山崎 颯
ドローンはさまざまな産業分野への活用が期待されていますが、なかでも注目すべきは物流業界です。深刻な人手不足が叫ばれている中で、ドローンの導入によって物流業界はどのように変化するのでしょうか。
ドローンコラム連載の第3回となる今回は、KDDIの携帯電話用ネットワークに対応したスマートドローンの仕組みと活用方法もあわせて詳しく紹介します。
スマートドローンとは、KDDIの携帯電話用ネットワークに対応したドローンです。従来のドローンに比べて飛行範囲が拡大するというメリットがあり、さまざまな産業分野への応用が期待されています。
スマートドローンの基本的な仕組みは、全国各地に存在する携帯電話用の基地局を活用しネットワークによる遠隔制御を行うというもの。飛行中にバッテリーが少なくなってきたら、「ドローンポート」というスポットで充電を行いながら目的地までの飛行を目指します。
郵便や宅配便のサービスを提供している物流業界では、ここ数年の間で慢性的な人手不足が深刻化しています。国土交通省の発表によると、2017年度の宅配便取扱個数は前年度に比べて5.8%増加の2億3,272万個。オンラインショッピングやフリマアプリなどの爆発的な普及により、荷物の取扱量が増加傾向にあることも人手不足の背景として考えられます。そこで、物流業界にスマートドローンを活用し、限られた人員の中でも効率的な配達を可能にする研究が行われています。
従来のドローンでは半径1~2km程度が制御可能な範囲でしたが、スマートドローンでは携帯回線がつながる場所であればどこでも制御可能なため、10km以上離れた目的地までであっても長距離の飛行が可能です。たとえば、宅配事業者の倉庫をドローンステーションとし、小さな荷物や郵便物はスマートドローンで自動輸送し、その他の大きな荷物は従来のようにトラックで輸送することで効率的な物流システムが実現できると考えられます。
スマートドローンが物流業界の救世主となる期待は大きいですが、そのためにはいくつか解決しなければならない課題も存在します。スマートドローンはそれらの課題をどのようにクリアしているのか、詳しく紹介しましょう。
まず一つ目は、悪天候時の飛行についてです。ドローン自体は雨が降っていても飛行可能なものもありますが、安全性や荷物が汚れることを考えると強風時、雨天時は飛行させないほうがベターといえるでしょう。スマートドローンは飛び立つ前に気象情報を確認し、強風が予想されるルート、これから雨が降りそうなルートを避けて飛行することができます。このときに活用される気象情報は、KDDIとウェザーニューズが共同で開発した「高精細気象予測システム」と呼ばれるもの。スマートドローンの安全な運行を可能にするため、専用に開発されたシステムです。
二つ目の課題は、高い建物などの障害物の存在です。平面を走行する自動車とは違い、空を飛ぶドローンにとって高いビルや鉄塔などは大きな障害となるもの。衝突して墜落してしまう危険性もあるため、飛行ルートを決める上で三次元のマップ情報が必要不可欠です。そこでKDDIは地図情報大手のゼンリンと提携し、スマートドローンに活用するための三次元地図を開発。スマートドローンの自律飛行に向けて重要な役割を果たします。
このように、高精細気象予測システムや三次元地図などを含めたスマートドローン用のプラットフォームを活用しながら、KDDIは輸送システムの実用化に向けて取り組んでいます。
スマートドローンを物流業界に活用するためには、まだまだ解決しなければならない課題も多いです。しかし、物流業界の人手不足や配送時間の短縮など、多くのメリットが得られることもまた事実。自動車を使用しないため環境にも優しく、道路の渋滞緩和にも役立つでしょう。
世界的に見てもドローンによる荷物の輸送を実用化した事例はまだまだ少ないですが、今後遠くない未来に実用化されるのではないかと期待されています。そのような背景もあり、スマートドローンは物流業界から大きな注目を集めています。
(文:西村広光)