超高齢社会という日本が直面する問題に対し、徘徊・離床センサーの専門メーカーとして1993年から多くの製品を開発してきたテクノスジャパン。これまでは開発から製造までを一貫して自社内で行ってきた同社だが、今回KDDIと協業し、「KDDI IoT通信サービス LPWA」を活用した「家族コールワイド」を発売した。両社が協業に至った経緯、取り組みによって得られた成果、そして今後の展望を聞いた。
―超高齢社会といわれる現代において、テクノスジャパンではどのようなものづくりを行っているのでしょうか。
大西氏 当社は1993年に創業した、福祉機器の企画・開発、製造、販売を行う企業です。離床センサー・徘徊感知機器を専門に、高齢者の安全や事故防止のため「見守り機器」を開発し、提供し続けてきました。
日本では超高齢社会が長期にわたって続いており、高齢者の増加とともに見守りサービスの重要度は増してきています。あと5年も経てば、介護者は30~40万人足りなくなると言われています。福祉機器を導入いただき、これまでマンパワーでやっていたことを一部代替することが、我々の製品・サービスのキーワードです。完全に「人間の代わりに作業する」というわけではなく、少ないスタッフでも業務を遂行できるようにサポートできる機器づくりを心がけています。
当社の強みは、27年間で培ってきたノウハウと、企画・開発から製造まで一貫して自社で行っている点が挙げられます。高齢者の方々に安全・便利にご利用いただくには、製品に細部に至るまで“気配り”が必要です。その知見は一朝一夕に得られるものではないので、そうした部分を取引先からは評価いただいています。
大西 健一郎氏
玉田 晋平氏
玉田氏 当社の方針として、製品を企画する際にユーザーリサーチは行いません。ユーザーの声を聞いてつくったものが、必ずしも本質的な課題を解決するとは限らないからです。2~3年先の社会環境を想定し、世の中にない製品を市場に投入することで、潜んでいたニーズに気付きを与えようという考えです。
このような製品づくりだと、発売時には市場にはまらないこともありますが、「将来的に絶対に必要になるはずだ」と信念を持ってつくっているので、たとえすぐに売れなくてもラインアップに残し続けます。それが結果的に強みにもなっている気がしますね。
―2019年に発売された「家族コールワイド」は、KDDIのLPWAを活用した製品とのことですが、開発の経緯を聞かせてください。
大西氏 「家族コールワイド」は、在宅高齢者の徘徊行動をセンサーで検知し、その検知信号を介護者のモバイル端末に送信して知らせるサービスです。
同等機能を持つ製品として、通信モジュールを内蔵した「ケアロボコール」を販売していましたが、メールを送る際にモバイル回線を使うことによる通信料のユーザー負担と料金徴収が課題でした。通信料は介護保険の対象外であるため、すべてユーザーの自己負担になる上、販売店からは料金徴収について理解を得にくい状況もあり、導入が進みづらいという悪循環に陥っていました。
そこで、その課題を解消した新たなサービスをつくろうと決めたのが、「家族コールワイド」開発のきっかけでした。広範囲な通信を可能としながらコストを抑える方法を探していたところ、LPWAが活用できるのではと考えたのです。
―協業パートナーにKDDIを選んだ理由は何だったのでしょうか。
大西氏 候補には大手キャリア3社が挙がりました。その中で、KDDIは企業風土として「先進性」「未知の領域へのチャレンジ精神」を持っているイメージがあり、我々のスタンスに共感いただけるのではと期待が持てたのでコンタクトを取らせていただきました。
初めての商談では、LPWAの単なる機能や仕様の説明に留まらず、導入することでどのように可能性が広がるかなど、具体的な事例をお話しくださりました。それを聞きながら、「一緒に夢を追いかけてくれそうだ」と感じ、協業を決めました。
―テクノスジャパンからの相談を受け、KDDIとしてはどのような提案が必要だと考えましたか。
原 彩夏
原 LPWAに関する説明やご提案をしようというよりは、テクノスジャパン様の介護業界に対する想い、世の中をよくしたいという想いに共感していましたので、そこを真摯に受け止め、想いをつないでいくことが大切だと思いました。
我々も「M2M(Machine to Machine)」と呼ばれていた頃から18年間にわたってIoTの普及に取り組んできましたので、培ってきた知見を生かしながらテクノスジャパン様にご提案できたと考えています。
KDDIが提供するLPWAの強みは、キャリアの中でいち早くサービス化したことにより蓄積された知見が一つ。また今回、KDDIのブランドモジュールを組み込んでいただいたことで、製品をつくる際にKDDIのエンジニアが技術的なサポートをさせていただけた点も大きいと思います。
大西氏 製品に組み込んでいく過程で、送受信するデータ量をLPWAの適正範囲内に抑えることが課題でした。そこをKDDIの技術者の方にもご協力いただき、アドバイスを受けながらデータ圧縮することで解決できました。
原 私も実際に「家族コールワイド」を試してみましたが、設定が非常に簡単で、使いやすい製品になっていました。利用者に寄り添う視点があってこそ実現できていることですよね。
玉田氏 私たちがつくる製品は、絶対に「複雑であってはならない」と考えています。技術そのものは日進月歩ですが、最新技術・先進技術が私たちの製品にとって最善とは限りません。介護の現場はまだまだアナログな部分が多く、シンプルで分かりやすい製品が求められています。製品に搭載するスペックは数ある機能から引き算して、「分かりやすさ」に集中する。ユーザーが迷わず悩まず使える分かりやすさ、それこそが私たちの製品の価値と考えています。
―開発過程で直面した課題や困難に対し、両社で克服したエピソードがあればお話しください。
大西氏 技術的なハードルはほとんどなく、順調に進められました。ただ、ユーザーの負担額をなるべく少なくしたい気持ちが強かったので、そこについてかなり“ワガママ”を言ったと思います(笑)。ですが、そんな無理もKDDIは受け止めてくださり、おかげで「レンタル」でのサービス提供が実現できました。
原 確かに困難ではありましたが、介護業界への貢献のため、社内調整に尽力しました。それで現状多くの方にご利用いただけるサービスへと成長しているので、嬉しく思います。
―発売後のユーザーからの反響や、販売店からの声など、取り組みの成果について聞かせてください。
玉田氏 「家族コールワイド」は一般在宅向けの製品で、リリース後から反響が大きく、発売直後から全国の販売店でお取り扱いいただき、現在では全国どこにお住まいの方にもご購入・ご利用いただける状況をつくることができました。
藤崎氏 実際に使用されたユーザーからは、「外出中に親が徘徊しないかを気にして買い物も気軽にできなかったが、この製品のおかげで不安が解消された」などの声をいただいています。また、販売店からは、「機能・設定方法・料金体系などすべてがシンプルになったことで、お客さまに提案しやすくなった」とご評価いただきました。
藤崎 和輝氏
玉田氏 介護保険適用により、レンタルの場合には月額約700円と、「使いたいときにだけご利用いただける」サブスクリプションサービスに近いサービスとなりました。福祉機器は定期的なメンテナンスが必要なのですが、それもレンタルであれば容易になります。これによって、お取り扱いいただく販売店やユーザーにより一層の「安心・安全」をご提供できるようになったと考えています。出荷数も約1,000台(2020年12月現在)と、順調に推移しています。
また、コロナ禍特有の介護需要の高まりも実感しています。高齢者の在宅時間が長くなると、その分だけ介護者の不安も大きくなる。そこで、介護保険レンタルが使えて見守りができる製品の良さが再評価されています。ベッドや車いすなどメインの福祉機器と合わせたパッケージ提案で、ユーザーに喜んでいただける製品になったと感じています。
―2020年には、LPWAを活用した製品の第2弾として「お散歩コール」の提供を開始されました。こちらの評判はいかがですか。
大西氏 認知症高齢者の徘徊による行方不明者数は年々増加しています。徘徊中の死亡事故も少なくなく、今後ますます社会問題になることが予想できます。その防止策として生まれたのが、「お散歩コール」です。
「家族コールワイド」がLPWAで遠隔の介護者と高齢者をつなぐものであったのに対し、「お散歩コール」はLPWAに加えてGPSを内蔵しています。これにより徘徊感知機能に加え、外出中の異常を検知して位置情報とともにメールで知らせることができるようになっています。当社として初めてリリースした「通信サービス」でもあります。
藤崎氏 2019年の行方不明者(届け出受理ベース)は、1万7000人を超えました。行方不明には至らなくても、家に帰れなくなった経験のある人はもっと多くいるはず。困っている人の数が多く、かつイメージしやすい課題を解決できる製品であることから、相当数の提案が出ています。
―「家族コールワイド」「お散歩コール」の開発を踏まえ、これからどんな挑戦をしていきますか。そしてKDDIは、その挑戦にどのように伴走していきますか。
大西氏 社内では現在、LPWAを活用した製品企画のアイデアが次々と生まれていて、優先順位をつけないと開発の手が追いつかないほどです。高齢者向けのアイテムだけでなく、農業分野の製品開発にも取り組み始めていて、今回の協業をきっかけに、企画・開発アイデアの幅が飛躍的に広がりました。
LPWAは、必要な情報をシンプル・スピーディ・安価に送信できる、今後ますます必要とされる技術だと思います。この技術を用いて、見守りが必要とされる高齢者と介護者をつなぐ製品をつくり続けることが最も重要なことだと考えています。テクノスジャパン・販売店・ユーザーの三者が「三方良し」になれる製品を展開していきたいです。
玉田氏 これから重要度が増す在宅介護分野において、LPWAは大きな役割を担う技術だと考えています。「どんな技術を使うか」にはこだわりすぎず、ユーザーの痒いところに手が届くものをつくり続け、全国に普及させていきたいです。全国の医療施設や高齢者住宅、あらゆるところで当社の製品が利用されている状況を実現していきたいですね。
藤崎氏 営業担当としては、直接のお客さまは販売代理店です。彼らにとっても必要だと感じられ、ユーザーに勧めやすいと感じられる商品を、提案し続けていきたいです。
原 介護業界での展開も、農業など他分野での展開も、KDDIの知見を生かしながらテクノスジャパン様に引き続き寄り添っていきたいと考えています。
具体的には、LPWAのユースケースについてディスカッションをさせていただくほか、他分野での展開に必要な他企業とのアライアンスの架け橋となっていきたいです。
もちろんLPWAだけでなく、5Gなどの新しい技術も必要に応じて取り入れながら、製品・サービスを共創し、世の中に広げていければと思っています。