このページはJavaScriptを使用しています。JavaScriptを有効にして、または対応ブラウザでご覧下さい。

先行すべきか待つべきか、その選択が競争を左右する
有識者が語る5Gの可能性

先行すべきか待つべきか、その選択が競争を左右する

DXを加速させる新しい技術として、「第5世代移動通信システム ( 5G ) 」が注目を集めている。5Gは、社会やビジネスにどのような変化をもたらすのか。また、企業が活用に取り組む上では、どのようなポイントがあるのか。主要な産業で想定されるユースケース、そして、サービスやパートナー選定などについて、デジタル技術の産業への影響や通信に関するさまざまな調査や分析、提言を行っているIDC Japanの敷田 康氏に話を聞いた。

高速な上り通信を生かし画像や映像の活用が広がる

IDC Japan 株式会社 ITスペンディング リサーチマネージャー 敷田 康 氏
IDC Japan 株式会社
ITスペンディング リサーチマネージャー

敷田 康 氏

クラウド、AI、IoTなどと同様に、DXを加速させる起爆剤として期待が寄せられているのが「第5世代移動通信システム ( 5G ) 」だ。

「企業のDXに向けた取り組みの根幹にあるのがデータ。多くの企業が課題解決や新ビジネスの創出にデータを活用しようと考えています。そのためには、多種多様なデータを必要な時に、必要なだけ入手し、適切な形で処理しなければならない。そこで、高速・大容量、超高信頼・低遅延、多接続など、さまざまな目的にかなった通信仕様でのデータのやりとりを可能とする5Gが注目されています」とIDC Japanの敷田 康氏は語る。中でも、上り方向 ( Uplink ) のデータ送信が非常に高速に行えることに対する期待は大きい。分かりやすいのが大容量の画像や動画だ。

「既存のネットワークでは処理しきれず、情報を間引いたり、断片的なものに加工して利用されていた画像や動画をフルに扱えるようになります。そうすることで、機械学習による画像解析の精度を高めるなど、さまざまな可能性が拓けます」と敷田氏は続ける。

工場から小売店舗まで、さまざまな業界に大きなインパクト

具体的に、5Gは各業界にどのような可能性をもたらすのか。製造業を例に取ると、現在多くの企業がスマートファクトリーの実現に向けた取り組みを進めている。生産設備そのもの、あるいは生産工程の各所に配置したセンサーから収集するデータを使って自動化を図ったり、データを分析して、生産効率の向上や品質改善に役立てたりする取り組みだ。

「ここに5Gを適用する。例えば、活用データとして監視カメラの映像が加われば、作業員やロボットなどの生産設備の動きを監視・分析して、トラブルの検知精度を高めたり、より緻密な動線改善に役立てたりできるでしょう」と敷田氏は言う。

画像、映像による品質チェックの仕組みもさらに高度化するに違いない。

また今日、製造業の中には販売後のメンテナンスを高付加価値化するなど、アフターサービスにおける収益機会を探る企業が増えている。このサービタイゼーションに取り組む企業の多くが、製品にセンサーを搭載して、利用現場での稼働状況をモニタリングし、故障を予測してメンテナンスの最適化を図るといった取り組みを行っている。ここに画像や映像のデータを利用できれば、予測精度のアップ、トラブルの原因検出、さらに危険な状況に対してアラートを上げるなど、サービスの質と幅の向上を図ることが可能になる。データの権利に関わる問題さえクリアできれば、それらの映像を自社の商品開発に役立てることもできるかもしれない。

次に流通・小売業を見ていこう。流通・小売業界を直撃しつつある課題が少子高齢化による就労人口の減少、つまり人手不足である。5Gにより高画質な映像を扱いやすい環境が整うことで、店舗オペレーションの無人化や省人化、さらに、万引き防止による損失の低減など、大幅なコスト削減につながる可能性がある。さらに無人・省人店舗における映像データ活用の可能性は、コスト削減の側面だけではない。

「性別や年齢層といった単純な属性情報だけでなく、洋服やバッグ、アクセサリーなど、身に着けているものの情報から詳細な人物像を描くことで、ペルソナマーケティングに生かすことができるでしょう。顧客の店舗回遊状況や、比較した商品などから、どのような行動パターンで購入まで至ったかも分かるようになります」と敷田氏。

Deep learning , Neural networks , Machine learning and artificial intelligence concept. Atom connect with blur retail shop store background

次プライベートブランド商品の開発や、店舗の品ぞろえ、陳列手法の改善など、マーケティング施策全般に役立てられる上、店舗のサイネージを通じて、精緻にパーソナライズした提案を行うことも可能になり、付加価値を創出できるチャンスでもあるのだ。

それ以外の業種では、高度なパブリックセーフティの実現、介護サービスなどにおけるヒューマンエラーの防止、さらには、遅延の少なさを生かすことで遠隔医療の本格化にも5Gは貢献すると考えられる。また、エンターテインメントの領域でも、AR/VRを活用したアミューズメント、よりインタラクティブなスポーツ観戦など、さまざまな可能性に着目した実証実験が既に進んでいる。

「共創」していけるパートナーとの連携がカギ

このように5Gは、さまざまな業界に大きな可能性をもたらすが、活用に向けては自社のスタンスを明確にしておきたい。

現在、本格活用に向けて、通信サービスを提供するキャリア、5Gを活用したシステム整備を支援するITベンダーやシステムインテグレーターなどが、具体的なサービスの提供に向けた準備を進めている。まず意識したいのが、自社にはどんな5Gサービスが必要なのかということだ。一言で5Gといっても、高速性を売りにしたもの、多接続をしやすくしたものなど、さまざまな特徴を備えたサービスがラインアップされることになる。自社の課題や目指す姿を明確にして、それらにかなった5Gサービスの活用を目指したい。また、どの段階で取り組みを開始するかという点も重要となる。

「今後、2~3年は、まずキャリアやITベンダーが個別企業のニーズにこたえる形で5Gを活用したソリューションを開発、提供していくことになるでしょう。そうしたユースケースがある程度出そろい、汎用的なソリューションとして体系化されたものが活用できるようになるのは、その後になると考えています」と敷田氏は語る。つまり、先行企業の1社として、すぐに取り組みを始めるか、あるいは先行した企業の試行錯誤を経て整備されたソリューションの導入企業となるかという、大きく2つの選択肢があるわけだ。
 

図 5Gを活用したDXの可能性

図 5Gを活用したDXの可能性

「すぐに取り組むか、待ちの姿勢を取るか。日本企業の中には、待ちを選択する企業が少なくないでしょう。それも確かに1つの姿勢ではあります。ただし、5Gを活用したDXソリューションが企業価値や業績の浮沈を決する可能性があります。デジタル戦略に対する企業姿勢と収益/利益との相関性は数字でも裏付けられており、先行した企業がより大きな成果を得るのは明白です。ならば、座して時機を待つのではなく、課題解決に向けたビジョンを描きながら、早い段階から準備を進めていくことが望ましいといえるでしょう」 ( 敷田氏 )

その際、どのパートナーと取り組みを開始するかも重要なポイントとなる。先のとおり、現時点で汎用化された5Gソリューションは少ない。そのため、単に回線サービスを提供する、システムを構築して納品するというスタンスのパートナーではなく、ともに課題を解決し、価値を「共創」するという姿勢のキャリアやITベンダーとのパートナーシップは5G活用の大きな成功のカギとなる。

「課題を理解し、その解決の道筋と方法をともに考えることができ、ともにビジネスを作っていけるようなパートナーを迎えることが肝要です」と敷田氏は強調する。さらにDXは、目的に応じてAI、IoT、そして5Gなど、多様なデジタル技術をうまく組み合わせ、連携させる場面も多い。したがって、個々のデジタル技術領域で強みを持つさまざまなベンダー、プロバイダーとのエコシステムを持ち、それを課題解決にうまく生かせるパートナーを選ぶという視点も持ちたい。

「しかし、パートナー任せになってはいけません。自社課題の本質がどこにあるのかを最も熟知しているのは、その企業自身。その課題を踏まえ、ビジネス環境や技術動向の変化を捉えて、決して受け身にならずに、自分たち自身で5Gの本質的な価値を理解した上で活用し、DXを成し遂げるための体制を整える。それがDX時代を勝ち抜くことを目指す企業にとっての要諦です」と敷田氏は語る。

5GやDXに対して、どのようなスタンスを取るべきか。その答えはおのずと見えてきたようだ。