2020年2月4日~5日にかけて、KDDI株式会社と東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)、株式会社プロドローンの3社は、「スマートドローン」を活用した線路設備点検の効率化に向けた実証実験を実施しました。
今回の記事では、従来の線路設備点検作業でどのような問題点を抱えていたのか、それを解決するためにどのような実証実験が行われたのかについて詳しく紹介します。
通勤や通学に欠かせない電車をダイヤ通りに運行するためには、車両だけではなく線路の安全点検も必要不可欠です。定期的な線路の点検作業はもちろんですが、万が一災害や事故などが発生して異常を検知した場合、現地に急行して目視によって異常箇所を点検しなければなりません。しかし、これを実現するためには多くの時間を要することに加え、点検にあたる作業員を確保しなければならず、鉄道会社にとって大きな負担となっていました。
そこで線路設備点検作業のために作業員を現地に派遣するのではなく、自律飛行可能なドローンを活用し、無人での点検や状態確認を可能にすることを目標とする3社合同による実証実験が行われました。
今回行われた実証実験の概要と各社の役割、使用された「スマートドローン」の詳細について解説します。また、この実証実験は「モビリティ変革コンソーシアム」の活動の一環として行われました。
本コンソーシアムは、国内外企業や研究機関などとのオープンイノベーションによるモビリティ変革の実現を目的とし、JR東日本によって設立された団体です。
今回の実証実験は大きく分けて2つの内容に分かれます。
200mにわたる線路設備上を、20mの高度を維持しながらドローンを自律飛行で往復させ、ドローンに搭載されたカメラで線路の様子を撮影(空撮)します。
ドローンで撮影した映像データをLTE通信網によって遠隔地の係員のもとに伝送し、係員はタブレットPCにインストールされた専用アプリで、ドローンの飛行状態や映像を確認することができます。
今回の実証実験で使用された「スマートドローン」は、KDDIのモバイルネットワークを活用しながら、広範囲なドローンの自律飛行を可能にするソリューションです。
従来のドローンはWi-FiやBluetoothなどのネットワークを 活用した通信を行うため、半径数百m~数km程度までの範囲しかカバーできず飛行エリアが限定されますが、「スマートドローン」の場合はモバイルネットワークを活用することにより、遠く離れた場所からでも制御が可能となり、より安全なドローン飛行を実現します。
ドローンの自律飛行は単に機体を提供しただけで実現するものではありません。飛行ルートの設定や上空や付近の障害物などを避けるために役立つ3次元地図、飛行状況を確認し制御する運航管理、飛行中に収集した情報をネットワークによって共有するクラウド設備が揃ってはじめて機能するものです。これらをひとつのパッケージとしてKDDIでは「スマートドローンプラットフォーム」という名称で提供しています。
今回の実証実験によって、線路設備の上空20mという高度を維持しながら、200mにわたってドローンの安定飛行が可能なことを証明しました。またLEDライトを搭載することにより、夜間でも線路設備の状況をカメラ映像で目視確認することにも成功しています。
安定した飛行精度は、点検の際に線路設備を撮影フレーム内に捉え続けるためにも不可欠な要件です。
また、撮影した映像データをLTE回線で遠隔地に伝送できることを確認すると共に、ドローン飛行時の騒音やLEDライト照射時の照度など、実際の運用を想定したデータ収集も並行して行われました。
多くの時間と人員を要する線路設備点検ですが、今回の実証実験によってスマートドローンを活用すれば昼夜を問わず遠隔地の係員へ映像伝送が可能なことが実証されました。
線路設備内におけるドローン飛行精度の検証
ドローン空撮映像(夜間)/通信品質の検証
KDDIとJR東日本、プロドローンの3社は、今回の実証実験によって得られたデータをもとに、「スマートドローン」および「スマートドローンプラットフォーム」を活用した線路設備点検作業の内容や要件をさらに詳細化した後、さまざまなユースケースについて検証し、実運用の開始に向けて取り組んでいく予定です。
またKDDIでは、線路設備点検以外の用途においても様々なお客さまのニーズに対応するため、スマートドローンプラットフォームを活用した新しい体験価値を創造していきます。