消費者に一定期間、製品やサービスの利用権を提供する「サブスクリプション・ビジネス」。提供される商材は、自動車から動画配信、焼肉食べ放題など有形・無形を問わず多岐にわたる。KDDIは目前に迫る「5G(第5世代移動通信システム)」時代を見据え、サブスクリプション・ビジネスに替わるリカーリング・ビジネスを提唱。2020年2月には、AXLBIT(アクセルビット)と資本業務提携を結び、リカーリング・ビジネス支援プラットフォームの共同開発に乗り出した。AXLBIT株式会社 代表取締役社長 長谷川 章博氏とKDDI株式会社ソリューション事業企画本部 業務改革部長 田中 勲に、業務提携に向けた意気込みとリカーリング・ビジネスの可能性を聞いた。
―2020年2月、AXLBITとの資本業務提携が発表されました。提携に至った経緯を教えてください。
田中 最大の理由は、来るべき5G時代のビジネスモデル「リカーリング・ビジネス」の基盤を築くためです。現在、既存の売り切り型のフロー・ビジネスはサブスクリプション・ビジネスへとシフトしつつあります。リカーリング・ビジネスとは、言うなればサブスクリプション・ビジネスの進化系にあたるものです。
既存のサブスクリプション・ビジネス事業者のリソースを共有できれば、加速度的に基盤が構築できます。それを踏まえると、業界の先駆者とも言えるAXLBIT社はこれ以上ない、心強いパートナーです。
長谷川氏 2008年の設立当初、AXLBITはホスティング事業者を対象にしたプラットフォームやインストラクチャの構築支援を事業の中核に置いていました。2013年、業界内で高まっていたニーズを受けて、事業化したのがSaaS(Software as a Service)型アプリケーションプラットフォーム「AXLBOX」(アクセルボックス)です。エンドユーザーはAXLBOXを介して、ソフトウェアベンダーが供給するアプリケーションを月次利用できます。
田中 勲
また、エンドユーザーは、アプリケーションを自社開発する必要がなくなり、集中したい業務にリソースを割くことが可能です。また、アプリケーションのメンテナンスやアップグレードはプラットフォーム側で実施されるので、保守・運用の手間も大幅に削減できます。
AXLBOXの事業化からわかるように、ICT業界には「品質が保証されたリソースを不特定多数のユーザーで共有する」という意識が根づいています。近年その意識は、サブスクリプション・ビジネスというモデルとなってさまざまな業界に波及しています。そうした潮流を受けて、2015年にサービスを開始したのが「AXLGEAR」(アクセルギア)です。販売管理業務を中心としたサブスクリプションを支援するソリューションです。
田中 消費者のニーズが「所有」から「利用」へ移行する中、サブスクリプション・ビジネスの新規参入を試みる企業も増えてきました。とはいえ、市場の変化が激しく、商品・サービスのリリースにおける俊敏性が求められる中、ノウハウのない企業がゼロから事業化するのは容易ではありません。
長谷川 章博氏
長谷川氏 おっしゃるとおり、サブスクリプション・ビジネスは契約管理や請求処理などが煩雑になりがちで、それゆえ新規参入に躊躇していたという顧客企業は少なくありません。AXLGEARなら、受注、サービス提供、課金、継続利用といった一連の業務プロセスをまとめて提供できますので、導入までの工数を大幅に短縮できます。
これまでに、管理企業数20万件超の契約・課金等の管理でAXLGEARが導入されています。現在のサブスクリプション・ビジネスで扱っている分野について、ビジネスモデルはBtoB/BtoC、商材は無形物/有形物に大別できます。BtoB×無形物は、SaaSが代表的な例と言えるでしょう。BtoC×有形物は、カーシェアリングや焼肉の食べ放題などが挙げられます。
市場として手堅いのはBtoBのビジネスモデルです。一方のBtoCはまだまだ未開拓の領域です。商材も「○○放題」などのレベルにとどまっていて、まだ伸びしろがあると考えています。われわれもBtoBから事業を広げてきましたが、KDDI社と組むことでBtoCにも積極的に領域を拡大できると思っています。
田中 今でこそサブスプリクション・ビジネスの支援サービスは増えてきましたが、競合他社を寄せ付けないAXLGEARの強みは、あらゆる事業者のビジネスに対応する汎用性の高さにあると考えています。例えば、課金期間の設定なら「1カ月」「12カ月」「日割精算」、プライジングの設定なら「従量型」「階層型」「選択型」といった具合に細分化されているため、顧客企業のサービスに合わせてカスタマイズすることが可能です。割引・値引き設定の豊富なバリエーションも興味深いところです。キャンペーンなどで重宝している顧客企業も多いのではないでしょうか。
長谷川氏 2020年3月時点では144通りの販売パターンに加えチャネル別の売価や案件別特化などにも対応できます。
これだけパターンが充実している支援サービスはそう多くはありません。
―AXLBITが標榜する「サブスプリクションで世の中をもっと豊かに便利に」にはどのような思いが込められているのでしょうか。
長谷川氏 例えば、われわれが1万円を支払って「所有」できるモノって限りがありますよね。けれど、1万円を支払って価値の高いモノを一定期間「利用」できる権利なら話は別です。同じ1万円のコストでも、消費者はモノを所有したときよりも、幅広い体験を享受することができるでしょう。
「モノ」はあくまでも「コト(体験)」を得るための手段に過ぎません。
サブスクリプション・ビジネスが今以上に浸透すれば、消費者がモノから得られるコトの価値も底上げされます。
ひいては、豊かで便利な社会が構築されていく、と考えています。
―KDDIは、5G時代のビジネスとしてリカーリング・ビジネスを提唱していますが、サブスプリクションからリカーリングに移行すると、ビジネスはどのように変化するのでしょうか。
田中 サブスクリプション・ビジネスの先にあるのが、KDDIが打ち出しているリカーリング・ビジネスです。「リカーリング」とは「循環」を意味する言葉。リカーリング・ビジネスではデータ収集/分析と価値提供が循環します。 サブスプリクション・モデルから得られた大量のデータをAIで分析し、パーソナライゼーションに活用することでさらなる付加価値を生み出すというのが、リカーリング・ビジネスの根幹を成すリカーリング・モデルです。このモデルを導入することで、事業者はユーザーの細かなニーズに応えられるようになり、消費者は自分に最適な商材を継続的に利用できるようになります。
「高速・大容量」「高信頼・低遅延」「多接続」をコンセプトとする5Gによって、多くのデバイス・端末とリアルタイムに大量のデータのやり取りをできるようになれば、リカーリング・ビジネスは一気に加速していくでしょう。
長谷川氏 AXLBITも「リカーリング」という言葉こそ使っていませんでしたが、ビッグデータを活用したサブスプリクション・モデルが台頭する時代が来るだろうと考えていました。
なぜなら、消費者が「必要と感じたとき」に「必要な商材」を「必要なだけ利用できる」ことがサブスプリクション・ビジネス成功のカギになるからです。その消費者の「必要」を探り当てるには、データは欠かせません。KDDIが目指す新境地には、強く共感しています。
リカーリング・ビジネスの創造という前例のない試みは、大手通信事業者のKDDIだからこそチャレンジできるのではないでしょうか。データの蓄積がなければ、消費者のニーズや動向を読み取ることは不可能です。これまで積み上げてきたポートフォリオは、非常に強い武器になるでしょう。今回の提携で、AXLBITが掲げるテーマにまた一歩近づけます。普段、あまり表に出すことはないのですが(笑)、今からとてもワクワクしていますよ。
田中 その熱い“長谷川イズム”は、KDDIメンバーにもいい刺激になっています。以前お伺いしたオフィスには、個性豊かなメンバーが揃っていて活気がありました。
長谷川氏 バンドマンのように長髪だったり、金髪だったり、一見エンジニアとは思えないような人材が揃っていますね(笑)。それぞれの個性は尊重しつつも「理にかなわないシステムをつくるな」ということを、一貫して伝えているつもりです。たとえ、クライアントの希望だとしても使いにくいシステムをつくっては意味がありません。システムはあくまでも手段であり、その先にある「コト」に目を向ける。それがAXLBITのメンバーが共有する揺るぎない価値観になっています。
―今後の展望について教えてください。
田中 リカーリング・ビジネスを支援するプラットフォームの共同開発を進めています。プラットフォームには、AXLGEARで培われた管理・運用に関するアセットが盛り込まれており、KDDI/AXLBIT両社の顧客企業へ提供されます。また、KDDIの自社サービスにも組み込んで展開されるので、パートナー企業のデジタルトランスフォーメーションにも貢献していけると考えています。
長谷川氏 われわれでも、精鋭を集めた人材編成でプラットフォーム構築に臨みます。市場分析からニーズを読み取り、どのようにアーキテクトしていくのか。事業にコミットできる、敏感な嗅覚と優れた技術力を兼ね備えたエンジニアを社内外から集めているところです。われわれと一緒に豊かな社会を実現したいという熱い想いを持った方と、そしてKDDIとともに、新たなチャレンジに取り組んでいきたいですね。
田中 AXLBITの開発スピードには目を見張るものがあります。ほんの数カ月でプラットフォームの一部を築いてしまったんですから。KDDIの自社開発だけでは、さすがにこれだけの速さで進めることは不可能だったと思います。
5G時代は目前にまで迫っています。今後、リカーリング・ビジネスがビジネスの本流に加わるのは明白です。導入を検討している企業がスピード感をもってこの時流に乗るためには、プラットフォームが必要になってきます。そのためにも、先手先手で基盤を築いて業界をリードしていきたいですね。
AXLBITは、「サブスクリプションで世の中をもっと豊かに便利に」をテーマに、サブスクリプション型サービスの契約、課金管理ソリューション「AXLGEAR」を提供。サブスクリプションを通じて、人々がより豊かで幸福な時間が過ごせる社会を実現します。 ( https://axlbit.com/ )