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KDDIが3カ月で内製開発した最先端のプライベートクラウドとは?
世の中になければ自分たちでつくる!

KDDIが3カ月で内製開発した最先端のプライベートクラウドとは?

クラウドコンピューティングが台頭するトレンドを受け、KDDIでもクラウドシステムの開発に注力している。2012年には“KDDIクラウドプラットフォームサービス(KCPS)”、2018年には”KCPSベアメタルサーバー”の提供を開始。さらに同年、KCPSで培った構築ノウハウや運用知見を生かし、KDDI事業用のプライベートクラウド上でCaaS(Container as a Service)を利用可能とする“Gantry(ガントリー)”の開発に着手、2020年4月に運用を始めた。Gantryはアジャイル型企画開発で内製したシステムであり、2020年5月にはコンテナ情報の管理機能を加えた、他に類を見ない構成管理システムも実装した。KDDIのクラウドの強み、アジャイル×内製化がもたらすメリットなどを、開発に携わるメンバーに聞いた。

通信キャリアならではの堅牢でセキュアなクラウド環境を求めて

あらゆるビジネス領域において既存システムのクラウド移行が急速に進み、クラウドコンピューティング市場は拡大の一途を辿っている。

KDDI株式会社 サービス企画開発本部 プラットフォーム技術部 インフラ基盤2グループリーダー 中村 雅
KDDI株式会社
サービス企画開発本部
プラットフォーム技術部
インフラ基盤2グループリーダー

中村 雅

近年、世界的に注目を集める市場・企業の成長を強力に下支えしたのも、クラウドベースのインフラだ。例えば、グローバルでの市場規模が2025年までに約3350億ドルまで拡大する(PwC“The sharing economy - sizing the revenue opportunity”2016年)とも予測されるシェアリングエコノミーもそのひとつで代表例には“Uber“や“Airbnb”が挙げられる。

KDDIでは、現在のようにクラウドが広く浸透するようになる以前から、クラウド環境の開発・構築に注力してきた。約6年にわたってクラウド開発に携わってきたプラットフォーム技術部の中村 雅は、KDDIのクラウド開発について次のように振り返る。

「幅広いお客さまに使っていただくパブリッククラウドと、自社で使うプライベートクラウド。KDDIではその両方の開発を進めてきました。具体的には、2006年頃から仮想化技術に着目し、サーバー、ネットワーク、ストレージといった物理リソースを仮想化することで、利用効率を高めてきました」(中村)

  • ※プライベートクラウド 自社専用に構築・運用されるクラウド環境。
    自社内でシステムを設計・管理できるため、柔軟なサービス設計が可能となる。

そうして2012年7月には、IaaS(Infrastructure as a Service)などのクラウド基盤を提供する“KDDIクラウドプラットフォームサービス(KCPS)”をスタート。さらに2018年には、いよいよKDDI事業用プライベートクラウド上でCaaS(Container as a Service)を利用可能とする“Gantry(ガントリー)”の開発を開始し、2020年4月に運用を始めた。

クラウドサービスを取り巻く技術革新は、まさに日進月歩。新しい技術によって、実現できることはどんどん増え、目指すべきサービスの在り方もどんどん変わっていく。変化に柔軟に対応し、より品質の高いサービスを常に追求する体制を整える――KDDIがプライベートクラウド上でのCaaS構築に踏み切った背景には、そうした意図があった。

Gantryの開発にあたり、プラットフォーム技術部では、物理リソースの利用効率をさらに高める“コンテナ技術”に注目した。開発リーダーを務めた和田 雄太郎は、コンテナ技術に注目した理由を次のように説明する。

「昨今、コンテナ技術を活用できるCaaSなど、変化に柔軟に対応できるクラウドが求められていると感じます。コンテナ技術は、昨今注目が高まる開発プロセス“スクラム”(注1)やCI/CD(注2)との相性がいいこともあり、コンテナ基盤を活用した事例も確実に増えています。機能を追加・変更しやすいなど、技術的な側面から見てもメリットが多いです」(和田)

  • 注1) スクラム アジャイル型企画開発の手法の一つ。
  • 注2) CI/CD Continuous Integration(継続的インテグレーション)/Continuous Delivery(継続的デリバリー)。ソフトウェアの開発からテスト、提供、デプロイに至るまでのプロセス全体を継続的に統合、自動化、監視する手法を指す。
KDDI株式会社 サービス企画開発本部 プラットフォーム技術部 インフラ基盤2グループ 主任 和田 雄太郎
KDDI株式会社
サービス企画開発本部
プラットフォーム技術部
インフラ基盤2グループ 主任

和田 雄太郎

最新の技術トレンドを取り入れることに加え、他のクラウドシステムとの差別化も意識した。特に重視したのが“キャリアグレード”だ。何千万人というユーザーを抱える通信キャリアのシステムに要求される、高い品質水準である。キャリアグレードについて、同部の前島 直斗と野島 幸大は次のように説明する。

KDDI株式会社 サービス企画開発本部 プラットフォーム技術部 インフラ基盤3グループ 課長補佐 前島 直斗
KDDI株式会社
サービス企画開発本部
プラットフォーム技術部
インフラ基盤3グループ 課長補佐

前島 直斗

「KDDIが運用するシステムは、ひとたびトラブルが発生すると何千万人に影響を及ぼす巨大なものですから、堅牢性はトッププライオリティです。特に、私たちが取得・管理するデータには、パブリッククラウドでは扱えない秘匿性の高いものも多いため、セキュアなプライベートクラウド基盤が不可欠でした」(前島)

「コンテナ技術など新しい技術を積極的に取り入れながら、巨大なインフラを守り続ける。堅牢かつセキュアなシステムを構築することを、私たちプラットフォーム技術部は求められています。つまり、単に新しい技術を取り入れるのではなく、攻めと守り、両者のバランスを意識しながら開発することが、KDDIにおけるシステム開発の要諦だと思っています」(野島)

内製化に向けて会社全体で変革に着手

今でこそアジャイル企画開発型のプロセスに注目が集まっているが、KDDIは以前からその重要性に着目していた。2013年より、KDDIの開発体制はウォーターフォール型からアジャイル型へとシフト。その変遷の中で、KDDI社内での内製化への機運も高まっていった。中村は、その変遷を次のように振り返る。

「アジャイル型企画開発やマイクロサービスに代表されるように、昨今の開発ではアジリティ(機敏性)が非常に重要です。従来、KDDIの開発は、その多くを外部の開発パートナーの協力の下で行っていましたが、やりとりが複雑になるなどどうしても時間がかかり、スピード不足が否めませんでした。新規開発だけでなく、バグや障害などの対応においても同様で、スピード感に欠ける後手後手の対応となっていたと思います」(中村)

内製化に舵を切ることができた背景には、KDDI全体としての積極的なアクションがあった。クラウドサービスを提供する多くの企業がリーン・スタートアップ、アジャイル型企画開発を採用する中、グローバルで競争に勝ち残るために、会社全体でビジネスプロセスや組織体制の変革に踏み切ったのだ。

内製化は、エンジニアのスキル・モチベーションアップや、優秀な人材の獲得といった副次効果も生んでいると、前島は話す。

「内製化すれば、まだ世の中にないものを自分たちの手で生み出すことができます。エンジニアにとってはそれが醍醐味であり、やりがいを強く感じます。実際、内製化したことで、社内エンジニアのスキルやモチベーションは大きく向上したと思います」(前島)

KDDI株式会社 サービス企画開発本部 プラットフォーム技術部 インフラ基盤2グループ 主任 野島 幸大
KDDI株式会社
サービス企画開発本部
プラットフォーム技術部
インフラ基盤2グループ 主任

野島 幸大

KDDIが内製化およびアジャイル型企画開発を進めていることは、瞬く間に外部にも広まり、最新技術も取り入れたチャレンジングな開発に携わりたいという意欲を持つ、若く優秀なエンジニアが多く入社するようになった。和田や野島も、その一人だった。

「私が入社した5年前には、内製化はすでにKDDIのスタンダードになっていて、まずは自分たちでつくってみようという、まるでスタートアップ企業のような雰囲気が、当たり前にありましたね。実際、いくつものマイクロプロジェクトが、それぞれスタートアップのような感覚で進められています。一方、通信キャリアとしてこれまで構築してきた物理的アセットがあるからこそ、最近注目されているエッジクラウドのような開発に着手できるという側面もあります。われわれが開発したシステムが大勢の人に使ってもらえる。そのようなやりがいや達成感が得られるのも、KDDIならでは、ではないでしょうか」(和田)

「アジャイルによる内製開発が当たり前になった一方で、外部の開発パートナーとの協業案件もあり、KDDIにいれば、どちらの開発プロセスも学ぶことができます。新製品や技術トレンドの勉強会なども頻繁に開催されているので、幅広いスキルやノウハウも身につきますし、恵まれた環境だと思いますよ」(野島)

“業界初”の構成管理システムを3カ月で開発

「欲しいものが世の中になかったら、自分たちの手でつくり出せばいい」――2013年頃から、KDDIの開発環境には、そんなチャレンジマインドが徐々に浸透してきた。こうした環境下で、Gantryには、コンテナ情報を一元的に管理できる他に類を見ない構成管理システム(※)が連携機能として実装された。

「これまで運用していたプライベートクラウドはIaaSのみの構造だったので、物理機器・仮想マシンの管理だけでよかったのですが、これにCaaS機能が加わることにより、大量に高頻度で作成・更新・破棄されるコンテナも含めた管理が必要となり、管理対象数は膨大なものとなります。今回内製で数万件の物理機器・仮想マシン・コンテナデータを一元管理できる、他に類を見ない業界初のシステムの開発に成功しました」(野島)

  • ※構成管理システム ITシステムがどのような要素で構成されており、それらの要素のライフサイクルがどうなっているかまで把握・管理をすること。
  •    構成管理を行うことで、安定したシステム運用を行うことができる。

仮想マシンやコンテナを活用して、サービスのダウンタイムを限りなく低減することは可能だが、それでもシステムに影響が出る可能性をゼロにはすることはできない。キャリアグレードな品質で運用するためには、大量に高頻度で作成・更新・破棄されるコンテナであっても適切に管理することと、有事の際に、どこに影響が出たのかを速やかに特定することが求められる。

これまでの管理方法では障害が発生した際、障害箇所の特定に1時間以上かかることが想定されていたが、今回開発した構成管理システムであれば、障害箇所の特定にかかる時間はたったの5分に短縮される。

アイデアが出た際、他の技術やシステムを調べたところ、キャリアグレードを満たすものは存在しなかったため、自社で開発することを決めた。発想からわずか1週間ほどで、スクラムによるプロジェクトが始動。1週間単位のスプリントを繰り返し、3カ月後にはGantryは新たな機能を手に入れることになった。

「特に今回のように、障害箇所を特定する機能を実装するには、システムを細部に至るまで熟知している必要があります。自分たちで構築したシステムだからこそ、技術的なノウハウやシステムの肝などを熟知しており、運用後にトラブルが発生しても瞬時に対処できるのです。何より、気心の知れたメンバーと実際に手を動かし、コミュニケーションを取りながら開発を進めるフローは、エンジニアとして非常に楽しい時間でした」(和田)

内製開発で培ったノウハウを活かして、顧客企業のDXを加速させる

今回実装された、CaaS上のコンテナ情報も一元的に管理できる機能を具備した構成管理システムは、現在はGantryで運用されている。今後は、Gantryで培ったノウハウ、スキルをKCPSにも展開し、多くの顧客企業が活用できるようにしたいと、中村は意欲を覗かせる。すでに具体的なアイデアもあるという。

「5Gが浸透していくにつれ、従来のクラウド上での一元処理から、利用者に近いエッジコンピューティングでの管理・処理が求められるようになります。そのとき、少ない物理リソースで多くのデータを扱える、われわれが開発したクラウドシステムは必ずやニーズがあるはず。そしてこのような5G関連のサポートサービスは、われわれキャリアが率先して行うべきだとも考えています。『エッジコンピューティング、エッジクラウドなら、KDDIにお願いしたい』と言われるのが目標です」(中村)

4月の組織変更で、クラウドインフラ基盤の開発、運用を担うプラットフォーム技術部と、さまざまなKDDIサービスをアジャイルで開発しているアジャイル開発センターが、同じ“ソリューション事業本部”の配下となった。バックオフィス/フロントオフィスを問わず、顧客企業の業務改善や新規事業開発をトータルに、より効果的にサポートするための体制を強固にした形だ。KDDIは今後も、企画から開発、運用・保守まで、顧客企業のデジタル活用およびビジネス成長を、スピード感をもってサポートしていく。