5Gで新しい経済圏が生まれる 広がるビジネスチャンスをつかめ

2020年春、次世代モバイル通信「5G」の商用サービスが本格的にスタートする。4Gをはるかに凌ぐ高速・大容量・低遅延の通信が可能になり、人々の生活や行動は大きく変わると言われている。5Gがベースとなった10年後の日本社会とはどんなものなのか。また、そこで企業がビジネスチャンスをつかむにはどうすればよいのか。KDDI ∞ Labo(ムゲンラボ)でLabo長を務める中馬 和彦に聞く。

5GとAR/VRが“中二階”のビジネスをつくりだす

――5Gの商用サービス開始まで1年を切り、市場の期待がますます高まっています。あらためて、5Gがもたらす変化について教えてください。

中馬 モバイル通信が5Gになると、データ接続環境が飛躍的に高度化し、本格的なIoT時代が到来するでしょう。あらゆるモノがインターネットにつながることで、インターネットがリアルの世界に染み出して、その境界線が曖昧になっていくと考えています。レイテンシーの少ない通信は、インターネットをはじめとするデジタルの世界はもちろん、リアルの世界にも劇的な変化をもたらすのではないでしょうか。

――5Gが普及した「10年後の日本社会」は、どのようになると予想していますか。

中馬 AR(拡張現実)/VR(仮想現実)というテクノロジーによってリアルとデジタルの世界が融合することで、それぞれに“中二階”のような新しいレイヤーが生まれると考えています。この新しいレイヤーが、新しい経済圏となるでしょう。

KDDI株式会社
KDDI ∞ Labo
Labo長
中馬 和彦

例えば、リアル側の“中二階”をつくるのがARです。建物や看板など、街中のあらゆるモノ同士が通信する中、ARゴーグルをかけたりスマートフォンをかざしたりするだけで、さまざまな情報を瞬時に入手できるようになるでしょう。例えば、ある駅に着いたとき、わざわざ何かを検索しなくても、周囲のモノの方からおすすめの場所や商品などをプッシュ型で伝えてくれる、といった状態です。もちろん、それらの情報は、過去の検索履歴や行動履歴を参照してパーソナライズされたものになっているはずです。

デジタル側の“中二階”はVRがつくります。今のデジタルコミュニケーションは、活字や画像などの2D情報が主流ですが、「5G×VR」によって3Dの世界が一般的なものになっていくと予想しています。

3Dのアバターでインターネットの世界を縦横無尽に行き来し、情報を探したり買い物をしたりする。5Gの世界ではアバターの描画や動作はとてもスムーズです。こうなると、もはやそこはインターネットであってインターネットではない世界といえるでしょう。国籍や性別、年齢も異なる複数の自分を使い分けながら生活することが、当たり前になるかもしれません。

このように、10年後にはリアル、デジタル、それぞれの中二階を合わせた4つのレイヤーを並行して生きるような社会になっていると予想します。中二階のレイヤーには、先入観や予定調和がなく、これから価値観をつくっていくような領域ですので、今は想像もできないようなサービスが、たくさん生まれるのではないでしょうか。

既存の価値観を捨てなければ変革は起こせない

――企業のビジネスチャンスも大きく広がりそうですね。

中馬 おっしゃる通りですが、厳しい側面もあります。新しい経済圏には、そこに魅力を感じる新しいプレイヤーが続々参入してくるため、たとえ現在の世界でポジションを獲得した大企業も、安泰ではいられないからです。

そのような競争環境で生き残るにはデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組むことが必須ですが、残念ながら日本企業は出遅れていると見ています。また、異業種・異職種の企業や組織とコラボレートする「オープンイノベーション」に取り組む企業も増えていますが、これもPoC(概念実証)止まりで終わるケースが多々見られます。DXやイノベーションといった言葉のイメージだけが先行しており、何をどうすればよいかは見えていないというのが、今の日本企業の実情だと感じています。

――では、どんなアプローチが必要なのですか。

中馬 一度、既存の価値観、成功体験を捨てることですね。イノベーションは、従来の考え方とは非連続のものであり、既存ビジネスの延長線上では起こり得ません。だからこそ、これまでにない新しいビジネスモデルをつくったり、ときには業界構造の再編をも引き起こしたりすることができるのです。

一方、特に大手企業は、過去の成功体験に基づいてものごとを進める傾向があります。それはカイゼンであって、イノベーションではありません。この状態を脱却することが、5Gをはじめとする先進テクノロジーの真価を引き出す上では不可欠ではないでしょうか。

ビジネスの種は“どレガシー”に潜んでいる

――中馬さんがラボ長を務める「KDDI ∞ Labo(ムゲンラボ)」では、オープンイノベーションに取り組む企業を支援しています。5G時代にムゲンラボが果たす役割を教えてください。

中馬 ムゲンラボでは、通信会社というKDDIのフラットな立ち位置を生かし、グループのアセットやノウハウも活用しながら幅広い企業と事業の共創を目指します。具体的には、鉄道、金融、不動産、リテールなどの業界の大手企業34社にパートナーになってもらい、そこと強い目的意識を持った既存企業やスタートアップをつなぐのです。これによって、現実のビジネスと結びついたイノベーションを目指します。過去8年間の活動で50件を超える事業共創案件を生み出してきました。

またムゲンラボの運営にあたって私が強く意識しているのは、「ビジネスをつくる」という姿勢です。2019年度からは「PoC禁止」を打ち出し、事業化につながらないPoCは基本的に行わないことを明言しました。さらに、複数の大企業とスタートアップが共同で事業ドメインの新規形成を目指す、「∞の翼」というプログラムも始動させています。

これらはまだ生みの苦しみの最中ですが、小さな成功を追い求めず、全く新しい産業ドメインの創出といった高い目標にチャレンジしていきたいと考えています。

――そのほか、中馬さんはどのような分野にビジネスの可能性を感じていますか。

中馬 これまではデジタルと無縁だった“どレガシー”な領域にこそ、イノベーションの種が潜んでいると感じています。

例えば、ホテル業界は一般的なイメージ以上に労働集約型の産業です。ただ規制緩和があり、これまでは常時スタッフを配置しなければいけなかった一定規模以上のホテルのフロント業務も、今後は無人化が可能になりました。ここに目を付けたHostyという会社は、訪日外国人のグループ旅行をターゲットとしたシェアフロント型のコンパクトホテルを展開しています。

建物や家具は既存のものを有効活用してスピード開業するほか、複数ホテルでフロントを共有して低コストオペレーションを実現する、全く新しいホテルです。KDDIはオープンイノベーションファンドを通じて同社に出資し、事業拡大をサポートしています。

ホワイトスペースでイノベーションが容易になる

――自由な発想で、オープンイノベーションに取り組む企業が増えれば、5Gで生まれる新たな経済圏で日本企業が覇権をとることも夢ではなさそうです。

中馬 そうなればいいと思います。例えば、既存インフラの整備が進んでいない国では、先進国が歩んできた道のりを飛び越えて、新しいテクノロジーや社会の仕組みが一気に広まることがあります。これを「リープフロッグ」と呼びますが、私は同様のことが5Gの経済圏でも起こるのではと考えているんです。

つまり、社会インフラが整った現在の日本では起こすことが難しいイノベーションも、ホワイトスペースである新しい経済圏では手が届くかもしれません。そのためにも重要なのは、やはり意識改革です。従来の考え方にとらわれず、目的と現状の課題を「見える化」することが必須ではないでしょうか。

KDDI、そしてKDDI ∞ Laboは、強い危機感と意志を持って突き進む企業を全力で支援します。オープンイノベーションにともに取り組み、ワクワクするような明るい未来をつくっていきましょう。

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