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「MUGENLABO DAY 2020」が示したバーチャルイベントの可能性
リアルイベントの代替手段ではない!

「MUGENLABO DAY 2020」が示したバーチャルイベントの可能性

  • 本文中にクラスターおよび“cluster” の記述がございますが、これは社名とプラットフォームサービスの名称です。
  • 新型コロナウィルス報道以後に使用されている密接場所で感染者拡大を意味するクラスターとは何ら関連はございません。
  • (当該会社設立は2015年であり新型コロナウィルス問題の発生以前となります)

2020年3月24日、KDDI主催のバーチャルイベント「MUGENLABO DAY 2020」が開催された。当初は1000人規模のリアルイベントとして企画していたが、新型コロナウイルスの影響により、バーチャルイベントへ急遽変更。準備期間がほとんど無いにも関わらず全国から約2万ユーザーを集め大きな反響を呼んだ。

ビジネスシーンにおけるバーチャルイベントの可能性を示したかった

スタートアップと大企業の事業共創イベントとして位置づけられる「MUGENLABO DAY 2020」。毎年会場を用意してのリアルイベント実施だったが、今回は新型コロナウイルスによる参加者安全確保の観点から、イベント実施の是非を判断する必要に迫られた。

「情報収集の結果、リアル実施は難しいだろうとの判断に至りました。それならば、ぜひバーチャルイベントプラットフォーム“cluster”を使ったネット上のイベントにできないか、と加藤さんに相談したのが2月17日で、翌日にはバーチャルに切り替えてのイベント開催を決定し発表しました」と振り返るのは、KDDI 経営戦略本部 ビジネスインキュベーション推進部長の中馬 和彦。

クラスター社のプラットフォーム利用者は、VTuber(注1)などによる音楽イベントの実施が多かったが、代表取締役 加藤 直人氏は、新型コロナウイルス感染拡大によるイベント自粛の流れを受けて「今後は、ビジネス用途のニーズも増えてくるだろう」と考えていたという。

KDDI株式会社 経営戦略本部 ビジネスインキュベーション推進部長 中馬 和彦
KDDI株式会社 経営戦略本部
ビジネスインキュベーション推進部長

中馬 和彦

クラスター株式会社 代表取締役 加藤 直人氏
クラスター株式会社
代表取締役

加藤 直人氏

「“cluster”プラットフォームを使って何ができるのか、企業にとってのモデルケースになるような事例をつくりたい、と中馬さんからメッセージをいただいたので、ぜひ協力したいとお返事しました」(加藤氏)

準備期間はわずか1カ月半。その短い期間で実現できたのは、1年前となる2019年2月に、クラスター社とKDDIでバーチャルでのピッチイベントを実施した経験があったからだと中馬は話す。

「私たちも一度経験したことで、バーチャルイベントでできることと、できないことの知見が得られていました。さらに、前回のイベントに比べて“cluster”プラットフォームがかなり進化していたので、決定からはスムーズに進みましたね」(中馬)

イベントは1部構成。第1部はKDDI代表取締役社長 髙橋誠および中馬によるプレゼンテーション、第1部は新プロジェクト「∞の翼」(注2) の発表、第3部では会場を変え、バーチャルガールズデュオ「KMNZ(ケモノズ)」によるライブが行われた。

  • 注1) VTuber
    バーチャルYouTuberの略。コンピュータグラフィックスのキャラクター、またキャラクターを用いてYouTuberとして動画投稿・配信を行う人
  • 注2) 「∞の翼」
    スタートアップのビジネスモデルと大企業のリアルアセットを活用して5G時代の事業共創を目指すプログラム。国内の大手企業を束ねた「パートナー連合」をはじめとする大企業各社で進行中の新規事業プロジェクトを随時公開し、各プロジェクトとスタートアップ企業をマッチングさせ事業化を推進していく。
「MUGENLABO DAY 2020」イベント会場。 登壇者も参加者もアバターとしてバーチャル上に出現する
「MUGENLABO DAY 2020」イベント会場。
登壇者も参加者もアバターとしてバーチャル上に出現する
第3部として行われた、バーチャルガールズデュオ「KMNZ(ケモノズ)」 によるライブの様子
第3部として行われた、
バーチャルガールズデュオ「KMNZ(ケモノズ)」 によるライブの様子

リアルイベントからバーチャルイベントへ変更するにあたって、どのような準備や工夫を行ったのか中馬は次のように語る。
「まずはバーチャルイベントとして視聴するのに無理がない尺に収めること。もともと3時間強を想定していたプログラムを、2時間以内に収まるよう調整しました」

また、3月初旬に“cluster”のスマホアプリ版がリリースされ、スマホ視聴を想定した技術的な改善も綿密に行われた。

「スマホアプリ上でもスムーズに視聴してもらうために、同時にステージに上がる人数を制限したり、アバターの解像度を調整したりしました。その結果、『画面が固まった』など視聴に支障が出たとの声は上がりませんでした」(加藤氏)

「こだわったのは、音楽イベントなどで磨かれてきた従来型の“ネットらしい”演出はあえて控え、企業としての“格”を守った演出にすること。
いわゆる多くの方がバーチャルイベントに持つ先入的なイメージを打破し、『こんな見せ方もできる』という可能性の広がりや、ポジティブなメッセージを示したかったのです。
そこで、デフォルメしすぎずに顔や体型を再現した“リアルなアバター”を用いたり、ビジネスシーンと未来感を併せ持った会場デザインを作っていただいたりしました。
VRやXRは、単なるリアルイベントの代替ではなく、リアルではできない体験を提供できるものだというメッセージを込めたつもりです」
(中馬)

KDDI代表取締役社長・髙橋の“リアルアバター”
KDDI代表取締役社長・髙橋の“リアルアバター”

場所の制限を超え、全国そして世界から2万人を集客

短い準備期間にも関わらず、当日はほぼトラブルもなく進行した。今回バーチャルイベントに初めて登壇した人からは

「バーチャルイベントでもここまで表現できると思わなかった」
「もっといろいろと挑戦すれば良かった」

など、驚きや期待感がこもった声が多数上がったという。

「バーチャルイベントって、実際にやってみると、できることが意外と多いということに気づきます。バーチャル空間を通じて人間の体験がアップデートされ、リアル以上の体験ができることを多くの方に感じていただけたのではないかと思います」と加藤氏は手応えをのぞかせる。

当日登壇した中馬も「ライブ中継と今回のバーチャルイベントは、まったく異なる体験です。登壇者としてその場に立つと、観客がちゃんと目の前にいるのです。アイコンを見れば誰がいるかまでわかる。ビデオカメラに向かって淡々と話すのとは違って、参加者のリアクションを見ながら進めることができる。『見られている』と意識するから緊張もする。その点は、限りなくリアルな体験に近かったですね」と語る。

オンラインイベントの実施にあたっては、「参加者の反応がわかりにくい」「会場の空気が読みにくく、やりづらい」といったことがしばしば課題に挙がる。その点、今回の「MUGENLABO DAY 2020」では、参加者はリアルタイムで「拍手」や「コメント」を送り、登壇者とインタラクティブにやりとりすることができた。参加者にとっては、リアルイベントより気軽にリアクションしやすい環境だったとも言える。ライブ中継の視聴とも、リアルイベントへの参加とも異なる、新しい体験を創出するための工夫の一つだ。

当初のリアルイベントでは1000人の集客を想定していたのに対し、結果として約2万人が視聴する大規模イベントとなり、かつコストも半分以下に抑えることができた。視聴者は国内だけに留まらず海外からも参加頂けたという。

新型コロナウイルス感染症の影響で各種イベントの開催自粛が続いている状況下、遠隔で気軽に参加できるバーチャルイベントの成功は、さまざまな業界・企業から注目を集めたようだ。「イベント終了後、“cluster”プラットフォームに関する企業からの問い合わせが急増しています」と加藤氏。

バーチャルイベント未経験の企業でも安心して開催できるよう、「バーチャルで何ができるのか」からサポートし、オーダーメイドでイベントをつくり上げていくのが、もともとクラスター社の強み。ビジネスニーズの高まりを受け、4月7日には法人向けの新サービス「clusterスターターパッケージ」の提供をスタートした。イベント目的別に用意した複数の会場の中から、依頼者に選んでもらうスタイル。こうすることで、事前の打ち合わせや会場の制作にかかるコストを抑えつつ、短期間でバーチャル空間上のイベントやカンファレンスを開催することができるというわけだ。

バーチャルイベント開催中のバックヤード。このようにコンパクトな設備で、 2万人あまりのユーザーを集める大規模イベントの開催を実現した
バーチャルイベント開催中のバックヤード。
このようにコンパクトな設備で、
2万人あまりのユーザーを集める大規模イベントの開催を実現した

「バーチャルイベントは、移動の制限を超えて、安全に、多くの人が一堂に会すことができます。それだけではなく、そこに実在しないものを出現させてプレゼンをすることもできます。“アフターコロナ”の時代にも残る、デジタルとリアルを組み合わせた新たな体験の創出を、さらに追求していきたいですね」(中馬)

「リアルイベントの主な収益となるのが物販。“cluster”プラットフォーム上でもバーチャルアイテムを購入してイベントを盛り上げる仕組みがありますが、今後これを発展させて、例えばデジタルTシャツを購入するとユーザーの手元に本物のTシャツが届くといった仕組みを構想しています。また、その仕組みを、リアルイベントでは物理的に不可能な規模で実現していきたい。1億人、10億人でも集められるのが、バーチャルイベント。5Gの実用化を契機に、次の10年でダイナミックに進化していくはずです」(加藤氏)

イベント後の取材もオンラインで実施した。 中馬の画面の背景画像は「MUGENLABO DAY 2020」の会場デザイン
イベント後の取材もオンラインで実施した。
中馬の画面の背景画像は「MUGENLABO DAY 2020」の会場デザイン

「MUGENLABO DAY 2020」は次世代の事業共創を象徴するイベント

「MUGENLABO DAY 2020」では、「5Gが変える未来」に関するプレゼンテーション(KDDI代表取締役社長 髙橋)があった後、KDDI ∞ Labo長も務める中馬から2つの新たなプログラムが発表された。

一つ目は、さまざまな支援アセットを通じてスタートアップの事業開発を支援し、優れた5Gサービスの創出を目指す「5G for Startups」。二つ目はスタートアップのビジネスモデルと大企業のリアルアセットを活用して、5G時代の事業共創を目指す事業共創プログラム「∞の翼」だ。

「MUGENLABO DAY 2020」は、大企業とスタートアップによる事業共創の象徴的な事例にもなった
「MUGENLABO DAY 2020」は、大企業とスタートアップによる事業共創の象徴的な事例にもなった

「あらゆるものがネットに繋がる時代、既存産業の形が大きく変わろうとしています。大企業のアセットと、スタートアップ企業のアイデア、そして5Gという通信システムを掛け合わせて新たな産業を共創していくのが、このプログラムの狙いです」と中馬は語る。KDDIとクラスター社の共創で開催されたこのバーチャルイベントは、まさに大企業とスタートアップ企業による、新たな時代の共創の象徴とも言えるだろう。

「5Gの商用サービス開始の前に、5G時代の新規事業を生み出す新たな取り組みについて発表したいと考え、以前からずっと準備してきました。それを、5Gによって変わる未来を予感させるバーチャルイベントの場で発表できたのは、結果的に良かったのではと思います」と中馬は振り返る。

リアルイベントの代替としてだけでなく、移動の制限を超えて新たな体験を提供する、バーチャルイベント。バーチャル空間で集うことが、“アフターコロナ”時代の一つの選択肢になっていく――「MUGENLABO DAY 2020」は、そんな可能性を感じるイベントとなった。


<企業紹介>

クラスター株式会社 ロゴ

■クラスター株式会社 https://corp.cluster.mu/

バーチャルキャラクターになってバーチャル空間で人が集まることができるバーチャルSNS「cluster」( https://cluster.mu/ )の企画開発から運営まで行っています。「cluster」では2018年8月31日に世界初のVR音楽ライブとして実施したバーチャルYouTuber輝夜月さんの「輝夜 月 LIVE@Zepp VR」や、2020年3月15日に日本最大級のeSportsイベントRAGE様が公開した世界初のeSports専用バーチャル施設「V-RAGE」の制作運営等を行い、バーチャルイベントなどの様々な「集まるシチュエーション」やバーチャルタレントと「会える」イベントなど、新たなエンタメ体験をあらゆる角度から模索し提供しています。