近年、物流のあり方が大きく変化している。物流の現場では、ECの急拡大やコロナ禍を経て、人手不足とコスト高騰が著しい。消費行動に目を向けると、宅配ロッカーや配達代行の活用など、多様化が進む。
この変革期に、物流を自社の強みに変えるには、何が肝になるのか。国内屈指のEC通販に特化した物流代行会社 株式会社イー・ロジット 代表取締役社長CEO 角井 亮一 様と、数多くの物流会社を支援するKDDI 株式会社 エネルギー・運輸営業部の3名に話を聞いた。
――近年はフードデリバリーや置き配、配達代行など、新しいスタイルの配達サービスが浸透しています。その裏には、どのような消費行動の変化があるのでしょう。
角井様 一つはコロナ禍を経て、消費者が配送にお金を払うことが一般化してきたことです。以前であれば、消費者は配送に対して「できるだけお金を払いたくない」という考え方が強かったように思えます。それが若い世代を中心に変わりつつある。例えば、コロナ禍で外出できなくなり、必然的にウーバーイーツなどのフードデリバリーを注文する。
そうした行動により、お金を払って商品を届けてもらうことが習慣化した点が大きいのではないでしょうか。
この先も、配達サービスの多様化はますます進んでいくでしょうが、だからといって配達一辺倒になるとも考えられません。例えば、スーパーへ買い物に行くと、新しい食材との出会いがあったり、斬新な陳列法を見つけたりと、いろいろ楽しみがあるものです。だからこそ、消費者は「こんなときは即時デリバリー」「これに関しては実店舗」「こういうものはサブスクで購入」というように、細かく使い分けることになっていくでしょう。
角井 亮一 様
――一方、企業間の物流や国際物流の領域は、いまどんな状況にありますか。
角井様 ここ数年でいうと、やはり国際物流の高騰が顕著です。もともと配送員の世界的な人手不足があったところに、国際物流の分断化やコロナ禍によるコンテナ不足が発生し、そこへウクライナ侵攻が起こりました。ウクライナは、ヨーロッパの船舶の乗組員の主要供給国なんです。そうした要因が重なって、今は世界中でコストアップが起こっています。さらに日本では、円安がそこに輪をかけている状況ですね。
――KDDIでは、そんな物流業界にどんなソリューションを提供してきましたか。
柳澤 私どもが所属するエネルギー・運輸営業部では、KDDIの強みであるネットワークやモバイルの技術を活用しながら、企業さまの物流システムの構築をお手伝いしてきました。例えば、大手運送会社さまの場合、荷物を届けた先のお客さまが不在で再配達となる割合が高いと、ドライバーには過大な負担がかかるという課題がありました。そこで弊社では、IoTの技術を活用して配達員とお客さまを結びつけ、持ち戻り率をできるだけ下げる仕組みをご提供しています。具体的には「荷物状況の問合せ」や「お客様への各種通知」に私どものソリューションが反映されています。
また、配達員が使う専用の配達管理デバイスは高機能の反面、まだまだコストが高い現状があります。そこで配達に関わる機能を切り出してスマートフォンに実装することで、専用デバイスを持っていない配達員でも質の高い配送サービスを提供できる仕組みを手掛けています。
柳澤 洋太
森川 慎也
森川 経験豊富なベテラン配達員に関しては、「この状況であれば、このルートが最適である」「このルートはバックで進む箇所があって事故が多い」といった知識が各自の頭の中に蓄積されています。そうした知見を、スマートフォンアプリを通してあまねく配達員が活用できるようにするDX (デジタルトランスフォーメーション) の取り組みも推進しています。
柳澤 近年は、IoTデバイスを用いた、荷物トレースのご支援も注目されています。例えば、厳しい温度管理が求められるコロナワクチンの輸送。温度と位置を常時リアルタイムでトレースする仕組みに、私たちの5G技術が使われています。
――改めて角井さんにお伺いします。この変革の時代、企業が物流によって競争力を高めるには何がポイントになりますか。
角井様 各社の方針や状況にもよりますが、まずは配送に対してきちんと課金する意識が大切です。例えば、コロナ禍以前のネットスーパーは、配送料をとらなかったり、とったとしても150円や200円くらいにとどめていたりする企業が多く見受けられました。しかし、その配送料では正直、ビジネスモデルとして成り立ちません。
配送サービスをビジネスとして成立させるには、配送料をきちんと請求することを前提として、そこから「どのような付加価値を提供するか」と思考するのがあるべき姿です。このように考えると、一定額以上の配送料を払ってでも「ほしい」と思ってもらえる商材であることが、必然的に問われてきます。
また近年は、物流を内製化する流れも見受けられます。かつて、ある大手EC企業は商品を配送するにあたり、一つの運送会社に対して極度に依存していました。そこで同社は、まず他の複数の運送会社に配送業務を分散する取り組みを進め、その後、各地域にデポ (小型物流拠点) を設けた上で、個人の運送ドライバーが空き時間に配送の仕事を請け負える仕組みをつくりました。こうして同社は、外部要因に左右されづらい物流システムを確立したのです。
いずれにしても重要なポイントとなるのは、「経営戦略に沿った物流戦略」をとることです。
――「経営戦略に沿った物流戦略」とは、どんなものでしょう。
角井様 同業他社の成功例を真似るのではなく、自社の経営戦略に照らしながらさまざまな選択肢を一つひとつ検討し、自社ならではの物流戦略を組み立てる、ということです。考えてみれば、同じ業種・業態であっても、会社のミッションやキャラクターは千差万別なので、当然ですよね。
例えば、同じアパレル企業でも、トレンディーな商品をいち早く市場に送り込むことを使命とする企業もあれば、品質や体験を重視してじっくり丁寧に売っていく企業もある。当然両社では、物流の最適解はガラリと変わるでしょう。同じ業界でも、電動自転車が最適解の場合もあれば、ハイヤーが最適解の場合もあるわけです。
経営戦略を具現化する物流サービスを導くのに活用していただきたいフレームワークが、私が提唱する「物流戦略の4C」です。
4Cは、Convenience (利便性) 、Constraint of time (時間の制約) 、Combination of method (手段の組み合わせ) 、Cost (コスト) を指します。
まずは最初の2C、すなわち「どんな利便性と価値を提供したいか」「物流のリードタイムや時間の制約はどうするか」を決めます。そうして基本的な物流サービスを設計した上で、手段の組み合わせとコストを最適化していく。そんな2段階のフレームワークになります。
――物流の現状を踏まえ、今後KDDIではどんな支援を行っていきたいですか。
柳澤 業界ではいま、配送ドライバー不足が叫ばれています。会社によっては、望む人員の半分ほどしか集まっていないという声も散見されます。一方、多くのトラックが約半分の荷量のままで運行しているとも言います。つまり、ドライバーと荷物をうまくマッチングできれば、現状のドライバーの数で足りる可能性もあるのです。
企業間物流の効率化で言えば、一人のドライバーで大型トラック2台分の輸送ができる「2連トレーラー」や、遠距離輸送の途中に中継地点を設け、別のドライバーが荷物を引き継ぐことで人件費や燃料費を削減できる「リレー輸送」などの取り組みも進められています。
これらを効率的に実施するためには、リアルタイムに状況を可視化できるIoT技術と通信が不可欠となります。KDDIでは、その両方を専門的に扱ってきた実績が多くあり、その強みを生かし、多くの企業さまに価値あるソリューションをご提供していきたいです。
森橋 果鈴
森橋 消費者が配送にお金を払うことの「心理的なハードルをいかに下げるか」という話がありましたが、再生可能エネルギーを活用するなどで「この物流サービスであれば、お金を払いたい」と感じてもらうこともできるのではないか、とも思っています。
そういったエネルギーマネジメントにおいても、KDDIがお力になれる部分は多分にありますので、そうした方面からも物流サービスの価値を高めていきたいです。
―― 最後に、ロジスティクスの変革を目指す企業に向け、メッセージをお願いします。
角井様 物流は、かつて「コストセンター」と捉えられがちでした。しかし、テクノロジーの進化もあって多様な選択肢が生まれている現代ではとりわけ、「売上」を大幅に押し上げるプロフィットセンターともなり得ます。そうした観点も踏まえて、ぜひ物流への投資を積極的に行っていただければと思います。