日本企業でも急速に進みつつある、労働生産性向上の取り組み。しかし、中にはプロジェクトが頓挫したり、以前の働き方に戻ってしまっている「掛け声だけの取り組み」も少なくない。その理由の1つとしてあげられるのが「会議」だ。日本企業にとって最大の課題は、会議に長い時間を費やしている点にある。これを変革することなく生産性を最大化することは、不可能と言っても過言ではないのだ。それでは実際に、どのようなアプローチが考えられるのだろうか。日本企業の“会議のあり方変革”に向けた、新しい取り組みを紹介したい。
移動などに費やされる無駄な時間を排除し、労働生産性を極限まで高めたい。このようなニーズに対応するため、すでに数多くの企業が、ITツールを活用した生産性向上に取り組んでいる。少子高齢化に伴う労働人口不足は今後さらに深刻になると予測されており、政府もこの取り組みへの支援に本腰を入れている。
しかしそこにはある「疑念」がつきまとう。それは「ITツールを活用し、いつでもどこでも作業ができる環境を整備すれば、本当に生産性は向上するのか」という疑念だ。日本企業におけるホワイトカラーの実態を知っていれば、これだけでは十分ではないことがわかるはずだ。労働時間の中で多くの時間を占めるのが、会議に関係する時間だからだ。企業内コミュニケーションの課題として、会議の数をもっと減らすべきと考えているビジネスパーソンは非常に多いと思われる。
藤井 彰人
「欧米企業はそれぞれの従業員のロール(役割)が決まっていることもあり、会議の頻度も少ないのですが、日本企業はチームで仕事を行う文化が浸透しているため、会議が合意形成の重要な場になっています」と語るのは、KDDIのソリューション事業企画本部 副本部長を務める藤井 彰人だ。このような企業文化は日本企業に独特の「ワイガヤ」の空気を生み出しているため、会議の多さ自体は決して悪いことではないとも指摘する。「ここで重要なのは、会議をなくすことではありません。会議そのものを効率化することです」。
この「会議そのものの効率化」を実現するため、KDDIは2017年4月にシスコシステムズとの協業を発表。「Cisco Spark with KDDI」と「Cisco Spark Board」の提供を開始した。
それではこれらはいったいどのような製品なのか。そしてKDDIは、これらのどのような特徴を評価したのか。
「Cisco Sparkは、高品質ビデオ会議、チャット、資料共有などのビジネスコミュニケーションを統合したクラウドサービスです。これらの機能がシームレスにご利用いただけます」。このように説明するのは、シスコシステムズでコラボレーション アーキテクチャ事業担当の執行役員を務めるアーウィン・マッティー氏だ(図1)。
現在でも多くの企業が会議のたびに、資料を紙で準備したり、移動して時間をかけて対面で会議をしたりしている。つまり、会議の前後の業務はデジタル化されているにもかかわらず、会議だけがアナログのまま取り残されている(図2)。「会議の資料もパソコンで作成しているのに、会議が始まる前にそれをプリントアウトする。そして会議が終わると、再び議事録をパソコンで入力する。このようにデジタルとアナログが共存していることで無駄な手間が発生しているのです」(マッティー氏)。
その点Cisco Sparkならば、主要なモバイルやデバイスのWebブラウザやアプリからクリックするだけでビデオ会議の開催や参加が可能で、チャットやファイルの共有、閲覧、画面共有も行える。
アーウィン・マッティー氏
「Cisco Spark Boardは、Cisco Sparkアプリとワイヤレスで連携し、会議室環境をデジタル化するオールインワンデバイスです。臨場感のあるビデオ会議、ワイヤレスプレゼンテーションやホワイトボード機能を、大画面で利用できます」(マッティー氏)。
大画面でビデオ会議が行える製品は、これまでにも数多く登場している。また最近では、パソコンやタブレットで利用できるWeb会議システムも一般的になってきた。Cisco Sparkは、これらとどのような違いがあるのか。藤井は次のように語る。
「Cisco Sparkは、遠隔地とつないで会議ができるということだけではなく、会議の前後のプロセスまで視野に入れた効率化を考えて設計されています。例えば相手先企業とWeb会議を行うといった場合、会議室にパソコンを持ち込んで、ネットワークや外部ディスプレイ、Webカメラ、マイクなどを準備し、相手との接続を確認する必要がありますが、うまく接続できないなどのトラブルがあると10〜15分は会議の開始が遅くなります。そういったことがあると、相手先企業が近距離であれば、設定が面倒なので、訪問して会議する方が楽といった結論に陥りがちです。これに対してCisco Sparkは、会議前の準備がほとんど必要なく、接続は非常にスムーズです。Cisco Sparkのアプリが動くスマホを持ち、Cisco Spark Boardが設置された会議室に入るだけで、私が会議室に入室したということを自動認識し、ストレスなく、すぐに会議を開始できます。」
会議をスムーズに開始できるだけではなく、会議の後工程が効率化できるのも、Cisco Sparkの大きな特徴だ。これについてマッティー氏は次のように説明する。
「Cisco Sparkにはいくつものプロジェクトルーム(グループ)を作ることができ、そこでコンテンツを共有したり、コミュニケーションを行えるようになっています。つまりこのプロジェクトルームそのものが『ワイガヤ』を行うための仮想的な部屋であり、そこで会議も行えるというわけです。必要な資料をここでアップロードしておけば会議中も共有できますし、会議中に作成したアウトプットもこの部屋に残ります。議事録の入力なども必要なくなるので、会議が終わったらそのまま次の仕事に入ることができます」
これに加え圧倒的な“体感品質”を実現していることも、Cisco Sparkの重要な特徴だと藤井は指摘する。
「最初に使った時には、映像や音声の安定したクオリティに感動しました。みなさんも経験したことがあると思いますが、ビデオ会議の品質が安定せず、途中から携帯電話に切り替えて話を続けるといったことは少なくありません。しかし、Cisco Sparkなら高品質で安定したビデオ会議をご利用いただけます。シスコは世界トップのネットワーク機器ベンダーなので、その技術とノウハウがここに詰まっているのでしょう。ビデオ会議システムのシェアも、グローバルで50〜60%、米国では70%だと聞いています」
日常的なツールとして活用するには、確かにこのような安定性も欠かせない。不安定なツールでは、使っている間にフラストレーションがたまり、結局は使われなくなってしまうからだ。会議室の片隅で埃をかぶったままのテレビ会議システムを、保有している日本企業も多いのではないだろうか。
「圧倒的な臨場感は、開発当初から意識していました」と言うのはマッティー氏。Cisco Spark Boardを、2つの物理的な空間をつなぐ「窓」にしたかったと表現する。「実際にシスコでは、離れた場所にあるオフィスにこれを設置し、常時接続するという使い方もしています。大画面の先には常に相手のオフィス空間があり、いつでも声をかけて同じ部屋にいるかのように話ができます(図3)」。
「実際に使ってみるとわかるのですが、カメラやマイクの機能が秀逸です。カメラは広角で部屋全体を捉えた上で人の顔を認識します。今後、発言者の顔をズームアップする機能を搭載すると聞いています。マイクもノイズの処理を行っており、不必要な音を消してくれます。車に例えれば、超高級車のような使い心地です。これが手に届きやすい価格でリリースされたことは、まさに驚きだといえます」(藤井)
顧客にもこのメリットを訴求、会議のあり方変革による生産性向上を支援していくという。このような取り組みに対して「KDDIは日本企業に対する幅広いチャネルやサービスを持っています。Cisco Sparkにそのノウハウやサービスを組み合わせれば、多くの企業の変革を支援できるのではないかと、大きな期待を寄せています」とマッティー氏は述べる。
なおKDDIでは、Cisco Sparkを体感できるデモスペースも用意している。「この使用感は言葉だけでは伝わりにくいので、ぜひ実際に体験していただきたいと思います」と藤井。「必要なものがすべて1つにまとまったこのデバイスは、間違いなく会議の常識を変えてしまうはずです」。
【日経ビジネスオンライン Specialにて2017/7/3-8/2まで掲載】