共創パートナーの選択が成功の鍵に 創業130年を誇る繊維会社(クラボウ)が新サービスを創り出せた理由とは

創業130年を超えた今もなお、新たな価値創造に取り組み続けているクラボウ。その一環として提供されているのが「Smartfit for work」だ。これは作業現場で発生する熱中症のリスクを見える化し、作業者の体調をAIとIoTで管理するウエアラブルシステムである。ここでは同社が新サービスを創り出した背景やそれまでの道のり、成功のポイントについて紹介したい。

社会的課題となっている熱中症に デジタルで挑む「Smartfit for work」

クラボウ
繊維事業部 事業推進部
副部長
藤尾 宜範 氏

1888年に創業し、昨年で130周年を迎えたクラボウ ( 倉敷紡績株式会社 ) 。繊維事業からスタートした同社の事業はこれまでに、化成品、エレクトロニクス、エンジニアリング、バイオメディカル、食品サービスなどへと拡大。創業事業である繊維事業部でも製品単体を提供するのみならず、繊維製品を通じた新しいライフスタイルの提案を目指している。

「当社の経営理念は『新しい価値の創造を通じて、よりよい未来社会づくりに貢献する』こと。その一環として、さまざまな形で新たなチャレンジも推進しています」とクラボウ 繊維事業部 事業推進部で副部長を務める藤尾 宜範氏は語る。

その代表例といえるのが「Smartfit for work」だ。これは、近年大きな社会問題となっている建設業などの作業現場での熱中症リスクを見える化して対策を促すサービスである。個人の当日の体調をAIとIoTで管理するウエアラブルシステムで、現場作業者のインナーウエアに組み込まれた生体センサーから、心拍や温度の生体情報や、加速度などを収集する。その情報と作業現場の気象情報を融合し、クラウド上の独自アルゴリズムで解析・評価を行い、その結果からリアルタイムでリスクを見える化する ( 図 ) 。

クラボウ
繊維事業部 事業推進部
事業化推進課
小川 敬太 氏

その特長は大きく3点ある。

1点目は、独自アルゴリズムによる高精度な評価だ。「暑さがもたらす熱ストレスだけではなく、作業の負担 ( 作業強度 ) も数値化して2軸で評価する独自アルゴリズムに基づき、暑さの影響と作業の影響の両方のリスクを融合しています。これにより高い精度を実現しているのです」とクラボウ 繊維事業部 事業推進部 事業化推進課の小川 敬太氏は説明する。

2点目は、個々人に最適化できること。個人の生体情報の解析とAIの自動学習により、普段の体調の平常範囲 ( しきい値 ) を設定する。これによって平常時の体調との差異を把握できるわけだ。

そして3点目が、リアルタイムでリスクを見える化できること。一目で分かるように工夫された画面から、管理者は作業者の「暑熱作業リスク」「体調変化」「転倒・転落の可能性」を遠隔からでも簡単に確認できるため、高リスクと判断された作業者への早めの対策が可能だ。作業者自身も自分の体調や消費カロリーなどを、スマートフォンで簡単にチェックできるようになっている。

同じ思いを共有できる パートナーと共創を推進

しかし、新サービスが実現するまでの道のりは、決して順風満帆だったわけではない。さまざまな「壁」を乗り越えていく必要があったからだ。

同社が、同サービスの検討に着手したのは2017年3月のこと。「当社が持つ製品や技術で社会的課題を解決できないかという考えの下、数多くの社会課題を調査しました。さまざまなアイデアを検討する中で、まずは熱中症対策をターゲットに取り組みを進めることになりました。ただ、アイデアはあるものの、必要な技術もサービス化のノウハウもありません。そこで社会課題を解決するというスタンスに共感し、各専門分野で強みを持つパートナーとともに創り上げるべきだと考えました」と藤尾氏は振り返る。

まず、医学的分析・データ解析評価、アルゴリズム構築に関しては、大阪大学が中心となって推進。センシングデバイスはユニオンツールが開発し、シャツの着用性向上と高機能化は信州大学とクラボウが共同で進めていった。また、IoTプラットフォームの実装はセックが担当。気象データの提供や予測モデルの指標作成では日本気象協会が参画している。さらにクラウドと通信を提供するパートナーとして、KDDIを選定した。

クラボウ
システム部
古庄 誠 氏

なぜKDDIをパートナーとして選定したのか。その理由について、クラボウ システム部の古庄 誠氏は、次のように語る。

「当部門は以前からKDDIの各種サービスを提供してもらっており、その際には、当社の部門の垣根を越えた提案もしてくれました。このようなプロジェクトには、1つの部門に閉じることなく、全社横断型の提案が必要となります。また、お付き合いの中でKDDIがトイレの空室管理など、AIやIoTを活用したさまざまな取り組みを進めていると聞いており、社会的課題を解決しようという強い姿勢も感じていました」

KDDI株式会社
ソリューション営業本部
ソリューション関西支社
法人営業3部
営業2グループ 主任
平井 友貴

それを受けKDDIでは、即座に提案に向けた検討を開始。高度な要望を短期間で実現するため、早い段階からKDDIの技術担当者を巻き込んでいった。

「お話を伺ったときは既にプロジェクトが動き出している状況にあり、一刻も早く対応することが求められました」と振り返るのは、KDDI ソリューション関西支社 法人営業3部 主任の平井 友貴だ。

迅速かつ真摯な対応を評価 KDDIは頼れるパートナー

クラボウ側で大きな懸念事項だったのは、大企業であるKDDIの“迅速な”対応だったという。「このような取り組みは当社にとって初めてであり、トライ&エラーを迅速に繰り返す必要があります。そのため、対応に時間がかかる企業とは組めないと考えていましたが、新しいテクノロジーやサービスをどんどん取り入れて、社会的課題の解決につながる価値を提供したいという思いに対し、KDDIは自社の多くの部門を巻き込みつつ、現場に足を運び、迅速な提案を繰り返してくれました」と藤尾氏は語る。

全くの新サービスの開発だけに、プロジェクトがはじまってからも、さまざまな課題、問題に対応する必要があった。特に開発においてポイントとなったのはユーザーインターフェースだったという。「ITになじみのないユーザーも考慮したとき、どうすれば簡単に分かりやすく表示できるのかを、リリース直前までKDDIなどにもアドバイスをもらい、検討や改善を重ねていきました」と小川氏は語る。その結果、直感的に分かりやすいダッシュボードや、グラフを多用した分かりやすいレポート出力機能を実現。また作業者のユーザー登録も、作業者のIDカードのバーコードをスキャンし、その作業者が使用する生体センサーの2次元コードをスキャンするという、わずか2ステップで行えるようにした。

生体センサーと接続するスマートフォンをどう提供するかも大きな課題となった。これに関してはKDDIが安価なモデルを提供し、それをクラボウから顧客に貸し出すという方法を採用している。

「サービス利用を短期間で拡大するには、低コストかつ利便性の高いアプローチが必要だと考えました。そこで複数の手法のコストとメリットを徹底的に比較した上で、このような提案を行いました」 ( 平井 )

実際に建設現場などに導入したときに、電波が届きにくいというケースも生じた。このような場合にもすぐにKDDIが対応。即座に調査を行い、迅速に解決策を提示したという。

「お客さまから問い合わせを受けるコールセンターに関しても、具体的にどのような機能が必要なのか、そもそもどのようにお客さまに接するべきなのか、ということについて、コンシューマビジネスを長年経験しているKDDIから提案をいただきました。KDDIは本当に頼れるパートナー、何かあっても平井さんに相談すればなんとかなる、という安心感があります」 ( 小川氏 )

熱中症以外の社会的課題解決にも KDDIとの共創で貢献したい

同サービスの販売を開始したのは2018年5月、この年だけで既に20社が契約しているという。問い合わせも数多く寄せられており、今後さらに利用企業が増大していくと見込まれている。導入企業の中には作業現場の熱中症への予防意識が向上し、効率的に対策を行うことができた、という実績もあり、同サービスの導入効果が確かなものであることがうかがえる。さらにユーザー企業へのヒアリングを基にした機能の拡充も進められている。その1つが、日ごろの体調管理への対応だ。これに関しては2019年夏にモニターテストを行い、2019年度中に実用化する計画だという。

また最近では、人手不足に対応するためにスマートファクトリーに取り組んでいる企業も増えており、作業効率を定量化するための手段として同サービスを活用したいという声もあるという。こうしたニーズへの対応にも既に着手している。

「今後は現場作業者だけではなく、さらに適用領域を拡大していきます。例えば近年は、学校での部活動中や高齢者の熱中症も大きな問題になっており、これらの防止にも同サービスは適用可能だと考えています」と藤尾氏は語る。

同社が推進する社会課題の解決に向けたイノベーションはこれだけにとどまらない。さらにSmartfit for work以外の取り組みも積極的に進めていく予定だ。「そうした領域でもKDDIとWin-Winの関係を持ちながら、社会課題の解決に貢献していきたい」と藤尾氏。既に同社は新たなイノベーションの創出に動き出している。

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