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「IoT×鯖×養殖」 日本遺産「鯖街道」復活へ
第1次産業をIoTで変革

「IoT×鯖×養殖」 日本遺産「鯖街道」復活へ

福井県小浜市で2016年にスタートした「鯖、復活」プロジェクト。難しいとされる鯖の養殖を成功させるため2017年からはIoT活用にも着手した。そのIoT実装をサポートしたのがKDDIである。鯖を養殖する生け簀にセンサーを設置して水温などを把握。同時に、タブレットから給餌量などを入力してクラウドに蓄積し、スムーズな情報共有を実現している。


若狭の鯖をもう一度 「鯖、復活」プロジェクト始動

福井県西部、若狭湾に面する小浜市。同市は古くから日本有数の鯖の産地である。真南にある京都までは70kmほど。かつて、若狭の人たちは軽く塩を振った鯖を背負い、峠道を越えて京都まで運んだ。それが「鯖街道」の由来だ。鯖街道は2015年に日本遺産に認定され、街道の起点となる小浜市にも大きな注目が集まった。

しかし、肝心の鯖については、漁獲量が目に見えて減少している。1970年代半ばには小浜市だけで3万トンを超えた鯖の水揚げは2014年には1トン弱にまで減少。活気のあった時代とは比べ物にならない。

そこで、小浜市がスタートさせたのが、鯖街道の起点に位置する小浜で鯖を養殖する「鯖、復活」プロジェクトである。「鯖街道が日本遺産に認定され、若狭の鯖、鯖の食文化を見直そうという機運が高まったものの、漁獲量は減少し、漁師も後継者不足に悩んでいました。そのような状況の中、かつて多くの鯖が漁獲され、鯖街道の起点としてにぎわっていた小浜を復活させようと、鯖の養殖への挑戦を考えたのです」と旗振り役を務める小浜市産業部農林水産課の畑中 直樹氏は説明する。

小浜市
産業部農林水産課
水産振興グループ 主幹

畑中 直樹 氏

IoTで生け簀を可視化 クラウドを通じて情報共有

プロジェクトの主要メンバーは、小浜市と小浜市漁業協同組合、小浜市にキャンパスのある福井県立大学海洋生物資源学部、鯖やグループの株式会社クラウド漁業だ。鯖は養殖向きの魚ではないといわれるが、産官学で協力して幼魚の人工ふ化にも成功するなど確かな成果を結びつつある。

この養殖事業をさらに新しい段階に進めたのがIoTである。総務省の「地域IoT実装推進事業」に「『鯖、復活』養殖効率化プロジェクト」として採択され、デジタル活用が本格化したのである。

センサーの設置やアプリケーション開発など、IoTの実装をサポートしたのがKDDIだ。「2015年からKDDIは、水産分野におけるデジタル活用に取り組んできました。センサーやカメラなどを用いて、スマートな漁業を実現しようというチャレンジです。そうした経緯から私たちも参加させていただくことになりました」とKDDIの福嶋 正義は話す。具体的には、生け簀に設置したセンサーで1時間おきに水温と溶存酸素濃度、塩分濃度を計測。タブレットを通じてリアルタイムに鯖の成育環境を把握しつつ、餌やりの記録などもタブレットを通じてクラウド上で管理する仕組みだ。

KDDI株式会社
ビジネスIoT推進本部
地方創生支援室 マネージャー

福嶋 正義

漁師

浜家 直澄 氏

「以前は毎日1回、給餌の際に水温などを測っていましたが、現在はどこにいても生け簀の状態が分かります」と鯖の世話を行う漁師の浜家 直澄氏は言う。計測頻度が1日ごとから1時間ごとになったことで、成育環境に関するデータの質も高まった。また、以前は紙に記録していた給餌量や死んでしまった鯖の数などもクラウドに蓄積されるようになり、関係者との情報共有が加速。「以前は月次でしか情報を共有できていませんでしたが、現在はほぼリアルタイムで情報を共有しています。データを見た大学教授らが、その場で浜家さんに給餌に関するアドバイスをするなど、チームで養殖に取り組む体制が強固になりました」と畑中氏は話す。

今後、より多くのデータが蓄積されれば、それを分析して養殖方法の大きな改善につなげていくことも期待できる。「鯖は大衆魚ですからコストがかかりすぎてはいけません。例えば、給餌量を何割か減らしても成育に変化がないことが分かれば、その分餌を減らすなどしてコストを削減できます」と浜家氏。このようなノウハウは後継者への引き継ぎにも役立つはずだ。

本当に役立つ仕組みにしたい 利用者の視点でアプリケーションを開発

KDDI株式会社
ビジネスIoT推進本部
地方創生支援室 マネージャー

石黒 智誠

とはいえ、当初、ITとは縁遠かった浜家氏は使いこなせるか不安だったという。「導入検討時は、はっきりと『いやだ』『できん』と言っていました (笑) 」と浜家氏は振り返る。そこで、KDDIはデジタル化のメリットを説明するとともに、“利用者が使いやすいアプリケーションづくり”を行った。

「私たちの目的はお客さまの実業に貢献することであり、その実現には実際に使う人の意見が非常に重要です。スケッチブックに絵を描きながら、どんな画面だったら使いやすいか、どんな機能が必要かといったことを、畑中さん、浜家さんや他のプロジェクトメンバーと話し合いながら開発を進めました。画用紙を使ったアジャイル開発みたいなものです。完成したアプリケーションは、入力の手間を最小限にし、画面上には10基の生け簀が実際の配置どおりに並んでいます。生け簀をタップすれば、その生け簀に何匹の鯖がいて、餌をどれだけ与えたかなどが一目で分かるようになっています」とKDDIの石黒 智誠は説明する。

このような工夫のかいあり、浜家氏は「もう以前には戻れないですね。こちらの方がはるかに効率的です」とIoT実装を高く評価している。朝と昼、深さによる水温の違いなどのデータの見える化により、鯖の夏バテのような症状も明らかになり、それに応じて給餌を調整するなど、アナログでは見えづらかったさまざまなノウハウも蓄積されつつある。

伝統の鯖と最新のデジタル技術。一見、相反する2つの組み合わせで地域活性化を目指す小浜市。「漁業振興とともに、新鮮な海産物のイメージを発信して観光客誘致にもつなげていきたい」と畑中氏は話す。鯖街道の起点から、どのようなニュースが届くのか、今から楽しみである。

漁師の浜家氏が使いやすいよう、アプリの随所に工夫が施されている。