次世代ネットワーク「SD-WAN」の提供開始
デジタルトランスフォーメーションの推進においては「クラウド上のサービスやデータ活用」が前提となっていく中で、ネットワークに求められるものも大きく変わり始めている。そうした中でKDDIはいかにして通信事業を通じた価値提供を実現していくのか。ソリューション事業本部の藤井彰人、梶川真宏の2人に聞いた。
※ 記事内の部署名、役職は取材当時のものです。
藤井 彰人
—企業の存続をかけた喫緊の課題が、デジタルトランスフォーメーションの推進です。成功のカギは何でしょうか。
藤井 まず、デジタルトランスフォーメーションで欠かせない視点が、継続的に変化に対応し続けることです。変化のスピードがますます加速していく中で、将来を正しく予測することは困難です。最初から正解を作ることを目指すのではなく、将来的な進化を前提とした取り組みが求められます。従来のビジネスの進め方や発想から、そのやり方自体をトランスフォームする必要があります。
そこでポイントとなるのが2つ。企画開発手法の転換とクラウドの徹底的な活用です。従来のようにビジネス部門が発注する側、IT部門が受注する側という立場でなく、ビジネスとITが1つのチームになり、切磋琢磨しながらトライ&エラーを繰り返し、最適解を導いていく。こうした企画開発手法で、ビジネスの変化に迅速に対応していくことが肝要です。そのためにはクラウド型、つまりITを従量課金のような形式で活用することが必要です。所有を前提とするITインフラへの高額な投資ではなく、利用した分だけ払えばよいクラウドをベースにすることで、高速なトライ&エラーが実現できます。
—すでに実践が始まっている動きを教えてください。
藤井 世界の潮流を見ても、急成長を遂げたUber、Netflixといったスタートアップ企業だけでなく、重厚で長大型企業のイメージが強かったGEもいち早く企画開発手法の改革に取り組み、今やデジタルトランスフォーメーションの成功企業の代表的存在に位置付けられています。当社でも、「auでんき」の電気使用量や利用料金をチェックできる「auでんきアプリ」はアジャイル企画開発手法の実践とAWS (アマゾン ウェブ サービス) の活用により、開発期間の大幅短縮と低コスト化を実現しました。
デジタルトランスフォーメーションはクラウド上のサービスやデータを組み合わせて活用することが大前提となります。そういったクラウドやデータをつなぐためのネットワークをどう構築するか。その在り方を考えるべき次のステージに突入しています。
—クラウドの浸透で、企業のネットワークにどのような課題が生まれてきているのでしょうか。
梶川 企業のネットワークにおけるクラウド活用の加速で、インターネットを経由する通信が急速に増加しています。さらにスマートフォンとクラウドアプリケーションを使った業務の増加も重なった結果、現在ではインターネットの“渋滞”現象が発生しています。帯域が確保された専用回線と異なり、インターネットは帯域をシェアするものです。自動車でいえば、走行車両が増えれば道路が混むというような現象が起きます。特定のアプリケーションのアップデートが集中的に発生し、急激にトラフィックが増大することで、企業のネットワークが快適に使えなくなることが実際に起こり始めています。
—インターネットにつながる機器が増えるほど、遅延現象が起きるわけですね。
梶川 こうした遅延現象は、明らかな通信障害と異なり、いわば“サイレント障害”、すなわち検知ができず、通信障害として扱われてきませんでした。しかし、デジタルトランスフォーメーションによりインターネット上のクラウド活用が加速する中、ネットワークの品質を安定的に維持できないことはビジネスそのものが止まることを意味します。
梶川 真宏
ネットワークの形態も変化を迫られています。当初、企業の通信は企業の拠点間で行われる“分散型”だったのが、最近まではデータセンターに通信を集約する“集中型”へとトレンドが変わっていました。現在、モバイルでの業務が当たり前となり、モバイルから直接インターネットにつながるケースが増加しています。加えてクラウド化の浸透により、各拠点がIT部門の管理するデータセンターを経由せずにインターネットへつながる流れも起きており、ネットワークは改めて “分散型”へ変容しつつあります。そうした変化の中で、すべてのネットワークリソース、インフラを勘案した上で、どう安定性を担保し、十分なパフォーマンスを確保していくかも考慮しなければなりません。
—次世代のネットワークに向けた、KDDIの戦略をお聞かせください。
梶川 デジタルトランスフォーメーションを支えるネットワークの新たな価値として、当社ならではの強みを生かした「SD-WAN」 (Software Defined Wide Area Network) サービスを2017年12月にスタートします。
「SD-WAN」とは、ソフトウェアによって仮想的なネットワークを作る技術、コンセプトの総称です。固定・モバイル、インターネット・閉域網を組み合わせ、それぞれの良さを生かしたネットワークを作ることが可能です。
これには3つの特長があります。1つ目は、トラフィックの可視化と運用負荷の削減です。アプリケーション単位の監視が可能となるため、アプリのアップデートによって急激なトラフィック増加が発生した場合でもその原因をいち早く把握することができます。従来は、原因の切り分けに時間を要しましたが、原因特定が容易になることで、運用負荷を削減可能です。
2つ目は、こうした可視化により、クラウド化によるトラフィックの増大に応じて、最適なネットワークを柔軟に設定できることです。クラウドの活用が進むことによるトラフィックの増大は避けて通れません。「SD-WAN」によって、ネットワーク上の渋滞を把握し、最適なルートを選ぶことが可能となります。通常はインターネットを使いつつ、混雑時のみモバイルで抜け道 (バイパス) を即時開通し、渋滞解消後は即撤去するといったことも実現できることを目指します。
3つ目の特長は、今後も成長していくサービスである、ということです。ソフトウェアを基にしたサービスなので、今後も機能のアップデートを継続的に行い、サービスをブラッシュアップさせていきます。また、AWSや Google Cloud Platform といったグローバルベストなクラウドサービスと連携可能であり、お客さまの求めるクラウド環境に合わせたネットワークを構築できます。お客さまがクラウドを利用される際には、「SD-WAN」をお選びになるのが一番良いと考えております。
—ネットワークの在り方が大きく変わる中、いかにKDDIとしての価値をお客さまに提供していくのでしょうか。
藤井 冒頭でデジタルトランスフォーメーションのキーワードとして、クラウドの活用、企画開発手法の転換の2つを挙げました。加えて3つ目のカギとして、取り組みを持続的な成長につなげていくには、“右腕”となるパートナー企業選びも重要なポイントです。
デジタルトランスフォーメーションと口で言うのは簡単ですが、サービス提供者自身が継続的な改善に対応できなければ実現できません。アジャイル型と言うと格好よく聞こえますが、要はひたむきにお客さまに寄り添い、継続的に課題を一緒に解決していくことです。当社が掲げる「お客さま視点」と「革新」を両立していく上でも、現場主義にこだわり、新たな手法とテクノロジーでお客さまの事業に貢献することが我々のミッションだと捉えています。
このために、サービスの進化はもちろん、必要なアライアンスや出資は今後も継続していきます。クラウド専業ベンダーである「アイレット社」、IoT通信プラットフォームを提供する「ソラコム社」がKDDIグループに加わり、通信だけでなくデジタルトランスフォーメーションを支える新たなテクノロジーも我々からお客さまに届けていくことができます。今後もお客さまとともに成長しながら、通信サービスを超えて、ネットワークを通じたあらゆる価値の提供に全力を尽くして参ります。