2020年10月28日~30日に幕張メッセで開催された「IoT&5Gソリューション展」。KDDIは5GやIoTを活用した顧客企業との共創事例を中心に展示を行った。5GやIoTによってあらゆるものがつながることで、どのような課題解決や価値創出が可能になるのか。その可能性を顧客企業と“共創”していくという、KDDIのビジョンを提示する機会となった。
新型コロナウイルス感染症の感染リスクが依然として高い状況下で、開催された展示会。感染予防対策と、来場者の不安低減を目的に、KDDIでは「3つのゼロ」をガイドラインとして策定した。
1つ目のゼロ:「密ゼロの展示」
展示物同士に一定の距離を設けるのはもちろん、来場者の動線を考慮した上で、ブース内が「密」にならない、余裕のあるレイアウトとした。さらに混雑状況を捉えるカメラを設置し、随時ブースの様子をモニタリング。入場者数が一定人数以上になったらアラートを発する仕組みを整えた。混雑状況は、ブースに設置されたモニターにも表示した。
2つ目のゼロ:「コンパニオン・説明員ゼロ」
今回の展示におけるスタッフは、来場者が触れた展示物の消毒や最低限の案内を行う接客要員のみを配置し、従来のような対面での説明は、Microsoft Teamsを用いた「リモート相談コーナー」で来場者とインタラクティブにやりとりができる体制を整えた。指向性の高いマイクを設置することで、周囲の雑音を拾わず、質問者の声がクリアに聞こえるよう配慮した。コロナ禍におけるオンライン業務で得た経験を十分に活かした。
3つ目のゼロ:「ペーパーゼロ」
接客要員とお客さまの接触による感染リスクを減らすため、紙のチラシやパンフレットなどは原則として使わないことにした。代わりに、詳細情報が掲載されたウェブサイトやPDFにアクセスできるQRコードを設置することで、より詳しい情報を来場者に提供した。
KDDIは、2018年にビジネス開発拠点「KDDI DIGITAL GATE(デジタルゲート)」を立ち上げたことを契機に、顧客企業との共創によるDX(デジタルトランスフォーメーション)実現を積極的に推し進めている。東京・虎ノ門を皮切りとして、大阪・沖縄にKDDI DIGITAL GATEが開設されたこともあり、顧客企業との共創事例は着実に蓄積されてきている。中にはPoC(実証実験)段階を終え、実際のサービスとして提供されたものもある。
今回の展示では、そうした共創事例や、それを支えた技術・ソリューションの数々を一挙に紹介。来場者に、5GやIoTといった最先端技術を活用した課題解決・ビジネス創出のヒントを得てもらい、共創への一歩を踏み出してもらうことが狙いだ。
5Gは、共創を象徴する技術と言える。他の技術や製品・ソリューション、顧客の課題・ニーズと組み合わせることで、初めて価値が生まれるからだ。5Gを活用することで、いかに既存のビジネスが活性化し、新たなビジネスが生まれるに至ったのか。まさに今回の展示テーマ「お客さまと共に歩み、共に創る」を実践した事例や、その中で活用した技術・ソリューションを中心に展示した。また、コロナ禍によりビジネスに大きな影響を受けているお客さまを支援できるような技術・ソリューションも合わせて展示した。
ここでは、主な展示内容を振り返る。展示は、5GとIoTを用いた各種ソリューションの紹介と、それを実際の課題解決・ビジネス創出の場で活用した共創事例の紹介の、大きく2つで構成された。今回はそれらの中で特に注目を浴びた4つのブースを紹介する。
【展示物①】サーマルカメラパッケージ
店舗やオフィスの入り口などにサーマルカメラならびに関連システムを組み合わせることで、新型コロナウイルスなどの感染症に感染している疑いのある人を検出することができる。入場者がモニターの前に立ち、顔を映り込ませると、約0.3秒で体表面の温度を測定。マスクの有無も同時に判断し、未着用の場合は音声で着用を促すことができる。導入先は、学校、工場、オフィス、ホテルや飲食店と幅広い。すでにソリューションとして提供しており、大手ホテルチェーンや百貨店などへの導入が進んでいる。
この展示モデルはあくまで事例の一つに過ぎない。カメラのスペックを高めたり、クラウドやAIを活用したりすることで、用途はさらに広がるからだ。お客さまの用途や使用環境、ご予算に合わせて提供することができる、まさに“共創”のソリューションである。
【展示物②】スマートグラス「Nreal Light」
スマートグラスは、いま注目が高まるデバイスの一つであるが、ビジネスシーンでどのように利活用できるのか、用途やメリットがイメージできないお客さまも少なくない。今回の展示では、実際にスマートグラスを装着してもらい、「何が見えるのか」「何ができるのか」を体験してもらうデモンストレーションを用意した。
スマートグラスを装着すると、目の前にスマートフォン画面のようなUI(User Interface)が浮かび上がる。ユーザーは、バッテリーも兼ねた付属のモバイルデバイスを操作。UI上のアイコンをレーザーポインターでタップすると、アプリケーションが開くというもので、動画再生のAR(拡張現実)も体験できた。
ここでは、主な展示内容を振一般的なスマートグラスのおよそ半分の重量、約88グラムのデバイスを採用していることが、「Nreal Light」の特長の一つである。軽量なことで長時間の着用も可能となり、観光や町おこしでの利活用を視野に入れている。すでにサービス展開している「バーチャル渋谷」はその一例だ。自宅でスマートグラスを装着することで、ユーザーはまるで実際にその地域にいるような体験ができる。新型コロナウイルスにより、観光を含む外出の自粛が求められた際にも柔軟に対応できる、「レジリエントな町づくり」に貢献し得るソリューションといえる。
【展示物③】5G/4G(LTE) エミュレータ
5Gの特長は、「高速・大容量」「低遅延」「多接続」。この展示は、遠隔医療の模擬体験を通じて、5Gの「低遅延」を体感してもらうものである。設置されたモニターには人の背骨を遠隔で外科手術する様子が映し出され、来場者は設置された触覚デバイスでメスを操作する。その際の通信を5G/4G(LTE)で比較体験できる構成となっている。来場者からは次のような感想が聞かれた。
「4G(LTE)の場合は、一定以上のスピードで動かすとメスが何かに当たっているような違和感を覚えます。そこで無理やり動かそうとすると、今度はメスが暴れるような感覚となり、思ったとおりの動作をしてくれませんでした。ところが5Gだと、どんなに速く操作してもスムーズにメスが動きました」
医療に限らず、重機などの遠隔操作はもちろん、大勢の人が複数拠点から通信を使って共同作業をする業務においても、5Gの他の特長「高速・大容量」「多接続」も含めて力を発揮する。例えば、取り扱うデータ容量が大きい、映像や音楽制作業務などである。すでに、映画制作を行っている企業からの問い合わせもある。
【展示物④】5G時代の共創事例
5Gによって実現される新たなサービスやソリューションの提供に向け、KDDIは企業との共創を進めている。すでにサービスとして提供されているソリューションが多くある一方で、PoC(実証実験)段階のものも多い。本展示では、PoC段階にある4つのプロジェクトを、企業名を公開するかたちで展示した。
*大日本住友製薬株式会社さま
新型コロナウイルスの影響により、MR(医薬情報担当者)が医療関係者に対して行う製品説明会などが軒並み中止となった。そこで説明会を模したバーチャル空間を構築し、その空間内に紹介したい製品などを映し出すことで、医療関係者に情報を届けようというプロジェクトを実施した。今後は医療に限らず、他の業界の製品説明会や顧客先とのコミュニケーションの維持・継続における活用が期待される。
*中部電力株式会社さま
変電所での作業など、人が行うと危険を伴う作業を、遠隔操作もしくはロボットなどが代わりに行う。また経験の浅い作業員がスマートグラスを装着し、熟練監視員がリアルタイムに現場の状況を把握し、的確な指示を遠隔地から瞬時に送る。5Gをはじめとする技術を組み合わせて、作業員の安全や、作業の高効率化、技術伝承、さらに災害発生時を見据えたレジリエント強化など、これからのインフラ企業に求められるDXを推進している。
このレポートでは紹介しきれなかった共創事例に関しては下記の記事を参照。
宮城県東松島市の事例
オンライン共創拠点”VIRTUAL DIGITAL GATE “の事例
今回の展示会の出展に際して、社内では様々な意見があった。しかし、KDDIが最終的に出展に踏み切る決め手となったのは、「コロナ禍で困っているお客さまの力になりたい」という強い思いだった。実際に来場されたお客さまから、「5GやIoTなどの技術を活用して、今の状況をどうにか打破したい」「コロナに負けずビジネスを前に進めていきたい」という気概を感じ、改めて気が引き締まった。
特に、課題はあるもののどのように解決してよいか分からないお客さまにとっては、実際に技術やソリューションを見たり触れたりすることができ、お客さまご自身の事業内容や業務内容に照らし合わせながら担当者に相談できるリアルイベントの価値が、コロナ以前よりも高まったのではないだろうか。
KDDIは今回の展示会を通じて、リアルイベントの意義をあらためて認識した。今後も先述した「3つのゼロ」や「オンラインセミナー」など新型コロナウイルス対策を徹底しながら、お客さまとの重要なタッチポイントであり、共創の場の要でもあるイベントへの出展を続けていく。
本イベントの出展内容を説明した動画はこちら(30分)