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5G/IoTの共創で“製造業のビジネスモデル”に革命を
必要なのは「仕事の垣根」を超えるためのエコシステム

5G/IoTの共創で“製造業のビジネスモデル”に革命を

2020年3月、IoTのグローバル展開支援する「グローバルIoTパッケージ」のサービス提供開始された。KDDI、東芝グループソラコムという異領域連合による共創誕生した同サービスは、製造業ビジネスのあり方そのものに変革をもたらすものとして注目されている。そこで、「いったい今、ビジネス最前線で何が起こり、どんな変革に向かって動き出さなければいけないのか」について、3社のキーパーソンに語り合ってもらった。

記事内部署名役職取材当時のものです。

変革を迫られる日本の製造業。
鍵を握る「データ活用」にどう取り組めば良いのか

藤井DX、IoT、5Gというように、昨今ビジネス変革にまつわるキーワード多数登場しています。もちろん私たちKDDIとしては、これらすべてに深く関わっているわけですが、とりわけ変革必要性をどこよりも強く問われているのが製造業ではないかと思います。島田さんはどう捉えていますか?

島田氏東芝製造業である」とか「KDDIは通信事業者であり、ソラコムはIT産業である」といった“●●業”の枠組みでビジネスを語る時代ではなくなったと考えています。例えばスマートフォン東芝発明したNAND型フラッシュメモリーがなければ作れない製品なのですが、そのスマートフォン消費者提供する会社が今や東芝の100倍近企業価値を得ています。「なぜそういうことになっているのか」を考えなければいけないし、おそらくその答えは多くの方が気づいていますよね。データなんです。

藤井私の前職は Google ですし、片山さんの前職はAWS。つまり最近よく聞くGAFAの出身者というわけですが、このGAFAの強みもデータをおさえていることだと言われていますよね。

藤井 彰人の写真
KDDI株式会社
ソリューション事業本部
サービス企画開発本部長
執行役員

藤井 彰人

島田 太郎 氏の写真
株式会社 東芝
執行役上席常務
最高デジタル責任者

島田 太郎 氏

島田氏モノ作り産業の多くは「どんなものでも作れます」ということを長らく誇りにしてきたわけです。私自身ハードウェアエンジニアリングに携わり、ソフトウェア開発に関わってきましたので、その信条大切にする気持ちはわかりますが、もはやこうした姿勢イノベーションを起こすことが困難になっていることは明白です。しかも、データ活用象徴するデバイスだったスマートフォン一通り行き渡ってしまいました。そこでGAFAも含め、世界中企業が「スマートフォンの次は何だ」と血眼になっている。それが「今」という時代ではないでしょうか。

片山氏たしかに世界中の人々がスマートフォンを持って、大容量回線でつながり、クラウドというサイバースペース経由しながら、さまざまなデータをやりとりする中で、GAFAはその価値を高めていきました。でもすでにパソコンスマートフォンによるインターネット等とは別のネットワークによるイノベーションを多くの企業模索していますね。その中でIoTの可能性注目され、われわれソラコムも大きなチャンスを迎えることができています。

藤井島田さん、片山さんのご指摘がいずれもグローバル前提にしたものになっているように、もはやあらゆる産業が“グローバル”という文脈で動いているし、その未来決定づける鍵としてデータ活用がある。ですから「そういう“グローバル”の時代に“日本製造業”はどうすれば良いのか」を考えなければいけませんよね。おそらく多くの関係者の間で、こうした認識浸透していると思うんです。「高齢化による人口減少市場成熟化とがすでに進行している。国内マーケットにしがみついてはいられない」と。

「でも何をすれば変革につながるのか」という悩みがある中で、やはり鍵を握るのはデータ。IoTがくまなくあらゆるモノに行き渡り、そこで手に入れたデータソラコムさんのような技術の担い手によってネットワークに乗ってくるようになれば、既存ネットワークではできなかったことが、“グローバル”な文脈実行できるようになりますね。

片山 暁雄 氏の写真
株式会社 ソラコム
執行役員
プリンシパルソフトウェアエンジニア

片山 暁雄 氏

IoTによってモノがデータを届けるようになったら、
どんなビジネスが可能なのか

島田氏製造業データをどう手に入れて、どう活用するんだ」という疑問を抱いている方々のために、私たち東芝を例に出しましょう。実は東芝サービス毎日利用しているユーザー無数にいます。例えば、世界一シェアを持つPOSシステムを持っていますから買物現場で常に使われていますし、電車に乗る改札口でも、オフィスにあるエレベータでも多くの生活者東芝技術を使ってくださっています。残念ながら、これまではそこで得られるデータ一切活用してこなかった。でも今後こうしたデータ活用できるようになったら、爆発的情報価値を生み出す可能性を秘めているということ。その可能性を形にするには、BtoBtoCで臨まなければいけない。従来のBtoBの枠に閉じこもっていては、絶対に新しいビジネス成立しないと私は思っています。

機械を作って納めてお代を頂戴したら終わり、というモデルには限界が来ています。データを集め、活用していくことで消費者との間に強いコネクションを持ち、BtoBtoCの発想で今までにないビジネスを追い求めていく。そういうチャンス既存製造業に開いてくれるのがIoTでありCPS (Cyber-Physical System) であると考えています。データ獲得集積活用していくデータ2.0の時代相応しい可能性を、われわれが率先して切り拓く必要があるんです。

藤井サイバーtoサイバーデータ活用には限界がある。これからはCPSによってフィジカルモノからもデータ獲得し、活用していく時代だ」ということで設立されたのが東芝データですよね。島田さんはそのCEOにも就任されています。

島田氏東芝データは2月に設立したばかりですが、さっそくスマートレシート活用したサービス開始しました。買い物の際に発生するPOSレジの紙のレシートを排し、デジタル化して消費者スマートフォン等にデータ送付していくサービスですが、この仕組みを続けていくことで購買行動データをさまざまなビジネスに活かしていくことが可能になります。例えば、既存商店街などが発行して配布する割引クーポン券の利用率は5%程度でしかないそうですが、スマートレシート実施する店舗が「いつ何を買ったお客さまなのか」がわかった上で最適クーポンデータ送付したところ、利用率が50%を超えたんです。

IoTやCPSの話題となるとテクニカルな話ばかりになりがちですが、その前に「どんな商売ができて、どうやって新たな価値提供できるか」を追求することが大切です。DXやデータ活用という話題の時にも「今あるデータから何か価値を」と考えがちですが、そうではなく、生活者日常で発しているさまざまな情報カバー率を上げていくことが重要。そのためにIoTやCPSがあるんです。テクノロジー道具でしかない。

片山氏同感です。まさしくソラコムでも「IoTの“つなぐ”を簡単に」という発信をしています。データ活用という未知テーマに挑もうと思えば、どうしても大規模技術的変化イメージしがちですが、実はスモールスタート可能なんです。

藤井グローバルは猛スピード変化していますから、変革に挑むならば今すぐスタートすべきだと私たちも多様産業に向けて発信し続けています。ソラコムさんのように最先端技術ソリューション提供してくれるパートナーを得られたなら、巨大製造企業であっても、新しいチャレンジスモール小規模スタートできる。

小規模局面でもかまわないから、まずはデータを貯めて、使って、検証していき、そこを起点に大きな変革につなげていくべきですし、そう考えたからこそ、ここにいる3社で「グローバルIoTパッケージ」のサービス化を急いだわけですよね。

片山氏私たちソラコムのことを「IoT関連技術を使いやすく、つまり民主化していく集団」だと捉えてくれれば、事業会社の皆さんは本業ビジネスリソースを傾けていただけるはず。依然として「IoTは技術的に難しい」とか「過大コストがかかる」と考え、「だから始められない」と思っているのだとしたら、ぜひ「グローバルIoTパッケージ」の有用性注目してほしいですよね。

グローバルIoTパッケージの概要図。詳細は以下。
グローバルIoTパッケージの概要。
データの収集・蓄積から見える化、API連携までカバーし、
顧客のグローバルIoT展開を支援する

工場やプラントといった製造の最前線でも
新しいビジネスモデルの創出は可能?

藤井今回の「グローバルIoTパッケージ」は、主な対象工場プラントというまさに製造業最前線になります。あらためてうかがいますが、こうした現場でIoTはどう捉えられているのでしょう。

島田氏東芝デジタルソリューションズでは「Meister RemoteX™」というIoTを用いた遠隔監視クラウドサービス展開しています。設備メーカーさんが工場プラント設置する生産機械稼働状況等を、IoTの活用によってモニタリングし、可視化することによって、メンテナンスなどのサポート業務効率化していけるというものなのですが、そのような“改善”によるメリットだけではなかなか導入に踏み出せないところもまだまだありますね。

片山氏ソラコムでも多くの製造業と取り組みをしていますが、「現場改善にIoTやCPSを使いたい」という要望はあるものの、「今ある製品改善だけでは次につながらない」とおっしゃるところも多数あります。皆さん、新しいトライをしたいという意向は持っていて、データを集めて、それを価値に変えるような動きをしたいけれども「どこから着手していいか分からない」というモヤモヤ感があるようです。

島田氏端的に言えば「どうやったら儲かるか分からない」というモヤモヤ感ですよね。「IoTを始めるためのコストを超える儲け」をどう生み出していけばよいのかが分からないということでしょう。設備メーカーさんにしてみれば、IoTを通じてデータモニタリングをした結果修繕のためのスペアパーツ無駄なく、効率良提供できるようになりました」というだけでは売上はむしろ下がります。何か今までとは違うところで儲かるようなビジネスモデル転換しないといけません。

藤井だからといって、IoT活用による改善をやらないわけにはいかない。なぜなら競合他社もやってくるから、ということですね。

島田氏今まで通り自分たちの仕事はここまで」と決め込んでいたら絶対に儲かりませんから、仕事範囲再定義しなければいけない、ということです。例えば、私が社内でIoTを導入する時に言っているのは「ハードを売らないでください」なんです。つまり「サービス化をして、それとハードセットにして売っていきましょう」ということです。

藤井製造業が「ここまで」と決めていた範囲の先に、何かサービスによる価値提供の場を設けなければいけないということですよね。何かよい事例はありますか?

島田氏「Meister RemoteX™」を導入してくださった産業用水処理装置企業では、グローバル水処理施設装置提供するだけでなく、適切薬品注入するための遠隔監視を続けてこられました。しかし既存技術によるセンシングモニタリングにさまざまな課題限界が生じたことから、当社サービス導入してくれたんです。そこから得られるデータ活用することで、機械を売るビジネスから、その機械監視サービスセット提供することにより、いわば水質サブスクリプションのような形で売っていくようなビジネス転換されています。製造業でありながら、もはやサービス業としてプロフィット成立するような可能性を形にされているんです。

片山氏IoTで得たデータ活用した新しいサービス価値創出する、という点では先ほどのスマートレシートと同じですね。BtoBの製造事業最前線でもこういうことが可能になっていくのだと思います。

島田氏私はデジタルエボリューション、DEと呼んでいます。仕事範囲拡大して、バリューチェーンを変え、ノウハウを溜め込む、それができて初めてデジタルによる変革、つまりデジタルトランスフォーメーション可能になるでしょう。DEあってこそのDX、というのが私の持論です。