東日本旅客鉄道 (JR東日本) とKDDIは、「交通」と「通信」という二つの社会インフラが融合した「分散型まちづくり」の共同事業化に向けて動きだした。その狙いと、両社がプロジェクトに込める思いについて、JR東日本 執行役員 事業創造本部 副本部長の表輝幸氏と、KDDI 執行役員 ソリューション事業本部 サービス企画開発本部長の藤井彰人に聞いた。
ダイヤモンド・オンライン 20210210 <PR>
―― 両社で取り組む「空間自在プロジェクト」が動きだした経緯と、プロジェクトの概要について教えていただけますか。
表 輝幸氏
表氏 新型コロナウイルスの感染拡大により、生活スタイルや働き方が大きく変化しました。時間や場所にとらわれない働き方やくらしが日常化したことで、従来のような拠点集約型の社会から、分散型社会への大転換が起こり始めています。
JR東日本とKDDI様は、その変化に対応し、両社が強みとする交通のリアルネットワークと通信のバーチャルネットワークを融合させて、都市部と都市周辺や日本各地のサテライトシティーが一体となって機能する分散型まちづくりに取り組むことにしました。どこにいても心豊かに生きられる、ヒトを起点とした「空間自在」の生活スタイルや働き方の実現を目指します。
都市部のモデル地域として、山手線の高輪ゲートウェイ駅を中心に開発を進めている「品川開発プロジェクト」(区域面積約13ヘクタール)を選定しました。JR東日本が「100年先を見据えた心豊かなくらしづくり」を目指し、2024年度に第I期のまち開きを予定している事業ですが、この開発をKDDI様と共同で推進します。
さらに、都市周辺とサテライトシティーの開発については、2021年春以降に、東京と神奈川、埼玉、千葉エリアを対象として、多拠点とつながる分散型ワークプレイスのトライアル拠点を開設し、実証実験を順次実施します。
また、新幹線車両の一部をリモートワーク推奨車両とし、該当車両内に通信回線を提供することで、オフィスと同じ働き方の実現を目指す実証実験も2021年2月に開始しました。
――プロジェクトにおける両社の役割はどのようになっているのでしょうか。
藤井 「品川開発プロジェクト」におけるオフィスや住宅、商業施設、ホテル、教育・文化施設など、リアルな空間づくりはJR東日本様にご担当いただきます。新幹線のリモートワーク推奨車両のような、都市部と都市周辺、サテライトシティーを結ぶリアルな交通ネットワークの整備についても同様です。
一方でKDDIは、5G(第5世代移動通信システム)やIoTなどの先端通信技術を駆使し、都市部におけるバーチャルな空間づくりや、都市部と他の空間とを結ぶ通信インフラの構築、サービスの実装などを支援します。リアルとバーチャル、交通と通信という両社の強みを持ち寄り、時間や場所にとらわれない働き方やくらしを創出することを目指しています。
例えば、JR東日本様は「品川開発プロジェクト」で、街区内の移動をサポートするパーソナルモビリティーや自動配送ロボットなどのモビリティーサービス、高輪ゲートウェイ駅と周辺エリアを結ぶラストワンマイル・モビリティーサービスの提供を検討しており、これらのサービスを5GやIoTの技術でサポートしていきます。
藤井 彰人
――今回の共同プロジェクトで、JR東日本はなぜパートナーとしてKDDIを選んだのでしょうか。
表氏 JR東日本は、2018年に10年後を見据えたグループ経営ビジョン「変革2027」を策定しました。人口減少や自動運転の実用化など、鉄道事業を取り巻く経営環境は急激に変化しています。これまでの延長線上での発想、行動では変化に適応できないため、「鉄道を起点としたサービス提供」から、「ヒトを起点とした価値・サービスの創造」に転換し、新たな成長戦略を果敢に推進していくことにしました。
そこに新型コロナウイルスの感染拡大が起こり、変化のスピードは一気に加速しました。これまでも、グループ経営ビジョンに沿って「品川開発プロジェクト」などを進めてきましたが、急激な変化に対応するためには、さらにスピードを上げて、よりレベルの高いところを目指さなければなりません。
鍵を握るのは、時間や空間にとらわれない働き方やくらしの実現であり、そのためには5GやIoTを活用したバーチャルネットワークやサービスの実装が不可欠です。それを力強く支援していただけるパートナーとして、KDDI様に協力をお願いしました。
藤井 KDDIとしても、非常にワクワクするお話でした。「品川開発プロジェクト」では、約13ヘクタールにも及ぶ広大なまちづくりに参加できるのですから、これほど壮大な実証実験のチャンスはありません。
2024年度の第I期のまち開きを見据え、通信インフラやサービスをゼロから構築できるというのは、さまざまなプロジェクトを支援してきた当社にとっても、おそらく初めての経験になります。
交通、通信と領域は異なっても、インフラを整備してお客さまにサービスをご提供するという点では、JR東日本様とKDDIのビジネスには共通する部分が多く存在します。一緒にプロジェクトを手掛けることで、さまざまな学びが得られるはずですし、お互いの知見や技術を融合すれば、より良いサービスが創出できると確信しています。
表氏 当社が「品川開発プロジェクト」で掲げる「100年先を見据えた心豊かなくらしづくり」という目標に共感してもらえると確信したことも、協業をお願いした大きな理由です。
JR東日本とKDDI様は、共に国を支える社会インフラを担う企業です。だからこそプロジェクトの推進においては、国の発展や未来の人々の幸せを考え、長期を見据えて取り組むべきだという思いが一致しています。ビジョンや価値観を共有できたことが、何よりも大きかったといえます。
またKDDI様とJR東日本は、ベンチャー企業1100社が選んだ20年の「Morning Pitch大企業イノベーションアワード」でそれぞれ1位、2位に選出されるなど、スタートアップやベンチャー企業とのオープンイノベーションに積極的であるという共通点もあります。
その意味でも非常に高い親和性がありますし、今回のプロジェクトでもオープンイノベーションに関する互いの知見とネットワークを活用していきたいと思っています。
――基本合意には、リアルとバーチャルの融合によって新しい価値や文化を一緒に創造する「空間自在コンソーシアム」を創設するという内容も含まれています。具体的には、どのようなコンソーシアムになりそうですか。
藤井 企業、自治体、スタートアップ、ユーザー企業などさまざまなパートナーが集まり、時間や場所にとらわれない豊かなくらしを実現するためのアイデアや技術を交換する共創の場を目指します。
スタートアップとの協業経験が豊富な両社の持ち味が生かせる取り組みだと思いますが、ポイントとなるのは、サービスの作り手や提供者だけでなく、利用するユーザー企業やエンドユーザーにも参加してもらってPDCAを回していくことです。
例えば、「品川開発プロジェクト」の完成後に入居予定の企業や住民の方々にも積極的に参加していただき、「こんな働き方やくらしがしたい」という声をどんどん反映していきたいと思っています。
表氏 「品川開発プロジェクト」では、都心や羽田空港に近いという地の利を生かし、日本国内と世界を結ぶゲートウェイにしたいと考えています。世界中のトップクラスのイノベーターやクリエイター、アーティストなどにも参加していただき、アイデアや情熱、技術の掛け算によって「100年先にも誇れる心豊かなくらし」という夢を実現し、未来のゲートウェイにしていきたいですね。
――最後に、「空間自在プロジェクト」を通じて、社会にどのようなイノベーションを起こしていくのか、抱負を聞かせてください。
表氏 このプロジェクトで「100年」という時間軸にこだわっているのは、われわれが抱く「心豊かなくらしづくり」への志や挑戦心を、未来にしっかりと継承していくためです。
日本には世界トップクラスの鉄道ネットワークが形成され、それが日本経済の成長を支える礎となってきましたが、それが実現できたのは、「国を豊かにしたい」という思いで150年前に日本最初の鉄道(新橋~横浜間)を建設した先人たちの挑戦があったからです。
私たちも、100年後の人たちに「振り返ってみれば、あのときの挑戦が今のくらしを支えている」と思ってもらえるような新たな価値の創造に挑戦し続けたい。そして、このプロジェクトを通じて生み出されるさまざまなイノベーションが、国内はもちろん世界中に広がっていくことで、地球課題の解決と、夢と希望があふれる未来づくりにつなげられればと思っています。
藤井 私も同感です。もちろん100年後の世の中がどうなっているかは、現時点では想像できません。その上で必要となるのは、常に変化に対応しながらアップデートし続けられる仕組みづくりだと思います。
例えば、JR東日本様はJRE POINTユーザー、KDDIはauユーザーそれぞれのログなど、変化の兆しを捉えるための豊富な情報資産を持っているため、それを相互に活用し、コンソーシアムの参加者とも共有することで、さまざまなイノベーションが実現できるはずです。つながることでイノベーションが生まれる土壌を、今回のプロジェクトを通じて育んでいきたいと思っています。