KDDIが2016年から展開するドローン事業を継承・成長・発展させるために、2022年4月、100%出資子会社 KDDIスマートドローン株式会社 (以下、KDDIスマートドローン) が事業を始動させた。
はたして同社は、ドローンをどのように進化させ、それによっていかなる社会課題を解決しようとしているのか。
無線通信のエキスパートとしてKDDI本体でドローン事業を牽引し、同社代表取締役社長に着任した博野 雅文 氏に話を聞く。
KDDIスマートドローンは、「モバイル通信」と「ドローン」の融合によって社会課題を解決し、より快適な暮らしを実現すべく設立された。掲げるミッションは「叶えるために、飛ぶ。」──。モバイル通信ネットワークを用いて遠隔制御されたドローンによってお客さまのさまざまな想いを叶えていくことを目指している。
KDDIにおけるドローンの事業化に向けた取り組みは2016年にスタートした。契機となったのは、同年7月に総務省がモバイル通信のドローン活用に向けた「実用化試験局」の制度を立ち上げ、KDDIがその認可を受けたことだ。のちに2020年に「上空電波の適切な使用を管理する」という条件のもと、KDDIに対してドローンでの包括的な「免許」が付与され、今日に至っている。
博野 雅文 氏
「こうした制度的な発展と歩調を合わせながら、KDDIではモバイル通信を用いてドローンの安全な遠隔飛行や長距離飛行を実現するサービスを作り上げてきました。建物や社会インフラ・設備の点検・監視をはじめ、工事現場の測量、物流などの領域で実証や事例を積み重ねてきています。その取り組みを継承し、ドローンの社会実装と課題解決を加速させることが当社の目標です。KDDI時代から培ってきた技術とノウハウに磨きをかけながら、パートナーとの協業関係を強化し、お客さまの想いを一つ一つ実現していきます」と、KDDIスマートドローン代表取締役社長の博野 雅文 氏は話す。
同社では、「スマートドローン」を「モバイル通信を活用して遠隔操作・映像伝送を行うドローン」として定義している。
博野氏は、モバイル通信を使ったスマートドローンは「飛行エリアの拡大」「運用コストの削減」「即時的でスピーディーな活用」という3つのベネフィットをユーザーにもたらすと話す (図1)。
さらにもう一つ、モバイル通信を使ったスマートドローンには、サイバー攻撃によるセキュリティ侵害のリスクが低いという利点もある。
「4G LTEや5Gなどのモバイル通信をハッキングするには、SIMのICチップ内に書き込まれている加入者情報を取り出す必要があり、それを外部からネットワーク越しに行うことはまず不可能です。セキュリティが非常に強固であり、その点において、モバイル通信ネットワークをドローンの遠隔制御に使うことは大きなメリットです」(博野氏)
社会実装に向けては、「スマートドローンツールズ」「用途別ソリューション」の2つを提供している。
スマートドローンツールズは、「モバイル通信」と「運航管理システム」、そしてデータ保管用の「クラウド (クラウドストレージ)」の3つを基本パッケージとして提供するサービスだ (図2)。「4G LTEパッケージ」の場合で、ID当たり月額4万9,800円 (税込) で使用することができ、オプション (有料) として「高精度測位」「上空電波測定」「小型気象センサー」といった機能が用意されているほか「ドローン機体」も提供される。
このうち、基本パッケージに含まれる運航管理システムは、ドローンのソフトウェア制御を実現する仕組みで、スマートドローンツールズの中心となるシステムでもある。このシステムでは、モバイル通信を使った遠隔自律飛行や長距離飛行を実現し、ドローンによる映像・画像の撮影・転送の制御も可能とする。加えて、飛行ルートを設定するだけで「上空電波利用申請」や「飛行許可申請」が自動で行える仕組みも備えている。
「特定の空域で複数のドローンを安全に飛行させるには、運航管理システムの活用が不可欠です。この仕組みによって、ドローン操縦の熟達者でなくとも安全な運航が行える世界が実現され、例えば、物流用に多数のドローンを同時並行で運用することが可能になります。もちろん、運航管理システムを使いこなすには一定の知識習得が必要ですが、当社では習得を支援する教育プログラムを提供しているので安心して活用が進められます」(博野氏)
また、スマートドローンツールズのオプションとして提供されるドローン機体には、同社が、独自に開発した耐ノイズ性に優れた通信モジュールが搭載される。意外と知られていないがドローンを構成する制御部分は通信を阻害する、さまざまなノイズが発生する。今回開発した通信モジュールの働きにより、同社のドローン機体は安定した運航管理を実現する。
すでにパートナーとして、プロドローン社、ACSL社、CIRC社、DJI社製品への通信モジュールの搭載が進められ、今後もスマートドローンツールズ対応機体のラインアップの拡充に力を注いでいく。
KDDIスマートドローンの用途別ソリューションは、「点検」「物流」「測量」「監視」といった領域での活用を広げるためのものだ (図3)。KDDIがこれまで培ってきた技術力やノウハウをフルに生かしながら、パートナーとの協業を通じてスマートドローンの導入から運用までを包括的にサポートし、個々の顧客の課題を解決することを目指している。
この用途別ソリューションの有効性の裏づけとなっているのが、KDDIの豊富な実績だ。例えば、KDDIでは電源開発株式会社様との共同で、ドローンによる風力発電機自動点検の実証実験を行った。これはJパワーの風力発電施設で2020年9月1日から一カ月間実施されたもので、自律飛行ソフトウェアを使いながら、風力発電機のブレードを自動撮影させ、その撮像を画像解析ソフトで解析し問題箇所を割り出すという試みが実施された。その結果、風力発電機の点検に要する作業時間が従来の10分の1程度に圧縮できることが実証され、これによってKDDIでは、電源開発様から風力発電機のドローン点検サービスを受託し、KDDIスマートドローンがその遂行を引き継いでいる。
一方で点検、測量、監視の領域に比べて物流への適用は、有人エリア上空での目視外飛行を認める制度が整っていなかったこともあり、あまり進展していないのが現状だ。そんな中でもKDDIとKDDIスマートドローンは、物流におけるスマートドローンの実証に先駆的に取り組み、成果を上げている。その好例が、2020年8月に運用が開始された長野県伊那市によるドローン配送サービス「ゆうあいマーケット」だ。KDDIが提供したスマートドローンを使い、4G LTEネットワークと運航管理システムを介して「目視外自律飛行」と「遠隔監視制御」を実現。ケーブルテレビを活用して、中山間地域の住民の注文に応え、日用品などを最大5kgまで積載して最大約10km離れた地点までのドローン配送を行っている。
加えて、KDDIスマートドローンでは2022年3月より、新潟県阿賀町の地域物流を効率化する新スマート物流「SkyHub®」の社会実装に向けた取り組みも支援している。エアロネクスト社とACSL社が共同開発した機体とスマートドローンツールズ連携させ、その有効性を阿賀町とNEXT DELIVERY社などと共同で実証している。
KDDIスマートドローンでは今後、ドローンの社会実装をさらに加速させるためにパートナー各社との共創を広げていく計画だ。
「ドローンの社会実装とは『数多くのドローンが上空を行き交うのが当たり前の社会』を創り上げることです。その実現に向けては、多くのパートナーさまと共創し、さまざまなユースケースや新市場を開拓していくことが何よりも大切です。向こう3年間はその取り組みに力を注ぎ、それを通じてスマートドローンの革新的なソリューションを生み出していきます」(博野氏)
こうした考え方のもと同社では、パートナーによる「4G LTEパッケージ」を使ったスマートドローンツールズの実証実験を費用面からサポートする取り組みも展開している。それを踏まえて、博野氏はこう締めくくる。
「スマートドローンにより、遠隔制御・映像伝送が可能となり、ドローンの応用の幅は大きく広がっていくでしょう。その可能性をさまざまな社会課題の解決に生かすために、これからもパートナーとの共創を続けていきます。それによって、人の暮らしや働き方がいっそう快適になる未来を、できる限り早く実現するというのが我々の願いです」