DXを目指す企業のアプローチはさまざまだ。これまでにないサービスの提供、より使いやすく高度な体験を提供するタッチポイントの提供、既存のプロダクトやサービスの品質改善など打ち手は無数にあるが、いずれにおいても、常にお客さまの声に耳を傾けて理解を深め、Just-in-timeで新たな価値を提供し続けることが重要になる。また、そのためには自らの企業文化も変革していく必要がある。「機敏 (アジャイル) であることが私たちの最大の価値であり、存在意義」とするKDDIアジャイル開発センター株式会社 (以下、KAG) が目指すDX支援の在り方について、同社 代表取締役社長の木暮 圭一 氏に聞いた。
――KAGの設立経緯や事業概要、KDDIグループにおける位置付けについてお聞かせください。
KDDIでは、法人のお客さまのDX支援を強化すべく、2022年5月に中間持株会社としてKDDI Digital Divergence Holdings株式会社 (以下 KDH) を設立しました。その傘下の企業として、同時に設立されたのがKAGです。元々KDDI社内で2016年に作られた組織が母体となっており、数々の経験や実績のなかで培ってきたアジャイル開発 (注1) の“実践知”を生かすべく、KDDI社内から外に出て、さらにビジネスを拡大していこうというのが設立の狙いです。
同じくKDHの傘下にあるグループ会社のアイレット、KDDIウェブコミュニケーションズ、Scrum Inc. Japanとともに、4社間での連携強化ならびにさまざまな人材の拡充を図ることによって、お客さまのDXを支援する体制を強化し、KDDIグループとしてのDX事業の拡大を目指しています。
木暮 圭一 氏
――そうしたDX実現のための新たな価値創造に向けた思いが、
「re-INNOVATE YOUR BUSINESS ~Be Agile, Update Culture~」というコーポレートスローガンにも込められているのですね。
おっしゃるとおりです。コーポレートスローガンはまさに会社の顔となるものだけに社内の皆で真剣に議論し、最終的に行き着いたのがこのメッセージです。頭に付けた“re-”という言葉には、「終わりのない変革を、何度も繰り返し求め続ける」という思いを込めています。
――KAGでは、具体的にどのようなサービスを展開していこうとしているのでしょうか。
KAGはその名のとおり開発会社であり、モノづくりを主事業としています。ただ、一言でモノづくりといっても、そこには生み出す価値を考えるフェーズから、その価値を具現化するフェーズまで広範囲に及びます。
そこで私たちは、「サービスデザイン」「アジャイル開発」「クラウドネイティブ」の3つをセットにしたサービスを提供していきます。
――3つのサービスについて、詳しい内容を教えてください。
お客さまとともにDXを目指したモノづくりを進めるにあたっては、「それによってどのような価値を提供するのか」を明確にしておく必要があります。もっとも今まで見たこともない価値を想像し、お客さまの先にいるお客さまや取引先、あるいは従業員や生活者が求めている“正解”にいきなりたどり着くのは容易なことではありません。そこで私たちは「デザインシンキング (注2) 」の手法を適用して確度を高めつつ、「リーンスタートアップ (注3) 」よる仮説検証を繰り返すことで、正解へと近づけていきます。このDXの初期フェーズを支援するのが「サービスデザイン」です。
さらに、この結果を受けた後半フェーズを支援するのが「アジャイル開発」です。私たちが長年培ってきた実践知に基づいた開発手法を適用します。それを下支えするのがエンジニア力となります。KAGではコミュニティ活動への積極的な参画やエンジニアの採用、人材育成などで強化しています。また、いわゆる「ノーコード/ローコード開発ツール」も積極的に活用することで、プログラミング作業よりもビジネス実装といったよりコアな部分に注力したスマートな開発を導いていきます。
そして3つめの「クラウドネイティブ」は、上述の「サービスデザイン」および「アジャイル開発」を支える重要な要素となります。クラウドから提供される便利な機能、最新のテクノロジーを柔軟かつ迅速に取り入れながら、継続的な変革を目指します。
――KAGが携わった、アジャイル開発によるモノづくりの事例をご紹介ください。
KDDI社内のアジャイル開発センターとして活動を開始し、今も続く取り組みとなりますが、例えばJR東日本様とまちづくり事業「空間自在プロジェクト」で協業し、共同で開発した「空間自在ワークプレイス」の事例があります。
「空間自在ワークプレイス」は、離れた拠点間をつなぎ、バーチャルなワークプレイスを構築するソリューションです。離れた拠点間それぞれに設置された大型スクリーンに、互いのオフィス空間を実寸に近い4K画質の画像で投影し、スクリーン越しに2つの空間がリアルにつながっているような視覚効果が生まれます。発言者の位置から音が聞こえるサラウンドシステムを備え、離れた場所でも隣にいるかのような臨場感のある空間を造り出します。オンライン・オフラインそれぞれの良さをハイブリッドにした次世代空間は、離れていても同じ空間にいるような一体感を醸成し、チームワークを活性化させます。
――スマートフォンアプリでもアジャイル開発が重要になりますが、そうした事例もありますか。
スマートフォン向けの「auでんき」というアプリ (注4) の開発にも、KAGのメンバーが携わっています。auでんきは、電力自由化のタイミングに合わせて2016年4月にリリースしたお客さまとの新たなタッチポイントで、使用した電気料金に応じてポイントが還元される、お得に使えるサービスとなっています。
このアプリを開発するにあたり、私たちは先に述べてきたデザインシンキングやリーンスタートアップ、アジャイル開発といった手法を全面的に実践してきました。これによりわずか3カ月で初期バージョンのアプリをリリースするとともに、その後も電気使用量の推移、電気の使用状況の分析、他のご家庭と自分の電気料金を比較する機能といった新たな価値をもつサービスを次々に提供し続けています。こうしたサービス開発に要する期間は、従来手法による開発と比較して1/2、開発コストについても1/3に削減されています。
――今後に向けた展望と意気込みをお聞かせください。
繰り返しとなりますが、私たちはKDDI社内で活動してきた実績、さらにその前身での取り組みまで含めると、約9年間にわたるモノづくりを通じてアジャイル開発の実践知を培ってきました。
一方でお客さまにおけるDXへの取り組み状況を見てみると、早々に推進チームを立ち上げて多くのプロジェクトを始動させているお客さまもあれば、どこから、何から着手すればよいのか、目標や計画が定まらず立ち止まっているお客さまもおられます。
KAGはそういったお客さまの状況に応じて、どんなフェーズからでも加わり、さまざまなプロジェクトで伴走しながらDXを推進していくケイパビリティを持っています。ぜひ、私たちにお声がけください。
――そうした中では、KDDIおよびグループ各社との新たなシナジーも発揮されるのでしょうか。
もちろんです。KDH傘下にあるアイレット、KDDIウェブコミュニケーションズ、Scrum Inc. Japanをはじめ、KDDIやグループ各社が持っている多彩なアセットや強みを活用し、融合していくことで、お客さまが描いているDXの構想の本質に迫る、課題解決や価値創造をご支援していきます。