テレワーク全社導入から見えた社内に「新しい文化」を定着させるためのポイント

2020年2月、新型コロナウィルス感染拡大を受けて、多くの企業は働き方の変更、特にテレワークの導入を余儀なくされた。4月7日の緊急事態宣言発令によって、その動きがさらに加速するなか、社内でのさまざまな障壁からテレワークの導入が遅れる企業も目立ったが、KDDIは2月の時点でおよそ一万人の社員がテレワークを実践できる環境を整えていた。およそ15年前からテレワーク推進に取り組むKDDIは、いかにしてテレワークの基盤を築き、実行に移すことができたのか。働き方改革・健康経営推進室 働き方改革グループの野澤 和寛と宮原 陽一に話を聞いた。

コロナ禍で約1万5000人の従業員がテレワーク導入

日本で新型コロナウィルスが猛威を振るい始めた2020年2月、都内でも各種イベントの中止や飲食店・商業施設の休業が相次ぎ、外出自粛ムードが高まった。そこで注目を集めた働き方が「テレワーク」である。本来はワークライフバランスや生産性向上に重きを置いた働き方だが、感染拡大防止対策としても効果を期待され、大企業や中小企業を問わず、社員にテレワークを推奨する動きが一気に広がった。

それはKDDIも例外ではなかった。2月18日から、派遣社員を含む全従業員にテレワークや時差出勤を推奨。従業員約1万5000人の多くがテレワーク勤務となり、緊急事態宣言以降は、毎日約9割の従業員がテレワークを実践した。

KDDI株式会社
働き方改革・健康経営推進室
働き方改革グループ 課長補佐
宮原 陽一

「全社的なテレワーク実践への動きはじつにスピーディでした。テレワークの環境づくりや社内理解が進んでいましたので、あとはシステム開発チームと連携して、多くの社員が同時にテレワークを実践しても耐えられるようサーバーの増強やセキュリティ対策を整えるだけでした」と、働き方改革グループの宮原 陽一は振り返る。

例えば、テレワーク実践を阻害する要因としてあげられることの多い社内決裁について、KDDIでは2003年にすべて電子化していた。専用のシステムを用いることで、上長は自宅にいながらにして決裁を行うことができる。

たった5人から始まったテレワーク

KDDIの従業員がスムーズにテレワークを利用できたのは、15年前からテレワークに取り組んでいたことが大きく寄与している。さらに働き方改革の全社推進に伴い、年々テレワークの活用促進に力を入れてきた。

テレワークを推進し始めた2005年、当時はまだ名称を「在宅勤務制度」としていた。制度の立ち上げは、ある女性社員がきっかけだったという。

「とても優秀な女性社員が出産・育児のために退職せざるを得ない状況になりました。しかし、本人はまだまだ働く意欲があり、彼女が抜けてしまうのは会社としても痛手だった。さらに、そういうケースが、社内で他にもあるかもしれない。ならば、在宅でも働ける環境を用意すればいい。個別対応ではなく、制度化して利用者の間口を広げようと考えました」と宮原は振り返る。

開始当初は5人ほどが利用した。その後も推進活動に地道に取り組み、2009年に制度を拡充。育児や介護といった特別な事情がない社員でも利用できるようにしていった。

「通勤は体力的・精神的にも消耗しがちです。テレワークによって通勤をはじめとした各種負担を解消・軽減できれば、業務におけるパフォーマンスの発揮につなげていくこともできますし、ひいては、会社全体の生産性向上につなげていくこともできると考えています。また、弊社のテレワーク制度は、個人でタイムマネジメントしてもらう “事業場外みなし労働”を採用しています。これにより、社員の自立性も養われるというメリットも期待できます」(宮原)

社内の反発と「体験」してもらうことの重要性を実感

しかし、利用者の拡大は順調とは言えなかった。同僚や上司と直接顔を合わせる機会が少なくなるテレワークでは、コミュニケーション不足に陥るのではという懸念があったのだ。また、上司からすると部下が何をしているのか把握しにくく、人によっては「サボっているのでは?」という疑念が生まれるなど、マネジメントに不安を覚える人もいた。このようなネガティブなイメージを払しょくしきれないことが、テレワーク導入を妨げていたこともあったという。

そのような中、転機になったのが2011年。宮原いわく「東日本大震災によって通勤困難な状況下に陥る中で、事業を継続するためにテレワークせざるを得なくなった」ため、2000人規模のテレワーク環境を整備。間をおかず、1万人規模に拡大した。

さらには2017年、KDDIは働き方改革の推進に着手。テレワークはその有効なツールとなると考え、社内でのテレワーク活用拡大を推進することとした。テレワーク活用を大きく加速させたのが、「テレワーク・デイズ」である。総務省や厚生労働省、経済産業省などと連携して展開する働き方改革の取り組みで、東京オリンピック・パラリンピックの開催を視野に入れて2017年より毎年実施されており、参加企業の社員がテレワークを“体験”する。KDDIはこの「テレワーク・デイズ」に特別協力団体として参画。2017年に1000人、2018年は2000人と参加社員を増やしていき、2019年には約6200人に達した。

「強制的にではありましたが、実際にテレワークを体験すると『やってみると意外とよかった』『仕事がしやすかった』というポジティブな反応が多くありました。この時に、メリットなどを言葉だけで説明するよりも、体験してもらうことのインパクトを実感しましたね。それ以降、体験してもらう機会を積極的につくるようにしてきました」(宮原)

2005年と早期から環境づくりをスタートし、時間をかけて着実に広げてきたテレワーク実践の気運。それが、昨今の働き方改革の流れを受けて一層加速した形だ。

社内を巻き込むために、波及効果の高い部門へアプローチ

テレワーク・デイズで意識的に取り組んだのが、所帯の大きい部門への個別フォロー。先の震災などとは異なり強制的にテレワークをしてもらうことは難しいため、全社の実施率を高めるために工夫したことのひとつだという。一律に参加を呼びかけるだけでなく、波及効果の高い部門を巻き込み、全社を動かすことを狙ったのだ。

また、実施後は参加者へのアンケートを行い、有効性をデータとして可視化することでテレワーク導入のメリットを説得する材料として活用している。実際に2019年のアンケートでは参加者の9割が「今後も続けたい」など前向きな意見を示しているという。

4つのポイントは、テレワークの活用促進のみならず、DX推進全般に活かすことができそうだ

実際に体験してもらうことで、想定していた課題が意外と大きなことではないと気づいたり、想像していなかったメリットを発見してもらったりすることができる。また、体験してもらったからこそ解決すべき課題が明確になる。

例えば、同僚や上司と直接顔を合わせる機会の少ないテレワークは、業務の進捗状況や問題点などをチーム・部署内で共有しにくく、場合によっては連帯感が損なわれやすい。そこから、どうしてもネガティブな先入観が生まれ、テレワーク実践の妨げになるケースもある。

「たしかにコミュニケーションを不安視する人は多いです。業務や業種によっては、導入が難しい部門もあるでしょう。課題のある部門に対しては、無理のない小さな業務範囲から実践するよう働きかけています。例えば、週に一度、オンラインミーティングの時間を設けるとか。実際に不便を感じるようなら、また別の策を練ればいいんです」(宮原)

また、テレワーク自体は目的ではなく、重要なのはテレワークを含めたよりよい働き方を考えることだと、宮原は話す。

「テレワーク・デイズのアンケート結果を受けて在宅勤務が働き方の選択肢の一つになり得ることは示されましたが、テレワーク一辺倒というわけではなく、メリット・デメリットを踏まえて推進活動を進めるべきですし、そういった働き方の多様化を模索していかなければと考えています」(宮原)

実践者だからこその説得力が改革を支える

働き方改革・健康経営推進室のメンバー同士は、WEB会議システムに常時接続し、連帯感を持ってテレワークを行っている

働き方改革をミッションとしつつも、理想だけに縛られずに現実的な解を出せるのは、宮原をはじめとした、働き方改革・健康経営推進室の面々がテレワークの実践者だからなのかもしれない。

所属メンバー70人のうち、同じオフィスに出社する人は半分に満たない。残りは、北は北海道から南は九州まで全国各地に拠点を置き、テレワークで日々の業務に取り組んでいる。

各人の作業風景は、WEBカメラを通じて互いに共有されており、タブレットやパソコンを通じて作業音や雑談まで聞こえてくる。

「業務を開始したら、画面に映っている同僚たちに『おはようございます』と言うのが私たちのルールです。一日の業務を終えるときは『お疲れさまでした』。ときには画面越しに雑談することもあります。オンライン上に仮想のオフィスがあるイメージですね」(宮原)

ある部門では、WEB会議システムに常時接続してテレワーク利用者とオフィスをつないだが、「監視されている」という気持ちが働き、居心地の悪さを感じている人がいたという。この点について、今春から働き方改革・健康経営推進室に異動してきたばかりの野澤 和寛は「アプローチ次第でとらえ方は変わる」と話す。

「働き方改革・健康経営推進室はテレワークが当たり前の基盤が整っており、実際に業務も滞りなく進んでいます。テレワークの効果を知る仲間たちが互いに信頼関係を築けていれば、それは“監視”ではなく“連帯”です。働き方改革・健康経営推進室でも導入当初から上手くいっていたわけではないと聞いていますが、あいさつの習慣や雑談できる雰囲気づくりなど地道な改善があったからこそ、いまの働き方ができているのだと思っています。体験してもらうことで各部門でも明確な課題が出てきているので、改善策を提案しながら全社的な広がりを後押ししていきたいですね」(野澤)

テレワーク導入は完成していない。次の課題を克服しながら改善を繰り返す

KDDI株式会社
働き方改革・健康経営推進室
働き方改革グループリーダー
野澤和寛

ただし、テレワークの導入および実践が順調に進んでいるように見える一方、テレワーク勤務における評価については課題がある。上司が部下を直接チェックできる従来の働き方であれば、成果だけでなく業務への意気込みや勤務態度といった定性的な要素も評価基準に加えることができた。ところが、テレワークではそうもいかない。

「プロセス以上に成果を重視する評価制度が必要になってきます。しかし、成果が目に見えにくい部門もあるため、画一的にあてはめようとすると綻びが生まれてしまうでしょう。さまざまな部門と意見を交わして、慎重に検討していくことが重要と感じています」(野澤)

15年前、5人の利用から始まったテレワーク制度。KDDIは、6月以降も多くの社員が継続的にテレワークを実施している。テレワークの推進には、ときに反発を受けながらも小さな成功を重ね、社内に新しい文化を根づかせてきた。

大きな組織を動かすには、小さく始めつつ、キーマンを中心に社内を巻き込みながら、明確な成果とともに社内全体に広げていくことが重要である。今回の働き方改革グループの取り組みは、テレワークに限らず、昨今注目を集めているDX(デジタルトランスフォーメーション)などの新しい取り組みに対して示唆を与えてくれる。

今回の取材はリモートで実施

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