KDDIグループの株式会社ソラコム (以下ソラコム) は「テクノロジーの民主化」をスローガンに掲げるIoTプラットフォーマー。
さまざまな機能に特化したサービスを用意し、お客さまのIoT導入を後押しする。事業を重ねていくなかでIoT導入を加速させる秘訣や課題も明確になってきたという。今回はソラコムが培ってきたノウハウに迫るほか、KDDIと推進しているビジネスプラットフォーム“IoT世界基盤 グローバルIoTアクセス”について伺った。
――SORACOMを活用している企業のなかから、IoT導入の先進事例や成功事例を教えてください。
松下氏 ソラコムでは、IoTを "遠くの現場をデジタル化する技術" としてとらえています。その視点では、例えば空調メーカーのダイキン工業株式会社様は、施設に導入されている空調機器の定期点検にIoTを活用しています。空調機器内部に設置したカメラの画像をクラウド上でAI解析することで、清掃の最適なタイミングを把握できるようになりました。画像の転送には、ソラコムが提供するデータ通信サービス“SORACOM Air”をお使いいただいています。
――ほかにはどのような事例がありますか。
松下氏 日本瓦斯株式会社様が開発したIoTデバイス“スペース蛍”にもSORACOMをご採用いただいています。これまでは検針員がお客さまの住宅を訪れ、ガスメーターを検針していたのですが、このデバイスを使うことで、検針データをリアルタイムに計測できます。2022年2月末時点でニチガスグループ内のお客さまに約100万台が導入されています。
中島 施設監視や遠隔管理はIoTのニーズが高いですね。気軽に導入できるのもSORACOMが支持される理由ではないでしょうか。
松下氏 それも一理あります。SORACOMは、IoTのシステム構築にご利用いただけるサービス群で、コネクティビティやデバイス、インターフェースなどの領域で使える“部品”を取り揃えています。お客さまは必要な“部品”だけをピックアップして、システムに組み込んでいただければよいのです。
松下 享平 氏
中島 ソラコムのコネクティビティ技術は、地方交通のキャッシュレス化にも一役買っています。KDDIと徳島バス株式会社様が取り組んでいる“くるくるなるとデジタル周遊チケット”の実証実験がその好例です。これは観光エリアを周回するバスの位置情報から乗客の運賃を割り出し、スマートフォン決済による区間精算を実現したシステムです。交通系ICカードに比べ初期導入コスト、維持コストを大幅に抑えることができます。
松下氏 IoTは労力削減以外に、既存ビジネスのスマート化にも生かすことができます。近年では、ハードウェアやクラウドサービスも安価になっているため、IoT導入のハードルは一昔前よりもグっと下がっています。
――IoT導入をスムーズに進めるためのコツはあるのでしょうか。
松下氏 業態や企業規模に関係なく、IoT導入に成功している企業に共通しているのは『まずはやってみる』という積極性があることです。逆にIoTに過度の期待を寄せている企業は導入がなかなか進まない傾向にあります。IoTをなんでも解決してくれる“魔法”のように捉えてしまい、『ビッグプロジェクトを立ち上げなくてはならない』と慎重になってしまうのでしょう。
中島 数年前までは、社長の肝入りとしてIoTが進められるケースも少なくありませんでした。導入するからには“100点”を目指したい、という事情も察しますが、二の足を踏んでしまっては元も子もありません。
松下氏 最初の入り口は、マッチを一本擦るような“小さな魔法”からで構いません。IoTをもっと気軽に捉えると、スムーズに運ぶでしょう。小さくはじめようと思えば、IoT用のセンサーやハードウェア、クラウド環境も数千円程度から始めることができます。この程度のコストなら失敗も怖くありません。
中島 それを考えると、だいぶ裾野が広がりましたね。いまやIoTは、大企業だけのものではなくなってきました。“SORACOM Air”の回線数が伸びているのもうなずけます。
中島 康人
松下氏 私には、IoTを取り巻いている現在の状況が1990年代のインターネット黎明期と重なって見えます。インターネットは、有用性が徐々に世間に知れ渡り一気に普及しました。今後はIoTをベースにした事業が台頭していくのではないでしょうか。
――IoTで収集したデータを活用して、価値創出につなげたい企業も多いと思います。そのような企業が最初に着手するべきことを教えてください。
松下氏 まずは、IoTを導入して効果を得やすい事業や業務を見つけることです。そのためにはデータとして収集しやすい現場を定める必要があります。そこで推奨しているのが“利用頻度×規模”の公式です。例えば、ひとつの拠点 (規模) に対して、1日3回の稼働記録 (利用頻度) を行う場合に当てはめてみましょう。この場合、IoT化すると、すぐに毎日の変化をデータとして集めることができます。一方で、1,000拠点 (規模) に対して、1年に1回の稼働記録 (利用頻度) を対象とした場合、変化がわかるのが1年以上先という可能性もあり得るわけです。IoTで結果を得やすい現場としては規模よりも、まず頻度を重視するのが近道と言えるでしょう。
――ソラコムが行っているIoT導入支援について教えてください。
松下氏 SORACOMはオンラインで始めていただけますが、相談したい場合もあるかと思います。その際には、ソリューションアーキテクトとよばれるIoTソリューションに特化した、エンジニアでありコンサルタントとなる人材をご手配します。お客さまのご要望や課題を汲み取り、IoTアプリケーションの設計や既存プロジェクトの改善策などをご提案します。すでにエンジニアを抱えているお客さまでしたら、弊社が発信している“SORACOM IoT DIY レシピ”をもとに、システムを自作いただくのもよいと思います。
――2021年6月から、ソラコムとKDDIの連携事業“IoT世界基盤 グローバルIoTアクセス”が提供開始となりました。具体的にどのようなサービスを提供するのでしょうか。
中島 “IoT世界基盤 グローバルIoTアクセス”は、KDDIが世界のさまざまな国と地域で提供しているローミングと、ソラコムのIoTプラットフォーム技術を融合させたグローバルIoT通信サービスです。お客さまにはグローバルローミングSIMと海外の電波法関連法規の認証を取得したデバイスをセットでご提供するため、迅速にグローバルIoTに着手できます。
松下氏 グローバル展開を検討しているお客さまの話を聞くと、通信事業者の選択や契約の煩雑さが参入障壁になっていることが多いです。日本で意識することはありませんが、海外では少し地域をまたぐだけで、別の通信事業者に管轄が変わることも少なくありません。
中島 グローバルローミングSIM一枚で、その障壁となる煩わしさが解消されます。コストを抑えたスモールスタートが可能となり、仮にプロジェクトに課題が見つかっても容易に軌道修正できます。
松下氏 早くもお客さまからご好評いただいており、契約数も伸びています。
中島 KDDIが取り組んできたIoT支援事業は大規模なプロジェクトが中心でしたが、ソラコムの力を借りることでさらに多くのお客さまにお届けすることができました。
――“IoT世界基盤 グローバル IoTアクセス”をふまえて、それぞれの展望をお聞かせください。
中島 お客さまのサポートはもちろん、ソラコムとKDDI両社が高めあえる関係を築いていきたいです。世界各地に拠点を持つKDDIですが、グローバル市場におけるパートナーの皆さまとの共創はまだ始まったばかりです。“IoT世界基盤 グローバル IoTアクセス”をきっかけに、ソラコムとKDDIを知っていただき新たな可能性が広がることを期待しています。
松下氏 世界を舞台にしても、お客さまの理想が叶う“部品”をご提供し続けることに変わりありません。海外のお客さまのニーズを把握しながら、本当の意味で“どこでもお使いいただける” IoTプラットフォームを突きつめていきたいです。