<本稿は、「日経クロステック」に掲載された記事を転載しています。>
KDDIは、自動運転の遠隔監視 (注1) インフラとして、「モビリティコントロールセンター」を始動した。
クルマだけでなく、ロボットやドローンまで統合し、各事業者がサービス開発に集中できるプラットフォームを創り出す。この新たな挑戦について、同社のキーパーソンに聞いた。
――少子高齢化や人手不足などにより、地方の公共交通や輸送業界が危機的な状況に直面しています。現在の輸送業界をどう見ていますか。
中島 特に地方でのタクシー不足やバスの減便は深刻ですし、物流面ではトラックドライバーの半数以上が50歳以上というデータもあります。将来、担い手が不足するのは火を見るよりも明らかで、非常に大きな社会課題です。
――特に深刻なのは、免許返納を推奨される高齢者の方々が、返納した瞬間に「足」を失ってしまう、交通弱者の問題です。
石橋 こうした課題は、特定の地域や世代に限らず、日本社会全体がこれから直面していく構造的な問題だと捉えています。これまでの社会は「人が運転すること」を前提に移動の仕組みが設計されてきましたが、その前提自体を少し見直すタイミングに来ていると感じています。自動運転車やロボット、ドローンなどの技術を組み合わせ、人が担ってきた移動の役割の一部を、テクノロジーで補完していくことが、これからの社会には求められていると考えています。
——KDDIは2025年10月に自動運転向け遠隔監視基盤となる「モビリティコントロールセンター」を設立しました。通信会社が自動運転の分野に本格参入する理由を教えてください。
中島 大きな転換点となったのが、2023年4月の道路交通法改正によって、運転者がいらない自動運転「レベル4」(注2) が一定条件下で解禁されたことです。レベル4では、安全確保のための遠隔監視が必須であると規定されたことで、我々の強みである通信を生かせるチャンスと捉え、一気に取り組みを加速させました。2023年8月には、自動運転トラックによる幹線輸送の実現を目指す株式会社T2と資本提携し、実証実験を推進しています。
——これまでもコネクティッドカー分野で実績を重ねてきました。
中島 弊社は2002年からトヨタ自動車の「G-BOOK (現在はT-Connect)」、2004年からはいすゞ自動車株式会社の車両運行管理サービス「MIMAMORI (みまもり)」など、コネクティッドカー (注3) 分野で長年にわたり運用を担ってきました。
さらに、2019年にはトヨタ自動車と共同で、世界共通で通信回線を一元管理できる「グローバル通信プラットフォーム (注4)」の提供を開始し、事業を一気にグローバルへと拡大しました。現在では、世界で約4200万台、日本国内だけでも約750万台の車両に通信回線を提供し (注5)、その運用を支えています。
石橋 弊社は既に、これだけの台数の通信状態を24時間365日監視し、異常があれば即座に対応する体制を整えています。こうした運用実績を土台に、通信だけでなく、サービス全体の安定運用まで踏み込むために設立したのが「モビリティコントロールセンター」です。モビリティコントロールセンターでは、遠隔監視に加え、車両や車内の異常検知から現地対応・安全確保まで一気通貫で担っていきたいと考えています。
——モビリティコントロールセンターでは、自動運転車だけでなく、ドローンやロボットなど、さまざまなモビリティーを監視・運用できる体制への拡張を目指しているそうですね。
中島 複数の種類のモビリティーを1つの組織で運用する狙いは、効率性と全体最適にあります。自動運転の遠隔監視では、車両の状態だけでなく、その土台となる通信インフラの状況も含めて常に把握しておく必要があります。であれば、それらを別々に管理するのではなく、同じ組織で一体的に運用したほうが、より安定したサービス提供につながります。
事業者ごとに個別に監視・運用拠点を持つと、どうしても仕組みや人員が重複してしまいます。監視・運用といった「協調領域」をKDDIが担い、その分、各事業者の皆さまにはサービスの品質向上や価値創出に注力していただける形を目指しています。
―—自動運転ならではの難しさはどこにありますか。
石橋 自動運転のソフトウエア自体は車体側で独立して動く設計ですが、遠隔監視があることで初めて運行が許可されるため、安全の鍵を握るのは通信の信頼性です。回線を冗長化 (注6) させ、メイン回線がダメなときにサブへ切り替える仕組みや、KDDIの研究所が持つ高度な映像圧縮技術 (注7) などを駆使し、信頼性の向上に努めています。
―—通信企業として、KDDIならではの強みはどこにあると考えていますか。
中島 第1に、先ほど申し上げた、過去約25年にわたり全世界で約4200万台の車両を支えてきた「運用品質」の実績です。高速移動する車両で求められる、基地局への接続の確実な切り替えなどの知見の蓄積は、KDDIの大きな強みです。
第2に、ビジネスモデルの柔軟性です。我々は特定のメーカーの車両に最適化するのではなく、どのようなデバイスでも受け入れる「黒子」としてのスタンスを大切にしています。メーカーや自治体がそれぞれのニーズに合わせて最適なモビリティーを選び、弊社はその裏側で、柔軟に監視・オペレーションを担うことで、自治体や企業の皆様にとって導入しやすい形を提供できる体制を整えています。
―—最後に、今後の事業展開のビジョンについて聞かせてください。
石橋 KDDIが目指しているのは、あらゆるモビリティーがシームレスにつながり、社会全体として最適に機能する世界です。例えば地方の買い物支援では、人が「必要だ」と感じた瞬間を起点に、距離や状況に応じて最適な手段が自然に選ばれる。長距離の配送は自動運転車が担い、ラストワンマイルの配送はドローンやロボットが補完する。そういった役割分担が自然に行われる社会です。
重要なのは、こうした仕組みを個別に最適化するのではなく、横断的に管理し、社会全体としての最適解を導くことです。私たちは第三者の立場からその基盤を支え、社会にとってなくてはならないインフラであり続けたいと考えています。
また、山間部などの通信環境が厳しい地域については、衛星通信などを組み合わせて補完していくことも検討しています。通信という強みを進化させ、社会課題の解決を支える基盤を整えていくことが、私たちの描く将来像です。人々の暮らしをより便利で快適なものにし、地方が活力を取り戻していく。そのためのインフラとして長く信頼され続ける存在であること。それこそが「つなぐチカラの進化」を掲げるKDDIの使命だと考えています。
中島 今後、さらに自動運転の実装を推し進めていくと同時に、モビリティコントロールセンターを通じて車両・走行データを収集・AI (人工知能) で分析し、得られた示唆をお客さまやパートナーさまに還元することで、モビリティーと人が共生する、よりよい社会の実現を目指していきます。