から、そのコンテンツ制作のビジネスに移っている。その競争力は、顧客の視聴行動を作品内の場面やテーマまでブレークダウンして分析できる能力だ。ポロシャツ(ラルフローレン)はウェアラブルを用いて、着ているだけで身体データが記録され、自分の健康状態を把握できる。「着るもの=ファッション」という概念とはまったく別の領域で価値を創造しようとしている。

それに対して多くの日本企業は、効果的なデジタル変革を果たせずにいる。いったいなぜか。それは「デジタルを連続的な価値創造の中でだけ活用」することから脱することができないからだ。自分たちやそのビジネスは変えずにデジタルだけ入れようとする。事業部門は、今あるビジネスや自社のリソースをデジタル化するということで価値を高めようとすることはできるかもしれない。それはそれで有用なことも多いが、今日のデジタル環境の中で、顧客から見て最も望ましい価値であるとは限らない。そのスキをついて、自分たちの領域の外から破壊者が現れることがある。

デジタル・ディスラプション(破壊的創造)の特徴の一つは、テクノロジーを競争力の源泉とする業界にとどまらないということだ。これまで人によるきめ細かな接客が差別化になると思われていたホテルやタクシーなどの業界にも、容赦なく踏み込んでくる。

ウーバーは、乗客がドライバーを評価し、ドライバーも乗客を評価するというシステムによって、サービスのクオリティを維持している。日本人が得意とする〝おもてなし〟によって差別化しようとしている価値を、デジタルを活用して異なる形で実現しようとしているわけだ。ウーバーのようなスタートアップにとっては、連続、非連続あるいは破壊的かどうかの区別はない。デジタルを用いて高い顧客価値を提供できるビジネスを生み出せるかどうかだ。こうしたディスラプターは非常に速いスピードで成長し、利用者を一気に拡大して既存の産業に大きなダメージを及ぼす。

このようなスタートアップに対して、従来型の日本企業の課題は、同じ方向に向かう変革だけしかできない体質になっていることだ。デジタルはこれまでの境界や制約を破壊する力を持っているのに、従来型企業はそれを生かし切れていない。これまでの自社にとらわれない、非連続な価値創造を、実際の事業化まで行える体制が求められる。

デジタルの定義を明確にすることが大切

そもそもデジタルとは何か?「あなたの会社にとってのデジタルとは何か?」という問いに即答できる経営者や従業員はどれだけいるだろうか。実はデジタル変革を掲げながら、どのような内容を目指すのか明確にしている企業は意外と少ない。

CDO(最高デジタル責任者)はデジタル戦略を立てるとき、当然ながらデジタルの定義を明確にする。その定義は企業ごとに違っていい。「お客様との距離を縮めるための方法がデジタル」という企業もある。私の見解は、デジタルは効率という側面もあるが、一番は、我々の経験や活動をより価値のあるものに「変える」、あるいはそのための価値を「創造する」テクノロジーだということだ。

また、もう一つ加えておきたいのは、デジタルとITの違いだ。ITが浸透し始めた頃、そのテクノロジーによる変革にチャレンジした企業はあった。例外もあるが、多くの場合、効率化、コストダウンなど内向きで、管理を目的とすることが中心になっていた。顧客やユーザーに対して、例えば製品やサービスを通して、価値を提供するところに踏み込まなかったのだ。

私の見るところ、最近欧米では、ITとデジタルを意図的に使い分ける場合が増えている。ITは組織の管理や仕事の効率化を図るツール、デジタルはユーザー起点にビジネスを変えるあるいは創造するツールという具合だ。

デジタルを競争力につなげるには、こうした違いも含めてデジタルの意味を明確にしたうえで、組織において「変える」「創造する」という意識化をすることが重要だ。有名な話だが、ウーバーが最初にライドシェアリングサービスのアプリのプロトタイプを作るのにかけた費用は、わずか数百万円。日本企業はもっとたくさんのお金を持っているのに、開発できなかった。顧客にとって価値のある「ビジネスを創造する」というマインドがあるかないかで道は大きく分かれる。

本記事は「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー」(2018年10月号)および「DHBR.net」に掲載されたコンテンツを転載したものです。

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