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「KDDI Market Compass」の挑戦市場調査から戦略立案までを「最短1日」で一気通貫支援

「KDDI Market Compass」の挑戦
市場調査から戦略立案までを「最短1日」で一気通貫支援

KDDI株式会社 (以下、KDDI) は2026年8月20日、高品質な位置情報データや属性データ、生成AI、そしてJR西日本SC開発株式会社 (以下、JR西日本SC開発) が長年培ってきた実践知を組み合わせた業界特化型AIソリューション「KDDI Market Compass」(外部サイトへ遷移します) の提供を開始した。説明会では、KDDIが掲げる「AIインテグレーション」の考え方とともに、商業施設開発の現場で培われた実践知を、どのようにAIへ実装したのかが紹介された。なぜ今、AIに商業施設開発の知見を組み合わせるのか。そして、「KDDI Market Compass」は、商業施設開発における市場調査・分析や意思決定をどのように変えていくのか。本記事では、その挑戦と可能性をレポートする。

  • ※ 記事内の部署名、役職は取材当時のものです。


AI前提社会の到来と「使えるデータ」が握る競争力

説明会の第一部には、KDDI株式会社 ビジネスグロース事業本部 グロース事業推進本部 AIインテグレーション事業推進部 部長 北条 裕樹が登壇し、AIの進化と、KDDIが目指すAI社会の未来像について語った。

AIは今、単なる文章作成やデータ分析の「補助」を行う段階を越え、自律的に状況を認識し計画・実行・自己学習までを担う「Agentic AI / Physical AI」へと急速に進化している。KDDIでは、企業や人々の活動を支える「AI労働力」および「AI生活力」を実現するため、通信インフラとデジタルサービスを融合させたAIインテグレーションを推進している。

北条は、AI前提社会において競争力を左右するのはAIそのものではなく、「データの質」であると強調した。どれだけ高度なAIモデルを活用しても、投入するデータの質が低ければ、そこから得られる分析や意思決定の価値も限定される。だからこそAI時代には、企業独自のデータアセットを持つことが重要になるという。

北条 裕樹の写真
KDDI株式会社 ビジネスグロース事業本部
グロース事業推進本部 AIインテグレーション事業推進部
部長
北条 裕樹

KDDIは通信事業を通じて、高鮮度かつ高精度な位置情報データを保有している。さらに、契約者情報に基づく性別・年代などの属性情報や移動特性も組み合わせることで、人々の行動を多面的に捉えられることが強みだ。こうしたデータを活用した商圏分析ツール「KDDI Location Analyzer」(外部サイトへ遷移します) は、2019年の提供開始以来、1,000社以上の企業や自治体に導入され、幅広い業界の市場分析や商圏分析を支援してきた。

一方で、AIの価値を業務の成果につなげるには、質の高いデータを用意するだけでは十分ではない。そのデータをどう読み解き、どのような視点で分析し、どのような仮説を立て、意思決定につなげるか。そうした「実践知」も重要になる。
今回、この高品質なデータと生成AI、さらにJR西日本SC開発が培った商業施設開発の知見を融合し、商業施設開発における調査・分析・戦略立案を支援する業界特化型AIとして開発されたのが「KDDI Market Compass」だ。KDDIが推進する「AIインテグレーション」を体現する取り組みとして、データと業界知見を掛け合わせた新たな意思決定支援の実現を目指している。


商業施設開発の変革:
MASSからLOCALへ、顧客起点マーケティングの実践

続いて登壇したJR西日本SC開発株式会社 執行役員 カンパニー統括本部 副統括本部長 舟本 恵 氏は、SC売上高全国第2位 (注1) の商業施設「LUCUA osaka (ルクア大阪)」や、飲食特化型ビル「バルチカ03」などの開発・運営で培われた知見をもとに、商業施設開発を取り巻く環境変化と課題について語った。

スマートフォンやSNSの普及により、生活者の価値観やニーズは細分化・多様化している。従来の「マス・マーケティング (多くの人に同じ価値を提供する手法)」では、こうした多様なニーズに応え続けることが難しくなっているという。一方、EC (電子商取引) では、デジタル空間の特性を活かして、一人ひとりのニーズに合わせた商品やサービスを提供できる。しかし、リアルな商業施設には「床面積」「テナント数」「商品点数」といった物理的な制約がある。だからこそ、商業施設開発においては、その地域の人々が何を求めているのかを深く理解し、限られた空間の中で地域に最適化した価値を提供する「ローカライゼーション」が重要になっている。

舟本 恵 氏の写真
JR西日本SC開発株式会社
執行役員 カンパニー統括本部 副統括本部長
兼 経営戦略部 部長
舟本 恵 氏

こうした環境変化を受け、同社では、テナントを通じて顧客を理解する従来型のアプローチから脱却し、商業デベロッパー自身が地域生活者のニーズを直接理解した上で、最適なテナントと共創する「顧客起点マーケティング」を推進してきた。

同社では、市場調査やデータ分析、仮説構築、戦略立案など、独自のマーケティングプロセスを確立している。こうした取り組みは「日本マーケティング大賞2025 地域賞」や「BtoBマーケティング大賞2025 大賞」を受賞するなど、外部からも評価されている。

マーケティングプロセスの図
<顧客起点マーケティングプロセス>

一方で、このような顧客起点マーケティングを実践するには、高度な専門知見に加え、多くのデータを収集・分析し、レポートにまとめるための膨大な作業時間が必要となる。実際に、一昨年にJR大阪駅に開業した「バルチカ03」の開発では、市場調査からデータ分析、レポート作成、社内での合意形成まで、一連のプロセスに4カ月以上を要したという。生活者のニーズが絶えず変化する中、分析や意思決定に時間がかかれば、変化のスピードに追いつくことが難しい。また、高度な分析を担える人材が限られることで、専門的なノウハウが特定の担当者に依存しやすいという課題もある。

こうした「分析に時間がかかる」「専門知見が属人化する」という課題を解決し、顧客起点マーケティングをより多くの場面で実践できるようにするため、JR西日本SC開発とKDDIが取り組んだのが、「KDDI Market Compass」の開発である。

  • 注1) 2024年度実績 繊研新聞社調べ

KDDIの保有データ×分析モデル×生成AIの融合:
「KDDI Market Compass」がもたらすイノベーション

第三部では、前章で示された「分析に時間がかかる」「専門知見が属人化する」という課題に対し、どのようなアプローチで解決を図ったのかが紹介された。
「KDDI Market Compass」の開発にあたっては、JR西日本SC開発が実務で磨き上げてきた市場分析プロセスや評価観点、仮説構築の考え方を整理し、分析モデルとして体系化した。これを生成AIに組み込むことで、単にデータを分析・提示するだけでなく、専門家がどのような視点で市場を捉え、どのように分析や仮説構築、戦略立案につなげているのかを、AIによる分析プロセスとして再現できるようにした。さらに、KDDIが保有する位置情報データや属性データと組み合わせることで、市場調査から分析、戦略立案までの一連のマーケティングプロセスを支援する仕組みを実現している。

KDDI Market Compassについての概要図
<サービスコンセプト>

ユーザーは、シンプルなWeb UI上で開発条件や対象エリアなどを入力することで、商圏分析や競合分析、顧客ニーズ分析、戦略立案といった複数の分析プロセスを一連の流れで実行できる。従来はデータ分析ツールによる分析、アンケート結果の整理、定性調査の整理、レポート作成などを個別に進める必要があった。これに対し「KDDI Market Compass」では、こうした分析プロセスを一つの仕組みの中で連携させることができる。単に分析作業を効率化するだけではない。JR西日本SC開発が培ってきた「どのデータを見るのか」「どう分析するのか」「どのような仮説を立てるのか」「そこからどのように戦略につなげるのか」という実践知をAIに実装することで、専門人材の経験やノウハウに依存していた分析プロセスの再現性を高め、より迅速な意思決定を支援することを目指している。
つまり、「KDDI Market Compass」が提供する価値は、データや生成AIそのものではない。KDDIのデータアセットと生成AI、そしてJR西日本SC開発の実践知を掛け合わせることで、専門的な市場分析をより迅速かつ再現性の高いプロセスへ変えていくことにある。

KDDI Market Compassがどのように分析を行うのかを示した図
<「KDDI Market Compass」による分析>

PoCで見えた成果と今後の展望

KDDIとJR西日本SC開発が実施したPoC (実証実験) では、「KDDI Market Compass」の活用により、市場調査から分析、戦略立案に至る一連のプロセスを大幅に効率化できることを確認した。

従来、同様の商業施設開発における市場調査・分析・戦略立案には4カ月以上を要していたが、「KDDI Market Compass」を活用することで、「最短1日」(注2) で実施できることを確認した。また、外部コンサルティング会社や調査機関へ委託した場合と比較し、業務コストを約60%削減 (注3) できる見込みだ。

さらに、専門人材が担ってきた分析プロセスや評価観点をAIに実装することで、分析プロセスの標準化・再現性を高め、データに基づく意思決定を支援できる点も、大きな成果の一つだ。市場や生活者のニーズが変化し続ける中、分析にかかる時間を短縮し、専門知見をより多くの担当者が活用できるようにすることは、商業施設開発における意思決定のあり方そのものを変える可能性を持つ。

今後は商業施設開発にとどまらず、不動産開発における開発候補地の評価や需要予測、投資判断、都市開発における再開発構想やエリア分析など、幅広い領域への展開を見据えている。さらに、地方都市のエリア活性化や小規模開発における市場性評価など、これまで高度な市場分析を行うことが難しかった領域への活用も期待される。

説明会の最後に、北条は「AIの進化が進む今だからこそ、データと業界知見を掛け合わせた『つかえるAI』が求められています」と語った。AIが急速に進化する中、企業に求められるのは、AIを導入することそのものではなく、自社の業務や課題に合わせてAIを活用し、具体的な成果につなげていくことである。KDDIは「AIインテグレーション」を通じて、企業の業務変革を支援するとともに、KDDIが持つデータアセットと各業界で培われた専門知見を掛け合わせた「つかえるAI」をさまざまな業界へ展開していく。「KDDI Market Compass」は、その第一歩として、データと商業施設開発の知見の融合によって市場分析のあり方を変え、データに基づく持続可能なまちづくりの実現に貢献していく。

  • 注2) JR西日本SC開発における従来の商業施設開発案件の市場調査・分析業務 (調査設計、情報収集、分析、レポート作成等) との比較
  • 注3)  同等の市場を外部委託した場合と本サービスを利用した場合のコストを比較した試算値