KDDIと野村総合研究所 (NRI) の合弁により設立されたDXインテグレーター、KDDIデジタルデザイン株式会社 (以下、KDDIデジタルデザイン) 。コンサルティング、ITサービス、ネットワークサービスを融合した独自の「型」をもってソリューションを提供し、デジタル戦略の立案から最先端テクノロジーの実装、運用まで首尾一貫してサポートすることをミッションとする。
KDDIデジタルデザインが実際にどんなビジネスを手掛けているのか、同社社長 酒井氏と副社長 清水氏に3つの重点取り組み領域に焦点を当てて聞いた。
KDDIデジタルデザインは、KDDIが51%、NRIが49%を出資した合弁会社 (ジョイントベンチャー) として2018年1月に設立された。同社代表取締役社長の酒井 健 氏は、「当時はまさにDXという時代の大きなうねりが起こり始めた頃です。KDDIとNRIの両社がそれぞれの強みを持ち寄ることで新たな価値を生み出し、お客さまが目指すDXの実現に向けて提供していきたいと考えました」と、会社設立の背景を語る。
KDDIの強みは、携帯電話網をはじめとする通信事業にある。一般の生活者から民間企業、官公庁にいたるまで、幅広い顧客にネットワークサービスを提供し、リレーションシップを築いてきた。この膨大な顧客接点そのものが、さまざまなマーケティングやマネタイズにもつながっていく重要な資産となる。
一方のNRIは、経営コンサルティングやICT領域における将来構想の策定といった上流工程から実際のシステム構築、運用まで一気通貫で対応できるシステムインテグレーターとしての卓越した強みと実績を持っている。
この両社ケイパビリティを単に組み合わせるだけでなく、1つの会社となって融合する中から、かつてないシナジーを生み出していくことを目指したのだ。
酒井 健 氏
一口にDXといっても対象は広範に及び、そのすべてをターゲットにすると、両社のシナジー効果を最大限に発揮するのが難しくなる。そこでKDDIデジタルデザインでは「型」と呼ぶDXの得意パターン・成功パターンを作り上げ、業種・業態を超えた横展開を進めていくという戦略を推し進めている。
原点となったのは、全国のauショップおよびau取扱店に展開を進めてきた「auノート」の取り組みだ。
auノートとは、ノートPCやタブレットを活用したショップスタッフ向けの接客支援ツールで、来店した顧客の契約内容や日頃の利用状況などのデータを確認しながら、一人ひとりに適したおすすめのプランやキャンペーンの提案を行う。
清水 康次 氏
KDDIデジタルデザイン 代表取締役副社長の清水 康次 氏は、「接客の流れに応じてショップスタッフをナビゲーションするUIから、接客の個別化 (パーソナライズ) を実現する顧客データ分析のシステムに至るまで、一連の仕組みをNRIがKDDIと共同開発し、auノートに体現しました」と語る。
この開発から得られた知見やノウハウが別分野の事業形態への提案と発展し、シナジーソリューションの型として結実したのである。
「最初に取り組んだのはたまたまauショップ向けの接客支援でしたが、同様の仕組みは銀行や保険、自動車ディーラーなど、多様な業種の店舗に横展開することが可能です。さらに言えば、展開先は店舗だけに限りません。実際にある物流会社との共創のもと、セールスドライバーの営業支援に応用した事例もあります」と酒井氏は語り、こう続ける。
「このソリューションの型は現在、KDDIデジタルデザインが重点的に取り組む領域の一つに位置づけられ、それを私たちは『CX変革ソリューション』と呼んでいます」
酒井氏がいう「重点的に取り組む領域」とは、KDDIとNRIのアセットを最大限に活用したシナジーソリューションを集中的に提供する分野を指している。その領域には、上述したCX変革ソリューションのほかに「デジタルコンタクトセンターソリューション」や「Salesforceソリューション」などが含まれている。
上述したソリューションのうち、「デジタルコンタクトセンターソリューション」はKDDIデジタルデザインが特に力を注いでいるものだ。
というのも、新型コロナウイルス感染症 (以下、コロナ) の流行を境に、企業と顧客とをつなぐ接点のデジタルシフトが一挙に進み、コンタクトセンターにおける顧客体験 (CX) の良否が、市場での企業競争力に大きな影響を与え始めたからだ。
「そうした時代の変化をとらえ、当社のデジタルコンタクトセンターソリューションでは、オペレーターの生産性の向上といったコールセンター内部の改革だけにとどまらず、お客さまのもとに日々蓄積されていくあらゆる顧客情報を組織横断で収集、分析、活用することで、コンタクトセンターの新しい価値創出につなげていくことを志向しています。お客さまが目指すビジネス上のゴールや目的に沿ったかたちで、コンタクトセンターにおけるデジタル活用、データ活用、サービス基盤のあるべき姿を描き、最適なソリューションの組み合わせを提案していきます」と清水氏は話す。
こうした方針のもと、デジタルコンタクトセンターソリューションでは、上流のコンサルティングサービスとともに「音声基盤/CC基盤」「CRM」「オムニチャネル」「コンタクトセンター生産性支援」「CX (顧客体験) 」といった5つの領域に向けたソリューションが提供されている。それに「コールセンター環境」や「オペレーション (BPOサービス) 」などを組み合わせることで、ソリューションの全体が構成されている。
上記のうち「音声基盤/CC基盤」では、「PBX (構内交換機) 」や「IVR (自動音声応答) 」「ACD (着信呼自動分配装置) 」「CTI (コンピューターと電話統合) 」など、デジタルコンタクトセンターの基盤を構成するテクノロジーが、KDDIグループのフリーコールや光ダイレクトなどの回線サービス、CRMソリューションと併せて提供される。
CRMでは、コンタクトセンターの応対履歴管理にとどまらず、幅広い顧客との関係性構築を支援し、マーケティングから商談管理、顧客サポートまでカスタマージャーニー全般をシームレス化する。
これにより、あらゆるデータがリアルタイムに一元管理され、チャネルや部署横断で顧客に最適なアクションを効率的に打つことが可能となる。
また、複数のタッチポイント情報を連携することで、「応対の先読み」や「二度聞きしないスマートな応対」「離脱防止やクロスセルなどのスクリプト発動」「きめ細かいOne to Oneアプローチ」などを実現する。
オムニチャネルは、上述の音声基盤/CC基盤にボイスボット、SMS/メッセージ+、ビジュアルIVR、WEB・スマホアプリ、チャットボット、有人チャットなどを併用し、コンタクトセンターへの流量を抑制してオペレーションコストを抑制するとともに、曜日や時間帯の制限なく顧客が困りごとを自己解決できるチャネルを構築する。
コンタクトセンター生産性支援では、AI横断コンテンツ検索 (FAQ、マニュアルなど) 、音声認識・対話要約、テキストマイニングなどの技術を活用し、平均通話時間や後処理時間を削減するほか、オペレーターのスキル底上げ (応答品質底上げ) 、従業員満足度改善にも寄与する。
そしてCXでは、さまざまな顧客の声 (VOC) をテキストマイニングで分析することにより、業務改善につなげていくPoCやデータ分析を支援する。例えば、店舗スタッフやコンタクトセンターのオペレーターに対してデータ分析に基づく最適レコメンドを行うことで顧客満足度を高めて購買喚起や離脱防止につなげていく、データドリブンによる接客高度化ソリューションなどを共に実現していく。
「このように広範なシステムやテクノロジーを包含した当社のデジタルコンタクトセンターソリューションは、医薬情報センターにおける次世代コンタクトセンターの構築など、複数のお客さまで実績を重ねています」と清水氏は語る。
一方、「Salesforceソリューション」は、その名のとおりSalesforceを活用したDXを支援するもので、先に紹介したデジタルコンタクトセンターにおけるCRMの中核となっているソリューションでもある。
「KDDIデジタルデザインは、グループ唯一のSalesforceの認定ライセンスパートナー (リセラー) であるとともに認定コンサルティングパートナーでもあり、業務改革からSalesforceを利用したシステムの構築、運用、ライセンス提供まで、ワンストップでサポートすることが可能です。Salesforceそのものをある種の型とみることができ、そこに独自の価値を付加してお客さまに提供します」と酒井氏は語る。
例えば、新規顧客発掘を目的としたデジタルマーケティングを支える「Marketing Cloud Engagement」、取引先管理や接触管理、商談管理を担う「Sales Cloud」、そしてデジタルコンタクトセンターを運用する「Service Cloud」を統合データベースでシームレスに連携させたトータルシステムの構築・運用を支援することも可能だ。
会社設立から満5年が経過したKDDIデジタルデザインは今、自らの「第二章」と呼ぶ新たなスタートを切ろうとしている。
「KDDIとNRIというカルチャーもビジネス形態も異なる企業からメンバーが合流したことで、会社設立当初はさまざまなコンフリクトもありましたが、それから5年が経過した現在はお互いの良い面も悪い面も理解しあえるようになり、見違えるように有機的な動きが取れるようになりました。そうした意味でも、いよいよこれからがKDDIデジタルデザインとしての次なる飛躍となります」と酒井氏。
KDDIデジタルデザインは、KDDIグループのDXインテグレーターとして、さらに多彩な型をもったシナジーソリューションを展開していく構えだ。