2025年7月、KDDI本社の高輪移転をきっかけに、高輪ゲートウェイエリアではさまざまな実験がスタートした。掲げるコンセプトは「あなたに気付く街 みんなで築く街」。まちアプリ (注) やロボットデリバリー、ローソンの実験店舗など、街そのものを舞台にした取り組みが進められている。そこから約9カ月。2026年3月28日、JR東日本によるTAKANAWA GATEWAY CITYのグランドオープンを機に、実験はさらに拡張される。これまでの実験で得られた成果や気づき、そしてグランドオープンで始まる新たな取り組みについて、担当者に話を聞いた。
――2025年7月にKDDI本社が高輪に移転してから約9カ月が経ちました。改めてどのような実験を行ってきたのか教えてください。
松本 KDDIは本社移転を機に、街に訪れる人向けの「ハイパー・パーソナル体験」と、街で働く人向けの「ハイパー・パフォーマンス体験」の2つを軸に、さまざまな実験をJR東日本様とともに進めてきました。
ハイパー・パーソナル体験として、「まちアプリ」による最適なタイミング・内容でのレコメンドがあります。駅の改札を通ったタイミングでその人の趣味・嗜好に合った店舗やイベント情報をレコメンドし、街へ訪れる人のエンゲージメント向上に寄与しています。
ハイパー・パフォーマンス体験としては、ロボットによる商品配送があります。カフェや社食の商品の配送をロボで行い、時間の有効活用やコミュニケーション活性化を実現しています。
手塚 ローソンに関しては、KDDI本社のあるTHE LINKPILLAR 1 NORTH 6階に一般の方も利用できる「Real×Tech LAWSON」1号店、17階に社員専用店舗をオープンしました。ここを実験場として、ロボット配送や陳列ロボット、店内サイネージなど、先端的技術を用いた「未来のあたりまえ」を創る取り組みを進めています。
17階の店舗は「レジがない店舗」として運営しています。決済は「オフィスローソンアプリ」で行う仕組みにしており、実際の運用データを見ながら、どのようなオペレーションが最適かを検証してきました。
――取り組んできた実験について、どのような成果がありましたか?想定どおりだった点や想定外だった点、社内外からの反響など教えてください。
吉田 まちアプリに関しては、リリース後のダウンロード数は想定通り、むしろ期待以上に伸びています。KDDI本社移転のタイミングや「ニュウマン高輪」の開業といった節目で大きく伸びるタイミングがありつつ、日々の利用も着実に増えてきました。
また、趣味・嗜好に合わせたレコメンドは、はっきりと成果が見えています。一般的なアプリのバナー広告に比べてクリック数が4倍以上に拡大しています。
松本 ロボットデリバリーについては、当初は「疲れたときに個人で注文し、休憩しながら受け取る」といった使い方を想定しており、実際にそのように利用されるケースも一定数ありました。
一方で予想外だったのは、複数個をまとめて注文する使い方です。例えばミーティング際に、「リーダーの方がコーヒーをまとめて注文して参加者に配る」といったケースがありました。そこでちょっとした驚きや会話が生まれ、コミュニケーションのきっかけになっているのです。単に便利なサービスというだけでなく、職場のコミュニケーションを生む使われ方が出てきたのは興味深い点でした。
手塚 KDDIはローソンでの運用面にも関わっており、店舗側の動きも含めて改善を重ねてきました。例えばロボットデリバリーに関しては、導入当初は注文から受け取りまで30分以上かかっていたのですが、運用面を改善することで約20%の時間短縮まで実現しています。
17階の社員専用店舗についても、オープン初日から大きなトラブルもなく運用できています。アプリのダウンロード数も、他拠点からの来訪者を含めると高輪本社勤務社員数比で100%を超えており、多くの方に使っていただけている点は、よい意味での想定外でした。
通常、オフィスビルのコンビニは、朝や昼の時間帯に行列ができやすく、場合によってはレジまで5分以上待つこともあります。ですが17階の店舗はレジに並ぶ必要がないので、滞在時間2分程度で買い物ができる。結果として、売上面でもプラスに働いていると感じています。
一方で、オフィス内の店舗は土日が休みになるため、金曜日にお弁当が売れ残ると破棄につながってしまいます。そこで、消費期限が近い商品のタイムセールをアプリ上で行うなどの工夫もしています。今後も売上データや人流データを活用して店舗運営の最適化や機能アップデートを行っていく予定です。
また、このような成果を踏まえてKDDIの大阪ビル・新宿ビルにも新たにオフィス特化型ローソンをオープンさせています。
――2026年3月には、TAKANAWA GATEWAY CITYがいよいよグランドオープンを迎えました。今回、実験をさらに拡張されるとのことですが、その背景や狙いを教えてください。
松本 高輪の取り組みには「高輪からあなたの街へ」というコンセプトもあります。高輪の中で完結させるのではなく、ここで得た知見を次の街へと広げていく、という考え方です。その最初の大きな機会が、2026年3月28日に開業する1〜3街区です。現在は4街区を中心にロボットやアプリの実証を進めていますが、これらの取り組みをより広いエリアへ拡張する機会になると考えています。
さらにグランドオープンでは、レジデンスが増えるほか、文化創造施設のようなイベント空間も新たに生まれます。街に関わる人がさらに拡大していくタイミングでもあるので、実証も次の段階に進めたい、という想いがあります。
――ロボットデリバリーの「拡張」について教えてください。
松本 これまでは主にオフィスワーカー向けに提供してきましたが、今後はレジデンスの居住者向けにもロボット配送を展開していく予定です。大きなポイントは、配送途中に公道が含まれる点です。公道を走行する場合、安全を常時確保する仕組みが必要になります。人が付き添う方法もありますが、今回は遠隔監視によって、異常があればすぐに停止できる仕組みを用いて、安全を担保しながら運用していく予定です。公道でのロボット配送を継続的に運用する形で行う取り組みは、まだ前例も多くありません。その意味でも大きなチャレンジだと思っています。
また、ロボットが改札を通過して配送するといった取り組みも予定しています。背景にあるのは、「高輪ゲートウェイ駅に遊びに来たが、駅の中に滞在したまま、効率的に駅外のお店で買い物したい」というニーズがあるのではないか、という仮説です。この「駅構内でのちょっとした駅外の買い物ニーズ」を満たせるかの検証を検討しています。
――続いて、まちアプリの「拡張」について教えてください。
吉田 グランドオープンに合わせて、アプリの地図表示を1〜3街区まで拡張し、あわせて経路案内機能も強化します。従来の地図上の案内に加え、ARによる案内も用意し、GPSだけでは難しい屋内外の移動でも、より正確に目的地まで案内できるようにしていきます。さらに、バリアフリーモードも用意しており、ベビーカーを利用する方なども含め、多くの方が利用シーンに合わせて快適に街を移動できるようにしたいと考えています。
また、まちアプリでもレジデンス居住者限定の特典やサービスを提供していく予定です。 例えば、改札を通過するとまちアプリが連携し、自動でお風呂を沸かす機能が追加されます。さらに今後、照明などにも機能を広げていくことで、今までにない帰宅体験を提供していきたいと考えています。
――新たな取り組み「街の感情分析」について教えてください。これはどのような課題意識から始まったのでしょうか。
松本 高輪には多くの防犯カメラがあり、その映像をAIで解析して人流データを取得しています。今回の取り組みでは、その延長として、映像から人の「喜び」「悲しみ」「怒り」といった感情を推定しようとしています。
背景にあるのは、不動産の価値や街に対するエンゲージメント (愛着) が定量的に測りにくいという課題です。これまではアンケートを配布して回収し、集計・分析する方法が一般的でしたが、都度実施するには手間もコストもかかります。そこで画像解析を活用し、街に滞在する人の満足度を可視化できないか、という問題意識から始まった取り組みです。
仕組みとしては、人の姿勢や動くスピードなどから感情を推定します。ただ、個人差がありますよね。例えば猫背の方は、背中が曲がってうつむいている姿勢が普段の状態かもしれません。そのため、今は実証実験としてデータを収集しながら、学習を重ねて精度を高めていく予定です。
――将来的には、この感情分析技術でどのような価値を生み出していきたいですか。
松本 例えば今後、文化創造施設で開催されるイベントなどで、イベント中や終了後の来場者の感情を可視化し、「このイベントがどれだけ満足度の高いものだったのか」を把握できるようにしたいと考えています。
さらに将来的には、スタジアムやアリーナなど、人が多く集まる場所での活用も想定しています。例えば試合後に混雑が発生し、来場者の不満や怒りが高まっている状態が見えた場合に、警備ロボットを配置したり、動線を変更したり、音楽などで気持ちを落ち着かせるといった対応も考えられます。
人流データと感情のデータを組み合わせることで、よりきめ細かな街の運営やサービスにつなげていくことができるはずです。最終的には、状況に応じて街自身が最適な対応を行う、まさに「自律的に動く街」を実現していきたいと考えています。
――最後に、このような実験を通して、高輪をどのような街にしていきたいですか。
松本 理想としては、街が自律的にデータを集め、分析し、そこからコンテンツやサービスを生み出し、アプリなどを通じてユーザーに届ける。そして、その反応がまた次の改善につながる――そんな循環が生まれる街です。すぐに実現できるものではありませんが、段階的に取り組みを積み重ねながら、「あなたに気付く街、みんなで築く街」、を具現化していきたいと考えています。
また、高輪の取り組みの基盤には、デジタルツインプラットフォーム (都市OS) があり、街のさまざまな情報を集約しています。今後、街区が増え、実験に参加する住民や企業も増えていく中で、デジタルツインプラットフォーム (都市OS) 上で、街・企業のさまざまなデータを掛け合わせながら、高輪だからこそ実現できる体験やビジネスを生み出していきたいと考えています。
吉田 まちアプリは実際に使ってもらうほど、改善と機能追加がされていき、街全体もどんどん便利になっていきます。気づいたらまちアプリの機能が改善されていて、「街全体もよくなっている」と自然に感じてもらえる状態を作っていきたいと考えています。ユーザー自身が街を作っていく感覚で、高輪の街を好きになってもらえるといいなと思っています。
手塚 ローソンでは、引き続き配送ロボットや商品の自動陳列、店内サイネージの最適化を行います。サイネージでは、マチと連携しながら、マチのイベントや災害時のニュース・緊急情報といった情報コンテンツを自動生成して配信する仕組みも検討しています。
さらに他のマチへの横展開も見据え、最新の設備やインフラが整っていない場所でも動けるロボットを用意することで、導入できる場所の幅が広がると考えています。
ローソンは「マチのほっとステーション」として、単なる購買の場ではなく、情報やサービスが集まる場所になりつつあります。今後は、デジタルツインプラットフォーム (都市OS) と連携し、人流データなども活用しながら、より効率的な店舗運営や魅力あるサービスにつなげていきたいと思っています。高輪で得た知見を活かして、使う人・導入する人・運営する人、関わるすべての人が嬉しくなる形を広げていきたいです。
TAKANAWA GATEWAY CITYでは、街そのものを実験の場としながら、未来の都市のあり方を探る挑戦が進められている。
ここでの実験を通じて得られた知見は、これからの都市づくりや新たなサービスのヒントにもつながっていく。
グランドオープンを迎えたTAKANAWA GATEWAY CITYは、引き続き、実証と改善を重ねながら進化を続けていく。