2019 8/30

つながり続けることで生まれる楽しさ 想像を超えた体験を提供したい

5G時代は「リアル」と「デジタル」の垣根を越えた融合が進み、思ってもいなかったようなサービスやビジネスが数多く生まれる。中でもKDDIが推進しているのは「リカーリングビジネス」である。あらゆるモノ、人が「つながり続ける」ことで、これまでになかった価値が生まれる。その活動はすでに加速しており、さまざまなアイデアが具現化している。KDDIの繁田 光平に話を聞いた。

リアルの世界により大きな変化が訪れる

――5Gによって、日本の社会やビジネス環境はどのように変わっていくのでしょうか。

KDDI株式会社
ライフデザイン事業本部
ライフデザイン事業企画本部
ビジネス統括部 部長
繁田 光平

繁田 変化の方向性は、大きく2つあると思います。1つはモバイル通信環境の飛躍的な向上によるネットサービスの進化。ハードウエア機器の性能向上に伴い、VR/ARの利用や4K/8K映像の視聴が当たり前になり、クラウドゲーミングもさらに盛んになるでしょう。仮想空間上で一日の大半を過ごす人も大勢出てくる。当然、そこから新しいビジネスも生まれてきます。

もう1つは、リアル社会におけるデジタル化の進展です。KDDIは「リアルとデジタルのマージ」と呼んでいますが、ネット世界がリアル社会にオーバーレイして、新しい価値が生まれます。どちらかというと、こちらの変化の方が大きい。例えば、個人がスマートグラスのようなデバイスを通じて街中にある看板をのぞくと、その人の趣味・嗜好にマッチした情報や広告をタイムリーに表示する事が可能になります。さらに行き先案内、エンターテインメントなコンテンツを映し出すことも可能で、リアルとデジタルの融合が進むでしょう。

他にも、大容量通信下では画像を有効活用できます。これまでは目の前に調べたいモノがあれば、それを言葉に置き換えて検索サービスを利用していましたが、写真に撮ったりするだけで検索を開始できるはずです。また、店舗では監視カメラの映像をクラウドにアップしてお客さまの年齢、性別の推定や、店内の動線などを分析できるようになります。

つながりとデータに価値がある野球ボール

──企業のビジネス戦略も大きく変えていく必要がありますね。

繁田 私たちは、5G時代の大きな価値は「つながり続けること」だと考えています。そして、それを前提にした「リカーリングビジネス」に注目し、既にさまざまな取り組みを進めています。

──リカーリングビジネスとは、どのようなビジネスモデルですか。

繁田 近しいものとしてサブスクリプションモデルがありますが、リカーリングビジネスでは商品やサービスを販売して終わるのではなく、何らかの形でつながりを持ち続け価値を提供していくビジネスモデルです。つながり続けられることを前提にすると、さまざまなアイデアが生まれます。KDDIのパートナー企業であるアクロディアが提供する「IoTボール」はその1つ。これは3軸センサーを内蔵した硬式の野球ボール。ボールを投げると球速、回転数・回転軸、ボールにかかる重力加速度などが計測され、それをスマートフォンやパソコンで閲覧できます。既に2万人のピッチャーが登録し、100万球の投球データが蓄積されています。

従来、野球のボールといえば、買い切り、使い切りの消耗品でしたが、このボールの価値はデータ、そして使い続けることにある。データを活用すれば、球速を上げるために具体的な数値データに基づく科学的なコーチングが可能になるし、ケガの検知や予防にも活用できる。日々の成長や今後の目標も可視化できます。

KDDIはアクロディアと共同でスポーツIoTプラットフォーム「athleːtech(アスリーテック)」を提供して、IoTボールの投球分析サービスに貢献していますが、実はアクロディアはもともとウェブコンテンツなどを制作する会社で、野球に関するビジネスを行っていたわけではありません。でも何か新しいことをやりたいという“熱量”はすごかった。私自身、野球経験者なので、IoTボールの話を聞いて、すごいことができると直感し飛びつきました。そこからボールメーカーなどもプロジェクトに参画し、実現に至ったわけです。

現在は、硬式ボールに続いて軟式ボールを今秋発売に向けて準備中。大きさや握り具合を変えずに内部にセンサーを埋め込むにはどうするかなど、試行錯誤しています。大好きな野球ということもあり、日々ワクワクしています。

──ボールが通信し、データプラットフォームを介して企業とユーザーがつながることで新たな価値が生まれたわけですね。

繁田 IoTボールは、当然、センサーの調達費などの原価がかかるため、普通のボールというより、スマートデバイス並みの価格になってしまいます。売り切りのビジネスモデルだけを想定すると現実的では無く計画段階でお蔵入りだったかもしれません。

売り切りビジネスでは販売時に全ての費用を回収しなければなりませんが、リカーリングビジネスなら安価な月額料金を設定し、使用用途に合わせて課金する方法が取れます。投球数に応じて課金したり、球速が上がったら課金額を上げたりといったアイデアが出てくる。買いやすい金額なら、利用者が増えて投球データもどんどん溜まりコーチングの分野でもマネタイズが考えられます。それに、同じ仕組みは野球以外の球技にも応用できます。

混雑緩和と売上アップの両立を図る挑戦

──動物園をより楽しむためのアプリケーション「one zoo」も提供していますね。

繁田 one zooは、動物園の動画コンテンツを視聴できるサービスのほか、園内マップや音声ガイド、スマートフォンを利用したデジタルスタンプラリーなどを提供しています。有料会員の月額利用料の一部を動物園に還元することで、近年、入場者数の減少などが大きな課題となっている動物園の経営にも貢献しています。

動物の動画を配信するというアイデアは、他にもあったようで、当初KDDIから動物園へ提案した時は、カメラなどのデバイスや通信サービスなどの設備投資を促す売り込みだと思われました。しかし、私たちの提案が違うということが理解されると、多くの動物園が参加してくれました。結果、さまざまな価値が生まれています。通信とつながる事により動物園内の動線や、来場前後にどのような行動をしていたかまで判ります。また、直接来場される方とネット上でコンテンツを見るだけに留まる方の動物に対する嗜好は、当初想定していたものとは大きく違っていました。こうした傾向分析結果を今後の動物園経営に生かすことができます。

──お話からは、繁田さんが非常にワクワクしていることが伝わってきます。今後は、どんなことに取り組んでいくのでしょうか。

繁田 エンターテインメントをテクノロジーの力でアップデートしていきたい。私自身もKDDIも、ここに大きなこだわりがあります。顧客体験を高め、お客さまやパートナーの「楽しい」「うれしい」を増幅させたいですね。

スタジアムでの混雑緩和に向けた実証実験はその好例です。混雑緩和のためには、観客の来場時間が分散したほうがいい。そこでKDDIがスポンサーを務めるサッカー日本代表の試合で、早めに来場された観客向けにファンが喜ぶVRコンテンツを提供しています。早めに来場すれば、楽しく遊べる。観客の方に楽しさを提供することで、自然と混雑緩和につながるわけです。またスタジアムの店舗の売上を伸ばすには、滞在時間を伸ばすことが有効といわれています。早めに来場すれば、自然と滞在時間も長くなる。混雑緩和と同時に売上アップにも貢献できるわけです。

こんなふうに「楽しい」「うれしい」を増幅させることで、ビジネスの活性化や社会課題の解決につなげたい。5Gはこうした取り組みを加速させる起爆剤になります。新しい世界が待ち遠しい。そう思ってもらえるようなサービスや体験を、パートナーとともに数多く創り出していきます。

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