2020年11月27日(金)、ESRIジャパン株式会社では「auスマートフォンから得た位置情報ビッグデータの活用」と題したオンラインセミナーを開催しました。
当日はKDDIパーソナル事業本部の担当者からコロナ対応への取り組みも含めたKDDI Location Dataに関する概要説明および事例も紹介され、位置情報ビッグデータを活用したビジネスへのヒントにつながるセミナーとなりました。
2020年は新型コロナウイルスの感染拡大によって、緊急事態宣言が発令され経済活動の自粛や新しい生活様式への転換など、私たちの日常生活を取り巻く環境が大きく変化した年でした。このような変化を人の動きから客観的に捉えることができる、人口動態データなどの位置情報ビッグデータの重要性が高まってきています。
KDDIでは、携帯電話ユーザーから取得したGPS情報をもとに作成した人口動態データ「KDDI Location Data」 を提供していますが、これをGIS(地理情報システム)上で利用することで、地図上でデータを見るだけにとどまらず、解析データを用いて空間的な傾向を把握できるようになります。
今回のセミナーでは、GISやKDDI Location Dataの概要を紹介するとともに、それらをビジネスに活用した事例もあわせて紹介されました。
はじめに、ESRIジャパン株式会社 コンテンツグループ 福島康之氏から、GISとは何なのか、基本的な概要について説明が行われました。
そもそもGISとは、「どこ?」を説明するためにデジタル化し管理するシステムです。古くから、「どこ」を説明する共通言語として地図が使用されてきた歴史がありますが、GISを活用することによって地図をデジタル化し管理できるのです。
私たちが住む街や地域は、「交通量が多い道路はどこか」「病院を建てるために適した場所はどこか」など、土地の特徴や特性は異なります。GISの基本的な仕組みとしては、位置情報を持ったデータをレイヤーで管理します。たとえば、背景地図の上に浸水被害リスクや人口分布図、自社拠点といったようにさまざまなレイヤーを重ね合わせることで、公益サービスや教育、交通までさまざまな分野で活用できます。
実際の活用事例としては、飲食チェーン店の新規出店を検討する際に、商圏や競合店舗、気象条件や交通量などのデータをGISで分析し意思決定をサポートしているほか、自動車ディーラーにおいては自動車保有データや支店のテリトリーなどを重ねて分析することにより、店舗の統廃合、営業テリトリーの再配置、販促エリアの抽出などに役立てているケースも紹介されました。
GISは大きく分けて「ソフトウェア」「ハードウェア」「作業フロー」「人材」「データ」の5つの要素で成り立っていますが、統計データを利用することで、さまざまな現象を数量的に把握できます。たとえば、表に記載された数値データだけでは空間的にどのように広がっているのか把握することは難しいものです。しかし、GISを活用して地図上で表現できると、空間的な傾向が一目で把握できます。これこそが、GISを活用して統計データを扱う大きなメリットといえます。
次に、KDDI株式会社 パーソナル事業本部 岡崎竜也が、KDDIにおけるコロナ対応の取り組みとKDDI Location Dataの概要について説明を行いました。
そもそもKDDI Location Dataとは、GPSで取得したメッシュ単位の位置情報データをCSV形式で提供するサービスです。移動滞在データ、準リアルタイムデータ、未来予測データの3種類を取得でき、人口情報だけではなく年代や性別といった属性情報も付与できるため、詳細分析が可能です。
ちなみに、データの取得頻度は最短2分、24時間365日にわたって調査できるほか、契約者情報をもとに属性を判断しているため、極めて信頼性の高い情報をもとに分析できます。
コロナ禍によってリアルタイム性のある人口動態データが注目されていますが 、KDDIでは内閣官房にKDDI Location Dataで収集した人流データを提供しています。全国20ヶ所の観光地におけるゴールデンウィーク中の人流データを分析した結果によると、県外からの来訪者が95%減、県内からの来訪者も70%以上減少したことが分かりました。
また、KDDIの自主調査として、豊洲エリアにおける人口動態データも収集し、緊急事態宣言中はテレワークの影響もあって居住者が増加した一方で、緊急事態宣言の解除後は減少したことが分かりました。さらに、研究者に対してデータを提供し、スーパーにおける滞在時間を一定に制限することで実際の混雑率も低下させられるというシミュレーション結果を得ることにも成功しています。
KDDIではKDDI Location Dataの提供にあたり、法令遵守はもちろん、ユーザーの信頼を裏切らないことも大原則としています。特にプライバシーの保護は徹底しており、総務省との協議の結果、ユーザーからの許諾を得た位置情報データのみを活用しているほか、個人が特定できないような形にデータを加工して提供しています。
また、職場や自宅など個人が特定できるような生活圏内の移動履歴は排除しているほか、個人の識別子の秘匿化(IDをハッシュ化し元のデータが分からないように加工すること)、少人数の秘匿化(極端に少ない人数の場合データをマスクすること)など、さまざまなプライバシー配慮がなされています。
コロナ禍の影響もあり、位置情報データのビジネス活用に関する案件相談数は前年に比べて倍増していることも報告されました。
最後に、GISとKDDI Location Dataを組み合わせることによって、具体的にどのようなビジネス展開ができるのか、デモ環境を使って説明が行われました。
外食チェーンにおけるマーケティングへの活用
GISとKDDI Location Dataを組み合わせると、特定のエリアごとにメッシュで人口動態を可視化できるほか、年代別・性別の人口動態も調査可能です。当然のことながら、場所や曜日、時間帯によっても集まる人は異なるため、2019年と2020年を比較し、どれくらいの客数が減っているかを客観的に判断できます。
実際に調査してみると、オフィス街の店舗では2020年に入り全体的に客数が減っていることが分かりました。また、そもそも同じチェーン店の近隣店舗同士で商圏が被っているところも見受けられます。
反対に、2020年になってから客数が増えた店舗もあります。たとえば付近に小学校がある店舗では、これまで外に働きに出ていた主婦層が外出自粛に伴い在宅に切り替わったことが要因として考えられます。このような店舗では、子連れやファミリー層向けのキャンペーンや販促を行うことでさらなる売り上げアップも考えられるでしょう。
このように、人口動態と各店舗の売り上げを比較することで、地域ごとに最適化されたメニューやサービスに変更するなど、実態に即した対応が可能となります。
ODデータによる観光地の分析
ODデータとは、ある地点にどこからやってきたのか、その地点からどこに出発したのかが分かるデータのことです。今回は、緊急事態宣言解除後の平日に、横浜中華街や江ノ島などにどのような人が訪れていたのかが事例として紹介されました。
特定の地点から矢印で人の動きを表し、色で人の人口動態を示しています。調査対象となった日の正午、横浜中華街への人出は約39,000人で、特に40~60代の年代が多い傾向にあります。移動手段として自動車を使用しているユーザーが最も多く、約18,000人。鉄道は6,600人でした。自動車を利用している年代は40代以上が多く、反対に鉄道は20~30代の若い世代に多く見られます。
ODデータを利用すると、どの地点からの訪問者が多いのか、反対に目的地からどこに移動している人が多いのかを詳細に分析できるため、たとえば旅行ツアーの行き先やプランを検討する際の参考にもなるでしょう。
今回のセミナーでは、ESRIジャパンが提供するGISとKDDIのKDDI Location Dataを併用することにより、コロナ禍におけるさまざまな課題解決に役立てられることが紹介されたほか、ニューノーマルの時代に対応したビジネスへのヒントも多数ありました。
KDDI Location Dataは個人情報保護の観点で万全の対策をとっており、マーケティングをはじめとして災害対策など幅広い分野で安心して活用できます。もちろん、今回紹介した事例以外にもさまざまな活用例があるため、「こんな用途に活用できないか?」「こんなデータを取得することは可能か?」といった疑問や質問があれば、ぜひお気軽にお問い合わせください。
(文:西村広光)