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災害が発生した瞬間、遠隔地からドローンが自律的に飛び立ち、わずか数分で現場の状況を伝える。そんな未来が、日本で現実になりつつある。KDDI SUMMIT 2025では、ドローンポートの全国展開によって実現する安全な社会像が示された。AIと通信を組み合わせたドローンの遠隔運用は、都市づくりや防災のあり方を大きく変える可能性を秘めている。
本記事では、ドローンを活用して次世代の社会基盤を構築するKDDIの取り組みを紹介する。
KDDIは2016年から、通信とドローンの可能性を追求してきた。2017年には「ドローンインフラ構想」として、ドローンポートの全国展開を提唱し、その実現がいよいよ始まろうとしている。こうしたドローン事業をより機動的に進めるため、2022年に専門会社としてKDDIスマートドローン株式会社を設立した。
日本航空 (JAL) との連携によるオペレーション力の強化や、Skydio社への出資によるドローンメーカーとのパートナーシップ構築など、連携を通じて社会実装を加速させている。社名が示すとおり、スマートドローンによる社会課題の解決に挑んでおり、ミッションとして「叶えるために、飛ぶ。」を掲げている。ドローンを飛ばすこと自体が目的ではなく、顧客や社会の課題を解決するための手段という位置付けである。
さらに同社は、「KDDIスマートドローンビジョン」を策定し、「空は、もっと近いはずだ。人と技術で、社会の新しい当たり前を創る」というビジョンを掲げた。社長の博野雅文氏は、「通信やAIといった技術に加え、お客さまやパートナーと寄り添いながら、人間力やオペレーション力も高め、新たな社会基盤を築いていくという思いを込めています」と語った。現在進められているドローンポートの全国展開は、このビジョン実現への第一歩と位置付けられている。
ここ数年で通信技術とAI技術が進化し、ドローンの活用スタイルは大きく変わりつつある。従来は人がドローンを現地へ運び、目視できる範囲で操作していたが、モバイル通信を活用することで、どこからでも遠隔操作が可能となり、場所を問わず多様なユースケースを実現できるようになった。
KDDIは、Opensignal社より「モバイル通信品質世界1位」の評価を得ており、この世界トップクラスのモバイル通信品質をドローンの遠隔運用にも最大限活用している。さらに、日本全国をカバーする衛星直接通信サービス「au Starlink Direct」の提供も開始し、将来的にはドローンへの衛星通信の適用も見据えている。通信インフラの充実が、ドローンをいつでも飛ばせる基盤を支えているのだ。
一方で、ドローン機体の性能も飛躍的に向上している。高度なセンシング技術の発達や、AI処理を支えるGPUの進化により、ドローンの空間認識力は格段に高まった。例えば、障害物を検知して自動で回避する機能もエッジ側の処理で実現しつつある。こうした技術進化の象徴となるドローンが、Skydio社のAIドローン「Skydio X10」である。このAIドローンによって、これまで人が行っていた点検や監視、災害時の対応など、複雑な作業を遠隔で運行しながら代替できるようになる。通信ネットワークとAIドローンの融合により、遠隔地からドローンを自在に活用できる環境が整いつつあるのだ。
ドローンを遠隔で運用するには、ドローン本体を現地に常駐させておく必要がある。その役割を担うのが、無人離着陸と充電機能を備えたドローンポートである。これをあらかじめ各地に常設しておけば、災害発生時に即座に遠隔からドローンを飛行させ、必要なデータを取得することが可能になる。
この仕組みはすでに技術的に実現されており、国防・防災・海上保安といった観点からもドローンポート常設の意義は大きく、KDDIもその開発に注力している。なかでも「Skydio X10」専用のドローンポート「Dock for X10」は、現地での人手による操作を一切必要とせず、耐候性と高速充電機能を備えることで、24時間365日の完全リモート運用を可能にしている。
常時稼働できるドローンポートがあれば、必要なときに即座にドローンを飛ばす体制が整う。こうしたドローンポートを設置することで、平常時にはインフラ設備の点検や施設の巡回、子どもの見守りサービスなどに継続利用でき、有事の際には同じポートから被害状況の初動確認や行方不明者の捜索に活用できる。まさに“フェーズフリー (注1)”の実現を可能にするものだ。
博野氏は、「ドローンポートの展開は単なるソリューションではなく、電気・通信・ガスと同じく、社会基盤として人々の安全や暮らしを守る存在になる」と語り、全国どこでも「10分でかけつけるサービス」の実現が可能になると強調している。ドローンポートの全国展開による新しい社会基盤づくりは、まず石川県から開始され、今後は各地でユースケースを広げながら本格化していく予定だ。
KDDIは2024年10月、石川県と「創造的復興の実現に向けた包括連携協定」を締結し (注2)、同県および石川県警とともに有事におけるAIドローンの活用検証を行った。具体的には、以下のような緊急ユースケースについて実証実験を実施している。
いずれもモバイル通信を利用して遠隔操作したAIドローンにより実現し、その有効性は関係機関とともに確認済みである。これらの成果を踏まえ、石川県内に4台のドローンポートが新たに常設された。現在は輪島市に2台、七尾市に2台を配置し、平時・有事をまたいだ多様な運用シナリオの実証をパートナー企業と連携して進めている。
今後はドローンポートの数を順次拡大していく計画であり、全国展開の幕開けが石川から切って落とされた形である。
さらに2025年10月、平時運用中に有事が発生した場合を想定した、国内初の大規模実証実験が行われた (注3) 。平時の3Dモデリングの空撮やインフラ設備の定期点検中に地震が発生した想定で、石川県に設置されたドローンポートから複数のドローンを遠隔操作し、緊急対応モードへの切り替えオペレーションを検証した。有事の運用シナリオでは、地震による被害状況の確認や津波の到来状況の監視を行い、ドローンが取得した映像データをもとに現地の状況把握を進めた。
この実証では、石川のドローンを東京の遠隔運行拠点から操作したが、東京での運用が困難なケースも想定し、北海道拠点からの遠隔操作によるマルチ拠点体制の検証も実施した。東京・北海道の2拠点から計4機を遠隔操作し、平時利用から有事対応へ円滑に移行するシナリオを実現した形である。
このように、石川県での取り組みを皮切りに、ドローンポートを核とした遠隔監視ネットワークの有効性が実証されつつある。
KDDIスマートドローンが展開するAIドローンには、高性能カメラによる精密な測位・撮影機能が備わっている。例えば、高度50メートルからでも1センチメートルの地表データを取得できる。各地にドローンポート展開することで、広範囲かつ高解像度の3Dデジタルモデルを構築することが可能となる。その結果、平常時から国土の高精細な3Dデータが蓄積され、インフラや地盤の状態把握、予兆検知、さらには都市計画や防災計画への活用など、データの価値が多方面で発揮される。
3Dデータの活用例として、石川県輪島市の中谷トンネル付近では、降雨前後の地形変化を分析する取り組みが行われた。7月と8月の2回にわたり、ドローンで取得したデータをもとに3Dモデリングを実施し、土砂の堆積状況を時系列で分析。その結果、約1.5カ月で高さ1.5メートルの土砂が堆積し、4トンダンプ36台分に相当する量の増加が確認された。
このように、ドローンで容易に取得できる3Dデータを活用すれば、日々の地形変化を定量的に把握することが可能となる。インフラ設備の劣化や土砂災害の兆候を早期に検知し、対策を講じるといった予防保全的なアプローチにもつながっていくだろう。
全国にドローンポート網を展開していくにあたり、遠隔運用を支える体制の整備も重要となる。KDDIスマートドローンではこれまで、ドローンポートの設置から運用、データ取得までを一貫して提供する遠隔運用サービスを展開してきたが、現在はその体制をさらに強化し、サービスの拡充を図っている。
強化ポイントの一つは、定期運行に対する24時間365日体制での対応である。もう一つは、顧客の任意のタイミングでドローンを飛行させ、必要なデータを取得できるスポット運行サービスの開始にある。常設のドローンポートと組み合わせることで、オンデマンドでドローンを呼び出し、即時に上空から情報を収集することが可能となった。
KDDIスマートドローンは、こうした遠隔運用体制を基盤に、ドローンポートの全国展開における運用効率の向上と、持続可能なビジネスモデルの構築を進めていく考えである。
ドローンポートの全国展開によって生み出される仕組みは、単なるソリューションの枠を超え、電気・通信・ガスと同様に人々の安全や暮らしを支える基盤となり得る。KDDIグループはこのドローンポート網を、あらゆる災害下でも機能するレジリエンスな社会基盤と位置づけ、防災分野への本格展開を進めている。
新たな一歩として、南海トラフ地震のリスクを見据え、今年9月に徳島県と包括連携協定を締結した。津波の到達状況シミュレーションを活用し、効果的なドローンポートの設置場所を検討するなど、南海トラフ地震発生時にも可能な限り早期にドローンを投入できる基盤づくりを自治体と協働で進めている。
こうした自治体との連携に加え、AI技術との融合にも力を入れている。災害時には、ドローンの空撮映像に加え、人工衛星画像、車載カメラ映像、SNSへの投稿写真など、多様な情報の活用を検討している。これらの被災情報を一元化し、AIで解析することで、地図上への必要情報の可視化や、チャットツールを通じた最適なタイミングでの情報提供など、防災プラットフォームの構築を目指している。リアルタイムで整理・提示される情報は、救助や復旧にあたる関係者の意思決定を強力に支援するだろう。
KDDIグループは、AIドローンとドローンポートを連携させることで、平時と有事をつなぐ新たな社会基盤の構築を目指している。また、ドローンで取得したデータを蓄積・解析するプラットフォームを構築し、自治体・政府・学術機関と連携して防災のあり方を一歩前進させるビジョンを掲げている。今後は、シェアリング型のサービスや「ドローン×◯◯」といった取り組みにチャレンジし、パートナー企業とともにドローン活用の幅を広げていく考えだ。「AIドローンが開く新しい社会基盤」の実現に向け、その挑戦を加速させていく。
展示ブースでは、講演の中でも紹介されていた自動充電ポート付きドローン「Skydio Dock for X10」が展示されていた。自動で飛行、充電、データ転送を行うことで、24時間365日の完全自動運用を実現する。遠隔操作によってドローンポートから自動で離着陸するため、現地オペレーターは不要になるほか、飛行中の映像がリアルタイムで配信される。インフラ設備の点検やパトロール、災害状況の素早い把握や捜索活動など、平時と有事双方で地域の安全と安心を支えるこれらの技術に、来場者からも注目の声が集まっていた。