デジタルトランスフォーメーションに取り組む先進的な企業は、既に組織やテクノロジー、顧客体験の変革に着手し、新たな価値創造を開始している。
その取り組みは、これまでにない挑戦となるだけに、決して容易なものではない。特に重要となるのが、事業戦略からPoC(概念実証)、マネタイズ(収益化)まで一貫した『ビジネスデザイン』を描けるビジネスパートナーの存在だ。デジタル戦略を成功に導くために、どのような観点からビジネスパートナーを選ぶべきなのだろうか。
──今デジタルトランスフォーメーションへの対応が、企業の盛衰を左右する重要な要件となりつつあります。その背景にはどのような環境変化があるのでしょうか。
立松 国内の経済が停滞局面に入る中、日本企業は少子化による労働力人口の減少や設備稼働率の低下といった課題に悩んでいます。それらの解決にデジタルの力が有効ではないかという期待が高まってきたのです。従来は課題解決にテクノロジーが追いつかない状況でしたが、IoTやAI、データアナリティクスなどの進化によって課題解決の実現性が飛躍的に高くなっています。それがデジタルトランスフォーメーションへの注目が急速に集まってきた要因の1つだと思います。
桑原 デジタルトランスフォーメーションの重要な要素の1つに顧客体験価値の向上があります。近年のテクノロジーの発達で、企業が提供できる顧客体験価値が一定のクオリティを超えたことも大きいと思います。顧客との関係性を維持し、収益を向上させるためのプロセスやコストが、デジタルによって革新的に変化してきたのです。
新しい顧客体験価値を消費者側も求めている。それが実現できる技術も成熟してきた。その期待にこたえることができない企業は必然的に淘汰されていく可能性が高いでしょう。
桑原 康明
デジタルトランスフォーメーションはもはや『流行』ではなく『企業経営の戦略的な手段であり基盤』。企業さまへのご支援を通じて、ともに日本を元気にしていきたい。
──それではデジタルトランスフォーメーションの推進に当たり、経営層はどのような点に注意して事業戦略に取り組んでいくべきでしょうか。
桑原 デジタルトランスフォーメーションは、さまざまなデジタル技術を柔軟に活用しながら企業全体を変革させていくプロセスそのものです。スマートデバイス等の普及により、一般消費者からビジネスパーソンまで、デジタルにおける体験価値の創造が企業における重要な課題になりました。これまで“モノ”や“技術”を届けることが重要であった時代から“コト=顧客体験価値”の時代へと大きなシフトが起きています。
立松 デジタルトランスフォーメーションを実践するためには、業務プロセスやコスト、顧客体験価値などをこれまでとは全く異なる発想で再定義していかなければなりません。言うなれば自社内で大変革を起こしていくわけです。その過程では1つの事業部門を廃止したり、かつての成功体験を否定したりするような、痛みを伴う変革になるかもしれません。
また、常に進化し続けるデジタルテクノロジーを自社に取り込み、応用していけるような人材育成も図らなければなりません。そのため、デジタルトランスフォーメーションは自社だけで推進することが難しく、外部のパートナーが必須とされているのです。もちろん、その推進を支えるビジネスパートナー側も再定義されることになるでしょう。
──デジタルトランスフォーメーションを支えるビジネスパートナーに求められる要件とは、何でしょうか。
立松 博史
業務プロセスや顧客体験価値などを、業界の常識に囚われない、新しい発想で再定義をしなければ、真のデジタルトランスフォーメーションは実現できないのです。
立松 著名な調査会社である、IDC Japanは『デジタルトランスフォーメーション実践にはパートナーが重要』であり、『ケイパビリティ・成果志向・共創力の3つを兼ね備えたパートナーが望ましい』と提言しています。
『ケイパビリティ』とは企業が持つ組織的能力や強みのことで、顧客企業のデジタルトランスフォーメーションをIT面だけでなく戦略面、ビジネス面でも支援できるかどうかの総合力を指します。『成果志向』は、戦略立案やPoC段階で終わるのではなく、最終的に事業が軌道に乗りマネタイズできるまで支援できるかを示しています。『共創力』とは、顧客と一緒に新サービスや新市場を共創し、エンドユーザーに新たな顧客体験価値を提供できるようなポテンシャルを指すものだと理解しています。
──それぞれ非常にハードルの高い要件となりますね。
桑原 どれもデジタルトランスフォーメーション戦略を成功に導くには欠かせない要件だと思います。さらに言えば、革新的なビジネスモデルをデザインする力も必要でしょう。ただし、ビジネスモデルの創造は決して容易なことではありません。というのも幅広い事業ドメインの知識やノウハウ、経済圏、顧客基盤を持っていることがその前提として求められるからです。
私たちKDDI デジタルデザインは、そうしたデジタルトランスフォーメーションの現実解を提供するために、これまでもさまざまな形でお客さまの事業戦略を支援してきた野村総合研究所(NRI)とKDDIの両社が持つケイパビリティを凝縮し、それぞれの強みをフルに活用することで、お客さまのデジタル変革のパートナーとなるべく設立した会社です。
──両社の持つ『強み』とは具体的に何を指すのでしょうか。
桑原 KDDI デジタルデザインはビジネスとデータアナリティクスの緊密な連携を強く意識しています。戦略課題と仮説の設定から、システム構築とデータ分析、そこからのインサイトと新たな課題発掘までの一連のサイクルを回すことがデジタルトランスフォーメーションには必要と考えているからです。
NRIには、幅広い企業のビジネス進化を支えてきた戦略コンサルティング、システムインテグレーション力があります。一方、KDDIには法人・個人を合わせて5,000万契約を超えるお客さま基盤(法人企業契約:数十万社を含む)とネットワーク技術、IoTのノウハウ、そして決済・保険・金融・物販・電力といったライフデザインサービスを構成する『au経済圏』があります。
これらをお客さまに一体的に提供することで、将来のデジタル変革のビジョンを描くだけでなく、目の前にある経営課題をデジタルで着実に解決し、新たなサービスやエンドユーザーへのまったく新しい顧客体験価値を共創し、マネタイズまでをトータルにサポートすることができるのです。
例えばKDDI デジタルデザインが行うPoCでは、au経済圏を活用し、新たなサービスをリアルな経済圏で展開したらどうなるか、どのような価値を生み出せるかを具体的な形で検証できます。その結果、エンドユーザーのフィードバックを反映させ、実ビジネスへ展開させることが可能になります。au経済圏にはさまざまな業種のお客さまがいらっしゃいますから、新しいビジネスパートナーとのマッチングや、他の経済圏をまたいだ連携なども実現できます。そうすることで自社以外のデータとつながり、新しい顧客体験価値を生み出せる、これは皆さんもご理解頂いていると思いますが、残念ながら自社以外のデータにアクセスできる企業は多くありません。au経済圏を持つKDDIがビジネスモデルを展開する場を提供し、NRIが豊富な戦略コンサルの知見をもとに、データとセキュリティに関して重要な役割を果たす。この強みが多くの企業様に大きなベネフィットをもたらすはずです。
立松 デジタルトランスフォーメーションは最終的に収益を上げることにつながっていかなければなりません。ところがPoCより先に進まないケースが少なくないのが現状です。それは、データを集めて分析する部分だけが独立してしまい、分析や検証結果がビジネスに接続できていないからです。その点、私たちはデジタルトランスフォーメーション戦略の策定からPoC、その実現までを、各フェーズにコンサルタントやエンジニア、データサイエンティストといった専門家を配置して、マネタイズまで一気通貫でサポートしますので、デジタルトランスフォーメーション戦略のシナリオを中断させることがありません。まずは足下の小さな変革からデジタル活用の経験と効果検証を積み上げ、従業員の意識改革やスキルの醸成を図りながら、お互いに成長することでビジネスと人材を合わせて共創していく。そしてより大きなテーマにつなげていくといった短・中・長期的なシナリオも用意し、お客さまに最適なデジタルトランスフォーメーションを実現していきます。
──最後に、デジタルトランスフォーメーションに挑戦しようとしている企業の皆様にメッセージをお願いいたします。
立松 新しいビジネスモデルによる価値創出を展開するには、カスタマー・セントリック(顧客中心主義)の観点からも、国内外のさまざまな経済圏を連携させたサービスやエコシステムを提供していかなければなりません。当社はその役割を担える数少ない企業だと自負しています。お客さまにはぜひ、デジタルトランスフォーメーション戦略の最終的なゴールを見据えたパートナーとして当社にご用命いただきたいと思います。
桑原 日本にはもともと、『おもてなし』という言葉があり、お客さまを大切にする、お客さまの要望を叶えるために努力するという意味で、日本人は顧客体験価値に対して非常に高い意識を持っていると考えます。その顧客体験価値の向上がデジタルトランスフォーメーションの中核だとすれば、日本はグローバルに見てもかなり有利なポジションにいるのだと思います。デジタルトランスフォーメーションはもはや『流行』ではなく『企業経営の戦略的な手段であり基盤』。そのことをぜひご理解いただき、お客さまとともにデジタルトランスフォーメーションで日本を元気にしていきたい。それが私たちの想いです。