あらゆる産業分野において、企業のデジタルトランスフォーメーションが加速しています。そこに5Gが加わることによって、今後のビジネスや社会はどのように変わっていくのでしょうか。2019年6月27日に開催された、「KDDI 5G SUMMIT 2019」の基調講演では、代表取締役社長の髙橋 誠が登壇。あらゆるモノに通信が溶け込んでいく時代において、5Gによる大変革がもたらす未来像や新しいビジネスモデルの可能性、お客さまやパートナー企業とともに進める5G時代の共創と変革のビジョンについて語りました。
今、日本はSociety5.0の時代に入りつつあります。Society5.0で重要なポイントとなるのは、デジタル技術とデータを人々の多様な幸せのために使うこと。つまり企業や組織にとっては、社会や利用者に何が求められているのかを想像し、創造力を持って新しいビジネスやサービスを創出することが必要となるわけです。このSociety5.0をつなぐ重要なインフラとなるのが5Gです。これからは”通信”が社会全体に拡大、浸透し、新たなユーザー接点やサービスが多数登場してくるでしょう。
5Gが加速させるデジタルトランスフォーメーションは、消費者、産業、行政を問わず、あらゆる場面において社会のあり方を変えていきます。このように、あらゆるモノに通信が溶け込んでいく5G時代に重要なのは「最新技術を活用して、どのようなビジネスを創っていけるのか」です。まさに想像力と創造力という2つの“ソウゾウ”の力が必要になってくるはずです。
髙橋 誠
近未来のビジネスは、一体どうなっていくのでしょうか。それを占う上で、1つのモデルケースとなるのが、日本より1年先行して5Gサービスを世界で初めて提供し始めた韓国です。既に韓国では、BtoCにおいてエンターテインメント系を中心に多くのサービスが開始されており、BtoBでもコネクテッドカー、スマートファクトリーといった領域で、「高速・大容量」「低遅延」「多接続」という5Gの特性を生かし、商用化を見据えた実証実験が行われています。
韓国に学ぶ、5Gが生みだすビジネスの可能性
講演では韓国の通信事業者LG Uplusの崔 周植 (チェ・ジュシク) 副社長が招かれ、同氏から韓国の現状が説明されました。
既に具体的なサービスとして、BtoCの領域では、VR/AR、クラウドゲーム、スポーツ観戦、コンサートLIVEなどのコンテンツを提供。
一方、法人向けにはコネクテッドカー、スマートファクトリー、スマートドローン、遠隔操作、スマートスクールなどの5分野を重点的テーマに据え、さまざまな取り組みを展開していることが紹介されました。
崔 周植 (チェ・ジュシク) 様
先行する韓国の状況を見ても分かるように、通信が社会に溶け込む時代にはビジネスモデルが大きく変わります。通信とセンシングの進化によって、お客さまとの関係性が再構築されるからです。現在では売り切りモデルからサブスクリプションへの移行が進んでいますが、これからは「リカーリング」へと進化していきます。リカーリングとはデータと価値提供が循環するビジネスモデル。通信とセンシングで得たデータをAIやパーソナライゼーションで活用することで、よりよいサービスを継続的に提供することが可能になり、エンゲージメントも深化していくはずです。
リカーリングモデルでは、IoTをはじめとしたセンサーを通じて集まったビッグデータが5G経由でAIによって分析されます。分析結果に基づいて設計された価値をお客さまに提案し、そのフィードバックをまたデータとして蓄積します。そのデータをさらに分析し、次なる価値提案へとつなげていきます。このようなデータと価値提案循環が新しい価値を創出していくことになります。そこで、KDDIでは「センシングデバイス/IoT」「5G」「AI/パーソナライゼーション」という独自の「5G 3階層モデル」によって、お客さまの状態・行動・感情をデータとして循環させ、エンゲージメントを深化させるビジネスモデルを構築していきます (図1) 。
図1:リカーリングを加速する3階層モデル
5Gが普及すれば、データと価値提供が循環する「リカーリングモデル」が実現します。
KDDIは独自の3階層モデルで、お客さまの状態・行動・感情をデータとして循環させ、
新たな価値創出に取り組んでいきます。
データを駆使してお客さまとの関係性を再構築するリカーリングモデル。こう聞くといかにも欧米の先進企業が好むビジネスモデルに聞こえるかも知れません。しかし、このようなビジネスモデルは、実は日本企業にこそマッチするのではないかと考えています。日本には100年以上続く歴史ある企業が世界各国と比べて圧倒的に多い。つまり、これまでもお客さまとリカーリングしながら持続的に成長してきたのです。その志向を持つ日本企業が5Gプラットフォームをベースに、フローモデルからリカーリングモデルに切り替えていくこと。これこそが日本のデジタルトランスフォーメーションではないかと私は思っています。
それでは日本でリカーリングモデルを実現するためにはどうすべきでしょうか。そのキーワードは「トラステッド(信頼性)&イノベーティブ(革新的)」だと考えています。
「トラステッド」の領域について、KDDIは信頼性の高いIoT通信サービスを約20年提供してきた実績があります。その代表例が、2002年からトヨタ自動車様と進めている「つながるクルマ」への取り組みです。このサービスでは、高品質かつ安全なネットワークを基盤とし、車両データや走行データを分析・活用し、24時間365日の安心を届けています。つまり、いつでもつながる安定的でセキュリティにも優れたネットワークがサービスの重要なカギを握っているわけです。
一方の「イノベーティブ」に関しては、KDDIグループの1社、ソラコムが提供するIoT向けネットワークの例があります。既にそのネットワーク上でAI通訳機「POCKETALK(R)(ポケトーク)」などの新しいサービスが、次々と実現されています。
ビジネスモデルが変化すれば、当然、パートナーシップのあり方も変わっていきます。ここでのキーワードは「競争と協調」です。1G/2Gの時代はインフラから端末まで、全てを自分たちで作ることができました。しかしお客さまのニーズが多様化する中、1社で全ての技術やソリューション、サービスをカバーすることは現実的ではありません。今後はサービスや料金面で競争する一方、インフラやデータの整備は5Gを提供するキャリア同士が必要に応じてシェアするなどの協調も必要となってくるでしょう。
既にKDDIはこの状況を見据え、新しい次世代サービス基盤の整備をパートナー企業とともに進めています。例えば「IoT世界基盤」は、KDDIだけでなく、日立製作所様、東芝様など、パートナー企業のアセットを組み合わせたビジネスプラットフォームです。これにより、クルマのほか産業機械や建設機械など、さまざまなモノの通信接続や課金の統合管理を可能になり、お客さま企業のグローバル展開を支援します。
またドローンの実証実験やビジネスを展開できる「スマートドローンプラットフォーム」も多数のパートナー企業と実証実験を重ねて開発されたものです。モバイル通信に対応した機体をベースに、気象・地図に沿った飛行計画の作成や運航状況の監視、機体制御を遠隔で行えます。これにより、企業や自治体と連携し、警備や災害対策、物流、地方創生といった幅広い社会課題の解決を支援していきたいと考えています。
5GとAIで、5G時代のビジネスを加速させる
KDDIでは5G時代の中核技術の一つとなるAI領域についても、パートナー企業との協調を推進しています。その強化策の一環として、本講演内で発表されたのがNVIDIA様との協業です。
NVIDIAの大崎 真孝 様は「NVIDIAのGPU (画像処理プロセッサ) がKDDIのビジネス開発拠点である『KDDI DIGITAL GATE』に導入されることになりました。この取り組みにより、5GとAIを利用したスタートアップのアプリケーション開発が一段と加速されていくことになるでしょう」と述べました。
大崎 真孝 様
リカーリングモデルへの移行をはじめとした、新たな変革を継続的に起こしていくには、イノベーションを科学的に再現する必要も出てきます。しかし日本の大企業においては、既存事業といった非イノベーション構造を抱えているため、新規事業の創出は簡単ではありません。
そこでKDDIは、大企業とスタートアップが協働で新規事業の創造を目指す「出島」戦略を推進しながら、コーポレート・ベンチャーキャピタル (CVC) による積極的なスタートアップ投資、豊富なアセット・ノウハウを持つパートナー連合と連携したスタートアップ支援の枠組みなどを作ることで、5G時代の日本企業を支える基盤作りに取り組んでいます。
中でも、KDDIとスタートアップ、大企業や自治体が集う「共創」の場となっているのがKDDI DIGITAL GATEです。2018年9月の開設以来、利用企業は延べ200社以上に上り、2019年秋に大阪と沖縄にも新しい施設をオープンする予定です。
こうした多岐にわたった取り組みを評価いただき、KDDIは経済産業省などが実施するイノベーティブ大企業ランキングにおいて2年連続で第1位をいただきました。しかし、われわれはまだまだ道半ばで満足はしていません。この5G時代にもう一歩、前に進んでいきたいと考えています。
5G時代に新しい価値を創出する上で、何より重要なのがお客さま企業との共創です。先行きが見えない時代だからこそ、お客さまを理解し、お客さまの挑戦と変革に一緒に取り組むことが重要だと考えています。
そこでKDDIでは既にさまざまな業種業態の企業と共創を行い、成果を出しています。その代表例といえるのが、日本航空様との取り組みです。
5Gで新しい顧客体験価値の創出へ
講演では、KDDIと5Gを活用した実証実験を行っている日本航空 常務執行役員 イノベーション推進本部長 西畑 智博様が登壇。
西畑様は、イノベーション拠点であるJAL Innovation Labの設立や社内人財の積極的な活用、社外パートナー企業との連携などを推進することで、5GやIoTを活用した次世代サービスの研究開発と実用化を進めていることを述べた上で、5Gを活用した顧客体験価値の創出や、4K/8K映像を用いた業務支援などの生産性向上施策について紹介しました。
西畑 智博 様
5G時代における共創は、企業とのコラボレーションばかりにとどまりません。地方創生でも大きなインパクトをもたらします。既にKDDIは各自治体様や企業、教育機関と5G/IoTを活用したSDGsや地域課題解決への取り組みを全国で累計60件以上も展開しており、Society 5.0の実現を支援していきます。
このように新しい何かを生み出していくには、お客さまやパートナー企業の力が必要です。これからもKDDIは皆さんと一緒に新しい価値やビジネス、社会、未来の創造に挑戦していきます。