日本企業のデジタルトランスフォーメーション
直面する課題と解決策
デジタル変革には「連続」「非連続」の価値創造を
両立する必要がある - 2/2

連続・非連続の価値創造とは

デジタル変革によって目指すところは価値の創造である。すでに述べたことに関係するが、それは、「連続的な価値創造」と「非連続的な価値創造」に分けられる。

デジタル技術を活用して、既存事業が提供する価値を高めるのが「連続的な価値創造」だ。例えば、携帯電話にとって記憶容量が価値だとすると、それをひたすら増大しようとするのは連続的な価値創造にあたる。一方、デジタル技術を活用してこれまでの延長線上にないところで価値創造するのが「非連続的な価値創造」だ。携帯電話が音声通話からデジタルコンテンツを楽しめるようにしたのは、非連続な価値創造になる。前述のポロシャツやネットフリックスの例もそうだ。

両者の差は相対的なもので、非連続な価値創造は継続すると、連続的な価値創造へシフトすることが多い。その逆もある。企業が成長するためには、こうした連続的な価値創造と非連続的な価値創造の両方が必要だ。どちらが欠けてもいけない。

通常、従来型企業は、今自分たちの持っているものを最大限利用して、連続的な価値創造で利益を最大化する。しかし、いつか必ずディスラプターが現れる。その脅威に備えて、時には自己破壊するような非連続的な価値創造に、渋々取り組む。もちろん例外もある。

アップルのスティーブ・ジョブズはホームコンピュータ「アップル2」が大ヒットしていた真っ最中に「マッキントッシュ」を、「アイポッド」が一番売れているときに「アイフォン」を世に送り込んだ。「アップル2」や「アイポッド」で、もっと収穫できるのを犠牲にしても、次の価値創造に向かった。とても普通の経営者が真似をできる技ではないだろう。

一般には、従来型企業は、連続的な価値創造を中心にし、時々、上手くいけばいい、という程度の非連続的な価値創造に取り組んできた。だが、デジタル変革の時代になって、ジョブズの例ほど極端ではないにしても、非連続的な価値創造はよりクリティカルになっている。しかも、その成果を、これまでよりも速いスピードで事業化しないといけない。連続的な価値創造によって、投資分を十分に回収してから、その後にそろそろと非連続的な価値創造に踏み込むというパターンは難しくなっている。

いくつかの企業は、デジタルを活用した非連続な価値創造に本格的に取り組み出している。しばしば見られるのは、非連続的な価値創造を行うチームは、既存事業との摩擦を避けて育てるため、新規事業開発部門等のように、既存事業と切り離して置く。よく知られている例は、GEが本社を米国東海岸に、(金融事業の失敗の影響で、売却が噂されているが)GEデジタルを西海岸に置いている例だ。

ただ、非連続な価値創造を推進するには、連続的な価値創造と、上手く接触させることも今後必要になってくるのではないかと思っている。連続的な価値創造を行うチームは、日頃から顧客やマーケットと直に接している中で、非連続な価値創造に結び付くアイデアに沢山気づいている。しかし、それを非連続的な価値創造につなげるパイプがあまりないのだ。逆に、非連続的な価値創造の中に、連続的な価値創造にとって有益なインサイトが見いだされることがある。こうした双方が補いあうためには、例えば、効果的に人を循環させたり、ノウハウを交流させる仕組みを作るべきだろう。

スタートアップと組む効用は大きい

従来型企業は、非連続な価値創造を強化するのに、スタートアップとの協業に熱心だ。これまでの自社にない能力やものの見方と接しようというわけだ。

従来型企業にとっては、画期的なアイデアや革新的な技術を取り込めるのはもちろん、かつて自分たちがもっていたチャレンジ精神を取り戻す効果も期待できる。アジャイルやフェイルファストなどの手法も、ただ本を読んで勉強してもなかなか実践できないが、一緒に行動すれば身につきやすいだろう。

また、もう一つの考え方として、スタートアップに自社のDNAを残し、彼らを大きく育てていくという考え方もある。自分たちが持っている資産やノウハウ、ブランドを引き継いでもらうくらいの気持ちで育てる企業もあるようだ。

ただ、そういった協業は簡単ではなく、上手くいっているケースは必ずしも多くはない。従来型企業に改善しなければならない点は少なくない。例えば、スタートアップと組む際は、ともに考え、ともに創造するという姿勢が大切だ。自分たちの方がお金を出しているし、能力が高いという上から目線の態度では何も生まれない。社内外での価値創造を上手く連動させるための推進者が欲しいところだ。

デジタル変革のカギを握るCDO

課題をまとめると、従来型企業には、デジタルを活用して、非連続な価値創造を事業化まで進める体制ができていなかった。そのプロセスは、複数のリーダーが絡んで、誰が司令塔かが見えなかった。これに一貫して責任をもつ立場のリーダー、しかも、最近では、それを社外のスタートアップなどと連携をしながら価値創造を推進するリーダーが必要になる。さらに、このような非連続な価値創造が効果的に行われるには、連続的な価値創造も同時に見る立場のリーダーがいることが有益だ。

その役割を担うのがCDOなのだ。CDOは、デジタル時代の新規事業を発案して立ち上げるだけでなく、それを事業化までもっていかなければならない。必要に応じて既存事業と融合させることも必要だ。既存事業もデジタルを活用して成長させなければならない。したがって、既存事業についても深く理解しておくことが必要だ。

CDOは「強烈なリーダーシップと破壊的な事業創造によって成功する」と、マスコミでも取り上げられることがあるが、むしろ、この二つに関わらなければならないところに、難しさがある。

私はこれを二刀流ならぬ、「両手使いのマネジメント」と呼んでいる。言うのは簡単だが、新規事業と既存事業を一人の人間が両立するのはなかなか難しい。既存事業を伸ばすのが得意な人と、新しい価値を創造することが得意な人は得てして異なるからだ。

実際、ある企業がCDOを採用する際に課した二つの条件は、スタートアップ立ち上げの経験があることと、大企業でのビジネスを経験していることだったという。まさに両手使いのマネジメントが行える人材を求めたわけだ。だが、なかなかそんな人はいないため、CDOを支えるチームも重要になる。

また、CDOは万能ではないし、CDOだけでデジタル変革を行うことはできない。少なくとも、デジタル変革を推進するには、経営トップであるCEO(最高経営責任者)の強い意志が不可欠だ。最近では、口先だけでなく、デジタル変革に自分でイニシアティブをとるCEOも見られるようになった。ある意味で、CDOは、デジタル変革を行うCEOの分身だ。私が見る限り、活躍するCDOには、必ずデジタル変革にコミットするCEOのバックアップがある。

CDOを置く動きは日本企業にも広がり始めており、CDOどうしが情報を共有する場も生まれている。日本にも、デジタルを活用して、既存事業の強みを生かしながら新規事業を育てることを成功させるCDOが数多く登場し、新時代の価値創造を牽引してくれることを望んでやまない。

TARO KAMIOKA
一橋大学経営管理研究科教授。北海道大学大学院博士課程(行動科学専攻)単位取得退学後、一橋大学商学部講師、同大学商学研究科助教授を経て、2004年より教授。マーケティングとITの関係などを研究対象とする。著書に『CMO マーケティング最高責任者―グローバル市場に挑む戦略リーダーの役割』『マーケティング立国ニッポンへ』など。工学博士。

本記事は「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー」(2018年10月号)および「DHBR.net」に掲載されたコンテンツを転載したものです。

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