日本国内におけるIoTの先駆者として知られているソラコムは、2015年の創業以来毎年「SORACOM Discovery」というカンファレンスを実施しています。今回は「SORACOM Discovery 2020 ONLINE」のなかで紹介されたKDDIとソラコムの取り組みや、IoTの未来についてレポートします。
今回の「SORACOM Discovery 2020 ONLINE」は、新型コロナウイルスの影響によって初のオンライン開催となりました。さまざまな講演や対談、ビデオセッションなどが行われ、多くのプログラムに視聴者が集まり、SNS上においては「SORACOM Discovery 2020 ONLINE」関連のつぶやきも多数アップされていました。
当日の基調講演や対談のなかでは、ソラコムの新しい取り組みやサービス、今後の展望なども数多く発表されました。近い将来確実に到来する5GおよびIoT社会に向けて、ソラコムはKDDIグループのなかでもより一層重要な役割を担っていくことが予想されます。
2015年に創業したソラコムは、IoT通信を軸にしたプラットフォームを提供してきました。2017年にはKDDIグループの一員となり、2020年前期にはIoT契約回線数が200万回線を突破。2020年7月現在、15,000ものお客さまに利用されています。
IoTと聞くとIT分野との関連性をイメージする方も多いですが、ソラコムのお客さまはインフラや製造、金融などさまざまな分野での活用事例があり、ビジネスを支えるための重要なライフラインとなっています。
ソラコムは「IoTテクノロジーの民主化」という理念を掲げています。これはIoTの社会実装を実現するために、技術やノウハウを1社が独占するのではなく、広く共有できるようにするというもの。
IoTビジネスの裾野を拡大し普及させていくためにも、ソラコムでは誰もが簡単にIoTを導入できるようなIoTプラットフォームを提供しています。
イベントの最初のセッションでは「New Normal 加速するDX」と題し、ソラコム 代表取締役社長の玉川憲氏、KDDI 代表取締役社長の髙橋誠による特別対談が行われました。
まず髙橋社長は、新型コロナウイルスの影響によってリモートワークの需要が伸び、これにともなってインターネット上の通信トラフィックも増大していることを紹介。観光や物流、エンタメなどの業界はもちろん、その他あらゆる企業においても新たな価値観が生まれ「New Normal」の時代へ移行していると述べました。
玉川社長は、New Normalの象徴的な事例として、大浴場での混雑状況を可視化するためのIoTシステムや、交通量を調査するためのエッジAIカメラなどを紹介。髙橋社長はGPS情報を活用した人流解析を紹介し、「クラウドで分析したものをリアルに生かしていく、という循環を行った例です。Society5.0の概念において、サイバー空間のデータを分析したものをフィジカル空間に戻す考え方があります。こうしたデータの循環がDXを考える上で今後とても重要になります」と認識を示しました。
また、DXについてもさまざまな定義があるとした中で「モノを買った後でもデジタル技術を使って継続して繋がっていけることがDXなのではないか」とも表現。ビジネスモデルの転換に悩む業種も多くありますが、DXによって顧客と企業をつなげることで一過性の物売りビジネスからリカーリングビジネスに転換が可能に。玉川社長は、明太子の製造大手「ふくや」で導入されている、明太子の残量検知による自動発注システムの事例をピックアップ。ソラコムのソリューションを活用すれば、リカーリング型のビジネスも可能であることを紹介しました。
特別対談の後半パートでは、ソラコムとKDDIの今後のシナジーについて、今年度内に「SORACOM」が5Gに対応することを発表。KDDIのMVNOとしてサービスを提供し、IoTにさらなる付加価値をつけられるかが大きな役割になるとしています。また、「AWS Wavelength」とKDDIのau 5Gネットワークにソラコムのコアネットワークを組合せた超低遅延アプリケーションの実証実験を2020年7月から開始。この技術を応用すると自動運転や建機の操縦だけではなく、さらに革新的なサービスが誕生すると期待されます。
KDDIではトヨタ自動車やマツダとともに「つながるクルマ」とよばれるコネクティッドカー向けの通信プラットフォームの開発や、日立や東芝とともに「IoT世界基盤」の提供を行っています。
ソラコムはKDDIの豊富なアセット(資産)を活かし、真のグローバル企業に向けて成長していくことをあらためて宣言。玉川社長は「スタートアップやベンチャー企業にとってのゴールはEXITと表現されることもあるが、ソラコムではあらたなENTRANCEととらえ、ソラコム単独では届かなかった領域に道を開く『スイングバイ』(ロケットなどを打ち上げる際、天体の引力や軌道を使って加速させる方法)と表現したい」とし、両社のさらなるシナジー強化を誓いました。
特別対談が終了した後は、最先端のIoTビジネスに取り組む企業による基調講演が行われました。
KDDIからは取締役執行役員専務兼ソリューション事業本部長の森 敬一が登壇。「世界へ挑む グローバルDX」と題し、KDDIにおけるグローバルIoT事業の現状や今後の展望について発表がありました。
まず、KDDIが提供する法人向けIoTは累計1,200万回線を突破し、特に海外に拠点を置く日本企業からの受注が増加していることを明らかにしました。これに加えて「つながるクルマ」のグローバル通信プラットフォームとして、中国やアメリカでも提供が始まったことも大きな要因として挙げられます。
グローバル通信プラットフォームとは、国によって異なる通信回線を統合管理し現地で提供するもので、世界各国で24時間365日の監視体制を実現しています。2020年秋以降に発売されるマツダの車両にもこのグローバル通信プラットフォームに対応した車載通信機が搭載されることが発表されました。
このような知見を活かし、KDDIでは2020年3月、ソラコムと連携し「IoT世界基盤 グローバルIoTパッケージ」のサービスも提供。クラウド・通信回線・デバイスがセットで提供されるため、内製型の小規模案件から導入可能なサービスです。大規模な長期プロジェクト化すればKDDIの個別設計への移行も可能です。自動車だけではなく、あらゆるIoTデバイスを世界各国で展開する際に、ソラコムと連携してより顧客のニーズに最適なIoTビジネスを提案できるようになりました。
また、2020年6月からはKDDIが提供している閉域網サービス「KDDI Wide Area Virtual Switch(WVS)」にもIoT世界基盤が対応することが発表され、よりセキュアな通信環境でIoTビジネスが展開できるようになります。
基調講演の最後に、森専務は「今後New Normalの時代がやってきたとき、人々が移動できない分、IoTによるデータ通信のニーズがますます高まっていくのではないか」との考えを示し、「ソラコムとともに世界へ挑むグローバルDXを実現するIoTプラットフォームの開発と運用に、今後も全力で取り組んでいきます」と強い意気込みを語っていました。
今回の「SORACOM Discovery 2020 ONLINE」では新型コロナウイルスの感染拡大にともなうNew Normalの時代を生き抜くための考え方や戦略も大きなテーマとなっていました。
従来の常識やビジネス戦略をあらためて練り直し、今後生き残っていくためにはIoTや5Gといった次世代のテクノロジーの存在、それを活用したDXが不可欠となるでしょう。さまざまな業種や分野において、今後のビジネス戦略を練るうえでのヒントとなる内容が今回のカンファレンスでは多数紹介されていました。
(文:西村広光)