1872年の鉄道開業時、海の上を初めて鉄道が走り、日本の近代化を押し進めたイノベーションの地「高輪」。その象徴的な場所で、いま再び、次の100年を見据えたまちづくりが動き出している。TAKANAWA GATEWAY CITYは「100年先の心豊かなくらし」を志向する実験場として、リアルとデジタルを融合させながら未来社会の姿を具体化していく街である。鉄道技術展の会場・幕張メッセでは、このTAKANAWA GATEWAY CITYをテーマにしたセッションが開催された。本記事では、セッションで語られた内容および展示ブースで紹介されたソリューションについてレポートする。
まずは、パネルディスカッションの前段として、東日本旅客鉄道株式会社 (以下、JR東日本) マーケティング本部 マネージャーの天内 義也 様が登壇。TAKANAWA GATEWAY CITYのまちづくりに込めた想いや、KDDIとの共創について語った。
天内様はセッションの冒頭、「JR東日本グループがこの街で挑戦するのは、100年先の心豊かなくらしです」と語った。
本エリアは約150年前、日本初の鉄道が開業した際、高輪築堤が築かれ、海の上を鉄道が走ったという近代化の礎を築いたイノベーションの発祥地でもある。その歴史を受け継ぎ、次の100年に向けたイノベーションを芽吹かせる場所として再定義している。
本プロジェクトの共創と実験の先には「地球益 (注1) 」を見据えており、天内様は「ここ高輪から、共創パートナーのアイデアやサービス、知をかけ合わせ、新しいソリューションを生み出し、街全体での実証実験を通じて磨き上げていきます。それらを日本へ、そして世界へ展開していくことで、多様な社会課題を解決し続けたい。」と説明した。
この共創から生まれたサービスの一つとして取り上げられたのが、KDDIと開発した「TAKANAWA INNOVATION PLATFORM」だ。基盤である「TAKANAWA GATEWAY URBAN OS」で集められた街のさまざまなデータを活用し、街を訪れる人にサービスを提供する。例えば、街の混雑情報を活用して配送ロボットが人混みを避けて商品を配送したり、街アプリが最適なルートをナビゲートしてくれるのだ。これまでにデータの収集・蓄積からまちづくりへの活用までを民間企業のみで構築した前例はなく、異業種間での共創によってこそ実現したプラットフォームだと言える。
天内様はプロジェクトの展望について「TAKANAWA GATEWAY CITYは未来のくらしづくりのための大きな実験場です。街も人も成長します。気候や施設、人々の行動は常に変化する。だからこそ、データを蓄積し学習しながら、より安心安全な都市へ進化させていきたい。時には失敗もしながらこれからもKDDI様と、挑戦を加速していきます」と語った。
続いてのセッションでは、東日本旅客鉄道株式会社 取締役会長 深澤 祐二 様とKDDI株式会社 代表取締役会長 髙橋 誠との対談が行われた。本対談では、高輪での実証実験、異業種間共創の価値、そして100年先を見据えた未来像について語った。
――まず、導入として、「高輪」という地についてお伺いしたいと思います。鉄道草創期から発展していた「高輪」という土地で、どのような新たな街ができていくのでしょうか。
深澤様 高輪は私たち鉄道人にとって、まさに「はじまりの地」です。約150年前、日本で初めて鉄道が走り始めた際、この土地では海上に鉄道を通すために、西洋の蒸気機関・鉄道技術と、日本の築城に培われた土木技術を融合させて「高輪築堤」が築かれました。まさにこの土地はイノベーションを象徴する土地です。これからも高輪の地が持つ歴史的な系譜を受け継ぎながら、100年先の未来が心豊かであるような街を作っていきたいと考えています。
――KDDIも今年、高輪に本社を移転しました。高輪を選んだ理由を教えてください。
髙橋 弊社はBCP (事業継続計画) の観点から本社移転を検討していましたが、そのタイミングでJR東日本様から「アップデートし続けるまちづくりを、一緒に実験しながら進めないか」とご提案をいただきました。
JR東日本様は鉄道を中心にさまざまな事業を拡大されており、その姿勢は通信を軸に幅広く成長する弊社にとって長年のロールモデルでもありました。テナントとして単に入居するのではなく、まちの未来を共創する一員として参加できる点についても非常にありがたく感じたので、高輪を新たな拠点として選びました。
――移転されたKDDIの新本社はどのようなオフィスなのでしょうか。
髙橋 まず、大規模災害時でも指令機能を維持できるようなBCP対応を実現しています。また、リアルなコミュニケーションが生む価値を重視し、個別会議室は最小限にして、開放的なグリーンフィールドで集まれるスペースを設けました。自然な交流がイノベーションにつながるオフィス設計にしており、今では9割近くの社員がオフィスに来て仕事をしています。
――鉄道と通信という異なる領域の企業が連携し、コラボレーションを行ううえで重要な視点について伺いたいです。
深澤様 私たちはここを「実験の街」と位置づけ、共通の志を持つ企業とともに、新たな実証に挑む場所にしたいと考えています。そのため、これまで接点のなかった異業種の企業とも積極的に連携し、新しい価値創造を進めていきます。
例えば、JR東日本は、1日約1,600万人のご利用者様とのリアルな接点があります。一方で、KDDIはデジタルやバーチャル領域に強みを持つ。このリアルとバーチャルの融合こそが、新たな価値を生み出す源泉です。どんどんアイデアを出し、ともに挑戦しながら、未来の都市を創り上げていきたいと思います。
髙橋 通信業界では従来、自らでサービスを作り込み、完結させることが多かったように思います。しかし今は、多様なパートナーの皆さまとともに新しい価値を生み出していくことが重要だと考えています。また、通信サービスは「目に見えにくい」ビジネスです。だからこそ、リアルな顧客接点を持つ企業との連携によって、新しい価値を創造できると感じています。例えば、お客さまが駅や商業施設で買い物をしたとき、アプリケーションなどの通信を通じて継続的につながる。リアルの強みと通信の強みを掛け合わせることで、サステナブルにお客さまとつながっていける点では、非常によいマッチングだと考えています。
――続いて、駅の役割について伺います。駅はこれまで「移動のための起点」であり続けてきましたが、いまは生活や経済を支える機能が拡大しています。鉄道事業者として、駅をどのように位置づけ、どんな価値を生み出していくのか、お聞かせください。
深澤様 駅はこれまで、お客さまが電車に乗るために立ち寄る場所でした。しかし、デジタル化やコロナ禍の経験を経て、駅が「人を呼び込む理由」を根本的に見直す必要がありました。そこで私たちは駅を、便利さを拡張させる空間へ進化させてきました。飲食や買い物を楽しめる“エキナカ”を拡大し、さらにステーションワーク、スマートロッカー、診療機能を備えたスマート健康ステーションなどを整備し、駅が生活時間を生み出す場所へと役割を広げています。
私たちは、こうした都市と駅の関係性の進化を TOD (Transit Oriented Development) という概念で整理しています。
現在のTAKANAWA GATEWAY CITYは、駅と周辺の街が融合し、一体となって価値を生む TOD 3.0に位置づけられます。今後はさらにリアルとデジタルを掛け合わせ、国内外とシームレスにつながるTOD 4.0 へ進化させていきます。
また、今はSuicaについても進化を進めていて、例えば、マイナンバーカードとSuicaを連携させ、高齢者割引がSuica1枚で自動的に適用される仕組みの導入など、決済手段から“生活を支えるデジタルデバイス”へとその役割を拡張していきます。日々の暮らしにより深く寄り添うプラットフォームへと価値転換を図ることで、より豊かな体験を生み出していく。駅と都市の新しい関係を、この高輪から世界に先駆けて提示していきたいと考えています。
――通信は今後、駅の進化にどのように関わっていくのでしょうか。
髙橋 生活のデジタル接点は、サブスクリプションなど海外発のサービスが占める部分も増えているため、今後は駅のようなリアルな場はますます強力な価値を持っていくと考えています。そして、今後TOD 4.0を目指すうえでも「お客さまとの持続的なつながり」をどのように維持・拡張するかが非常に重要です。駅をただ通り過ぎて終わりではなく、その後もアプリやサービスを通じてお客さまとの関係を継続できるようにする。これこそがリアルとデジタルの融合における強みであり、通信の役目であると考えています。また、我々はコンビニの事業にも取り組んでいますが、その中でも人が行っていることをただ単にデジタルに置き換えてしまうのではなく、デジタルの活用により、“お客さまに一番身近な場所”に人を配置することで新たな付加価値が生まれることを日々実感しています。
――TAKANAWA GATEWAY CITYでは多様な実証実験が行われていると伺いました。特に注目されている取り組みや、その先に描く未来像について教えてください。
深澤様 弊社では、「地球益」の実現に向けて環境・モビリティ・ヘルスケアの3つを価値軸に掲げ、まちづくりを進めています。例えば環境面では、街全体でCO2排出量実質ゼロを目指しているため、日本で初めてとなるビルイン型バイオガスシステムを用いた温水ボイラーを導入しています。さらに、金属加工が盛んな新潟県燕三条では、地域のものづくり企業のビジネスマッチングや人材育成を行うことで産業振興と雇用創出に貢献するなど、地域活性化の面でも取り組みを広げています。TAKANAWA GATEWAY CITYにおいては、まちびらきで終わるのではなく、開いたその瞬間から常に変わり続けることが重要です。100年先まで成長し続ける都市を、この地から実現していきたいと考えています。
髙橋 人を主役にして、利用者自身がアップデートの主体となる都市モデルは、まだ実例が多くない分、大きな期待を寄せています。そのため、今後はリアルな場に集まる人々の行動や滞在データをもとに、サービスや街のあり方を継続的に改善していきます。あわせて「距離をなくす技術」にも注力しています。私たちは2020年からJR東日本様との共創により生まれた「空間自在ワークプレイスサービス」(外部サイトへ遷移します) を提供していますが、これは離れた場所にいる人同士でも、まるで隣にいるかのように自然にコミュニケーションを図れる環境を生み出すものです。デジタルが物理的な距離を埋めることで、都市はもちろん、地域にも新たな共創の可能性が広がります。こうした挑戦とともに、世界へ羽ばたくスタートアップを育てる土壌としても高輪を発展させたい。志と技術を持つ挑戦者たちが、この街から次の未来を切り開く――そのような“ゲートウェイ”として成長していく未来を描いています。
――先ほどの天内様のお話しの中で「失敗」という言葉が出てきたのが印象的でした。通常は失敗を避けるべきと捉えられがちですが、あえて「失敗してもいい」という風土を掲げる背景について教えてください。
深澤様 日本社会全体には、安定を重視する文化が根づいています。しかしイノベーションは、実験→実証→実装という段階を踏んで初めて生まれます。特にスタートアップは、挑戦できる「実証の場」がなかなかありません。そこでTAKANAWA GATEWAY CITYを、失敗が許容される実験フィールドとして活用してもらいたいと考えています。失敗の数だけイノベーションは大きくなると私は思っています。
髙橋 海外と比較すると、日本は先にルールを厳格に整えようとするため、出遅れてしまう傾向があります。AIの時代にこそ、失敗をしてもいいから、新しいことにどんどん挑戦し続け、何か問題が起こったら対処していくことが重要になると考えています。
――100年先を見据えるとは、未来の世代へ街を引き継ぎ、さらに育てていくことでもあります。若い世代やスタートアップの皆さまに向けて、ぜひメッセージをお願いします。
深澤様 私からお伝えしたいことは、「もっとチャレンジしよう」ということです。もし挑戦する場所や、サポートが必要なら、我々が提供します。今の日本は、人口減少のような先行き不安といった課題ばかりが目に入ってしまいがちです。しかし、だからこそ、日本を面白く、よりよくしていこうというのが、私からのメッセージです。
TAKANAWA GATEWAY CITYも、より多くの方が夢を持てる場にしていきたいと思います。
髙橋 TAKANAWA GATEWAY CITYは、ここに集う多様なパートナーの皆さまが活躍できる街です。ここに来る若い方々が、100年後の暮らしをつくっていけるように、今後もさまざまな挑戦ができる実験場として発展させていきます。
イベント会場内のKDDIブースでは、JR東日本との共創によるTAKANAWA GATEWAY CITYでの取り組みをはじめ、未来の都市づくりや鉄道DXを加速させるソリューションが展示された。
「エキマチ一体スマートシティ」の展示では、駅サービス、街のアプリ、データプラットフォームを統合し、モビリティ、商業、防災などを包括的に最適化する未来像を示した。街中を走行するロボットが配送・案内を担い、状況に応じて自律移動するなど、日常生活に溶け込む次世代サービスが具体的に理解できる。
また、3D都市モデルを活用した「大規模人流シミュレーションシステム」は、災害時の避難行動だけでなく、平常時の混雑予測、防災計画の立案にも活用可能なものだ。さらに、開業前の段階から実装検証が可能であり、都市全体のリスクを可視化し、効果的な施策検証に貢献する。
さらに、保守・点検領域におけるデジタル活用についても紹介。3D点群圧縮技術では、スマートフォンで施工現場を撮影するだけでリアルタイムに3Dデータを伝送でき、保線・設備管理業務の効率化を実現できることを示した。
鉄道技術展2025では、TAKANAWA GATEWAY CITYを舞台に、リアルとデジタルが融合する次世代都市モデルの実装を示した。
本プロジェクトは、異業種共創によって育てられる「実験場」である点が特徴である。失敗を許容し、実証を繰り返しながら、幅広い領域で価値創造を加速させている。人が主役になる「アップデートし続ける街」は、これからも企業、住民、スタートアップを含む多様なプレイヤーに活躍の場を開きながら、新たな産業や文化の創出を後押ししていく。