今後サービス開始が予定されている次世代通信規格の「5G」。
言葉は耳にしたことがあっても、具体的にどのような特徴があるのか分からないという方も多いのではないでしょうか。
5Gは携帯電話以外にも、遠隔医療や自動運転などの分野に利用されることが期待されています。
また、5Gとあわせて中核を担う技術「マルチアクセスエッジコンピューティング(MEC)」についても詳しく解説していきます。
次世代通信規格である5Gには「高速・大容量」、「多接続」、そして「低遅延」という3つの特徴があります。
携帯電話ネットワークの歴史は通信速度の進化とともにあったといっても過言ではなく、5Gにおいても通信速度が速くなるということはイメージしやすいと思います。
しかし、「低遅延」というポイントについてはあまりピンとこない方も多いのではないでしょうか。
じつは通信において遅延が少なくなると、これまで実現不可能とされてきたさまざまな分野において、5Gのネットワーク技術を活用することができるようになります。ビジネスへの活用として注目されている5Gの実例をいくつかご紹介しましょう。
5Gのビジネス活用の一例として「遠隔医療」と「自動運転」が挙げられます。どちらのケースも安全性を担保するために5Gは重要な役割を果たすのですが、具体的にどのような理由があるのでしょうか。
遠く離れた場所で医師が手術を行う遠隔医療は、手術中の映像を医師が確認しながら、医師の指示のもとで手術ロボットを操作する必要があります。このとき、通信に遅延が生じてしまうとリアルタイムでロボットを操作することができず、わずかな判断の遅れが命取りとなってしまうことが考えられます。また、手術中に映し出す映像も、細かな部分まで確認できる超高精細なものである必要があります。
遠隔医療だけではなく、自動運転においても低遅延の5Gは必要不可欠です。自動運転の基本的な仕組みは、走行中の映像を管理センターへ送り、コンピュータの遠隔制御によって自動車を運転操作するというもの。映像や制御データを送受信する際に遅延が生じてしまうと、交通事故を引き起こすおそれがあります。
たとえば、時速60kmで走行している自動車は1秒間に16.7m進みます。LTEの通信遅延は10ms(0.01秒)のため、最大で約0.15m以上の誤差が生じてしまうことも。これが高速道路を走行中であればさらに距離が伸びるため、通信の遅延が重大な事故を引き起こす原因にもなりかねません。5Gの遅延はわずか1ms(※)であり、距離で計算すると数cm程度の誤差となり、実用化に向けて現在実証実験が行われている段階です。
遠隔医療と自動運転はどちらも人命に関わる重要なものです。ごくわずかな通信の遅れが人の命を奪う結果にもなりかねないため、細心の注意を払う必要があります。5GはLTEに比べて10分の1以下という超低遅延を実現し、さまざまなビジネス分野への応用が期待されています。
(※)無線区間を想定した理論値のスペック
5Gのほかに低遅延な通信を実現するための技術として「マルチアクセスエッジコンピューティング(MEC)」も注目を集めています。これは端末のそば(エッジ)にサーバーを配置し、スマートフォンやIoTデバイスとの通信時間を短縮させるための技術です。
LTEの通信遅延は10msと紹介しましたが、クラウドサーバーのように伝送経路が長くなればなるほど遅延は大きくなり、伝送経路が短ければ遅延は短縮されます。
端末とサーバーが物理的に近くにあることによって伝送経路も短くなり、低遅延が実現できるというだけではなく、ネットワーク全体のトラフィックも減少し、混雑しているネットワークが効率化されるという期待もされています。
5Gはもともと遅延の少ない通信システムですが、ネットワーク全体のトラフィックが増大して混雑してしまうとそのメリットを生かすこともできません。マルチアクセスエッジコンピューティングによってネットワーク全体のトラフィックを効率化することにより、初めて5Gの力が発揮され、世の中に広く普及してくると期待されています。
(文:西村広光)