“テクノロジーの民主化”を標榜するIoTプラットフォーマー・ソラコム。
2021年6月22日から24日にかけてオンラインカンファレンス「SORACOM Discovery 2021 ONLINE」が開催された。
3日間でさまざまなセミナーやセッションが催され、一部のセッションにKDDIからも登壇した。その模様をレポートする。
IoTプラットフォーマー・ソラコムの競争力
基調講演では「社会を進化させるIoT、イノベーション」と題して、パネルディスカッションが行われた。
スピーカーは、ソラコム 代表取締役社長の玉川 憲 氏、ソニーグループ 取締役 代表執行役 副社長兼CFOの十時 裕樹 様、
KDDI 代表取締役社長の髙橋 誠の3名。
モデレーターは、米国シリコンバレーに拠点を置くベンチャーキャピタル・WiLのCEOである伊佐山 元 様が務めた。
冒頭、伊佐山様はIoT時代の米国企業を取り巻く環境について俯瞰した。伊佐山様によると、IoTプラットフォームの提供事業者数は世界的に見ても右肩上がりで増加している。2015年から2019年にかけて2.4倍、620社に達しているという。
ITアドバイザリ企業・ガートナー社様の市場レポート「2021 Magic Quadrant for Managed IoT Connectivity Services」にて、ソラコムがニッチ・プレイヤーとして選出されたことにも触れ、「ソラコムは世界的に認知されつつある。いち早くIoTプラットフォーム事業に進出したソラコムの見立ては、非常に正しかった」と語った。
伊佐山 元 様
玉川 憲 氏
これを受けて、ソラコムの主力事業の話題に。同社が開発したIoT向けの通信プラットフォームは、データ通信におけるコアネットワーク部分をパブリッククラウド上に実装しているのが特長である。
「とくに低容量の通信に対応している点が我々の競争力になっています。大手企業からすれば『ちょっと安すぎない?』と考え参入しにくい領域だと思います。契約回線数は2021年6月に300万件を超えたことを発表しました。お客さまからのフィードバックを受けながら新しい取り組みやサービスの改善を進めており、現在は19種類のサービスにまで増えています」と、ソラコム 玉川氏。
広く浸透した理由の一つに、あえてユースケースを想定せずにサービスを展開したことが挙げられる。
そうしたコンセプトの根底には、ソラコムが掲げるミッション“IoTテクノロジーの民主化”が息づいており、顧客はIoTプラットフォームをフレキシブルに自社のシステムに導入できる。
時には、玉川氏が思いもよらない方法でサービスに導入されているという。
ベンチャーと大手のシナジーはいかにして生み出されるのか?
ディスカッションの後半では、大手企業とベンチャーとの関係性を紐解いていった。KDDIは2017年8月にソラコムに資本参加し連結子会社化している。そもそもなぜソラコムを傘下に入れたのかについて、KDDI 髙橋は次のように説明する。
「ソラコムとお付き合いすることで、IoT累計回線数2,000万の大台も見えてきました。一方で、今の時代はIoTの回線だけではビジネスにならない。
そこで重要なのは、IoTのプラットフォーム上にどのようなアプリケーション、付加価値を構築できるか。それができないとサステナブルなビジネスにはならず、そのためにはIoTの知見とベンチャースピリットを持つソラコムと組むことが重要と考えました」
髙橋 誠
十時 裕樹 様
髙橋のコメントに続けてソニーグループ 十時様は次のように話す。
「我々の中でもこの10年くらいでベンチャーへの出資やインキュベーション (注1) が普通のことになったと感じます。
以前は『スケールするのか?』『自前でやればいいのでは?』というようなネガティブな反応もありましたが、変化の激しい中で自分達だけでは難しいという意識に変わってきたと思います。
発想の柔軟性やスピード感、トレンドへの感度などはベンチャーの方が優れていることが多いですし、それらが大企業にとって刺激になっているというのは事実だと思います」
さらに、「コロナ禍における転換期で、ベンチャーとの関係性はどう変わるのか?」という伊佐山様の質問に対し、髙橋は“出島戦略”を引き合いに出して説明した。
「これまで、大手企業は本隊から切り離した事業部を“出島”にして、ベンチャーを受け入れてきました。
これをフェーズ1とすると、フェーズ2では、もっと本隊の事業部とベンチャーが密に連携できる仕組みを築いていかなくてはならないのです。2021年4月に、KDDIが事業創造本部を新設したのもそのためです」
さらに髙橋は、M&Aによって一度傘下に収めたソラコムを“スウィングバイIPO” (注2) という形で送り出すことについても言及した。
「KDDIグループの中で基盤をしっかりつくったソラコムがさらに大きくなるために、『IPOをしたい』と玉川さんから相談を受けました。M&Aのときも大きな話題になりましたが、今回のIPOも非常に大きな方針転換です。その背景にはソラコムが“人を利用する”のが上手かったことが挙げられるでしょう (笑)。玉川さんはじめソラコムには、我々大手企業の言葉を理解しようとする姿勢が見てとれました。ベンチャーとしていかに大企業の期待に応えるかという視点を常に持っておられたように思います」
髙橋の言葉を受け、玉川氏はソラコムのベンチャーとしての姿勢に言及した。
「ソラコムの場合、KDDIに評価いただきグループ傘下に入ったという経緯があるので、まずはその責任を果たさなければという思いがありました。それでチームが一丸になった。
一方で、KDDIは大企業の都合ではなく、ソラコムの事業や強みを生かすことを優先してくださいました。KDDIに応えるという我々の思いとソラコムを支えるというKDDIの姿勢が融合したことで、シナジーが生まれ、ソラコムの事業も伸ばすことができたと思います。だからこそ、今回の“スウィングバイIPO”の話も前に進んだのだと思っています」
それに対して髙橋は「2021年はフェーズ2と位置づけて、有力なベンチャーと我々の事業部を本気でつなげていきたいと考えています。ベンチャーの方も、我々に自分たちのスピリットを植えつけるつもりで来ていただきたいですね」と意気込みを語った。