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経験で得たノウハウを糧に スクラムの自走化までを支援
三越伊勢丹グループが挑んだスクラム開発

経験で得たノウハウを糧に スクラムの自走化までを支援

アジャイル開発手法の一つとして、近年注目が高まっている「スクラム」。三越伊勢丹グループの情報システム会社である三越伊勢丹システム・ソリューションズは、KDDIのサポートの下、ソフトウエア開発手法をスクラムに変革し、顧客視点のサービス開発を進めている。取り組みの経緯や現在までの成果について、三越伊勢丹システム・ソリューションズの北川 竜也氏とKDDIの和田 圭介に聞いた。

(本記事は2019年3月取材の内容です)


消費者の価値観が変わる中 伝統とデジタルの融合を目指す

──デジタル化の流れの中で、三越伊勢丹様はどんな課題に直面していたのですか。

北川氏 現在は商品をスマートフォンで調べ、その場で購入できる時代です。スマートデバイスの普及により、消費者のライフスタイルや価値観は大きく変化しています。このような市場環境の変化に対し、当然のことながら百貨店もこれまでの延長線上ではなく、次世代の百貨店に生まれ変わらなければならない、と考えていました。

ただ一方で、私たちは幸いなことに、歴史と伝統を誇る三越伊勢丹グループの店舗やブランドを持っています。デジタル化は目的ではなく手段であって、接客力や提案力といったわれわれの強みであるアナログの力をいかに大きくするかがポイントです。デジタルとアナログをお客さま視点で融合したサービスのあり方を徹底的に考え、百貨店という顧客接点を「商品販売の場」ではなく「体験価値提供の場」へと変革することを目標としました。

──そこで採用した開発手法がスクラムというわけですね。

北川氏 お客さま視点のサービスには、お買い場(※1) に立つスタイリスト(※2) の意見が不可欠です。ビジネス部門、つまりは店舗スタッフと開発部門が一丸となり、フィードバックを得ながら高速に開発を繰り返す「スクラム」は、さまざまな関係部署の意見を取り入れながら開発できるという点で最適な手法でした。このスクラムの導入におけるコーチの役割を担っていただくパートナーには自社での導入の実績と豊富な知見を持ったKDDIを選定しました。

  • ※1:店舗の売り場のこと
  • ※2:お客さまと接点を持つ従業員のこと
株式会社 三越伊勢丹システム・ソリューションズ
執行役員
システム企画部長

北川 竜也 氏

和田 KDDIは2013年にスクラムを導入しました。予算や承認の取り方、開発したものを税法上どのように管理するか、運用フェーズで関係部署とどのように連携するか──。5年以上の取り組みで培った、ルールブックだけでは分からない知見やノウハウを持っていることが大きな強みです。

北川氏 まさに、当社が期待したのもそうした観点でのアドバイスです。スクラムを確立した米Scrum Inc.社との業務提携を強化するなど、新たな知見の獲得や支援体制の強化に積極的に取り組んでいる点も心強く感じました。

ビジョンを共有しシナリオを策定 開発の文化を抜本的に変革する

──スクラムの定着に向けて、KDDIはどのようなサポートを行ったのでしょうか。

KDDI株式会社
ソリューション事業企画本部
事業企画部 企画2G 課長補佐

和田 圭介

和田 まず三越伊勢丹様のビジョンとそれを支えるプロダクトのあり方を、メンバー全員でとことん話し合い、そこから変革シナリオを策定しました。

スクラム開発の体制は、進行上の障害を取り除きプロジェクトが円滑に進むようにする「スクラムマスター」、成果物のROI ( 費用対効果 ) の最大化に責任を持つ「プロダクトオーナー」、実際に開発を担う「デベロッパーチーム」で構成します。現場と開発の意見のせめぎ合いの場であるスクラムにおいて、どうやって意見を集約し、落としどころを見つけるかは熟練の手腕が必要です。そのため、実際の開発にも立ち会いながら、それぞれの役目についてアドバイスし、自走化をお手伝いしました。

北川氏 スタイリストが感じている課題は非常に重要ですが、それだけをまとめても個別最適の集合体になってしまいます。スクラムにより、背後にある課題の本質を見抜き、テクノロジーとつなぐことで抜本的解決を図ることが肝心です。KDDIの支援によって、スクラムの本質は「開発の文化を変える」ことだと認識できました。

──現在のスクラムの体制を教えてください。

北川氏 フルスクラムのチーム、およびスクラムの要素を取り入れたチームがそれぞれ4つの、計8チーム体制で開発を進めています。各チームは5人前後の小規模編成です。また、プロダクトオーナーにはお買い場での業務経験を持つ人財を配置するようにして、お買い場と開発のつなぎ役になってもらっています。

──どのような成果が上がっていますか。

北川氏 スクラム開発を実務の中で実行し始め、そこに関わるメンバーが増えていることが最大の成果です。

先日リリースしたお客さま向けアプリケーションはその一例です。今後段階的にお客さまのニーズに適した情報や特典を受け取ることができるようになるほか、店舗を訪れる際に自分の好みや希望に応じた接客、提案を受けることが可能になっていきます。お客さまのご利用状況も検証しながら、改善を図っていきます。

和田 百貨店の店頭にはもともと、チームで接客する文化が存在しています。取り組み開始から約1年で、ここまでの体制が実現できた背景には、そうした下地も大きかったのではないでしょうか。

三越伊勢丹様が目指す「顧客体験価値の向上」に向け、当社も新たな技術や知見を習得しながら、一層きめ細かなサポートを行っていきたいと思います。